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8-12.時代遅れの一流古典魔術師(前編)

前話のあらすじ:多くの瞬間発動の使い手に見守られて、アキも遂に魔術を使うことができました。嬉し過ぎて延々と魔術を使い続けて、師匠(ソフィア)が注意する程でした。でも、できないことができるようになったら嬉しいものですよね。

次の日、師匠の屋敷に来てみると、エリーも呼び出されていた。


「エリー、お久しぶり。今日も訓練?」


「それもあるけど、アキ、貴女の今後の事を私にも話しておくから来るように、と言われたのよ」


「僕の事?」


「昨日、第二演習場で初魔術を成功させたんでしょう? 初めて魔術を覚えると、使えるのが嬉しくて試したくなったりするから、それを抑えるようにとか、そんな話とは思うけど」


なるほど。本人が危険性を考えないで、こっそり試して大怪我なんて話もきっとあるんだろうね。杖にしたって、魔術への補助的効果とかを気にしないなら、そこらの棒でもいい、とかなんだろうし。





今日はいつもの中庭と違い、居間のほうに通された。和テイストなのがいいね。畳の香りが心を落ち着けてくれる。


「さて、二人ともよく来たね。エリーも話しは聞いているだろうが、昨日、アキが魔術を初成功させた。これ自体は喜ばしい事だが、注意しておくべき事が多い。私も常に気を配れる訳じゃない。だから、エリー。姉弟子として、今後はアキの事を気にかけるように。いいね」


「はい。師の命となれば、拒む事などありません。ただ、私は具体的には何を気にすればいいのでしょうか?」


「エリーなら快諾してくれると思ってたよ。先ずはこいつを持ってみるんだ。王家から借りた長杖だが、持つのは初めてだろう?」


僕が昨日の魔術行使で使った戦略級長杖という奴で、飾りっ気がない長さ2メートルを超える金属製の杖だ。


エリーは予想以上の重さに苦戦しながらも、何とか両手で持った。そして、首を傾げた。


「気付いたようだね。その杖はアキが長時間持ったせいか、アキの魔力属性で完全に上書きされちまった。どうだい、魔力を通せるかい?」


師匠の言葉に、エリーは暫く色々試していたけど、根をあげた。


「無理です。ほんの少しも通せません」


「だろうね。私も無理だった」


師匠の告白に、エリーが少しブスっとした表情を浮かべたけど、師匠がただ揶揄った訳ではないと気付き、自らの考えを述べた。


「アキは、魔導具を過負荷で壊すだけでなく、魔力を通す事で、自分の魔力属性で染めてしまうという事でしょうか? 魔導具製作者も行なっている作業ですが、普通は何ヶ月も掛けて、魔力を浸透させていくと聞いています」


「合格だよ。その疑問に気付いたのは、これまでの学びが身に付いてきた証だ。それで、なぜ、と疑問が浮かぶ訳だ。アキは昨日、そいつを使っただけ。なのになぜ、杖がアキの魔力で染まったか。ーーちゃんと理由はある。アキは昨日、初めて魔術を成功させてから、私が席を外していた間の約三時間、ずっと魔術を使っていたんだよ」


「いきなり三時間!?」


「エリー、今、こう考えたんじゃないかい? 発動した魔術の維持を三時間も続けた、と」


「違うのですか!?」


「アキは小石を弾き飛ばすという初級の魔術を、飽きることもなく延々と発動させまくってたんだよ。最後には十秒で三十個は飛ばしてたね。一度に三十個じゃない。一個ずつ三十回だ」


エリーは師匠の話を聞いて、少し考え込んでいたけど、理解した途端、驚きの声をあげた。


「師匠、それって回数がおかし過ぎませんか? どれ程優れた魔導師であっても、魔術の発動自体は簡易な術であっても一日に二十回程度使うのが限界の筈です!」


「そうさ。それが普通だ。だがね、アキは普通枠じゃない。小石を飛ばす程度の魔術なら、使った端から魔力は回復できる。だから、魔力が尽きて、続きは翌日とはならないんだよ。しかも、使った感覚が残っているうちに続けて魔術を使って、感覚を掴む事もできる。これはもう才能というよりは異才としか言いようのない特殊技能だね」


