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8-5. セイケンとのんびり茶飲話(前編)

前話のあらすじ:雲取様に想いを寄せる雌竜七柱との対話を行った結果、実は雲取様と彼女達は、竜族における影響者集団インフルエンサーであることがわかり、その絶大な影響結果に、人類連合だけでなく鬼族連邦も含めて驚天動地の事態に陥っている……なんて話を聞かされて、アキはうわー面倒臭いと思いました。竜達と話した内容を漏れなく伝えるなんて作業を合計三日間もやらされて、すっかり不満たらたらです。

竜族側の調整が入るまでは暫く間があるので、なかなか時間の取れなかったセイケンとの交流を行うことにした。


というか、連日、雌竜達との心話の内容を話し伝えていて、いい加減疲れて、ストレスも溜まりまくってた。


そこで、休暇という事で何かやりたい事はないか聞かれたので、なら、セイケンとのんびりお話ししたい、とお願いしたんだ。


やっぱり、一連の出来事について、立ち位置の違う人の意見は聞いておきたいからね。


そんな訳で、建設中の鬼族の大使館へとやってきた。同席するのはお爺ちゃんとトラ吉さん、それに護衛の人だけだ。


「セイケン、お久しぶり」


「こうして、のんびり会うのは確かに久しぶりだ。今日はゆるりと過ごすとしよう」


玄関先で出迎えてくれたセイケンはシンプルな服装で、オフな雰囲気だけど、ちょっと気になった。


「その服装、寒くない?」


そう、彼の服装はそろそろ冬も近いというのに、夏でも通じそうな薄着だった。おかげで鍛え上げた人外の肉体美はよく分かるけど、やっぱり見てて少し寒そうに感じた。

僕の身長だと胸の下くらいまでしかないから、どれくらいの重量差があるかわかりにくいけど、マッチョなラグビー選手(ラガーマン)を更にビルドアップしたような筋肉量だから、見てるだけで威圧感が凄い。


