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8-19.竜族の悩み

前話のあらすじ:今冬限定ですが、平和の誓いの儀が行われました。こういうのは初めの一歩が大変なので、これからの未来がどちらに進んでいくのか、各勢力の思惑も絡んでくるでしょうけど、一度軌道に乗ってしまえば、平和路線がしばらく進むことになるでしょう。軌道に乗りさえすれば。

せっかく、遠路遥々やってきた各勢力の方々と僕の話し合いだけど、後回しになった。


ユリウスさんなら一番に選んでくれそうだっただけに残念だ。


……というのも、見守ると言いながらも、紅竜さんのいる第二演習場で会談が行われる訳ではなく、会談内容自体に興味がある訳でもなく。


僕は、暇を持て余した紅竜さんの話し相手を務める事になったからだ。


心話は周りへの注意が出来ないので、今回は久しぶりに、こちらからはお爺ちゃんに声を送って貰い、紅竜さんは対象を僕に絞り込んだ思念波を送るスタイルだ。


もてなしという事で出した梨のパイは大好評だった。やっぱり幼い頃に食べた味というのは懐かしさもあって、高い評価を得やすいようだね。





初めのうちは、今回の誓いの儀に関する経緯とか、竜達の考えとか、写真撮影の楽しさとかを話していたんだけど、いつの間にやら、紅竜さんの愚痴を聞く羽目に陥っていた。


<私達も反省しているというのに、大人達が入れ替わり立ち代わりやってきては、小言を言われるのは酷いとは思わないか?>


よくよく聞いてみると、まず、雌竜の皆さんは、それぞれの父母から御小言を食らったそうだ。この時点では、この時点では僕から一通り問題点も聞いていたこともあり、神妙に聞いていたらしい。


ただ、祖父母の世代や、叔父叔母といった竜達までやってきては、べき論を延々と話したり、かと思えば、甘くみられては竜族の沽券に関わるとか、よくやったとか、儂らが若い頃は、とかとか好き勝手話し出す始末。


結局、ネタにして楽しみたいだけという意識が垣間見えた事もあって、真面目に対応しているのも馬鹿らしくなったそうだ。

今回、こちらに監視に来たのも、こちらにいれば、大人達から、大義名分を掲げて、離れていられるから、と本音を教えてくれた。


「それはなんとも息が詰まりますね。それでも、感情を自ら律して、役目を果たすのは偉いし、頑張ってると思います」


<そう言われると、嬉しいものよ。けれど、大人達はそうするのが当たり前、自分たちもそうしてきたのだ、などと言ってーー>


……などと愚痴混じりの話が延々と始まり、時折、お爺ちゃんも、物分かりの良い好好爺を演じつつ、紅竜さんの話を聞き続けたのだった。





よくもまぁ、そんなに話す事があると感心する程、後から後から話題が出てきて、内容がループし出したので、適当な所で打ち切る羽目に陥った。雲取様もそうだったけど、魔力依存の高い種族は、意思が肉体を凌駕して、かなり無理が効くから注意というのは本当だね。


人の身で、そんな連中と付き合っていたら、体がいくつあっても足りない。


第二演習場を後にして、別邸に戻る間も、お爺ちゃんと一緒にぐてーっと沈み込むように座って休んでたくらいで、とっても疲れた。


「心話と違って、話した内容を改めて伝える必要がないのはいいですねー。ケイティさん、会話内容の展開はお願いします」


「お任せください」


集めた情報はケイティさん配下の竜族分析チームに送られて、整理検討される手筈だ。

これまでに聞いた話から、家系図や活動域、各個体の考え方や、好みに至るまで情報は日々、蓄積されていってる。


マコト文書も専門の司書を何人も置くレベルだけど、竜族の分析資料も遠からず、その域に達する事だろうね。


「それにしても、竜族も最強で怖いモノなし、好き勝手に生きているのかと思えば、随分、窮屈な暮らしをしてるし、抱えているストレスも相当なモノですね」


「年上を敬え、でしたか。確か、あちらでの朱子学がそんな教えでしたね」


「魔力豊かな山は年上の竜の縄張りとして常に埋まってて、若い竜達は、ポストが空くのを待つしかない、しかも竜は歳を重ねるほど体が大きくなるから、若い竜が年上に勝つのは困難。加えて、かなりの長寿だから、家事見習いとか、部屋住みとかの扱いが何百年と続く、と」


纏めてみると、何とも酷い。それでも、人族達からすれば、気性の荒い竜達が歴史の彼方に去って、基本スタンスが現状維持で、無意味に争わない個体が残った状況は好ましいモノだけど、不平不満が降り積もって、いつか暴発しそうな危うさがあるように思える。


