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8-2.紅竜との対話(後編)

前話のあらすじ:雲取様に心を寄せる七柱の雌竜のうち、リーダー格の紅竜と心話をそました。先ずは互いの立ち位置と問題点を明らかにしましたが、既に紅竜は心労が溜まっているようです。

さて。堅苦しいお話はお終い。


紅竜さんもちゃんと報告する気はあるようだし、これ以上、押したら逆効果だ。それに後、六柱もいるのだから、誰かサボればその分、悪目立ちするし、そう言う意味でも、反省し、報告して貰い、ロングヒルに来る際には、雲取様のように配慮すると好印象だ、と言うのも伝わるだろう。


<さて。では、堅苦しい話はここまでとして、これからは、仲良くなる為の雑談といきましょう>


<……続きは明日でも良くないか?>


ふむ。受け答えのペースを敢えて早めにしたけど、ちゃんと疲れているようで何よりだ。

雲取様と同じで、別にそんなに急がなくてもいいじゃないかって感じだね。


でも、それじゃ、人族相手だとのんびり過ぎる。


<まぁまぁ、そう言わないでください。今、終えたら、僕との会話は、堅苦しいお小言だけって印象になっちゃうじゃないですか。それよりは、次に来たいな、って思える何かは掴んで欲しいところですよね>


<私は其方を嫌ってはおらぬぞ?>


でも、好ましい、ではないし、苦手意識も生じてるし、何より、ロングヒルに来たら、老竜達に叱られた、という流れが良くない。次に来る時に、そのあたりの記憶が足を重くしそうだ。


<予め言っておくと、別に雲取様のようにスマートに、魔力を抑えられるようになるまで、来ちゃダメとは言ってないですからね? 来るたびに少しでも上手くなっていれば、僕たちのために努力してくれているんだ、と好感を持てますから>


<……アキ。雲取様からは、心を読める訳ではないとは聞いているが、実は読めるのではないか?>


なんか少し引き気味だ。はいはい、僕は怖くないですよ。


<今のは、これまでの紅竜さんの反応からみて、そうかなーと予想して、探りを入れてみただけです。ほら、母竜と話をしていて、内心を見透かされるような事あるでしょう?>


<……ま、まぁな>


というか、竜族の場合、思念波で意思疎通しているから、そもそも内心を隠すって発想自体が生じにくい気もする。


<それと、今回は時間がないので、触れて見えちゃった記憶とかも遠慮なく活用しちゃってますけど、雲取様の場合と同様に、時間があれば、無遠慮に覗き込むような真似はしないので、そこは安心してください>


<それは幸いだ>


あからさまな安堵が伝わってきた。


<思った事が伝わるのは便利でも、何でも筒抜けなのは、ストレスになりますよね、やっぱり>


<……うむ>


それでも、心話をもうやめたい、と逃げ出さないんだから、偉いものだ。竜としての矜持と、あと、やっぱり好奇心からか。いいね。


<では、これから、僕が様々な内容について、言語化しないで、どんどん記憶を渡すので、紅竜さんは興味を持てた分野だけ教えてください。興味が薄いところは、次に行くようイメージしてください>


<……其方はそれ程多くの知を持つというのか? こうして心を触れあわせてみても、若い娘と思ったが>


<人は知識を書物という形で纏めて、次の世代に渡して、更に書き足したり、間違いを直したりと繰り返してきました。だから、僕は書物で学んだ知識だけど、何百世代にも渡って、百億の民が蓄積してきた叡智の結晶を知っているんです。おぼろげな記憶も多いけど、そこは僕の姉がしっかりマコト文書という書籍にして残してくれているので、後から確認して補足もできます>


<……なん……だと!?>


ふむふむ、そもそも口伝で継承する竜族からしたら、しかも長命で世代交代頻度の低い彼らからしたら、それ程の世代を超えて知識が蓄えられていく、その膨大な知は想像を遥かに超えていたようだ。いいね。


<では行きますね。先ずは料理から行ってみましょうか。竜族も小さい頃は果物とかも食べているから、そうしたもので作った料理は味わえると思うんですよね>


雲取様に用意したケーキを、彼が美味しそうに食べている様とか、アイリーンさんが料理をしている様子、それに原材料の麦を加工して粉末にして焼き上げる一連の流れなどを、紅竜さんの反応を見ながら次々に渡してみた。