「冬でもないのに厚着をするのは病人だけだ。アキはそんなに着てて暑くないのか?」


もう少し体を動かした方がいいぞ、と爽やかに笑ってるけど、完全に思考が体育会系だ。鍛え上げた肉体があるから、熱生産量も多く、冬でもシャツ一枚で平然としてるって奴。


「運動不足気味なのは認めるけど、人族はセイケン達ほど筋肉はないからね。今日の気温なら、こうしてケープを羽織ったりして寒さ対策をするものだよ」


一応、外出という事で、堅苦しくならない程度に、シャンタールさんが全身のコーディネートをしてくれたんだよね。


おかげで、僕は用意してくれた服を着るだけで、街エルフのお嬢さんになって楽なんだけど。


女の子としての服飾に関する感性は育ちそうにない。


まぁ、日本あちらと違い、大量生産、大量消費で、まだ全然着れる服なのに、流行遅れだからと捨ててしまうような文化はこちらにはないからね。


専門家になる訳でもないから、そこはシャンタールさんにお任せしておこう。


「種族の違いという奴だな。今日はその辺りも話すとしよう」


僕は、セイケンに案内されて、客間へと通された。やっぱり何もかも鬼族サイズだから、自分が幼子になったような気がしてくる。


まだまだ建設途中という事で、少し離れたところでは、人族の大工さん達が黙々と仕事をしてるんだけど、屋敷を見て気になった事があった。


「ねぇ、セイケン。僕達、人族向けの設備はしっかり作られている感じだけど、それ以外のところは、仮設って感じだよね。どうして?」


「ここは人類連合において、我らの初めての大使館になる。となれば、やはり、鬼族の手で仕上げるべきだろう、という話になったんだよ」


「となると、鬼族の腕の立つ職人さん達もやってくる感じ?」


「我々の建築資材を抱えて、団体でやってくるそうだ。暫くは賑やかになるだろう」


材料も持ち込んで、職人達が来るなんて、かなり気合い入ってるね。


「それは、是非、作業してる様子を観に来ないとね。作業してる様子を観てもいいか、聞いてみてくれる? 無理に観たいとは言わないから」


「好きにしろ、だが邪魔をするな、そう言われるだろう。妖精は遠慮するよう言われるかもしれない。飛んでいると、気が散るだろうから」


セイケンは楽しそうに笑い、僕をテーブルまで案内してくれた。よじ登るようにして、子供用のような椅子に座れば、これで目線の高さはセイケンと変わりなしだ。


お爺ちゃんはブーだれてるけど、ふわふわ飛んでいたら、気が散ると言われれば、仕方ないと諦める程度の熱意のようだ。

本当に観たいなら、飛ばないから観せてくれ、と食い下がったに違いないからね。





護衛の人形遣いの人もいるけど、離れた位置に一人だけ。後の護衛はジョージさんだけだから、鬼族への警戒もだいぶ薄まってきたと言えそうだ。


勿論、最終防壁たる妖精のお爺ちゃんが同席していたり、足元にトラ吉さんが控えているというのも大きいとは思う。


「今日は、カリッカリに揚げた芋けんぴを持ってきました。沢山ありますので皆さんでお召し上がりください」


「済まんな。色艶といい、持った感触といい、何とも我ら好みだ。味も実にいい。皆に分けるとしよう」


セイケンが一本摘んでパキッと折って食べると満足そうに頷いた。後ろに控えていたレイハさんに合図して、早速、部屋の外にいた鬼族の人に渡していた。


美味しいですよーと話しかけたら、何とも困った顔をされてしまった。一礼してくれたから、喜んでくれているとは思うのだけど。


表情に出ていたのか、セイケンが説明してくれた。


「私もそうだが、こうして旨い手土産を貰うばかりなのが、少し申し訳なくて、な。しかし、菓子作りが得意な者もおらず、アキに酒ともいくまい。それで悩んでいたのだよ」


「気にしなくてもいいんですけどね。鍋料理とか、郷土料理っぽいのとか興味あるんですけど、どうです? それも、毎日食べても飽きないような、家庭料理に近い方がいいですね」


僕の提案に、セイケンは少し驚いた顔をしたけど、少し思案をした後、答えてくれた。


「それなら、こちらに滞在している者でも作れるが、何故、そこに興味を持つのか教えてくれるか?」


「交流の乏しい未知の土地柄、こちらより寒い気候、人より体が大きく、恐らく人よりも寒さに強く、暑さに弱い種族となれば、料理に対するアプローチも変わってきそうでしょう? アイリーンさんも言ってましたからね。鬼族、小鬼族の食文化には興味があると」


「ほう。あれだけの腕を持つのに研究熱心な事だ。それで家庭料理に近い方がいいというのは?」


「毎日食べるとなれば、よく手に入る食材の持ち味を最大限に活かしたシンプルな調理法になるので、その文化の考え方を捉えやすいそうです。御馳走だと、貴重な食材とか、高価な食材で贅を尽くすとか、美味しさとは違う方向にズレがちだから、と」


「成る程、合点がいった。となると、可能なら我らの国では容易に手に入るが、こちらではあまり流通していない食材などあれば、それが望ましいだろう。少し考えてみよう」


「振舞って頂ける時には、アイリーンさんも同席しますね。同じ鍋の料理を皆で食べるって、親睦を深める意味でも良いと思うんです。そう言えば、そんな風習というか、催し物はあったりします? とても大きな鍋で大量に鍋料理を作って、里の皆で食べるみたいな」


「あるぞ。芋煮会と言って、稲刈りを終えた後に収穫を祝い、開けた場所で、皆で鍋料理を食する催しだ。里芋は欠かせない。味付けは地域によって違うから、今頃になると、故郷の芋煮が食いたくなるものだ」


「ほうほう。それは素敵ですね。是非、やりましょう、芋煮会。こちらの庭先なら人数が多少増えても問題ないでしょう?」


パチンと手を打って、さあさあとやる気をアピールしてみた。


「まぁ、それはそうだが」


皆がアキの様に、我らを恐れない訳ではないんだがな、と苦笑されてしまった。でも、今がそうなら、尚更、疎遠になってはいけない。未知は恐れに繋がるのだから。


「それじゃ、職人の皆さんが来た際に歓迎の意味を込めて、開催って事で。詳しい話はケイティさんと詰めてください」


宴会と言う事でお爺ちゃんも嬉しそうだ。


「……ふぅ。わかった。開催する方向で調整しよう。だが、芋煮会では禁句がある。なんだかわかるか?」


セイケンがわざと少し声を抑えて、大切な事を伝えようって感じに話してきた。


「うーん、味付けに地域差があるとなると、どれが好きとか好みの問題でしょうし。えっと、なんですか?」


「芋煮会の代表的な鍋はどれか、だ。肉の種類と味噌、醤油のどちらを味のベースとするのか、その組み合わせだけでも多いが、更に具に何を入れてあるか、などと言ったことでも種類は増える。誰もが自分の故郷の味こそが一般的な味だと考え、場合によっては、他の鍋を邪道だ、それは味噌汁だとか、すまし汁だとか、言いだす始末。そうなると収拾がつかんのだ」


