8-20.小鬼皇帝との対談(前編)
前話のあらすじ:竜達も最強とか言われていても、蓋を開けてみれば窮屈な暮らしをしている事がわかり、一部の人達はガッカリしました。
お偉方との会談だけど、小鬼皇帝ユリウスさん、人類連合大統領のニコラスさんの順で、鬼族は武闘派代表の女傑ライキさんと和平派代表のシセンさんの二人という事になった。
鬼族の王レイゼンさんとしてはまず対談相手として人類連合、小鬼帝国とのトップ会談を行う事を目的と据えているから、という事らしい。その感じなら、竜族、妖精族との会談もやって、時間があって、先の二人の見極めた結果によっては、僕とも話そうか、くらいなんだろう。まぁ、妥当だろうね。
そう言う意味では、ユリウスさんは初めから、竜神の巫女と話をする、と目的を明確にしていたから、話すのはわかるし、ライキさん&シセンさん組は、一連の出来事やその関係者の僕から話を聞くのもわかる。
でも、ニコラスさん、というか人類連合はお尻を叩かれて何とか間に合った感じだし、他と違って、そこまで熱意があるようには見えないんだよね。
というか、確か、人類連合の大統領はどこかの国のトップが兼任するんじゃなく、所属国から推薦された人物を投票で決めた、とかだった筈。
そんな立ち位置だと、政治基盤は弱いし、与えられた権限も小さいだろうし、決まるまで動けないと言うのもわかるね。
自国の役職の兼務はできないから、人選は苦労すると思う。片手間でできる仕事じゃないし、大統領の立場となれば、特定の勢力に肩入れするのも不味い。五年、十年と自国中枢から離れれば、退任後の自国での出世も難しそう。まぁ、王に対する相談役として幅広い知識と経験を活かす、なんて役どころにはなりそうだけど。
そんな前知識があると、僕との会合を二番目に入れてきたニコラスさんの思惑が分かりにくい。せっかくきたのだから、一通り話を聞いておこう、くらいな話かもしれない。
というか、立場上、自ら立ち位置を明確にはしないし、できないから、そう見えるよう、敢えて振舞うってところかも。
一番掴みどころがなくて、真意が掴みにくい人なのかもしれない。会った感じからすると、一癖も二癖もありそうだし、単なる調整役、お飾りで終わるつもりなんて、更々なさそうだけどね。
◇
ユリウスさんとの会談は、あちらからの希望で、僕の住む別邸で行われる事になった。僕は大使館に入れないし、鬼族相手なら、外か、鬼族の屋敷でないと体格的に無理だけど、小鬼族ならそんな事はないからね。
それで、朝、起きてみると、ケイティさんが、身支度する為の準備をしてスタンバイしていてくれた。
「おはようございます、ケイティさん」
「おはようございます、アキ様。ハヤト様達とユリウス様が会談をされているので、居間に行く際には、お気をつけ下さい」
鏡の前に座らされて、ケイティさんが手慣れた手付きで僕の身嗜みを整えてくれる。さっきまで寝ぼけた子供って感じだったのに、どんどんお出掛けモードに変身していく。
「随分早いですね」
「小鬼族は早寝早起きが基本とのことで、今朝も既に三時間ほど会談を行なっています」
髪も軽く結い上げてくれて、頭が動かしやすくなった。会話に専念できる配慮だけど、それってつまり、密度の高い会話が交わされたって事。
日の出から一時間くらいで会談開始な訳で、熱心な事だ。
「街エルフと会談できるのも珍しいからでしょうけど、まだ議論伯仲って感じですか?」
「いえ。今は大まかな話を終えて、小休憩といったところです。時間が惜しいので、アキ様には居間で軽食を採るスタイルでお願いしたいとの事ですが、如何されますか?」
何とも忙しないね。でも、人より寿命が半分って事は、時間感覚も二倍違うのかもしれない。なら、あちらに合わせよう。
「では、その様に。ユリウスさんは、ルキウスさんを護衛に従えて来てるんですか?」
「はい。他に速記係の方が三名程いらしてます」
「ほー。面白いですね」
「そうでしょうか?」
録音の魔導具でも使えばいいのに、ってとこかな。時間があるならそうだろうけどね。
「はい。まずはそこの話を伺ってみましょう」
渡された服は室内用の落ち着いた感じのワンピだ。あくまでも私的な会合、そんな演出だね。
ケイティさんが差し出してくれたコップの水を飲んで、頭を切り替え完了。
さぁ、出撃だ!