「……」


エリーの表情からも内心の葛藤が見て取れる。うわー、何それ、有利過ぎでしょう、狡い、そんな感じかな。


師匠もそんなエリーの内心を咎めることなく、落ち着くまで待つと話を続ける。


「一分で二十回として、アキは三時間で四千回近く、小石を飛ばし続けた訳だ。その試行回数だけでも、現役の全ての魔導師の誰よりも遥かに訓練を積んだと言えるだろうね。魔力が感知できないハンデがあると言われても信じられない程の熟練の技だったよ。正直に言うと、私はアキの異才に嫉妬したよ。魔導師は自分の生涯に使える魔術の回数に限りがある事を理解し、限られた回数の中で如何に効率よく技を磨くか腐心する。それをアキは僅か数時間で追い抜いたんだ。少しばかり愚痴っぽくなったが勘弁しておくれよ」


「あ、その、なんと言っていいかわかりませんけど、今の話、敢えて、利点だけ語りましたよね?」


二人の狡いぞーって視線に居心地が悪くなりながらも、ちょっと反論してみた。


師匠も溜息をつきつつ、表情を崩した。


「そうさ。今のはアキの持つ一面に過ぎず、そういう見方もある、というだけに過ぎない。今後、アキをやっかむ馬鹿どもなら、その一面だけをみて、いろいろ言ってくるだろうね」


やっかみ、かぁ。まぁ、どんな人に対しても僻む人はいるし、万人に好かれるのは無理と割り切るしかないよね。


「エリー。お前もウチで十年近く学んだ身だ。アキの異才に思うところもあるだろう。羨む気持ちは私にだってある。だがね、アキは言うなれば、時代遅れの一流古典魔導師って奴なのさ。魔力感知ができない以上、超一流にはなれない。杖はその長杖以外じゃ耐えられないし、僅か三時間で普通の魔導師の何年分にも相当する回数、魔力を通した事で、杖を自分の魔力で染めてしまった。魔導具が溢れた現代においては、過負荷で壊しちまうアキは、街中を歩くことすら拒まれる。しかも魔力感知できず、魔導具も使えないのでは、常に誰かがアキの代わりとなって魔力を読み、伝えてあげなくちゃ、魔術を使わせる訳にもいかない。魔力が強過ぎて、魔導師級の者でなくては触れ合うのすら危うい。利点に対して、欠点が多過ぎるんだよ。アキの利点が活かせる分野なら、かなりの実力を発揮できるだろう。でもね、それ以外の分野では零点どころかマイナスになってしまう」


師匠はそこで茶を飲んで一息いれると、話を続けた。


「私はアキの異才を羨んだが、それならアキの持つ異才を自分が欲しいかと問われたなら遠慮するね。アキの持つ異才は、今のアキの立場だから生活に支障がでないだけで、普通ならまともに生活するのも無理だろう。しかも、アキ自身はそれ程、魔術の道を極めたい訳でもないんだよね?」


師匠が正直に言っていい、と補足してくれた。


「ミア姉の救出に役立つならある程度は伸ばしたいとは思いますけど、専業で極めたいとまでは思わないです」


「まぁ、そうだろうさ。エリーもそうだが、多少、魔術の才があろうと、それだけを突き詰めていけるのは、余程の才があるか、恵まれた立場にある奴、でなけりゃ、人並み外れた情熱がなけりゃ、やっていけるもんじゃない。そんな輩からすれば、アキはケチがつけやすくて、文句を言いたくなる相手なのさ。なにせ、超一流は無理でも一流にはなれる身でありながら、現代社会に適合できないマイナス要素だらけだ」


そこまで話を聞いて、エリーの表情からは狡い、と羨むものがほとんど消えて、応援するような気持ちが増したのがわかった。


「エリー、お前の妹弟子はこれ以上ない程、尖った異才の持ち主で社会不適合者だ。暫くは魔術も、雲取様と妖精族の誰かが立ち会わなくては危な過ぎて試せない。だからね、色々思うところもあるだろうが、守っておやり。その分、アキが働ける話が出てきたら、扱き使えばトントンさ」


師匠はそう言って、エリーの返事を待った。


エリーは少しだけ考えたけど、すぐ意識を切り替えたようだ。


「わかりました、師匠。アキが出不精で殆ど大使館領から出てこないと言っても、外で騒ぐ輩はいるでしょうし、そんな輩に、アキを支えているケイティ達の手を煩わせるのも時間の無駄でしょう。アキ、私はこれから姉弟子として、火の粉を払うから、安心なさい。その代わり、アキも私に何かあれば、力を貸すのよ。いいわね」


