表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/769

2-7.新生活二日目①

操作を間違えて早い時間に投稿しちゃいました。

 今朝もまず血圧を測定した。値は問題なかったんだけど、ふと疑問が浮かんだ。


「ケイティさん、この血圧測定とか、検査キットでの確認とかはどれくらい続けるんでしょうか?」


 街エルフはどうも安全策を選択する傾向があるみたいだから、一カ月くらいは覚悟しないと駄目かな、と思ったんだけど。


「とりあえず、二十年間は継続すると伺っています。季節の違いや、経過年数による変動も考慮すると、統計的に処理できるようある程度の年数は続けざるを得ないとのことでした」


「二十年!? いくらなんでも長過ぎませんか?」


「そうですよね。私も十年間続ければ十分だと思ったんですが、今回は前例も少ない話なので安全を考慮して倍の期間、観察するそうです」


 あぁ、ケイティさんもそちら側か。街エルフではないという話だけど、感性は間違いなく街エルフ寄りです、ケイティさん。

 そして、着替えの入った籠を置かれたので中身を確認してみる。


「今度はセーラー襟のワンピース……」


 紺色の長袖ワンピースに、白のセーラー襟と袖、そして胸元とウエストの裏にリボンの飾り。当然のように、スカートの裾から靴元までを幾重にも飾る白いレースのペチコートスカート。それに足首まで覆う茶色い紐靴。


 ケイティさんの選択は今日も容赦なかった。





 今朝は、焼き立てパン、各種ジャム、それと夏野菜がたっぷり入った食べるスープ。スープの大きなソーセージが皮はパリッ、中はジューシーでスープに絡めても美味しい。パンは結構噛み応えはあるけど、スープに浸さないと食べられないというほどではなし。そのままでも良し、イチゴジャムをつけても良し。パンの香ばしさとパリッとした感じは焼き立てだからこそ。食べているとそれだけで幸せな気分になれる。


「ケイティさん、僕の今後の学習について、カリキュラムはもう決まったのでしょうか?」


 普通に考えると、こちらの一般的な初等学校の生徒と比較して足りないところを学習、それを中等学校、高等学校と繰り返していく感じなのかな、と思うんだけど、どうだろう?


「初日のヒアリング結果を踏まえて、現在、成人までの総合学習カリキュラムを検討中です」


 うわー、なんだかとっても本格的な雰囲気がしてきた。


「初等教育で学んでおくべき基本的な項目だけでも何年かはかかりますので、それらの学習時の分野別の興味の度合いや、理解度合を考慮して、学習方針を調整していくことになります。アキ様、こちらの子供が成長しながら学んでいくことを少ない時間で要領良く学んでいこう、というのですから、やはりある程度の時間は必要なんですよ」


「こう、学習結果を一気に詰め込むような魔術とかないんですか?」


 よくある魔術で、スキルを習得みたいな便利なものがあるなら、少しでも端折りたい。


「魔導人形だって、自分で学びます。自分の根幹となる知性があり、そこに新たな経験を積み重ねていくからこそ、血肉となるのです。いきなり、接ぎ木をするような真似をしても、碌なことにはなりません」


 でも、接ぎ木で果樹を育てるのは普通にやってることだし、話ぶりからするとそういう魔術がない訳ではなさそう。


「アキ、何をそんなに焦っているんだ? 勉強が嫌いなのか?」


「え、だって、ミア姉を助けるためにもできるだけ早く魔術を習得したいし、ただでさえ起きていられる時間も短いのに――」


「勉強自体が嫌いな訳ではないと理解してもいいかい?」


 リア姉が落ち着かせるように、ゆっくりと話してくれたことで、早く、早くと焦っていた気持ちを自覚できた。

 ちょっと深呼吸して、心を落ち着かせる。さぁ、リア姉の疑問に答えないと。


「――やらされる勉強は好きではないですけど、そうでなければ何か知ること、理解することは好きです」


「そうか。たまに文字を見るだけで嫌だ、なんて言うのもいるから、そっちでないならいいんだ。ケイティの講義はどうだ?」


「わかりやすいし、単に知識を伝えるだけじゃなくて、疑問にもちゃんと答えてくれるし、とってもいいです」


「そう言っていただけて幸いです」


「で、アキの疑問にも答えておこうか。魔術、それはとても便利で簡単に結果を得られる、そんな気がしてくる技術だ。実際、我々も含めて、多くの国では、兵士をより短期間に一人前に育て上げられるように、魔術を使った。これも歴史として学んでおくべき話だろう」


