第八章の施設、道具、魔術
八章でいろいろと施設や道具、魔術が登場したので整理してみました。
◆施設、機材、道具
【大使館領内の有線連絡網】
遠隔地とのスムーズな情報共有のため、大使館領内だけではあるが有線式の通信網が整備されている。ケーブルはシールドが施されているため、魔力の影響下であっても安定した通信を行うことができるのだ。八章ではソフィアの邸宅にも有線通信が敷設されており、ソフィアの暴走を察知して止めるために使用されていることが明かされた。高度な設備の無駄遣いといった感もあるが、ソフィアの暴走を止めるためならば、安い支出と言えるだろう。
【戦略級長杖】
ロングヒル王家の国宝であり、名称の通り、戦略級魔術に必要な膨大な魔力を行使するためだけに、頑丈さのみを追求した逸品であり、二メートル近い長さといい、金属製で重いことも、非常に使い勝手を悪くしている。またケイティが使っている杖などと違い、補助術式や制御機能も一切搭載されておらず、魔力が良く通り、膨大な魔力量にも耐える、という点以外に利点がない。そのため、一流の魔導師でなくては、この杖が必要とされるような大魔術を使うことはできない。だから誰も使わず飾られているだけだったのだ。
ちなみに、本編でも語られてるようにアキが何千回も異常な強さの魔力を通したせいで、アキの魔力に完全に馴染んでしまい、他の者が魔力を通すことが不可能になり、アキ専用品となってしまった。後日、普通の魔導師も使える複製品が返納されたことで、ロングヒル側も矛を収めたとのこと。
【竜族の飛行鞄】
手首に取り付ける鞄であり、魔導具ではない。しかし、マイナス四十度の低温にも耐え、気圧や荷重の変化にも耐える逸品である。ドワーフと森エルフどちらも試作しており、作成方法と材料に違いがあるが、性能面ではどちらもかなりの域に達している。八章時点では、先行型の鞄を雲取様が試しているが、量産性と耐久性の面でもう少し改良が必要であることが明らかになった。
【環境音遮断用の魔導具】
通常の陽光、風の制御に加えて環境音の遮断を可能とする魔導具であり、対象地域を七つの魔導具で囲うように配置して使用する。本編にあるように効果を最大限に発揮すれば、外部からの環境音を完全に消すこともできる。
◆魔術、技術
【風の障壁】
雌竜達が内緒話をするために展開した遮音障壁である。ケイティが行使した風の結界『風の円舞曲』と効果は同じだが、ケイティが制御を魔導具任せにしているのに対して、雌竜達は片手間に自前で制御している点と、六匹の雌竜を覆うだけの広範囲をカバーしている点が異なる。それでも風が吹き荒れるようなこともなく、竜族の魔術のレベルの高さがそこからも伺えるというものである。人でいえば戦術級魔術に相当する。
【発動から始動する魔術】
アキが行うことになった魔術の使い方で、人族なら集束→圧縮→発動の三段階、鬼族なら増幅→発動の二段階だが、妖精族や竜族は発動の一段階であり、元々発動に必要となる魔力量、密度がなくては使えない方法である。リアが行使にかなり手間取って苦戦していたのも無理はない。無意識のうちに三段階手順を行えるほど人族の魔術行使に習熟していることが仇となり、いきなり発動させようとしても、つい集束させようとして、それができず調子が狂うためだ。ちなみに師匠のソフィアもアキの魔術行使に合わせて瞬時に防御盾を展開していたが、これも極短時間ではあっても三段階を経て発動しており、そういう意味ではソフィアであってもいきなり発動させるような魔術の使い方はできない。そういう意味で難度が高いと言える。
【魔術の始動キー】
こちらの世界では、妖精も含めてどの種族も必ず、魔術を発動させるための独自の「始動キー」を持っている。それはこれから魔術を行使する、という意識付けと世界を書き換える、という意識を術者が明確に意識するのに必要なものである。
どの種族も、普段は行わない一連の行動と紐付けている点では共通している。
【暴投対策の障壁】
半透明の障壁であり、物理防御に偏重することで、持続時間を伸ばす工夫が施されている。術者が存在させ続けるために術式を維持しておく必要がなく、展開すると込めた魔力が尽きるまで存在し続ける点に特徴がある。といっても人族では数十秒持たせるのがせいぜいであり、多数を展開させるような真似ができるのは竜族や妖精族なればこそである。
【防御盾】
ソフィアがアキを守るために瞬時に展開した半透明の仮初の盾であり、物理、魔術の双方に効果のある防御魔術である。空間に固定展開されるため、その場から動くことはない。普通は数秒ですぐ消えてしまう。