エリーは眩しいほどの決意を持って、僕に笑いかけてくれた。さすが王族、心のありようというか、そもそもの視点が違うね。皆がエリーに惹かれるのも当然だ。


ほんと、僕は恵まれているなぁ。


「うん。宜しくね。頼りにしてます、姉弟子様」


僕の返事に鷹揚に頷くエリーを見て、師匠は肩の荷が降りたといった感じに、表情を崩した。





「ところで、アキ。この長杖だけど、確か王家からの貸与で、返却時には現状復帰が求められていた筈よね」


エリーがコンコンと杖を指で叩きながら、話を切り出してきた。


「契約内容は知らないけど、貸与なら普通、そうじゃないかな?」


「理解しているなら話は早いわ。貸して翌日には、十年は使い込んだような状態になっていて、しかもアキ以外にはもう魔力を通せない、これって、明らかに普通の使用から逸脱してると思うのよ。どうかしら?」


「流石に普通とは言わないよ」


杖を使って魔術を行使した、それだけ聞けば普通の話に聞こえるだろうけど、三時間で四千回近くってのはまるで耐久試験か何かのような使い方だ。普通はそんな使い方はしない。


「その長杖はもうアキ専用、リア様も使えるでしょうけど、もうそのまま返却されても飾っておく事しかできないわ」


「使えないんじゃ仕方ないね」


「これまでは、こんなモノを引っ張り出すような国難がなかったから、飾ってあっただけ。それが、誰も使えないから飾ってます、じゃ、意味が全然違うの」


「うん」


「だから、レプリカでいいから見た目同じな長杖を提供してちょうだい。いざという時、普通の魔導師も使う事ができて、歴史的観点も踏まえて、ちゃんと傷とかも再現する事」


それくらい、やるわよねって、エリーが挑むように条件を列挙してきた。あー、うん。結構大変そう。


「多分、借り受けた時点でその辺りは考慮してくれてると思うから、ケイティさんにお願いしておくね」


困った時のケイティさん頼み。


ただ、そんな僕の答えに、エリーは違う、そーじゃないの、と駄目出ししてきた。


「……アキ。その常識のなさも、なんとかなさい。普通は国宝の魔導具と言えば、大貴族でも領地経営に影響が出る程の品なの。普通はそれは大変と焦ったり、狼狽したりするものなのよ」


「うわっ、そうなんだ。そんな大切な物を貸してくれてありがとうね。でも、ケイティさんやマサトさんなら、万一に備えて、借りる時に精密測定とかしてたんじゃない?」


「……そう言えば、ドワーフ謹製のレーザー測定器なんて持ち出して、杖の精密検査をしてたわね。こうなる事態も予想済みか」


「杖が耐えられなくて壊れるとか、汚れるとか、曲がるとか、多分、そういう破損に備えてたと思う。ただ、僕の魔力属性に染められちゃったのは予想外かも」


「そう言えば、アキは街エルフだったのよね。つい忘れちゃうけど。この話もアキの武勇伝に加わる事になるんでしょうね。内容盛り盛りの逸話を看板に書いて飾ってやろうかしら」


常識を語る私が馬鹿だったわ、などと不貞腐れてる。そんなエリーに師匠はニヤニヤと笑いながら、そうじゃないと、自説をぶち上げた。


「エリー、逸話はあった事を正確に書いてやった方がこの場合は面白いんだよ。考えてごらん。今回の出来事をそのまま書けば、他の残された文献からも、書かれている内容は誇張されたものではないと結論づけられるだろう? なのに、書いてある内容は非常識そのもの。矛盾した内容の方が後世の歴史家達を悩ませるってもんさ」


変に誇張したりしてあると、記述自体の信憑性を疑われて、それじゃつまんないだろ? などと、師匠が意地の悪い顔をした。


エリーはと言えば、少し考えて、なるほど、と呟く。


「考えてみれば、アキが来てからの一連の出来事も、そのまま書いても、報告者の正気を疑う物だったものね。今更、一つ、二つ増えても大した話じゃないわ」


師匠とエリーが顔を見合わせて笑いあった。

ちょっと意地悪だなーと思うところもあったけど、嘘偽りなく書け、は別におかしな話じゃないし、それにこの雰囲気も悪くない。異才だ、異常だ、と畏れられたり、距離を置かれるより、余程良い。


まぁ、それはそれとして、やられっぱなしじゃ、少し悔しいから、何か反撃の糸口を掴むようにしよう。今はまだ何もないけど。


ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘、ありがとうございました。何回見直しても、気づかないものなので大変助かります。

前後編で、アキの魔術師としての評価や注意点などを師匠(ソフィア)が教えてくれる事になりました。一見チートだけど、副作用ありすぎなのが悩ましいですよね。

次回の投稿は、十一月十七日(日)十七時五分です。

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