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9-4.武闘派と穏健派(中編)

前話のあらすじ:鬼族の武闘派ライキ、穏健派シセンとの会談が始まりました。ニコラスの時と違い、凝った服装もしたりとだいぶ対応が変わりました。また会話もセイケンからの情報が伝わっていることを前提に、新たな話題を提供する工夫を見せました。

次の話題を切り出したのは、やはりライキさんだった。


「アキは我ら鬼族は元より、竜族とすら平然と対話している。如何に豪の者でも、真似はできない振る舞いだ。何故、其れを為す事が出来るのか、思い当たる事があれば教えて欲しい」


成る程。竜神の巫女が今まで居なかったのに、僕はそれができる、何故か。必要な資質とかが分かれば、各種族も独自に巫女を擁立できていいよね。


「そうですね。これが正解とは限りませんし、サンプルが僕と姉のリアだけですから、見落としている要素も多いと思います。そのつもりで聞いてください」


「それで構わない」


「まず、魔力に対する鈍感力でしょうか。僕は竜族クラスの魔力でないと感知できないので、その鈍さが逆に、必要以上の恐れを招かないのかもしれません」


「ほぅ、鈍感と。少し試してみても良いか?」


ライキさんの目が肉食獣のようにキラリと光った。なんか素敵だよね。自分に向けられた視線で無ければ。


「どうぞ。何をされます?」


「私がシセンの背後に隠れて、高めた魔力をアキに向ける。その様子をシセンが観察する。それだけだ」


ふむふむ。


「僕の反応を見るなら、立っていた方が分かりやすいですよね。距離はこれくらいでもいいですか?」


シセンさんが一歩踏み込んで手足を伸ばしても届かない程度に離れた。かなりの距離で、人なら長槍で戦う間合いだけど、鬼族の巨躯からすれば、これでもギリギリだ。


「構わない。護衛の皆さんも過剰に反応しないでいてくれれば嬉しい」


そう話すと、シセンさんが体を広げるように歩幅を広げて立ち、その後ろにライキさんが腰を落として隠れた。


次の瞬間、背後から護衛人形達が飛び出してきて、気が付いたら僕の前に戦列が形成されていた。


うわー、ビックリ。


後ろを見ると、人形遣いやジョージさんが持参していた鞄の前に召喚の魔法陣が形成されていた。


「こんなに早く召喚できるんですね、驚きました」


僕の呑気な声が室内に響くと、溜息をついたシセンさんと、その表情から色々と察したっぽいライキさんが、席に戻った。


二人の行動を確認してから、護衛人形の皆さんも武器を納めて、魔法陣から戻っていった。


ふぅ。


「それで、何か分かりました?」


「アキが鬼族の魔力にも殺気にも気付かない鈍感さを持っている事は理解したとも。護衛の諸氏も苦労されている事だろう。先程の反応は見事だった。この体制ならば安心できる。これからも職務を全うして欲しい」


シセンさんが僕に対しては残念な子を見るような、後ろの護衛の皆さんには称賛するような眼差しを向けた。





「なんか、微妙な評価を貰った気がしますけど、まぁいいです。他に試されたい事はあります?」


「試す前に教えてくれるか? なぜ、ここまで竜神の巫女の情報を我らに提供してくれるのだ? 秘匿した方が街エルフには優位だろうに」


ライキさんは、心底、不思議でならないようだった。


「それは簡単な話です。竜族に対して、巫女の数が少な過ぎて、全然、彼らの要求に応えられていないからです。可能なら天空竜と同じ数だけ巫女を揃えて欲しいくらいです。鬼族から一万人くらい出して貰えませんか?」


僕一人で何万も相手にするのは無理筋だとも告げた。


僕の誘いに、二人とも驚き、顔を見合わせる程だった。まぁ、考え方の切り替えが必要だよね。


「お客さんが殺到してるなら、店の規模を拡大する。当たり前のことですよね。ましてお客さんが竜族となれば、いくら長命種で気が長いと言っても、待たせて苛立たせるのは得策じゃありません。皆で分けても幾らでも需要はあるんです。ちっちゃな店舗で満足しちゃ駄目ですよ。もっとお客様の事を考えないと」