◇
居間に入ると、なんか元気なのは小鬼の皆さんばかりで、父さん達は何ともお疲れな様子だ。外見を取り繕う事すら雑になるなんて、何があったんだか。
「おはようございます、ユリウス様。実りの多い会合だったようですね」
「あぁ、おはよう。そうだな、やはり街エルフと言っても、人伝いに聞くのと、直接対峙するのでは、印象も変わるものだ。互いに得る物は大きかった事だろう」
そう話しながらも、後ろに控えていた速記の人から紙を受け取り、チラリと目を通して、それを返したりしている。
それでも僕への応対が雑に見えないのだから、不思議だ。
「速記の方を重用するのは、無駄な時間を省く為ですか? 会議が終わる頃には議事録を書き終えてる、みたいな感じで」
「理解が早いな。これからは其方をアキと呼ぶが許せ」
「そう、呼んでくれて嬉しいです。それでは何からお話ししましょうか?」
「では、アキから見た竜族達について聞きたい。彼らの集団としてのあり方、我らとの違い、それに考え方を知っておきたいのだ」
ん、要求がシンプルで分かりやすい。
「そうですね。まず、僕が会った竜はまだ八柱だけ、それに雲取様は青年、他の雌竜達は未成年と若い世代ばかりなので、認識に偏りがある事とお考えください」
「一柱と交流があるだけでも稀なのだがな。わかった」
僕がまだまだ全然足りないと認識している事が伝わったようで、呆れたような顔をしながらも合意してくれた。
「彼らから話を聞いた限りですが、社会体制としては彼らは農村レベルの緩い集合体といったところで、我々のような複雑な統治機構はありません。そして我らよりも遥かに徹底した年功序列社会です。年を重ねるほど体格が大きくなるため、若い竜が腕力で上に勝つのは無茶です。魔力豊かな山は例外なく年長者の縄張りであり、若い竜達はいつ空くかわからないポストを求めて、何百年と縄張りを持たない居候のような肩身の狭い生活をしています」
「その程度で社会が成り立つのは、やはり彼らが竜だからか」
「そうですね。ある程度大きくなれば敵なしの竜族ですし、力を合わせてやるような大仕事もありません。年を重ねるほど、魔力依存が強くなるようで、食べる物も減っていく傾向があるそうですから。道具も不要で、独自の文字はあるようですが、本も作らないので、マーキングに近いシンプルさです」
「ふむ」
「ですが、それらは彼らが深い知性を持たない事を意味するのではありません。彼らは初めて見た妖精達の魔術も、竜眼で見極めて、その意味、効果をきちんと把握してましたし、僕が話したマコト文書の内容も説明すれば、やはりすぐ理解を示しました。体の作りも大きさも社会体制も違う人の世の話でもそれですから、彼らの個としての能力はかなり高いとみて良いでしょう」
「まさに神の如し。だが、アキは彼らとの繋ぎ役ではあっても、崇めるつもりはないとみたがどうだ?」
まぁ、僕の振る舞いを見ていたら、拝む姿は想像できないとは思う。
「そうですね。彼らは良き隣人ですし、個人的にも好感を持っているので、仲良くしていきたいとは思いますが、信仰の対象とはなりません。力の差はあっても、彼らも僕たちと同じ血肉のある生き物ですから」
僕の言葉に、ユリウスさんは目を細めて、ニヤッと笑った。
「アキは魔力感知ができないと聞いたが。それでも竜達からの圧は感じるのだろう? 恐ろしいとは思わないのか?」
「それは僕だって、竜に睨まれたら怖いし、彼らからすれば大した事がなくても、僕達には致命傷って事もあるわけですから、彼らとの接触は気を遣います。でも相手にその気が無いのに怖がるのはやっぱり心証も悪いじゃないですか。だから、ちょっと怖いと思っても、それは態度には出しません」
「それは我ら小鬼族相手でも同じか」
僕の心を見通そうとするかのように、キリッとした目線でこちらを見据えた。
まぁ、後ろ暗い事はないので、それで慌てる様な事もなし。
「皆さんが僕達からすれば、誰もが凄腕の暗殺者に匹敵する方々だとは僕も知ってます。でもそれを言えば、森エルフは一矢一殺の凄腕の狙撃手で、ドワーフ達は凄腕の職人集団、鬼族は誰もが百人力の強者、そして街エルフもまた多くの人形達を操る人形遣い。どの種族であっても得手、不得手がある、それだけです。こうして話し合う分には種族差は気になりませんからね。それよりは、在り方の異なる種族特有の考え方、世界観と言ったモノの方が興味があります」