セイケンは阿呆らしいだろ、といった思いを隠そうともせず、理由を教えてくれた。


成る程。


料理の味付けはバリエーションがどんどん増えるから、尚更、決着は着きそうにないね。


思わず、クスッと笑ってしまった。


「子供っぽいと感じたかもしれないが――」


「あ、いえ、そうじゃなくて。何処でも似たような話で揉めるんだな、と思ったら、笑ってしまいました」


日本あちらでも、良くある話なんですよ、と謝ったら、セイケンも気を取り直してくれた。


「どれも美味いでいいと思うんだが」


「ですよね」


この辺りは二人とも拘りがなくて良かった。そう言えば気になったから、聞いてみよう。


「ねぇ、お爺ちゃん。妖精の国でも似た話はあるの?」


「あるとも。苺派と葡萄派の争いが激しくての。女王陛下が日を分けてそれぞれの祭りの日を設けて、一先ず鎮火したが、まだまだ燻っとるよ」


そう言って、戯けたポーズをしたものだから、僕もセイケンも互いを見つめあって、どちらからともなく笑ってしまった。三つの世界のどこでも起きるのだから、問題の根は深いって事だね。正解がない話なんだから、それも当然だと思う。





それから、セイケンのこちらでの暮らしとか、屋敷に入り浸って、武術を学んでいる鬼人形さんの話なんて話を色々と聞くことができた。


元々、長く滞在する予定はなく、後詰めが到着するまでは、自炊して節制しているそうで、ロングヒルで手に入る食材を使って、色々と、エリーの伝手で料理人を紹介して貰い、色々と試しているそうだ。


「エリーは見返りなしに、皆さんの食事くらい出すとか言ったりしたんじゃありません?」


「言われたが、やはりそこまで甘えては心苦しい。それに、人族の食材も我らにはなかなか手に入らぬモノ。どんな物があるのか興味があって、な。さほど手間の掛からぬレシピも教わったお陰で、自炊も楽しんでおるのだ」


男五人、苦労しているのかと思えば、そこは人より長命な鬼族だけあり、鬼族もまた、成人となれば、多くのスキルを習得しているものなんだそうだ。


だから、マトモな厨房があり、無難なレシピを教われば、それなりの出来にはなる、とのことだ。


「兵役で食事担当の人は、退役後にお店を開いたりして、顔馴染みが出入りするお店になるとか?」


「良く知ってるな。腕のいい奴は、兵役中でも有名になる。腕のいい料理人の有難さは誰でも身に染みて理解するからな。だから、退役するとなれば、皆が惜しむし、店を開くとなれば、足繁く通う事にもなる。現役兵士達が通う店なら、利用する一般客も安心だ。お陰で、そういった店は何処でも繁盛してるんだよ」


そう話すセイケンも、脳裏に何処かのお店を明確にイメージしているようだ。


「それは素敵ですね。こちらに滞在する鬼族の方も増えるでしょうから、腕の立つ料理人の方も来ますよね? 日常的に大使館の催し物があるとも思えませんし、手が空くようなら、一般向けの飲食店とか開いて欲しいかな。鬼族連邦の本場の味が楽しめます、とか言えば、きっとお客さんも入りますよ」


「入るだろうか。それに片手間くらいに抑えて行かないと、其方が本業になる様でも困るな」


取らぬ狸の皮算用って内容なだけにセイケンの口調も軽い。


「そこは、例えば、誰かの紹介なしでは利用できない、一見さんお断りとでもすれば、客層も質が良くなるし、味付けも人族向けのアレンジはしませんよ、と初めから言っておけば、ある程度抑えられると思いますよ。あとは大使館の本業もあるでしょうから、予約制にしておけば安心ですね」


「ふむ。試みとしては面白そうだな」


「人族と鬼族は今後、交流を増やしていくことになりますからね。でもいきなり庶民同士でどうぞといっても、敷居が高いでしょうから、初めは知る人ぞ知る名店みたいに、絞る形にして、話を広げていく感じにするのがいいでしょう。その時はセイケン、僕達も招待してくださいね?」


「勿論だとも。先ずは計画関係者を一通り呼んで、食べて貰い、感触を確かめるとするさ。料理の味は変えずとも、量や出すペース、酒の好みといったところは、掴んでおきたいからな」


「うん、うん。セイケンもちょっとやる気出てきた?」


「まぁ、どうせやるなら、上手く行かせたいさ」


彼の頭の中では色々と計算も働いているようで、鬼族の隠れ料亭計画は実現しそうだ。料理人と対面する形式か、料理を座敷に運ぶ形か、そもそも料理は御馳走から、居酒屋メニュー、軽食のどの辺りを狙うか等々、取りうる方法は幅広い。その辺りは試行錯誤が必要だろうけど楽しみだね。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

ストレスの溜まったアキに、休暇ということで好きなことを聞かれたアキは、セイケンとのんびり話をしたい、と言い出して茶飲み話に訪れた回の前編でした。

護衛として来ている人形遣いとジョージからすれば、鬼族を相手にのんびり話がしたい、と言い出すアキの行動は、勘弁して欲しいところでしょうね。それでもプロ意識でちゃんと護衛をするあたり偉いものです。

前編は本当にストレス解消ってことで、世間話をしたり興味のある話を聞いたりとしてましたが、後編は当初の目的でもある、鬼族から見た一連の出来事への見解、それを聞く話になります。

次回の投稿は、十月二三日(金)二十一時五分です。

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