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8-4.後始末

前話のあらすじ:七柱の雌竜全てと心話を行い、その全てを疲労で仮眠させる事に成功しました。

翌朝、目が醒めると、僕を覗き込んでいるお爺ちゃんと目が合った。


「おはよう、お爺ちゃん」


「うむ、おはよう、アキ。昨日はあれから色々あったぞ。あの場にアキがいなくて幸いじゃった」


「にゃー」


そうだぜって感じに鳴いたトラ吉さんにも挨拶をして、起きると、服を用意したケイティさんが迎えてくれた。


「おはようございます、アキ様。今日はリア様も含めて皆様、出払っているため、あれから何があったか、私からお話しします。ですが、まずは朝食としましょう。昨日は何も食べず、すぐ寝てしまったと聞いています。お腹が空いているのではありませんか?」


言われてみれば、なんか、いつにも増してお腹ぺこぺこだ。


「お腹ぺこぺこです。今朝のメニューは何ですか?」


「アイリーン特製の野菜たっぷり、カボチャとジャガイモのミルクスープです」


「身体がポカポカしそうですね。では、まず食事にしましょう」


今日は少し肌寒い感じな事もあり、厚手のワンピを用意してくれたので、早速それに着替えて、身嗜みを整えた。もう季節も秋本番って感じだね。





大きな器にゴロゴロと大きな野菜が入っているミルクスープは、身体の芯から温めてくれて、とっても優しい味付けだ。人参の赤が映えるし、どの野菜も適度な歯応えがあって食べ甲斐がある。それにカボチャの甘味もまた良し。焼きたてのパンと一緒に食べると、朝から幸せな気分になれるね。


「アイリーンさん、ご馳走様でした。とても美味しかったです」


「歯応えに工夫をしてみまシタ。お口に合い良かったデス」


アイリーンさんが淹れてくれた緑茶を飲んで口の中もさっぱり。やっぱり料理って人を幸せにする力があるよねー、などと考えていたら、ケイティさんがいくつかのフリップを持って戻ってきた。


「それではアキ様、あの後、何があったのかお話しします」


「ケイティさん、そんなものを用意するくらい、色々あったんですか?」


寝ていた雌竜達と雲取様が合流して帰っただけだと思ったんだけど、どうもそれだけではないっぽい。


「色々あったんです。本当に色々と」


なんか、ケイティさんが遠い眼差しをしているので、触れないでおこう。経験上、だいたい地雷が埋まっているから。





「まず、昨日ですが、最後の白竜との心話を終えてから二時間ほど経過し、夕日が沈む間際に、雲取様がいつもの周回コースで飛来し、仮眠していた雌竜達を起こさぬように気遣い、そっと降り立ちました」


「流石、雲取様」


「そして、最後の白竜が目覚めるまで静かに待つと、起きた雌竜達になぜ、七頭も人の国に来ているのかと、静かに聞き、何も起きず良かったと告げました」


「ふむふむ」


「そして、何があったか、リア様に問い掛けて、一通りの説明を聞くと、来訪時の気遣いが足りなかった点を詫び、大勢で一度に訪れるような事を避けるよう、竜族の側で調整する旨を告げられました」


「雌竜達の反応は?」


「雲取様が静かに対応された事、頭ごなしに否定されることもなかったため、大人しく聞いていました。それに、段取りよく話を進めていく雲取様の様子を見て、雲取様への好感も深まったようでした」


まぁ、そんな風にスマートに対応してくれたら、恋心が更に燃え上がりそうだよね。というか、僕がいなくて良かったというのはそれか。僕がいたら邪推するかもしれないからね。火種はないのが一番だ。


「あと、予定を調整してロングヒルに竜が来る時は単独となるように、前もって半年程度のスケジュールを提示するとの事でした」


「毎日? というか半年!?」


「週一回は休みの日とするよう配慮するそうですよ」


「それは良かった。あれ? でも、雲取様と雌竜の七柱がローテーションで来るだけなら、そこまで調整しなくても良さそうですけど」


「アキ様、竜族は長命なのです」


「ですよね。何千年も生きてるって聞いてます」


「そして、生半可な事では死ぬ事もありません。それが何を意味するかお分かりでしょうか?」


「えっと……親類が多いとか?」


「その通りです。雲取様と雌竜で合計八頭。父母と、父方の祖父母、母方の祖父母も含めると、それだけで、親類は四十八頭になり、仲の良い知人、友人も含めると百は下回らないだろうとの事です」