僕の答えに、彼は満足そうに頷いた。
「我からすれば、其方の在り方のそのモノが興味深いが、それは別の機会に尋ねる事としよう。アキの竜族に対する評価を聞くと、彼らを一つの統一された国家のように捉えてはならないと思える。どうだ?」
「そうですね。こちらに来ている竜達も注目株ではあっても、立場としては単なる村人といったところですから、繋がりを持ったとしても、それは個人的な域を出ない事でしょう。そういう意味では鬼王のレイゼンさんはちょっと益を求め過ぎかも。ちょっと後でセイケンにでも助言しておきましょうか」
「ならば、我らにも助言が欲しいな。妖精族と交流を深めたいが、我らはどうすれば良いと思うか?」
「そうですね。んー、当面、妖精族はこちらにくる人数を現在程度に抑えるそうなので、彼らと交流するなら、ロングヒルにある程度の人数が常駐すべきでしょう。鬼族のように大使館を建てれば良いかと。それとまずは隣人として相手に興味を持ち、話す機会を増やす事です。彼らが妖精界に持ち帰れるのは情報だけ、そして彼らはこちらの世界の事はよく知りません。こちらでは当たり前のことでも、彼らからすれば興味深い内容かもしれません。そうした知的な交流を深める事、それを求められるのが良いでしょう」
「ふむ。何か例はあるか?」
さて、例、例ね。何がいいかな。ん、簡単に食べられるようにアイリーンさんが出してくれた一口サイズの雑穀にぎりは、例としていいかも。
「例えば、こちらの一口にぎりですけど、白米だけで無く大麦とか、黒米、あと、もち黍とか大豆が混ぜてあって、もちもちした食感が妖精さん達にも好評なんです。調理法もそうですけど、そもそもどんな植物でいつ採れるのか、どんな場所を好むのか、というように、得た情報を元に妖精界で、似た食材を探して調理する事までイメージした上で、情報を渡せると、妖精さん達も喜びます」
この塩漬けの赤紫蘇もいいアクセントなんですよね、とパクッと一口で食べてみせた。
うん、美味しい。
やっぱりこういう毎日食べても飽きのこない食べ物がいいね。
「翁、そうなのか?」
お爺ちゃんはニンマリと笑顔を浮かべて頷いた。
「米は、我らには馴染みの薄い食材じゃった。それだけに、モチモチとした食感が新鮮でのぉ。それに様々な穀物を混ぜた方が体にもいい。あちらでも似た穀物がないか探しておるくらいの好物じゃ」
「成る程。ならば我らの国も土地だけは広い。多様な食材や郷土料理を紹介できよう」
「それだけでは無いぞ? 小鬼族は体格差を克服する工夫を色々としておるのじゃろう? それは儂らの考え方にも近い。鬼族よりは話が合うと踏んどるところじゃよ」
「それなら、魔力を抑えた欺瞞や、見つけにくい罠といった視点も興味があるか?」
「勿論じゃとも。儂らにはなんとも無くとも、体の大きな者達には障害となる、そんなちょっとした事があれば聞いてみたいのぉ。手間は少ない程いい。力押しなんぞ品が無いからのぉ」
「ならば、我らも多くを伝えられよう。ここだけの話だが、街エルフが我らに送ってきた、竜への貢物の品には、苦慮したのだ。至高の品と呼ぶしか無い焼き菓子や、竜も使える樽のように大きな硝子の大杯。量では無く質で満足させるように、と言付けはあったが、あれ程の高みを示された上で、質で何とかせよ、というのだからな」
う、そういう捉え方もあったか。そこでプレッシャーを掛けるつもりは無かったんだけど。
「何も高価な品で無くとも良い、道具を作らぬ竜ならば、広く集める必要のある穀物や果物は、懐かしい価値ある食べ物となる、それに気付いたから何とかなったが、今後はもう少しわかりやすいヒントを頼むぞ、アキ」
う、僕が言い出しっぺだとバレてるし。
「地元で取れる旬の食材ベースの焼き菓子なら、材料費も抑えられますからね。舶来モノの食材なんて出して、気に入られたら大変ですし。あと、ガラスの器は、透き通った紅茶の色合いを目で楽しんでもらう事を狙ったんですよ。見て良し、香りも良し、味も良しなら満足しそうかなって」
「見た目の華やかさか。だが、それも人の目線であり、竜相手では微細過ぎる。妖精相手ではどんな菓子細工も大雑把になる、そう言う事か」
「はい。実際、妖精さん達は、耳掻きのような小さなスプーンでちょっとずつ食べるので、それを考慮した調理法が必要です。例えば、塩を振ると、妖精さんの口だと、下手をしたら食べたモノの大半が塩の粒そのモノになり兼ねません。そうなれば味どころではありませんからね」
