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8-11.アキの魔術行使(後編)

前話のあらすじ:久しぶりに家族揃っての食事と、情報交換を行いました。街エルフの老人達も逢いに来るようですけど、アキとは竜族に対する考え方が真逆といっても良さそうで波乱は避けられそうにありません。あと、これまで動静が見えなかった小鬼帝国から、竜神の巫女と話したい、と小鬼皇帝からの親書を携えた使節もやってきたことが判明しました。状況はどんどん動いていきますね。

そして三日が経過して、僕が魔術を試せる日がやってきた。前日に行ったというリア姉の魔術行使は、一応、成功したと言える結果となったそうだ。ただ、参考になるとは言い難くて、僕に見せるのは中止と決めたんだって。


で、魔術を試すことになったんだけど、渡された長杖を構えた僕に対して、お爺ちゃん以外の三人、師匠、賢者さん、雲取様の三名は、僕が動かす予定の石飛礫に対して、二重、三重の障壁を展開して、万一の事態に備えていた。師匠は緩和障壁も展開していて準備万端ってとこだね。


ドワーフ達も絡んだ魔法陣構築は別の機会に行うことになったそうだ。いくらなんでもやることを詰め込み過ぎだって話になった、とのこと。


そして、障壁だけど、まるで、どこに行くかわからない石飛礫の行く末を、絞り込もうとするかのように念入りに配置されていた。


「そんなに方向制御は難しいんでしょうか?」


僕の呟きに、師匠(ソフィア)は苦笑した。


「リアは結局、まともに飛ばす事が出来なかったからね。アキ、姉を超える時が来たよ」


師匠は悪乗りした顔で煽り立てた。


「礫を弾くだけなのに、難しいんでしょうか?」


僕はエリーから借りた戦術級長杖を、小石のほうに軽く向けた。長杖というだけあって両手で構えて、足幅を開かないとふらついて安定しない。


「まぁ、試してごらん。やり方は覚えているね」


「発動時の現象を正確に思い描けたら、始動キーをイメージする、でしたよね」


「そう、始動キーだよ。想像しただけで魔術が発動するなら、危な過ぎてそんな技術は成立しない。それに人は周囲の環境を感覚器官で認識する。認識という行為は『世界はそうである』と受け入れているという事。この生き物なら誰でも持つ当たり前の感覚がある間は、魔術は発動しない。受け入れている現実がある、と明確に意識してるんだからね」


現実を思うがままに書き換えようというのに、現実を肯定して受け入れていては、書き換えるどころじゃない。


「だからこそ必要なのが始動キーだ。人によって多少違うが、認識切替の為の心の鍵を創っておく。現実の光景に、書き換えたい光景を上書きして、それこそが新たな現実と認識する。そう、心を切り替える為の鍵だ。私達、人族なら、魔力を杖の先に集束し、一点にまで圧縮して魔力の位階を高める、その一連の行為自体が始動キーになる。日常では行わない行為だからね。種火が用意できれば後は書き換えを起こせば魔術発動だよ」


「鬼族なら魔力の活性化がそれに当たるのですね」


「そうさ。だが、アキはそのどちらの行為も始動キーにはできない。なにせ、集束、圧縮、活性化のいずれも魔力の変化という明確な手応えがあるからこそ始動キーになり得る。アキは魔力が感知できないから、そもそも特別な行動足り得ないのさ」


「そこで、竜族や妖精族の魔術行使に倣う必要がある、と」


<そうだ。まさか、私が初めて魔術の使い方を教えるのが同族ではない、とは想像すらした事がなかったな。愉快なものだ。よいか、アキ。魔力は体内に十分な量と密度で満ちている。だから集めたりする必要はない。そんな我らでも、ソフィアの言う始動キー、それに相当するモノがある。それは角だ。普段の生活をする中で、角の先端を意識することはない。体の一部であり、あって当たり前だからだ。だからこそ、その一点を意識する。その行為自体が始動キーになる>


「竜族なら自前の角があるが、儂ら妖精族にはそれはない。だから、こうして杖を持つ。杖を持ち、その先端を意識する、その行為を始動キーとしておるのじゃ。アキの場合、その長杖を持ち、構えて、先端を意識する事を始動キーとすればよいじゃろう。単に杖を構えるのではないぞ? 魔術を使おうという強い意志を持ち、その上で杖を構え、発動基点となる杖の先端を意識する、その一連の行為が重要なのじゃ」