<随分手間を掛けるものだ。この話は興味があるぞ>


今ではもう食べない小さなものも、人の手にかかれば、集めて加工して、美味しくいただける。その優れた点を認めてくれたのは嬉しいね。


<じゃ、続きをどんどん行きますよ>


<来い!>


なんか、かなり投げやりな感じだけど、自らを叱咤激励する姿勢は良し。


というわけで、それから、紅竜さんがギブアップするまで、記憶を投げて、反応を見る作業を延々と繰り返した。


毛色の違うものを出して飽きないように配慮した事もあって、かなり粘ってくれたけど、雲取様の半分にも届かず、根を上げた。


<アキ、そこまで、そこまでだ。続きはまた今度としよう。……ところであと、どれくらいあるんだ?>


<お疲れ様でした。全員が終わるまで時間もあるので、横になって休まれるといいですよ。えっと、残りですか? あと、八割くらいでしょうか>


<……もう、私が興味を向けた分野も結構あっただろう。これ以上、広く確認するより、暫くは今回確認した分野の話でよかろう>


<それもそうですね。僕からも、天空竜の皆さんの知識は是非、知りたいので、今後は互いに情報を出し合い、話をしていきましょう>


<わかった、わかった。其方の知識欲はまるで底無しじゃ。では、心話を終えるぞ>


<はい>


さて。目を開けてみると、なんとも疲労困憊な紅竜さんと目が合った。手を振ってみたけど、表情だけで、なんでこいつ、こんなに元気なんだ?って顔をしてるのがわかった。


<私とアキの心話はここまでじゃ。其方達も、アキと話していくのがよいだろう。それと私は皆が終わるまでは寝るから、それまでは起こすでないぞ>


なんとも気怠げな様子の思念波を送ると、魔法陣から出ようとして、ちょっと考え込むと、そっと飛び上がり、演習場の隅にまで行くと、丸まって寝てしまった。


他の六柱の雌竜達も、彼女のそんな態度に驚いていた。


「では、皆さん。僕は一人なので、ちょっとだけ休憩を挟ませてください。そうしたら、次の方とお話ししましょう」


僕の言葉に、残りの雌竜達は困惑し、そして次に誰がやるかで、目線で押し付け合ったりしてる。


「相談したい事もあるでしょうから、皆さんの周りを風の障壁で覆ったりしてみてください。そのままだと、全部聞こえてしまって、内緒話になりませんから」


<……そうしよう。しかし、アキよ。彼女は何故あれほど疲れていたのだ?>


「心話に慣れてないからじゃないでしょうか。普通にお話ししていただけなんですけどね。では、こちらも終わったら合図を送りますので、休憩タイムとしましょう」


<わかった>


竜達を風の障壁が覆い、中のやり取りが聞こえてこなくなった。さて、これであちらは良し。


「さて、アキよ。休みながらでよい。何があったか、話すのじゃ」


フワリと飛んできたシャーリスさんが、僕をテーブル席に歩かせながら、そんなことを言ってきた。見れば、テーブル席には皆が既にスタンバイして、話を聞かせろとプレッシャーをかけてきていた。


「まぁ、お話ししてただけなんですけどね。あ、ケイティさん、紅茶ありがとうございます。では、初めにーー」


ケイティさんが用意してくれた程よい温かさの紅茶と、茶菓子を食べながら、僕は紅竜さんとのやり取りを皆に報告していった。


結構手間がかかるから、残りの六柱は差分報告にしよう、と思いながら。


そんな訳で、僕の心話での会合の一柱目は何とか無事に終わった。

ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。

誤字・脱字の指摘ありがとうございました。やはり自分ではなかなか気付かないので助かります。

今回はキリがいいので、すこし短いですがここまでです。

アキは、予定通り、紅竜を疲労困憊状態まで追い込んで、雲取様と同じように仮眠を取らせました。これは心話をしている間、暇している竜達が元気に情報交換したりするとインパクトが薄れるので、心話をした竜から漏れる情報を最小限に抑えようという考えからです。ですが、その結果が周囲からどう捉えられる事になるのか、気にしてませんでした。気にする余裕もありませんでしたけどね。

その辺りの話もいずれ語られる事になるでしょう。

次回の投稿は、十月十三日(日)十七時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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