【石礫を飛ばす魔術】
予め用意しておいた小石を任意の方向へと弾き飛ばす術式だ。初級魔術に分類されるが、火球の魔術と違い、狙った場所に飛ばすのには熟練が必要である。狙った方向に飛ばすため、明確に効果をイメージするという点で魔術行使の訓練に向いている。ただ一般的な魔術使いであれば、一日に数回使うのがせいぜいである。そのため、普通はある程度まで使えるようになれば、使うことのなくなる術式でもある。なのでどの術者も数十回、多い者でも数百回程度しか使ったことがない。アキのように何千回も試した、などという例はないのだ。
【詠唱を併用する魔術】
人族が編み出した魔術の行使技法で、予め決めた術式名と発動イメージを固定させることで、雑な起動をしてもある程度安定して発動させることができるというモノである。いくら魔術行使が得意でも、慌てているような状況で、しっかり魔術を発動させるのは容易なことではない。それよりは効果がほぼ固定になってしまう欠点はあっても、しっかり魔術が発動したほうがいい。そのため、探索者達の魔術行使は百パーセント、この詠唱併用式である。また、その効果の安定性は他の種族でも評価され、鬼族や小鬼族もまた、詠唱併用式が普及している。
【水球の魔術】
エリーが行使して見せた魔術で、握り拳大の水の球を生み出す創造系魔術である。エリーが作り出した水球の表面が波打っていたのは、腕が未熟なため。ソフィアが使えば、波一つない安定した様子となっていたことだろう。集中を解けば数秒後には消えてしまう儚い術式である。
【街エルフの写真技術】
フルカラー写真であり、その耐久性も百年プリントに達しているなど、その技術はかなりの域に達している。畳大の大きさまで引き延ばした大判も作れて、その出来は雲取様も長時間、竜眼で観察し続けた程である。ただ、竜族が求める千年の月日にも耐える域には達しておらず、竜族の有志達が改良に助力することになった。
現代地球ほど安価ではないため、竜達の申し出にそれほど手軽に応える訳にも行かない点も難点。
【妖精の祝福】
施すことで、効果が持続する間、対象の状態を維持する恩恵が得られる魔術である。大変高度な術式であり、シャーリスや賢者でも予め用意しておいた積層型立体魔法陣を利用しないと施すことができない。効果の持続期間はある程度操作できる。
効果が持続していう間は対象は淡い光に包まれているため、祝福されているかどうかは一目でわかる。必要とする魔力量も膨大なものがあり、人族でいえば戦略級術式に相当する。
◆その他
【鬼族の芋煮】
食材が鬼族領で採れる品であることを除けば、普通の芋煮との違いはない。地域ごとに特色があり、味噌/醤油ベースの違いと、使われる肉が牛/豚/鳥/羊と違いがあったり、入れる野菜が違ったりと、違いがあるが「代表的な芋煮鍋とは何か?」という問いは禁句。鬼族達のソウルフードであり、どの鬼も地元こそが一番と信じて疑わないからだ。ちなみに本編でも語られているように、魔力がかなり含まれており、人族の場合、魔導師級以外は食べるのはお勧めできない。一般人が食べると魔力酔いの症状が出てしまうためだ。そのあたりはいずれ語られることになるだろう。
【ベリルの書いた竜のノート】
一頭ずつ別に用意された専用のノートである。といっても速記術を多用して書かれてはいるが、これといった特殊仕様という訳ではない。ただ、書かれている情報は国家秘密情報扱いであり、アキの話を記したノートはメモ書き相当ではあるが、これもまた取扱厳重注意の品物として、いずれは街エルフの情報室で管理されることになるだろう。このメモから清書される段階で情報が変容・脱落することもありうるため、原本の保管は大切なのだ。
【小鬼族の指技】
指の動きで簡単な意思疎通を行う技で、発言せず短時間に意思を伝えられる利点がある。状況によって、同じ指の動きでも意味が変わってくるので、指の動きだけを記録したとしても、そこから意味を引き出すのは難しいだろう。
ブックマーク及び評価ありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
それと誤字、脱字の報告ありがとうございます。五回、十回と読んでいても気付かないものなのでほんと助かります。
本文での説明と重複して同じ内容を書いても意味がないので、内容は少し別の視点から書いてみました。
次回は、「第八章に登場した各勢力について」になります。
投稿は十二月二十九日(日)二十一時五分の予定です。