「ならばどうする?」
「塩を水に溶かして、満遍なく混ぜたり、塗ったりするんです。詳しい技法は後でお伝えしましょう」
「アイリーン殿だったか。竜より加護を賜りし魔導人形の料理人と聞く。宜しく頼む。だが、調理技法は料理人の宝だろう。良いのか?」
「私も、妖精の方々から感想を貰い工夫しまシタ。同じ指摘を何度もしていただくのは心苦しいノデ、情報は共有する事を了承しまシタ」
アイリーンさんの言葉に、ユリウスさんは感銘を受けたようだ。
「彼らは異界の住人。ならば、もてなすのは我ら皆同じか。竜族、妖精族、そしてまだ見ぬ異種族との飲食物は我らも得た情報を共有するとしよう。これは後で他の二人とも合意しておくのが良いな」
ん、いい流れだね。どの国が、種族が、って小さいレベルで蹴落としあってたら高みになんて届かない。
「それは良い提案ですね。彼らからしても、人族の誰かに伝えた話が、他で配慮して貰えれば、もてなしの心は伝わると思います」
ユリウスさんは速記の人から得たメモを見て、指でジェスチャーを伝えた。言葉にせず、記録の纏め方を指示するとか、工夫してるなぁ。
僕が感心して観てたら、ユリウスさんも気付いて、話を振ってきた。
「どうした? 我らの指技が珍しいか?」
「無駄を省く工夫が凄い、と感心しました」
「我らの時は短い。必要に迫られれば工夫もするモノだ。言葉も短い言い回しを選ぶのだ」
なんとも徹底してるね。人生が半分となれば、確かに無駄を省きたくなるのもわかる。
「それだと、心話を導入すれば、より効率化を図れるかもしれませんね。今は魔力差があると接触できませんけど、小鬼族の方々で理論魔法学に詳しい方がいたら、一緒に研究してみませんか?」
「どれ程改善できるのだ?」
「二十分の心話内容を、口頭で報告し終えるのに三日かかりました」
「それは凄いな。だが、それほど濃密に交流して疲労はしないのか?」
む、なんかおかしなモノに向けるような視線だ。
「慣れればさほどでも無いですよ。それに心話をしっかりやると、頭を全力で働かせた感じがして爽快感もあったりするんです。お勧めです」
ユリウスさんがちらりと横目で観て、合点がいった、というように肯いた。
そちらを見ると、リア姉が、露骨に目を逸らした。なんだかなぁ。
「アキ、詰めておきたい話題になったので丁度良い。確か其方らは、理論魔法学に優れた研究者を求めていたな。異界に通じる回廊、次元門を構築するのだと。なぜ、異界なのだ? ここではないどこかと言うのなら、妖精界でも良いと思うのだが。訳を聞かせて欲しい」
ユリウスさんが斬り込んできた。国の至宝と言える人材を寄越せというのだから、理由を聞くのも当然とは言えるけど。
ちらりと父さん達を観たけど、特に止めるつもりは無し。なら、当初の予定通り、話せるところまでは話そう。
「僕達が繋げようとしている世界は、こちらではマコト文書という形で紹介されている、魔力がなく、代わりに科学が発達している、そんな世界です。そして僕がそこに繋げたい理由はーーっと、ユリウス様、理由ですけど、個人的な話なので、あまり口外しないで頂けますか?」
「理由によるな。だが、我は意味も無く吹聴したりはせぬ。我を信じきれぬなら、無理には聞かぬが、それで我を納得させる事は難しいだろう」
さぁ、話すが良い、と視線を向けてきた。まぁ、秘密にする程の話でもないし、吹聴する意味があるかと言えば微妙。なら話そう。
「その世界に繋げる理由は、僕の大切な姉のミアがそこにいるからです。地球には魔力はないので、ミア姉は自力でこちらに戻っては来れません。だからこちらから繋げて助けたい。僕の願いはそれだけです。協力してくださる皆さんへの報酬は、マコト文書が語る世界の叡智に直接触れる機会となります」
さて、どうかな? なんか、悪魔でも見るような目付きをしてるけど、なんでだろ。
「マコト文書は街エルフの飛躍の礎となった異界の知識だった筈だ。なのに文書が語る知識ではなく、語る世界そのもの、ときたか」
「百億の民が五千年掛けて蓄積した叡智です。報酬としては十分魅力的と思いますがどうでしょうか?」
「……魅力溢れる提案である事は認めよう。だが、其方らがそこまで譲歩する理由がわからん。何故だ? それほど、其方の姉には価値があるというのか?」
ユリウスさんは稀代の英雄と呼ばれるだけの事はあるね。
