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1-2.目覚め

誤字を修正しました。(2018/04/16)

「ん……」


 木の香りに誘われて意識が少しずつはっきりしてきた。

 まるで、人里離れた森に行った時のように心地良い空気を吸って、目が覚めた。


 どうやらベットで寝ていたらしい。

 格子状に木が組まれた天井、ガラス窓から差し込む日差しは穏やかで春先のような雰囲気だ。

 土壁独特のザラついた感じが、気分を落ち着かせてくれる。

 天井にも壁にも照明器具がないのは不思議な感じ。


  ここは……どこだ?


 視線を横に向けると、黒い落ち着いた色調でクラッシックなスタイルのメイド服を着た女性と目があった。

 蒼い色!の髪はまるでコスプレイヤーのようだが、不思議と自然な感じで、違和感がない。

 年の頃は二十代前半と言ったところだろうか。ミア姉さんと違い、大人の女性って感じだ。

 やはり人と違い、細長い耳。結構いい体格をしていて、華奢な印象のミア姉さんとはだいぶ印象が違う。

 

 彼女は手に持っていた本を閉じると、そっと口を開いた。


「マコト様?」


「あなたは誰で――って!?」


 答えたはずの声は、聞き覚えのない女性のもので、でも、自分が発したのは間違いなかった。

 ゆっくりと体を起こすが、頭がちょっと痛い。経験したことはないが二日酔いのようなものだろうか。


 肩から長い銀色の髪が流れていくのが見える。


 そこに伸ばした手は、子供のように小さくて僕の手じゃない――けど、見覚えはある。

 それはまるで、ミア姉さんの手のようで。


「こちらをご覧ください、マコト様」


 メイドさんがいつのまにか姿見を持って、こちらに向けてきた。

 つられて、そこに映る姿を見た。


 腰まで伸びる銀色の髪、華奢だけど思わず抱きしめたくなるような柔らかな体つき。

 ルビーのように赤い瞳、と明らかに色合いが違うものの、見間違えるはずもない容姿。

 力なくヘタれてる長い耳。そう、ミア姉さんだ。見た目だけは。


「……これは酷い」


 なんだろう、このがっかり感は。

 まるでスポンジのないイチゴケーキとでも言ったところだろうか。

 あるいは、電源が壊れていて動かないスマホとか。

 見た目こそミア姉さんに似ているが、表情からは、こう、なんというか気品が足りない。

 粗悪なコピー品でも見せられているかのようだ。


「マコト様」


 僕の表情があまりに酷いのか、メイドさんも沈痛な面持ちだ。


「まるで2Pキャラのようだ。悪い冗談ですよ、これ」


 なんでかはわからないが、僕はミア姉さんの色違いっぽい外見をしているようだ。

 残念だが、鏡に映るミア姉さんっぽい何かは、僕の動きと寸分違わない。


「ミア姉さんに会いたいんですが」


 一縷の望みに賭けて聞いてみた。


「ミア様は今、こちらにはいません」


「では、どこに?」


「――マコト様の故郷、地球です」


 メイドさんの答えは、誤解の余地がなかった。


「この身体は!?」


「ミア様が行ったのは、魂を交換する術式でした。つまり、その身体はミア様で間違いありません」


 聞き間違いなら良かった。

 それが誤りだと思えたなら良かった。

 くしゃりと表情が歪む。


「あんまりだ、やっと会えると思ったのに――」


 思い描いていた辛く苦しく、でも甘く嬉しい異世界生活。

 それが、一瞬で砕け散ったことを理解してしまった。


 涙が止まらない。


 こんなにも泣けるのか、と思うほど頬を伝った涙が、零れ落ちても止まる気配すらない。


「酷い、あんまりだ~~」


 僕はただ、ただ泣き続けた。

 これが夢なら早く覚めて欲しい。


 でも、散々泣いて、泣き疲れて。そのあと、ちょっとだけ気分が落ちついて。

 メイドさんに抱き締められて、慰められていたことに気付いても。

 僕の姿は、ミア姉さんっぽい何かのままだった。

「1-3」まで読まれると、話の方向性が見えてくると思います。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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