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8-6. セイケンとのんびり茶飲話(中編)

前話のあらすじ:セイケンとのんびり茶飲み話ってことで、まずは料理を切り口に、雑談をしてみました。軽く話をしているだけなのに、鬼族連邦本場の味、なんて店を開こうなんてプロジェクトも動くことになりそうです。

さて。セイケンとも色々話して、結構時間も過ぎたから、忘れないうちに、今回の一連の話について、どう考えているか、見解を聞いておこう。


「セイケン、今回の雲取様の来訪から始まった一連の流れについて、考えを教えて欲しいんだけど、どうかな?」


僕の言葉に、セイケンが少しだけ表情を引き締めた。


「それは、私個人の見解という意味か?」


「それもあるけど、穏健派の見解と、武闘派の見解も聞いておきたいかな。勿論、それぞれについて、セイケンが想像した範囲で構わないから」


「国元から離れている身だ。元より、各派閥の見解など知りようが無い。だが、アキ。それを聞いてどうするのだ?」


流石にホイホイと情報を渡せる訳もないよね。こう考える、という認識にしたって、情報をどこまで押さえているのか、それに立ち位置によっても意見は変えざるを得ないだろうし。


「今後、小鬼帝国も含めて、色々な人達と話をするだろうから、鬼族の意に沿わない、或いは受け入れられないような話の流れになりそうなら注意しておこうかな、と思って。今って、竜族を別とすると、人類連合、鬼族連邦、小鬼帝国がちょうどいいバランスになってて、一勢力が他の二勢力を圧倒できないでしょう? 僕はこのバランスは維持すべきと思うからね」


僕の説明にセイケンは深く考え込んだ。


「あ、こちらに来ている五人の纏め役としての見解と、セイケン個人としての見解が違うならそれも押さえておきたいんだけど、どう?」


「……簡単に言ってくれるな」


セイケンは少しお疲れな表情を見せると、深い溜息をついた。





「これから話す事は他言無用だ。約束できるか?」


「ケイティさんにも?」


「そうだ。と言っても難しいだろう。私が広めるな、と言う理由は簡単な話で、私の中でも状況を把握できているとは言い難く、そのような中で、出した意見に信を置く事はできないからだ。先程、アキが求めた様々な見解のうち、個人的な見解は他よりはマシだろうが、それとて、竜が頻繁に来訪する冬の時期になれば、言う事が真逆になっていても不思議ではない。それ程までに、現状は混沌としているのだ」


護衛のジョージさんや人形遣いの人にも、報告するなとは言えぬが、事態は流動的で、現時点の意見にどれほどの価値があるかわからない点は、必ず伝えるように、と念押しする程、慎重だった。


「お爺ちゃんには、言わないでいいの?」


「翁は立場上、我らがどう思おうと、どう動こうと、あまり気にはしないだろう?」


妖精族がそんな所に興味を持つとも思えん、などと追い討ちまでしてきた。


「セイケン殿の言われた通り、儂等はこちらでの勢力図がどう書き換わるかに興味はないからのぉ。無論、活動の基盤であるロングヒルや、街エルフの国に影響があるなら、気にもするが、そうではあるまい?」


「街エルフの国は独立独歩、そして唯一の友好国たるロングヒルもまた扱いは別格だ。まして、竜族が頻繁に訪れる窓口も兼ねるのだ。ここが争いに巻き込まれるようなことにはならないだろう。ここが争いの震源地になる事はあるかもしれないが……」