「結構な数ですね」


「なお、その数は口を挟んでくるだろう個体に限定した話で、この話題に興味を示す者はこの五倍、十倍は固いと」


「えー?」


「竜族は、これまでの八柱が皆、そうだったように、刺激に飢えていて暇なのだそうです。その中で、他の竜の三倍も飛ぶ雲取様は勿論、彼に想いを寄せる七頭の雌竜達の恋騒ぎは話題にならない訳がなく、若い世代の話題としては、二位以下を大きく引き離す注目度との事です」


「竜族の影響者集団(インフルエンサー)だったんですねぇ」


「そのため、先程のスケジュールですが、半分以上は所縁(ゆかり)の品を使った遠距離心話となるだろうとの事でした」


「成竜でも大きいのに老竜となれば、一度に一頭ずつは厳守して欲しいとこですけど、先の予定がある程度、見えてきたのは嬉しいですね。それだけの数に話が伝われば、僕が探している個体に辿り着く可能性も高くなるだろうから」


「それですが、今回の不手際に対して、竜族として謝罪の意味を込めて、個体捜索の話はねじ込んでおくと雲取様が話されました」


そう話すケイティさんの表情は複雑だ。僕なら喜色満面となるとこなんだけど。


「僕からすれば大歓迎ですけど、何か問題でも?」


「バランスの問題じゃよ、アキ」


お爺ちゃんが助け舟を出してくれた。


バランスか。


「竜達の来訪も実害はなかったのだし、無難な落としどころじゃない? 竜族は道具を作らないから、詫びの品って訳にもいかないでしょう?」


僕の返事に、ケイティさんもお爺ちゃんも苦笑した。想定していた返事だったようだ。


「アキ様ならそう言われると思っていました。アキ様と竜族の間であれば、それで十分でしょう。しかし、襲来されたロングヒルからすればどうでしょうか? それに、不干渉条約が揺らぎかねない事態に直面した人類連合の国々からすれば、面白くない事でしょう」


ケイティさんがフリップを使い、わざわざデフォルメされた絵で説明してくれた。


街を滅ぼせるだけの戦力が襲来して、単なる顔見せだった、悪気はないよ、で済ませられたら、ロングヒルや人類連合は納得できず、不満が溜まる、と。


そして、竜族が対価として支払う情報は、街エルフの得にしかならない、街エルフはもっと利益を分かち合うべきだ、なんて論調も出かねないというものだ。


「相手が街エルフだからって、そこまで要求してくるものでしょうか?」


「外交交渉の場ではもっと穏便な言い回しになる事でしょう。ただ、要求される事は間違いありません。人々が味わった恐怖と釣り合うだけの何かを、街エルフは示すべきだと」


「次元門構築の話は、街エルフだけで済む小さな話じゃないし、その恩恵は参加した全ての種族が平等に得られる、って説明しても……納得してくれないんでしょうね」


ケイティさんの表情をみてトーンダウンした僕の言葉に、ケイティさんは静かに頷いた。


「客観的に見て、それが真実であったとしても、現時点で、竜族との深い交流は、アキ様が独占しており、アキ様の胸先三寸で、どうとでも転ぶ。彼らはそう考えて、危機感を強めるでしょう。アキ様と竜族の交流が深まるほど、疑念もまた深まるのです。実はもっと美味い話があるのではないか、と」


あー、なんて面倒臭い話なのかな。しかも、無実を証明するのは当面は不可能だ。リア姉なら、同じくらい心話はできるだろうけど、得意じゃないと言ってたし、そもそも、二人とも街エルフだ。独占してるという見方を変える事は出来ないだろう。


あー、もぅ。


そんな瑣末な事で足を引っ張るのは止めて欲しい。こっちは、ミア姉さえ救出できれば、後は千年くらい表舞台から退いたって問題ないのに。


「アキ様。今話している政治力学的な話は、我々が受け持ちますので、あまり気にされる事はありません。というか、気にされてもいいですが、動く前に必ず、エリザベス様達と相談してください。竜族と話をしている時に思いついたとしても、そのまま、竜族と相談するのも無しです。宜しいですね?」


