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8-7.セイケンとのんびり茶飲話(後編)

前話のあらすじ:セイケン個人及び、ロングヒル居残組の見解を教えて貰いましたが、予想してたよりも辛口な感じで、アキはけっこうショックを受けました。誠意をもって仲良くなろうと奮闘してるのに、不気味とか言われたらまぁ、衝撃を受けもするでしょう。ただ、それで涙がこぼれるほどというのは、アキが精神的に色々と一杯一杯だから、というのが大きいです。もちろん、セイケンもそのあたりは理解してます。

セイケンは茶をグイッと一飲みすると、口を開いた。


「それでは、次は我が国の和平派の見解を話すとしようか。そもそもの始まりは、総武演において、街エルフと妖精族が公開演技(エキシビション)を行うとの情報を得た事にあった。和平派は情報収集を名目に、参加を決めた。なかなか姿を見せない街エルフの情報も、御伽噺の中にしか居ないはずの妖精族の情報も、特使を派遣するだけの価値があると考えたからだ」


「戦から間が空いて、薄れた鬼族の武も見せつけようって事もあったよね?」


「その通り。だが、当初はその程度だった。我らは情報を得て、鬼族の武を見せつけて、すぐ帰還するつもりだった」


「でも残った」


「天空竜がやってきたからな。あの方の振る舞いは、妖精族の描いた光の花と関連しているのは確実だった。ならば、その行く末を見届けずして帰還するなどあり得ない。その時は、あくまでもアキとの会合はおまけに過ぎなかった」


うん、うん、そうだよね。


「妖精族から、もっと交流したいと言われた事も大きかった?」


「勿論、それもあった。その時点では妖精族とそれに絡む竜族、それが理由だった。国元に帰った者達も、ここまでの情報を携えていた。だから、和平派も其処までの情報から状況を分析しようとした事だろう」


「街エルフが動きを見せた、妖精族を召喚した、そんな妖精達に天空竜が興味を持った、と。それだけだと、その後、どんどん届いた追加情報で、混乱してそうだね」


セイケンはあからさまに深くため息をついた。


「混乱どころではないだろう。まず、続報が、天空竜が街エルフの娘と何時間も話をして、頻繁に通うことを約束した、だぞ。この時点でもう、常識が崩れ落ちた事だろう。そして、次は、雲取様は娘との話に夢中になり、話し疲れるとその場で寝てしまった、だ。そんな事は神話の時代まで遡っても無かった話だ。そして、その街エルフの娘は、その後飛来した七柱の雌竜も心話で捩じ伏せて、来訪の不備の詫びとして、望んだ竜探しの件を呑ませた、だ。私なら、報告者の正気を疑うところだ」


そこまで一気に話すと、更にグイッと茶を飲んだ。


「和平派の人も、それなら話を進めようってより前に、何が起きているのか、事態を見極められて、信頼の置ける腹心を派遣してくる、って感じかな」


「そうなるのは確実だ。和平派のかなり上位の者が、直接、状況を見極めようとやってくる事だろう」


成る程。ここまでは誰が聞いても、誰が考えても、そうなるだろう話だね。


「それだけ重鎮となると、腕の立つ護衛も同行してくるし、こちらにくる竜族に、少し睨みを効かせて貰った方がいいかもしれないね。半年先まで心話のスケジュールを埋めようってくらいだから、揉め事は起こすな、くらいは言ってくれると思う。僕がお願いするよりは効果あるからね」


僕の提案にセイケンの表情が固まった。そして、心を落ち着けるように、目を閉じて暫く沈黙した後に、口火を切った。


「アキ。それは我々の頼んだ、これ以上、何かするな、に完全に該当する話だ。確かに効果的だろう。だが、それは劇薬過ぎる。子供の喧嘩に、軍隊を派遣するようなものだ。いいか、アキ。人と鬼と小鬼は一つの盤で囲碁で陣取りをしているようなものだ。争いは盤面の変化を生むが、皆が同じルールで参加している」


