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8-15.四方丸く収める提案

前話のあらすじ:小鬼皇帝が来ることになったせいで、あちこちで計画の見直しが起きたり、安全性確保のための軍隊派遣が決まったり、それに対応する防衛戦力の確保が必要になったり、そもそも受け入れるための駐留場所の確保とか、衣食住の確保なんて話で、どんどん話が大きくなっていき、このままではなんか無駄だよなーと考えたアキでした。

僕は調整組や計画参加予定の皆さん、それに今回の件に関係している人達を前に、自分の考えを話した。


「――という訳で、互いに信用できないせいで、盛大な無駄と時間の浪費が起きるのは、良くないと思うんです。でも、こんな多くの勢力の重要人物(キーパーソン)が集う機会を潰すのは勿体ないですよね? ですから、竜に立会人になって貰いましょう。人類連合、鬼族連邦、小鬼帝国はロングヒルの地で互いに争わない事を、竜族の前で誓うんです。勿論、竜族にただで働いてもらうのも悪いので、各勢力は食べ物や飲み物を竜達に対価として支払いましょう。これから寒い冬がくるのに、軍勢を持ち寄って睨み合うなんて無駄以外の何者でもありません。この提案なら、軍勢を動かすよりかなり安上がりだし、竜達も美味しい料理やお酒を楽しめるし、四方丸く収まると思うんですよね。どうでしょうか?」


補足として、僕がお願いして竜が睨みを効かせるのではなく、各勢力がお願いするという形であり、僕は意思疎通をスムーズにするために立ち会う程度だから、それ程、話も拗れない筈、と伝えた。


ここに集まった人達は、予め僕が父さん達に話してから来てもらった事もあり、何に対する話か、趣旨は理解している筈だった。


だけど、僕が話し終えても、会場内は重苦しい沈黙で満たされていて、かなり居心地が悪かった。


変だなぁ。かなりいい提案だと思ったんだけど。


立会人の前で夫婦が将来を誓い合うようなものですよ、それで不仲になれば立会人の面子を潰す事になるから、抑止になるでしょう? と補足してみたんだけど、セイケンが苦笑しながら、手を挙げた。


「アキ、皆は提案が理解できてない訳じゃない。だから、それ以上の補足は不要だ。……しかし、アキからすれば、各勢力の争いも、結婚式の誓い扱いか。いや、驚いたよ」


セイケンの言葉に、皆がその通りって感じで頷いたりしてる。


まぁ、追加説明は不要だとのことだから、続きは皆を集めた父さんに譲ろう。


父さんが皆の前に立った。


「聞いた通り、アキからの提案は、多くの点で検討するだけの価値があると我々、街エルフは判断した。本国にも判断を仰ぎ、話が纏まるならば、街エルフ、鬼族、小鬼族の軍勢が睨み合う状況よりは良く、その方向で進めても良いとの判断を得た。そこで、皆にも考えて欲しいのだ。この提案が将来に齎すであろう影響と意味について」


父さんはそう言って、皆の反応を待った。


まずは街エルフが態度を明確にした。


さて、次は?


お、ドワーフのヨーゲルさんが手を挙げた。


「我々、ドワーフ族は元より、雲取様に庇護して頂いている身じゃ。竜神と崇める方々に、誓うという行為は我々に取っては自然であり、この提案に賛成する」


お、森エルフのイズレンディアさんも手を挙げた。


「我々、森エルフも同様だ。何より竜族が意見を押し付けるという形でないのが良いと思う。竜族が争うな、と言えば同じ結果にはなるだろうが、反発も起きよう。それが回避できるのも良いな」


まぁ、雲取様の庇護下にあるドワーフと森エルフなら、同意してくれると思ったけど、思った以上に高評価だね。自らが信奉する方々を、他の勢力も尊重する訳だから当然か。


さて、次はどうだろう?


ん、お爺ちゃんが手を挙げた。


「儂らも一応、意見を話しておくと、武装した戦力が狭い地域で睨み合うというのは、避けられるなら、それが最上と思う。何せ軍勢と言うのは展開して何もせずとも大変な手間がかかる。おまけに仲が悪い相手となれば、不測の事態も起きかねん。顔を突き合わせなければ、争いも起きないというものじゃ。それに竜族に各種族が、御馳走を持ち寄るというのも良いのぉ。頼りにされて美味いもんも食べられるなら、竜族も悪い気はせんじゃろうて」


お爺ちゃんは、こちらに領土のない旅人の意見じゃよ、と笑ったけど、ここに来ている人達は妖精族が知識や技術を提供し、共に研究するなどして、少なくない労力を割いている事を理解している。


それだけに、妖精族の意見も関係者の言葉として、その意味するところを理解しようと真面目に聞いていた。


さて。


残りはロングヒルと鬼族だね。


ん、セイケンが先か。


「我らの法に囚われぬ存在の介入は避けるべきと苦言を呈したばかりなのに、こんな話が出てきて、正直、頭が痛いな。だが、確かにこの提案であれば、アキの竜神の巫女としての重み、危険性が増す事も避けられよう。どの種族も竜達に睨まれたくはない。それだけは間違いないのだ。だが、アキ、これだけは言っておく。間違いなく、この提案を言い出したのは誰か、皆が知りたがる。例え、公式発表の中にアキの名がなくとも、アキが発起人である事を各勢力が知る事にもなろう。それでも構わないのか?」