「僕にとっては他の何よりも貴い人です。でも、それを聞きたいのではないのですよね?」
「そうだ。其方にとって、姉が何にも変えがたい者だというのは確かにそうだろう。だが、それはアキ、其方だけの理屈だ。我らが計画に参加すれば、研究で触れた知識を、技術を持ち帰ることにもなろう。それを街エルフ達が認めた、それは何故だ?」
本心から疑問に思っているようだね。敵に塩を贈るどころの話じゃないし、確かにそこははっきりさせておきたいところだろう。
父さん達を見ても止めるつもりはないようだから、僕の見解を伝えることにしようかな。
「僕は街エルフの上層部の方々とは交流がないので、これはあくまでも僕の私見ですが、宜しいですか?」
「構わん」
「まだ、どうすれば理論上、次元門を構築する事ができるのか、それすら手探りな状況ですから、せいぜい十人程度の理論魔法学の専門家達を集めて研究させる程度なら、安い費用と判断しただけでしょう。いきなり次元門ができる訳でもないのだから、暫く研究させてみても良い、それくらいの判断と思います」
「確かに集まる人数は少ないかもしれん。だが、其方らは既に妖精族を引き入れ、森エルフとドワーフも巻き込み、鬼族の技術者を呼び寄せ、竜族からも参加者を募ろうとしているではないか。それで何も成果が出ない方がおかしいぞ」
「そうかも知れないし、そうでないかも知れません。凡百の天才が何人集まろうと多分意味がないんです。不世出の偉人、突き抜けた賢者、集まるであろう各種族の頂点に立つ研究者達相手でも、一歩も退かない、そんな変わり者。僕はこのチャンスを最大限に活かすため、人材が得られる可能性があるなら、それを掴む事を躊躇しません。街エルフの長老さん達も長命種らしく、初動が遅いところがあるので、動ける間は最大限、動きます。多分、その辺りが違和感の原因かと思います」
僕はチャンスを逃さず、縁を最大限に活かしているだけ。止められない大義名分がある間に、できるだけ遠くまで、手を広げる。
そんな僕の思惑を知ってて支えてくれる家族や、スタッフの皆さんがいればこその活動ではあるんだけどね。
「……国家として、理詰めと考えるから、辻褄が合わん、そういう事か。そして、アキ、其方はいずれ混乱の世を迎えると理解していながら、我らを招いている、そうだな」
ヒリヒリするような覇気を感じるけど、ユリウスさん、心底楽しそうだね。
「竜族も今後は絡んでくるので、良くも悪くも弧状列島内での争いは減っていくでしょう。僕達は安心して研究に専念できて、為政者の皆さんは少しだけ苦労が増える、それだけですから。あ、すみません、ユリウス様は苦労が増える側でしたね」
「清々しいほど、我が道を行くな。我の苦労が増えると言いながらも、己が道を曲げるつもりなど微塵もないところが何とも憎らしいぞ」
「申し訳ないかなって気持ちはあるので、埋め合わせはマコト文書の話をしますよ。興味があるようならば、ですけど」
「異界に道を繋げようというだけの事はあるな。利用されるのが少し気に食わんが、仕方ない。我らも研究に人を送ろう」
不満たらたらといったポーズをとって、ユリウスさんが派遣を約束してくれた。やった!
けれど、次に彼が告げた問いで、舞い上がった気分は一気に冷え込んだ。
「だが、アキ。其方は我ら小鬼帝国をよく思っておらず、敵視していると聞く。研究の為に手を携えようという割に冷たい対応ではないか。新たな仲間である我に、土産を渡す気はないか? 争いのない平和な未来辺りがいいぞ」
ユリウスさんは淡々とした口調で、大きく踏み込んできた。参ったな。個人的には良き友人となりうる方なだけに、ほんと、参った。
ブックマーク、ありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。
小鬼皇帝ユリウスとの会談が始まりました。やはり小鬼達でも上層部のメンバーは理性的ですよね。そうでなければ、広大だが貧しい小鬼帝国を纏められる訳がありません。
そして、彼らの耳はよく聞こえるようで、アキが小鬼達をよく思ってない事も掴んでいました。彼らの耳がいいのか、内部リークなのか。まぁ、ケイティ達がその辺りはうまく「処理」してくれる事でしょう。
大きく踏み込んできたユリウス、アキもかなり困ってますね。個人レベルならユリウスの事を高く評価しているだけに尚更です。
次回の投稿は、十二月十五日(日)二十一時五分です。