「単に構えただけで、魔術が発動しちゃったら、危な過ぎるもんね。あれ? でも、杖術を使う時に魔術も発動できちゃったりする?」


「武術では同じ行為を何度も繰り返す事で、意識する事なく、体に覚えこませた技を放つだろう? まして相手もいる状況で、そんな意識を持てるもんかね? できるなら、確かに杖術と魔術の併用もできるようになるだろうが、鬼族ですら、魔力活性化と自前の角を始動キーにしている。ハードルは高いだろうよ」


<我ら竜族は角を武器とはせぬから参考にはなるまい>


「儂ら妖精族も、杖で殴っても意味がないから、そんな真似は試したこともない。やはり参考にはならんのぉ」


「参考になる人がいない新たなスキル扱いかぁ。それは厳しそうですね。そこまでやりたい訳でもないので、それは置いておきましょう」


「それがいい。障壁も少し長めに存在するものを展開してはあるが、やはり時間が経過するほど強度も落ちる。さぁ、試してみるのだ」


賢者さんも、いつもよりちょっとだけ、口調が見守るように優しい感じだ。お孫さんが試した時のことでも心に過ったのかもしれない。


「はい!」


僕は長杖を構えると、置いてある小石が、杖の示した方向へと跳ね飛ばされる光景をよーく想像してみた。


目の前の小石が置かれた光景に対して、僕の想像した光景が上書きされる様を想像して、そのまま杖の先端に意識を集中してみた。


ボンっと気の抜けたような音がして、杖の先端が揺らぎ、空気が小さく弾け飛んだのが見えた。


「あれ?」


残念、なんか失敗したっぽい。


「アキ、もしかして可燃ガスと種火と例えたせいで、引火して爆発する状況を思い浮かべたりしなかったかい?」


師匠が杖を振ると、僕の長杖と、僕の間にいつのまにか展開されていた半透明の盾が掻き消えた。


というか、あの瞬間に割り込んで防いでくれてたんだ。


「防御、ありがとうございました。それで、点火して爆発、ですけど、確かに説明を受けた時、そんな風に想像しました。基点から爆発的に広がって、書き換わる世界。そんな感じで。でも、さっきは着火するような事は想像しませんでしたよ?」


「以前、考えた、というのが問題なんだよ。想像するだけで、そんな過去の記憶に意識が僅かでも絡めば、発動した魔術のイメージにそいつが混ざる。慣れるしかないんだがね。気分が悪くなったりしてないなら、もう一度だよ。種火の火力はあり過ぎるんだ。小石を飛ばすイメージの方の比率を増やしてみるんだ」


師匠に発破をかけられたので、気を取り直してもう一度。


今度は小石が跳ね飛ばされるイメージを出来るだけ増やして、その分、杖の先端には軽くイメージしてみる程度にしてみた。


……変化がない。


流石に比率を下げ過ぎかな。


そんな風に少しずつ、意識する比率を変えていったら、いきなり、小石が撥ね飛んだ。


そのまま勢いよく、皆が展開していた障壁の一つに衝突して、粉々に砕け散ってしまった。大暴投だ。確かにコントロールは難しいかも。


今回もやっぱり、杖の先端と僕の間に半透明の盾が展開されていた。


「コントロールは論外だが、石が飛んだね。どうだい、アキ。人生初の魔術が成功した気分は?」


師匠が杖で肩を叩きながら、ニンマリと笑った。


「その、なんか、ちょっと現実味が薄いけど、なんか出来ちゃったなーって感じです。あと、さっきの感覚が薄れないうちに、もっと試して、感覚を掴んでおきたいかなーって思ってます」


「いい心がけだ。雲取様、賢者、それに翁。今の感じなら、私が抜けても大丈夫だろう。アキの集中力が続く間は、練習に付き合ってやっておくれ。私は少しのんびりさせて貰うからね」