なるほどね。確かに妖精族からすれば、その辺りは、ある意味、どうでもいい部分だろう。


「それを踏まえた上でいいなら、話すことにしよう。それと、誤解を受けないよう、ハッキリと言うが、気を悪くしないでくれれば幸いだ」


うわー、話す前にそんな前置きまでするって事は、耳の痛い話なんだろうね。


ちょい、覚悟しないと。


「ボヤかして話されても誤解するだけですから、そこは遠慮しないでくれて構いません。あ、トラ吉さん、ちょっと、膝の上に来てくれる?」


「にゃー」


仕方ないなーって感じに鳴くと、トラ吉さんが飛び乗ってきてくれた。


トラ吉さんを抱え上げて、胸の前で抱き締めれば、準備完了だ。トラ吉さんを抱いていれば、大概のことなら、きっと我慢できる。


「さあ、どうぞ!」


僕の万全の姿勢を見て、セイケンは困った表情を浮かべた。なんか、セイケンとトラ吉さんが目で通じ合った感じがした。


なんだろ、なんか胸がモヤモヤして。変な感じだ。





「まず、こちらの留守居組の一人としての見解から行こうか。私は、我々は今、この地にいる事をこの上ない幸運と感じている。報告のために帰国した五人の歯噛みする音が聞こえてくるようだ。時代が変わる、正にその震源地に、それも関係者として関われている事は、事の重要性を考えれば、身が震える所ではあるが、それでも、今、この地にいて、皆と協力できていることを誇りに思う」


なんか、歴史的な出来事に携わっていると言わんばかりの評価だね。セイケンだけがそう思っているのかも、と彼の後ろに控えているレイハさんの方を見てみたけど、彼も同意するよう深く頷いてくれたから、共同見解と見て良さそうだ。


「自分の知らない所で、大切なことが決まりました、なんて事を後から聞いたら悔しいでしょうからね。このタイミングで多くの種族が集う国ロングヒルにいるという事は、確かに幸運なことと思います。もし、連邦内で話を纏めてからとか言ってたら、セイケンもまだ、ここにいなかったでしょうし、何年も過ぎてから合流したら、遅れを取り戻すのも大変だった事でしょう」


関係した人がチャンスを掴もうと、不完全な状況の中で、先へ先へと手を伸ばした結果だ。僕もなんだか嬉しくなってきた。


「次に私の個人的な見解だ。嬉しそうな所に悪いが……」


次の言葉に備えて、自然と体に力が入る。


「私は今のこの状況を恐ろしいと感じている。いや、状況ではないな。この状況を創り出したアキやその二人の姉、それに父母も含めて、君達の底知れなさを、先見の明があり過ぎる事が恐ろしい。そして、アキ。君のどの種族にも、先入観のない、その感性も好ましく感じるのと同時に、不気味とも思っているのだ」


「……不気味?」


思った以上にショックだったようで、声が少し掠れてしまった。


「アキ、君からは父母と、リア殿と共に過ごし培った年月の重みが感じられない。その年まで共に生活したであろう家族に向ける眼差しも、我ら鬼族に向けるそれも、そして、竜族に向ける視線も、どれも重みが変わらぬ」


セイケン、僕の事をよく見てくれているね。そして、そこに違和感を覚えたというなら、その直感は正しい。


だって、こちらに来てからまだ四ヶ月程度だよ?

阿吽の呼吸で通じ合うような真似なんてできるわけがないし、皆さん、いい人達だけど、遠慮せずと言われても、なかなかそう上手くはいかない。


日本あちらの家族の皆は元気でいるかな。流石にもう四ヶ月も経過すれば、マコトの中身がミア姉だとはバレているだろうし、そんな波乱もある程度、落ち着いてきてる頃だろう。


話さずとも通じ合えるというくらい深い仲というなら、ダントツでミア姉だけど、今、何してるのかな。


……会いたいなぁ。


「短い月日だが、アキとこうして言葉を交わし、振る舞いを見ても、其方が愛を理解せぬ者とは思えない。つまり、アキ、其方のありようを説明する駒が足りぬ、そういう事だろう。だから、そのように泣くな、今は語れぬ、そうなのだろう?」