独占してるのではなく、窓口が用意できず、お客様を待たせてて良くない状態だ、と念を押した。


二人とも、結構長く考え込んでいて、僕達は静かに答えが出るのを待った。


お替りのお茶を飲み終えた頃、やっと二人はある程度、考えを纏めたようだった。まぁ、それなら巫女候補を送りましょう、なんて言える話でもないからね。


「貴重な意見を聞けた。感謝する。ひとまず、この件は置いておきたい」


僕も即答を求める話でもないので、前向きにご検討ください、と話すに留めた。





魔術絡みで試したい事がある、とライキさんが切り出したので聞いてみた。


「アキは、杖で他人の魔術を突いて崩壊させる事が出来ると聞いた。それを見せて欲しい」


ほー。まぁ、それならこの部屋でも大丈夫だね。


僕はケイティさんに、空間鞄から、師匠の所で使っている練習用の杖を出して貰った。


僕の準備が整ったのを見て、ライキさんは掌を上に向けて、一言唱えた。


『偽りの宝箱』


掌の上に現れたのは、立方体の木箱っぽい物体だった。位置が固定されているようで、ライキさんが手を離しても、その場から動かない。


「ほほぅ」


お爺ちゃんが面白い物を見た、というように身を乗り出した。


「妖精の翁よ、気が付いた事があっても口にしないように。わざと一点だけ脆く創ってある。子供に、見る目を養わせる事、他人の術式を崩す事を学ばせる為の玩具なのだ」


ライキさんが説明してくれた。やっぱり面倒見がいい感じだ。いい女性だね。


さて、ヒントを貰った事だし、創造系だから時間を掛けるのはNG。何を求められているのかはよく分からないから、取り敢えず、このパズルに取り組んでみよう。


周りから色々と眺めてみると、真上の辺りが一番、紛い物っぽく見える、かな。というか、それ程の差はないから、眺めていると、本当にそれでいいのか迷いが出てくる。


ここは、直感を信じよう。


僕は上から、杖を突き入れてみた。


僅かな感触と共に、杖は中まで入っていき、中心に届くと、創造されていた木箱は虚空に掻き消えた。


「ん、いい感じに消えましたね。どうでした?」


僕の問いに、ライキさんは勿論の事、シセンさんも一瞬、目を見開いたのがわかった。すぐに落ち着いた表情に戻ったけど、何か分かったんだろうか。


「アキ、私と糸引きをやってみてくれないか?」


ライキさんがポケットから、細い糸を二本取り出した。


「糸引き? それも子供向けの遊びですか?」


「そうだ。互いに両手で糸を持ち、相手の糸と交差して引っ張り合う。糸が切れなければ勝ちだ」


「条件は同等に思えますけど、糸の強さを見極める観察眼を養う、とかじゃないですよね」


自分で言ってて、それはないなぁと思う。


差し出された糸を見ても違いはないようなので、一本手に取り、ライキさんが示してくれた手本のように、親指と人差し指で糸を挟んで、ピンと張った。


ライキさんが僕の糸にクロスするように、糸を張って、後は引っ張り合うだけ、という状態になった。


「ライキさん、この後、何か合図とかする……んですか?」


僕が体格差もあって、どうするのか問いかけようと顔を上げて、手元から意識が逸れた瞬間、ライキさんが引っ張り、そして、ライキさんの糸が切れた。


う、なんか空気が重い。


「ライキさん?」


「確認できた。糸引きは終わりだ」


ライキさんの終了宣言もあり、僕は糸を返して席に戻った。


うーん、消化不良だ。


僕が不満そうな顔を隠さなかった事もあり、シセンさんが懐から紙を一枚取り出して、ヒラヒラと僕に見せた。


「どれ、少し芸を見せよう。そうすれば先程の糸引きが何を意味したかわかる」


シセンさんは片手に堅焼き煎餅を持ち、片手に薄い紙片を持った。


「この煎餅はとても堅く、この紙片はこの通り、薄くてしなやかだ」


まるで手品師のように、鮮やかな手付きで、僕の意識を手元に集める。何を見せてくれるんだろ?