師匠はそう言って、演習場の外へと歩き出した。いつもより足取りが重い感じだ。


やっぱり、いくら師匠でも、僕の発動に合わせて、瞬時に盾を創り出すのは大変だったんだろう。


なんて、言えばいいのか。


「師匠!」


「なんだい」


「その、ありがとうございました」


やっぱり伝えるべきは感謝の気持ちだろう。


「その気持ちを忘れるんじゃないよ。アキはやっと入り口に立っただけなんだからね」


そう話す師匠の表情も、僕の未来を見守るように優し気で、心がぽかぽかしてきた。


「はい!」


師匠は軽く手を振ると、控え室へと戻っていった。出迎えたメイドさんに杖を放り渡して、腰を叩いたりしてる。


ソフィアさんに師事できて、ほんと良かった。





「お前達、まだやってたのかい!」


思いの外大きな師匠の声が聞こえたので、キリのいいところまで、小石を飛ばし終えてから、其方を向いた。


両手を腰に当てて、ギロリと皆を睨む師匠の表情は、呆れと軽い怒りと、そして興味を含んでいた。


<いや、アキは魔力がすぐ回復するから、休まず魔術を使えるだろう? ならば成功の感触を覚えているうちに、沢山経験させた方が良いと判断したのだ>


なぜか、雲取様は目を逸らしながら、そんな事を話した。


「集中が切れたら終わりにするつもりじゃったんじゃよ。じゃが、思いの外、アキの集中が続いたのと、何より本人が楽しんでおったからのぉ」


お爺ちゃんも、師匠(ソフィア)から、少し距離を置きながら、そんな弁明をした。


「初めは魔力が多いだけで、学者肌な娘と思っていたのだが。これ程までに尽きぬ情熱があるとは見抜けなかった。魔術センスは並程度だが、魔力が感知できないハンデを考えれば上出来だろう。尽きぬ魔力で試行回数を増やす事で、次々に課題を克服していく様は、妖精界でも観たことが――」


賢者さんは、僕を指して、儂の弟子にしてもいい逸材だ、などとまだまだ言い足りなさそうだけど、師匠が発言を遮った。


「皆は瞬間発動の担い手として、立会いには最適な人選だったが、教師としては失格だね。自分達が疲れ知らずだからって、それをアキにも適用するんじゃないよ!」


師匠の激しい叱責に雲取様とお爺ちゃんは頭を下げて詫びる心を示した。それでも、賢者さんは不思議そうな顔をしている。


「魔術の興が乗ってくれば、二、三日の徹夜は当たり前ではないのか?」


「そんなイカれは、そうそういないんだよ。だいたい、それは長い目で見れば、心身に負担を強いる悪癖だ。あんただって、妖精の国では皆に心配されてたじゃないか」


「それを言われると心苦しいが、ソフィア殿は、こちら側だと思ったが、違ったか?」


賢者さんも自覚はあるのに、あまり改めるつもりがないんだから、始末が悪いね。


「そりゃ、少しは心当たりはあるさ。研究者っていうのは、そういう性があるもんだ。だけどね、私はこれでも弟子を導く仕事もしてる。だからね、才があるからと、若い頃から無理をさせると碌な事にならないと学んだのさ。で、アキ。日も傾いて、そろそろ午後の茶の時間だが、体の方は何ともないのかい?」


師匠に指摘されて、空を見上げると、確かにお日様も随分傾いて、かなりの時間が過ぎた事がわかった。


時間の経過を意識した途端に、ぐ〜っとお腹が鳴った。


「喉が乾いたら、お爺ちゃんに水を貰っていたから、そちらは平気でしたけど、確かにお腹がすきました。あと、ずっと杖を握ってたせいか、腕がパンパンだし、手がなんか固まってる感じですね。というか、肩も凝ってる感じだし――」


「そこまでだよ。アキ、私はともかく、竜族の雲取様も、妖精族の二人も、我々より魔力に依存している分、気の持ちようで動き続ける無理もしやすいんだろう。だから、そんな彼らのペースに付き合ってたら体がいくつあっても足りないと覚えておくんだよ。今日はここまでにして、ケイティにしっかりマッサージでもして貰うんだね」


「あ、ではそうします。皆さん、立ち合って頂けてありがとうございました。とても楽しかったです」


「残りは何があったか、どう見たか、話して貰うよ。特に雲取様は、龍眼で観た様子も教えて貰うよ。私らより見通せる力、頼りにしてるからね。それと、アキ。明日は起きたらすぐに私の屋敷においで。今後の魔術への向き合い方を、含めて話すからね」


師匠はメイドさんの用意した椅子にドスンと座り込むと、残りの面々をギロリと睨んだ。


僕は借りていた長杖を師匠に返して、皆に礼をして、演習場を後にした。


控え室で待機していてくれたケイティさん、ジョージさん、それにウォルコットさんにざっと状況を話したけど、だいぶ心配をかけたようだ。


ケイティさんも、僕の体をあちこち触って、明日に響かないよう、念入りにマッサージすると言ってくれた。


色々あったけど、初の魔術行使としては、上出来だったと思う。


帰りの馬車でケイティさんが魔術について話してくれてたんだけど、座った僕には心地よい子守唄にしか聞こえなくて、いつのまにかケイティさんに寄りかかって寝てしまった。

遂にアキも魔術を使うことができました。小石を飛ばす程度の技でしたけど、初めて自転車に乗れた時のようなもので、アキもとっても喜んでましたね。ただ、立ち会っていたのが天空竜、道楽妖精、魔術狂妖精では、まぁ、師として導くのには合わない人選だったと、ソフィアが呆れるのも当然でしょう。

次回の投稿は、十一月十三日(水)二十一時五分です。

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