セイケンはそう話しながらも、僕の返事は予想済みのようだ。


「勿論、限られた人が知るのは仕方ない事でしょう。それに、今はまだ竜族は不可侵、神秘のベールの向こう側、遠くから崇める存在ですけど、先々までそうとは限りませんからね。今回の事で、各勢力の御偉方に興味を持って貰えるなら悪くないと思ってますよ。計画の為には多くの人達の助けが必要ですから」


僕の言葉に、そう答えると思っていた、とセイケンはため息をついた。


残りはロングヒルだね。


「エリーはどう?」


「……どうって、簡単に聞いてくれるわね。確かにロングヒルの得るものは大きいわ。数千からの戦力が三つ巴で睨む状況が、それぞれ数十人ずつ代表者がやってくる程度の規模で収まるのだから」


「なら、エリーも賛成かな?」


「でもね、ロングヒル単独なら話はすぐ纏まるけれど、人類連合となれば、話を纏めるだけでかなりの期間が必要になるでしょうね」


「それなら、時間も勿体ないし、どうせ、不戦地域はロングヒル周辺に限定するんだから、ロングヒル単独か、ドワーフ、森エルフの連名程度にすればいいんじゃない?」


「それじゃ、バランスが悪いのよ」


「なら反対? でもこの案なら、竜族も不始末を仕出かした雌竜達への仕事とする事で罰になるし、竜族が争いを選ばない事を内外にアピールできるし、雌竜達も、他種族との関わり合いを学べて名誉挽回の機会になるし、色々と良いと思うんだよね」


「……三大勢力が不戦の合意をするだけでも歴史的な偉業なのに、それに竜族内の話の解決まで混ぜようって、どんだけ考えてんだか。……というか、アキ。今回の提案で、何を狙ってるか、洗いざらい話しなさい! こうして聞いている側から、ポロポロと別の話が出てくると、不安過ぎるのよ」


あや? なんか、妙な雲行きになってきた気がする。


「いやー、そんなに考えてないって。今回の件で、竜族を含めて、皆の意識改革にでもなればいいなーとかは思うけど、その程度だよ?」


「意識改革?」


「竜族と他の種族が、互いに約束を交わして交流できる相手と認識する事。狭い地域に一緒に暮らしているんだから、互いに不得手なところを助け合えるようになれば素敵でしょ?」


「……簡単に言ってるけど、そこの二人の反応を見れば、それが何を意味するかわかるわよね」


ヨーゲルさんとイズレンディアさんだね。二人とも、あまり嬉しそうな顔はしてないね。


「二人とも、雲取様と仲良くなるのは嫌でした?」


「そうではない。そうではないのだ。だが、想像できんのだ。あの方が我らと身近な存在となる、そんな未来が」


「崇拝している方が身近となれば、互いに見たくないモノも見えてこよう。それが良いのか、悪いのか。……想像すらしてこなかった事態なんだ」


二人とも、正直に心情を告白してくれた。嬉しいね。


「とにかく、この案を採用するとしても、各勢力とも、かなり荒れるわよ。それとハヤト様、アヤ様、リア様。今回は非常事態です。きっと、人類連合が最後までもたつくでしょう。ですから、力をお貸しください。統一意見を出す、そこまで行けば、後はなんとかなります。何とかします」


おっ、エリーもやる気になってくれたか。


父さん達も勿論、快諾してくれた。


「それじゃ、提案は採用という事で、実務的な部分は宜しくお願いします。あ、そうだ。ケイティさん、各勢力に話を伝える時、雲取様にも好評だったケーキや竜用のコップとかもサンプルって事で配って貰えます? あと、各勢力の竜族へのお礼の品だけど、同量とするよう提案してみてください。竜族を量で満足させるのは現実的ではないので。あくまでも質で満足させる、という方針は徹底しましょう」


僕の提案にケイティさんも頷いてくれたけど、退席しようとする僕の肩をエリーががっしりと掴んで、強引に席に座らされてしまった。


「時間がないと言っても、まだ一時間は付き合えるわよね。この際だから、思いついた事をどんどん話しなさい。というか話し尽くしなさい!」


エリーが逃げたくなるような迫力のある笑顔で、迫ってきた。ここまで方針が決まれば、もう僕はいらないと思うんだけどなぁ。


……などと正直に言う訳にもいかないので、限界ギリギリまで付き合うことにした。


結局、大した事は話さなかったのに、皆は、僕を引き止めて良かったの大合唱だった。謎だ。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

アキの提案の有効性が認められて、人類連合、鬼族連邦、小鬼帝国の史上初となる期間限定の平和協定が結ばれることになりそうです。しかも誓う相手は神として崇められてもいる竜族達。

歴史書に残るであろう大イベントなんですけどね。言い出しっぺのアキは、案も出したし、後は頑張れーって気でいますが、まぁ、そんなのが許される訳がありません。

次回の投稿は、十一月二十七日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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