あー、何となく理解できた。


「竜族は盤面をひっくり返す災い、皆が争うルールから外れた存在って事だね」


「そうだ。いくら、彼らの意に沿う話であろうと、アキが提案し、竜族が動くという流れは看過できないものだ。どの竜とも交流できる、それだけで前代未聞なのに、実際に彼らを動かせた、という実演まで見せるというのは、動かせる可能性がある、という段階を明確に踏み越える事になる。危機意識をこの上なく高める事になるだろう。だから、そのような真似は決して選んではいけない。そうせざるを得ない理由があれば別だが、今、それを必要とする理由はない筈だ。……まったく、エリザベス殿の言われた通りだ。僅かでも目を離すと何をやらかすか分からん」


苛立ちを隠す事なく、自重してくれ、と念押しされてしまった。


「ジョージさんも同じ意見?」


やはり、護衛のプロにも意見は聞いておこう。


「議論の余地なく、竜族の介入は不要だ。そもそも、和平派は争いを避けるために、ロングヒルで起きている一連の出来事を確認しにくるのだろう? なのに、竜族の不評を正面から買うような真似はすまい。アキに注目している竜は数千ともなろうというのだ。先日来た七柱だけで、城塞都市ロングヒルを灰燼と化すことすら可能だった。それが数千だ。竜族の不評を買うくらいなら、人類連合相手に、全面戦争でも仕掛ける方が余程マシだろう」


成る程。確かに、雲取様の庇護下にあると僕やリア姉は宣言されているし、先々まで話し合う予定も組んでいるのだから、それを邪魔するというのは、竜族に喧嘩を売るのと同じだ。


そして、人族同士なら、抗弁して争いを回避する事もあるだろうけど、竜族は多分、そんな手間はかけず、気に入らない相手がいれば国ごと消し飛ばすに違いない。


「とりあえず、先程の提案はなしで。鬼族の重鎮が来られた時は、街エルフもそれに相応しい戦力を出してバランスを取るでしょうから、僕の出る幕はないですね」


「……そうしてくれ」


セイケンは心底疲れた声で絞り出すように答えた。





「後は、武闘派の方々の見解ですね。宜しくお願いします」


「泣いたと思ったら、もうそこまで立ち直ってくるとはな。まさか、演技なんて事はないと思うが……」


「セイケン、幾ら何でもあのタイミングで泣く意味がないでしょう? こうして、トラ吉さんを抱きしめていると、無償の愛を強く感じられて心が落ち着くんです。リア姉も言ってたけど、言葉を交わさなくても思いが通じる友達って素敵ですよね」


「にゃー」


落ち着いたなら離せよってとこかな。抗議の音色が混ざってるけど、もうちょっと。


「次の話題で終わりだから、もうちょっとこのままでいてね」


「にゃぅ」


やれやれと言った感覚増し増しの返事だけど、逃げ出さないから、仕方ない、と譲歩してくれたんだろう。


「仲の良い事だ。だが、そうしていると、うちの娘より十歳以上年上とは到底思えんな」


「無理はしないと決めているので。今はちょっと、トラ吉さんの支えが欲しい感じなんです」


「成る程。では、最後に、武闘派の見解を話しておこう。初めは武力での処置も選択肢としていただろうが、雲取様の庇護下に入り、竜族がロングヒルに足繁く通うようになり、遠い地にいる竜との心話も半年先まで予約で埋まる有様とあっては、流石に彼らも武力行使は選ぶ事はあるまい」


世の(ことわり)を根底から覆す存在は危険過ぎる、だから排除の選択も考えていた、か。怖いね。でもまぁ、今はその選択肢は潰えたのだから、これ以上深く考えるのはやめよう。


「武力に頼らないというのなら、和平派と道は同じ?」


「いや。行動は途中までは同じだが、その先は対応が別れるだろう」


途中まで同じ、というと……


「もしかして、武闘派の重鎮の方もロングヒルにやってくるとか?」


「そうなるだろう。場合によっては、アキの魔力量の多さが本当か確認させろ、と言ってくるやもしれん」


「確認? 手を握るとか?」


「それで済めばいいが」


「でも、僕は魔術は使えないから、何か見せるという訳にもいかないよね」


「そこはリア殿やソフィア殿を交えて、何か対策を考える事としよう。私としても、出来るだけ穏便に済んで欲しいからな」


「うん、そうだね。一通り話を教えてくれてありがとう。だいぶ、鬼族のスタンスはイメージできたから、そう不利益になりそうな方向にはならないよう配慮できると思う。セイケンから、他に話しておきたい事はある?」