子供が可愛い、孫が可愛い、それは確かだろうけど、上下関係が堅持されていて、可愛がられる位置に居続ける事を強制することにも繋がる訳で。


きっと、孫の立場で可愛がられるのも、何百年と続けたらストレス溜まりまくりだろう。


「ヨーゲル様、イズレンディア様が懸念されていた通りでしたね」


「竜神と言われていたって、彼らも血肉のある生き物なんですから、群れで生活しているなら、人と似たような問題に直面するモノですよ、リソースは有限なんだから」


「理詰めでは理解しています。ただ、心情的には……」


ケイティさんも、竜族の生々しい話を聞いて、少しガッカリしているようだ。


「子供の数は少ないものの、ポストの更新ペースとはズレを生じている。暫くはいいでしょうけど、いずれ何らかの手は打ちたいところですね。今はこれと言った案はないですけど」


「思いついたら、私かアイリーン達にご相談下さい」


ケイティさんがあからさまにホッとしていた。うーん、問題が残るのに安心するというのも変な気分だ。


「儂ら妖精族は、食べるものも少ないから、いまいちピンとこないが、ずっと新人扱いなどされたら、確かに辛かろうな」


入社した後、ずっと後輩が入ってこなければ、その人はいつまで経っても新人のままだ。


うん、それはキツそう。


「取り敢えず、明日以降、残りの雌竜達にも同じ話題を振ってみて、竜族の世代交代や世代間の確執について裏を取ってみましょう。今回の件でもそうですけど、竜達の絶対的な強さ、安定性、世代交代のなさは、弧状列島を纏めるのに役立つと思ってましたけど、考え直す必要があるかもしれません」


「もし、懸念が当たったらどうするんじゃ?」


「今は名案がないけど、若い世代のガス抜きと活力を発散させる場が必要って気はするね。竜同士が相手を選ばず遠距離心話を駆使できるなら、ガス抜きにはなるだろうけど」


「相手の魔力属性との相性を気にせず、心話をできるのはアキ様、リア様だけの特技ですから、その案は難しいでしょう」


「なかなか難しいですね」


……そんな訳で、沢山話して紅竜さんは多少ストレス発散したようだけど、問題の根は深いね。


まぁ、世代間の力の差が明確だから、現状をひっくり返してやる、みたいな革命運動に繋がらないのは、人族からすれば良い事だけど。


晴らせないストレスの発散をこちらに向けられないように注意しないとね。


新たな竜族との戦いの発端が、若い竜達の憂さ晴らしで、「ムシャクシャしてやった、後悔している」なんて言われたりしたら、泣くに泣けないだろうから。





「そう言えば、同じくらい長命な街エルフは、世代交代はどうやってるんです?」


気になったし、街エルフとして把握してないのは世間知らず過ぎるので聞いておこう。


「街エルフはある程度の任期を務めると、後は後任に任せて引退されます。その後は個人的に事業を起こすなり、家業を継ぐなり、趣味に没頭するなり、好き勝手に過ごされていますね」


「それは何とも長い老後ですね」


「ある程度、のんびりしていると気力が回復してきて現役復帰されたりもするので、皆がずっと御隠居という訳ではありません」


「それは何とも気の長い話ですねぇ」


「街エルフですから」


それで納得できないのは、僕がまだ街エルフの人達との交流が足りないからだろうね。足りてくると、ケイティさんみたいに、半分、諦めの気持ちを込めて話す訳だ。


街エルフだから、と。


いずれ、長老の方々とも話をするし、その辺りの「当たり前」を把握しておいた方がいいかもしれないね。付け焼き刃な事はしてもすぐボロを出しそうだけど。

……というか、長老さん達は、ミア姉の計画に許可を出した側なんだから、そもそも取り繕う必要もないか。中身が僕だとバレてるんだから。

ブックマーク、ありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

立ち会うといっても、自分達が主体的に絡むでもなし。若い雌竜達が飽きてしまうのも仕方のないところでしょう。そして最強で敵なしの竜族……の筈が、蓋を開けてみれば、色々と問題を孕んでいるようで、幻想を抱いていたケイティさんはガッカリしてましたね。でもまぁ親密になっていけば、いずれは見えてくる話で、それがアキのせいで、一気に情報雪崩となって襲い掛かってきただけ、ではあるんですけどね。でも十年かけて少しずつ情報が流れてきて理解が進むのと、十年分に匹敵する情報が数日で襲い掛かってくるのでは、受け側の衝撃も比較にならないことでしょうね。ご愁傷様です。

次回の投稿は、十二月十一日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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