「だが、こうして魔力を通せば――この通り、固い煎餅も切り裂く刃に早変わりだ」


紙片がピンッと一枚板のように張った状態になって、それを煎餅に差し入れると、抵抗がないかのように、スッと入っていき、下まで通すと、支えを失った煎餅の半分が皿の上に落ちた。


おぉ! これは凄い!


僕は驚きが伝わるように、派手に拍手をして、見せて貰った技の冴えに応えた。


「シセンさん、凄い技ですね! それ、特殊な紙とかじゃないんでしょう? 達人って感じで見事でした。眼福です」


僕の手放しの称賛に、少し困った顔をしながらも、シセンさんは笑みを浮かべて、紙片と煎餅を置いた。


「糸引きは、引っ張る瞬間に、如何に高めた魔力を糸に素早く通すか、それを鍛える遊びなんだよ」


ライキさんが糸の片方を指で摘んで、手品のようにピンッと針のように直立させて見せた。


あぁ、成る程。


「鬼族の皆さんは魔力を活性化させて魔術を使うから、活性化を素早く行えるようにする為の遊びという事ですか。よく考えられてますね」


感心、感心と頷いていると、ライキさんがふと、真面目な顔になった。


「アキ、君はなぜ、普通に生活できているんだ?」


はて? そんな真顔で問われるような事なんだろうか。


質問の意味がわからず、ちょっとケイティさんに視線を向けると、ケイティさんが二人の許可を得て説明してくれた。


「アキ様は、壊れ物を扱うかのように丁寧に、ゆっくりと行動される方なので、問題とはならないのです。それと接触しても問題ない魔導師か、それに並ぶ力を持つ者だけが側に控えています」


ケイティさんの応えを、ライキさんは静かに聞き入り、そしてケイティさんに称賛の眼差しを向けた。


「貴方達の献身と、教育の成果に心から感謝する。アキ、良き従者、家族に恵まれてた事を忘れないように。今の君がある事はそれだけで一つの奇跡だ」


ライキさんは、とても大切な事を伝えるように、静かに語った。


シセンさんも同じ見解のようで、優しげな眼差しで頷いた。


なんか、僕以外は皆、同じ見解のようだ。お爺ちゃんを見ると、まぁ、そうじゃな、なんて言って頷いてる。


むむぅ。


「勿論、家族やスタッフの皆さんには感謝してますけど、今、話されていたのは別の意味ですよね?」


ライキさんはケイティさんに話してもいいか確認してから、話始めた。


「人族にも肉体を強化する術があるだろう? それを幼子が発動して、感情の赴くまま、暴れ回ったらどうなる? 極めれば鉄の扉でも紙のように引き千切るんだぞ? しかも加減を知らない。君がある程度、分別を持った歳になるまで、どれ程の苦労があったか。想像するだけで頭が下がるというものだ」


あー。つまり、幼子なのに超野菜人みたいな戦闘力を出して暴れていたのだろう、と。


うん、それは怖い。


というか、授乳するのも命がけだ。


僕が、幼い頃から今のように、魔力共鳴状態だったなら、という注釈は付くけど。


「えっと、感謝の気持ちを忘れないようにします」


そんな過去はなかった、などと言える空気ではないので、僕は殊勝な態度で、ライキさんの話に同意した。


さて、ライキ&シセンとの会談も2パート目。1パート目と違い、実演が色々と入る賑やかな内容となりました。アキはわー凄いとか思ってる程度ですが、ケイティやジョージから見た会談内容は後で語られることになるでしょう。

次回の投稿は一月十五日(水)二十一時五分の予定です。

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