ケイティさんの目が、今何か変な事考えてましたね、と断定するようなモノに変わっている。しかも、釘を刺されまくりだ。


そこまで信用がないのかって話じゃなく、心話のやり取りは外部から分からないから、何かあっても止めようと割り込む事もできないから、それを危惧しての事だね。


「心話を複数人で同時にできれば良いんですけどね。あ、政治的な話はお任せするので、別に変な事は考えたりはしません。そこは安心してください。というか、竜族の魔力が強過ぎて、仲良くなろうにも、普通の人だと近寄ることすら困難じゃ、手の打ちようもないですよ」


僕の弁明を聞くと、お爺ちゃんも、流石のアキも名案は思いつかんか、などと言ってるけど、ホッとしてるのが丸分かりだ。


ケイティさんもお爺ちゃんと同様、新たな策が出てくるだろうと身構えていたようで、やはり、表情が少し穏やかになった気がする。


「皆がいないのは、対策会議とかやってる為?」


「全権大使のジョウ様を交えて、大使館領の中庭に関係者を集めて、大論争中です。森エルフ、ドワーフだけでなく、鬼族の駐在組も参加してると伺ってます」


「セイケン達も呼ばれるなんて、仲良くなってきたんですね」


僕の感想は、余程、能天気に聞こえたのか、ケイティさんは目元を抑えて、深呼吸までする程だった。


「……アキ様。それだけ重大という事なのです! 竜族の支配領域はこの弧状列島全域に及びます。人族だの、鬼族だのと、そんな話は、竜族の動向に比べれば些細な事です」


戦争していた人類連合と鬼族連邦が、怒り心頭の竜族を前にしては、手を取り合って、話し合いの死地に臨んだというけど、同じことか。


まぁ、やっぱり弧状列島を纏めるなら竜族の協力は欠かせないね。


「なら、僕がやるべきは、次の会談の備えて、体調を整えるとかでしょうか?」


「それもありますが、アキ様が最優先で行うべきはそれではありません」


はて? そんな急ぎの話、何かあったっけ?


「何かありました?」


「今回、七柱の雌竜と交わした心話の内容を、推測も含めて、全て話してください。ベリルが対応します」


ケイティさんが話を振るのを待っていたのか、ベリルさんが沢山のノートを抱えてやってきた。


「アキ様、口述筆記はお任せくだサイ」


ベリルさんはそう言って、ノートを扇状に広げてみせた。表紙に紅竜というように、一冊ずつ誰との心話なのか区別できる気の配りようだ。


「これ、全部ですか?」


「些細な事と思っても漏れなくお話しください。順番が多少前後しても構いません。漏れがない事が重要です。分析はこちらで行います。アキ様が行うのは、話した内容を伝えるまでですから、負担は最小限になると思います」


ケイティさんが爽やかな笑顔で、確約してくれたけど、終わるまで逃がしません、という覚悟がヒシヒシと伝わってきた。


つまり、それだけ、皆が話した内容を欲しているという事だね。それと関係者が多くなり過ぎて、雲取様だけを考えていた時とは、状況が違い過ぎるってとこだろう。少しでも多く情報を集めて、竜族についてできる限りの手を打っておきたい、そういうことだ。


交わした内容を話すだけ、というけど、量が半端ないだけに、面倒だけど仕方ない。


でも、これで優先すべき研究案件を一つ追加する事は確定だ。


「わかりました。できるだけ思い出して話しますけど、心話の内容を保存できる魔道具の開発もなるべく急いでください。毎回、そんな事をしてたら、僕の起きてる時間がそれだけで埋まっちゃいますから」


「最優先事項とする事をお約束します。では、ベリル、後は任せます」


「ハイ。では、アキ様、先ずは紅竜様からお願いしマス」


ベリルさんがペンを構えたのを見て、覚悟を決めた。別に抗うつもりはなかったけど、気分が後ろ向きなのは確か。でも、アイリーンさんがお茶も用意してくれたし、気持ちを切り替えよう。


僕は、紅竜さんとの話を思い出して、少しずつ話し始めた。


……結局、七柱分、全てを話し終えるのに三日もかかってしまった。絵で見れば一発な事も言葉にするとやたらと手間がかかるから仕方ない。


もう二度とやりたくない、と不貞腐れた言葉を吐いたのも仕方ないと思う。


でも、誰も、そうですね、と同意してはくれなかった。

結果として、雲取様と七柱の雌竜は注目された若者達という事もあり、その関係者も含めて、話が大きくなりました。アキは嬉しい結果だけど、周囲の面々からすれば、変化が激し過ぎて勘弁して欲しいところでしょう。

次回の投稿は、十月二十日(日)二十一時五分です。

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