「そうだな……アキは初見の相手でも、多人数の大人相手でも話をする事ができるが、それでも老練な相手とのやり取りに熟達している訳ではない。その点は注意しておいた方がいいだろう」


「老練な相手というと、腹の探り合いとか、化かし合いとか?」


「そうだ。人族もそうだが、今後、鬼族、小鬼族と話す相手も増えていく事だろう。だが、相手に誘導されて、あまり下手を打たないよう、注意する事だ。今後の相手は手強い輩ばかりになるのは間違いない。一見、手強く感じない相手がいたら、その相手こそ危険と心得ておく事だ」


セイケンの言葉は経験からくる重みが感じられた。


「もしかして、穏健派の上の方々に、良いように転がされているとか?」


「気が付けば、自主的にやると言い出していて、それが彼らの望む方向とも合致していた。……そんな事が何度もあれば、流石に気付くさ。もっとも、注意しようと、やはり手玉に取られてしまうんだが」


それは何とも手強そうだ。


「ご忠告ありがとう。その辺りはケイティさんとよく打ち合わせしておくよ。どうせ僕が即答できる話なんて、殆どないから、そこまで心配しなくてもいいとは思うけど。できれば、双方儲かって良し、って感じの誘導だといいね。どうせパイは巨大だから、鬼族が捌ける限界まで持ち帰っても、皆は分担ありがとう、と思うだけって気もするけど」


僕は次元門構築計画と、それに付随するであろう諸々の活動を想像して、そんな未来絵図も面白そう、と思った。


「……鬼族が権益に押し潰されないよう立ち回る日が来るかもしれん、か。何とも恐ろしいな。計画が本格始動したら、アキが考えているプランを皆に説明してくれ。街エルフの考える長期計画と言うだけで気が滅入るが、そこは覚悟を決めよう」


セイケンも漠然とだけど、予想はしているようだ。僕はグランドプランを考えるだけだから気楽なものだけどね。


「あまり先まで考えても仕方ないし、取り敢えず、この惑星全域を掌握する辺りまでのシナリオで区切るから安心してね」


「……冗談でも、随分大きく風呂敷を広げたものだな」


あれ? 冗談? えっと。


「百年程度のスパンだよ? 長命な鬼族からすれば、そんなに遠い未来でもないと思うけど」


「百年だぞ!?」


「うん、百年。頑張れば、星の海にも手が届くよ。技術革新は加速していくから、鬼族の意識改革、頑張ってね」


手をギュッと握って、頑張るよう励ましてみたけど、セイケンは本気で気が滅入ってしまったようだ。


「前言撤回する。計画開始の時まで、先々のプランは隠しておいてくれ。聞けば無視できず、考えてしまうが、まずは眼前の仕事を片付けるのを優先したいのだ。宜しく頼むぞ」


セイケンが真面目な顔でそう告げた。


「儂もあちらの話は、儂から聞いた時以外は秘密にして貰っておるからのぉ。聞きたい気持ちもあるが、持てる量を超えて渡されても困る。悩ましいものじゃ」


お爺ちゃんがしみじみと語るのを、セイケンは呆れた顔で眺めていた。自分はそこまでの情熱はないと。


やっぱり、セイケンの立ち位置は研究組ではなく、調整組側だと思った。

セイケンとの茶飲み話も後編ということで、鬼族の和平派、武闘派それぞれの見解(予想)を聞くことができました。バラでくるか一緒に来るかの違い程度の差はあれど、重鎮、あるいは上層部の信の厚い者達が、ロングヒルの状況を見極めにやってくるだろうことは確定したと言えるでしょう。

アキとすればいずれやってくるだろうから、予定がわかってよかったね、くらいなものですが……。

その動きは人類連合と、そして沈黙を守っている小鬼帝国に対しても大きな影響を与えることでしょう。というか、長年いがみ合ってきた勢力同士だったのに、いきなり上層部の連中ががんがん訪問しまくるって、普通、何かあると思いますよねぇ……。何もなしでそんなに動いたらそのほうが驚きです。

ですが、そんな大きな流れも、まだ少し先の話。次から前中後編で、アキの魔術行使ネタをやります。投稿180パート目にしてそれかーってところですよね(笑)

久しぶりのミアからの手紙関連でも、そのあたりに触れることになります。

次回の投稿は、十月三十日(水)二十一時五分です。

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