ジョージさんが渡してくれたハンドタオルで涙を拭くけど、どんどん溢れてきて、顔を上げられない。


「にゃー」


トラ吉さんが、ペロリと手を舐めてくれた。


うん、大丈夫、こうして、僕を心配してくれる友達もいてくれる。


ぽんぽんとお爺ちゃんが頭を撫でてくれた。



うん……うん、ありがと。



セイケンは僕が話せるくらいに、気持ちが落ち着ちつくまで、じっと待ってくれた。


こういう時の気配りまでできるなんて、流石、リア充だ。あーもう、格好いいなぁ。


「……計画のメンバーが揃ったら、鬼族のトウセイさんが来て、竜族から変わり者の参加者が来てくれたら! 計画が正式に始まる、その時に、ちゃんと話します。それまでは、ごめんなさい」


雲取様には、伝えてあるけど、彼は人の世に関わらない存在だからノーカウント。


ちゃんと伝えないといけないけど、あまりポロポロと伝えていい話でもないからね。


「アキの口からその言葉を聞ければ、それで十分だ。それにその日もそう遠くはない。そうだろう?」


「雲取様が、竜族の皆に話を通してくれると話していたという事だから、求める個体の特定はできると思う。その方が、計画に乗り気になってくれたらいいんだけどね」


次元門構築計画に、竜族の参加は必要不可欠だ。龍眼だけでも百人力なのに、それに加えて、人や鬼では不可能な域での魔術を行使できるのだから。


「調子が戻ってきたな、アキ。私は其方の脆さ、弱さ、そして強さを知っている。私だけではない。エリザベス殿も、他の者達もそうだ。だから、もっと周りに助けを求めた方がいい。本人から、助けて欲しいと言われた方が、手を差し伸べやすいものだ。いいね?」


「セイケン、僕はちっちゃな子供じゃないんだけど」


「幼子は助けが欲しければ泣き叫ぶ分だけ、アキより余程分かりやすい。平然としているように見えて、ふとした事で、そうして感情が抑えられなくなるのだ。自分が思っているより、心が安定を欠いていると理解しておきなさい」


体の大きさのせいか、ほんと、幼子扱いされてる感じだ。というか、幼子、か。


「セイケンだって、務めは大切とは思うけど、娘さん、寂しがってるんじゃない?」


「それを言われると痛い。我らの足なら急げば、数日で国元に戻れるが、戻れば、またこちらに来れるとも限らん。だが、家族をこちらに呼び寄せるのも、娘を慣れ親しんだ里から離す事にもなる。それは親の我儘だろう」


外交官としての顔ではなく、家庭を思う一人の若い父親としての顔を敢えて見せてくれた。嬉しい心配りだ。


「悩ましいね」


「大人はそういうものだ。いずれ、心の内を素直に表情に出すことすら出来ぬ様になる。幼き頃は早く大人になりたかったものだが。儘ならぬものだな」


文武両道、体格も良く、顔立ちも格好良くて、若いのにもう所帯を構えて、娘さんもいて、大役を担ってたりして、話だけ聞けば、どれだけリア充なんだよーと思うけど、こうして悩む姿は、彼もまた一人の父親であり、大人としての経験もまだまだこれからという年代ってことがわかる。


隣の芝生は青く見える、とはよく言ったものだね。


ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の報告ありがとうございます。何度も読み返しているんですが、やはりなかなか気付きにくく大変助かってます。

さて、セイケンとの茶飲み話も中編ということで、鬼族の見解とか聞いてみよう、くらいのつもりでしたが、思った以上にセイケン個人の評価がアキにはショックだったようです。まぁ、アキ自身の弱い部分でもあるので、尚更だったようですね。

後編は和平派及び武闘派の見解を聞く予定です。それとアキに対する追加コメントも一言ある感じで。

セイケンも情緒不安定なところがある子供が竜族との交流を一手に担っている、と言う状況はヤバい、と危機感を強めたことでしょう。胃が痛くなりそうですよね。

でも、実はセイケン達からの報告を受けている和平派の方々のほうが、大変なことになってたりします。セイケンはまだ下っ端の若手ホープに過ぎないので、実は気が楽な立場なのです。

次回の投稿は、十月二七日(日)二十一時五分です。

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