 やっぱり、まずは戦争用、というか自衛用というか、とにかく戦い向けなのか。


「もしかして、また街エルフが何かしたんですか?」


「それは誤解です、アキ様。確かに大概のことは『それは街エルフの陰謀だった』とか言っても外れてなかったりしますが、この件では小鬼族が群を抜いて積極的に着手していたんです」


「奴らは人族に比べてさえ異様に早く、僅か十年で成人に達する。だが、それだけに習得に長い年月を必要とする技能も知識も学ぶのには時間が足りない。だから、その不足を魔術で補おう、とでも考えたんだろう」


「既に習得している者から、魔術で知識を移植するといった感じで、言語、学問、武術、魔術とありとあらゆる分野を試したようです。なにせ、成人の儀で数減らしを意図的にしているくらいですから、被験者には事欠きません」


 なんともごり押しな開発の流れで酷い。


「なぜ、そこまでの無茶を? 彼らとてそれが困難なこととわかりそうですけど」


「数が大きく減ったからじゃなかったか?」


「そうですね。彼らが魔術による能力移植に手を染めたのは、『銃弾の雨』で減った頃になります」


 やっぱり、街エルフが絡んでた。僕がちょっとジト目で二人を見たら、ちょっと苦笑してた。


「物事の原因というのは因果が複雑に絡み合っていて、一つに特定することは難しいものだ。それで、小鬼族の魔術による経験の移植だったが、これは一定の成果を収めた」


「何も知らない民間人が、武器の振り方を覚えた兵士見習いになった程度ですが。そして、多くの弊害があることが判明したのです」


「弊害?」


 情報を頭に強引に入れるのだから、何か副作用はありそうだけど、なんだろう?


「考えてみれば簡単なことで、例えば武器を振るにしても、各人の身体つきは違うわけで、本来は自分に合わせて調整しなくては無理がでてきます」


「それは、大男の剣の達人から、剣術を身体の小さな人に移植したら、大きな時に可能だったように剣を振り回して、体を痛めてしまう、といった感じでしょうか」


「その通り。武器の重さ、長さは体つきによって何が最適かは変わってくる。長さが違えば間合いも変わるし、背が違えば、頭への振り下ろしが、胸部への斬り込みに変わってしまう。つまり、下手な癖がついた分、酷い状態になったんだ」


「なんだか普通に教えたほうがまともに育ちそうですね」


「はい。それでも、経験を他人に移植して誰でもすぐに達人になる、というコンセプト自体は魅力的だったため、手を変え、品を変え、未だに完全には廃れていない話ではあります」


 なんとも酷い犠牲者の山を築いただけだったっぽい。


「僕が魔術で簡単にスキル修得、みたいな話は無理というのはわかりました。それでこれは知的好奇心からの質問なんですけど、同じ規格、同じ性能の魔導人形であるなら、経験の共有化は効果的だと思うんですがどうでしょうか?」


 それこそ、誰か一体が学習したら、それを共有することで一気に熟練集団に化けそうな気がする。


「それは理論的には可能、という奴だよ」


「現実的ではないのです、アキ様」


 う、二人して駄目出ししてきた。なんで駄目なんだろう?


「アキ様、大量の情報という繊細なものをコピーして配布する、というのは無理なのです。同一規格であっても個体差はあり、個体差がなくとも、活動を開始してから得た情報、経験は差異があるのです」


「差異を考慮して、必要な知識、経験だけをこう、抽出する形で――言ってて無茶な気がしてきました」


 考えてみれば、テストの前日に慌てて丸暗記したような内容は、数日もすればすぐ忘れてしまっていた。歴史上の人物を覚えるにしても、ただ名前と行ったことだけ読むより、顔写真を見て、その人が置かれていた当時の状況を知り、性格や、特徴的なエピソードなんかも交えたりしたほうが、覚える情報量は増えても、しっかり記憶に残るのだから。

 他の知識と複雑に相互連結しているモノの一部だけ切り出して放り込んでも、記憶の繋がりがないから、思い出すのに苦労するかもしれない。そして、既存の記憶との繋がりも補うように、などと言ってたら確かに複雑極まりないことになりそうだ。


「理解してくれたようで良かった。研究を続けている者もいるが、まだまだ『理論上可能』の域をでない話さ」


「そして、アキ様。誰かの真似をするというのであれば、教師役を用意して、魔導人形自身に学習させればよいのです。自分で学習する分、応用も効くので、よほど役に立ちます」


 残念、地球でなら便利な方法も、こちらでは机上の空論でした。


「さて、話が長くなったが、午後のお茶の時間に、私達の父母が来るからそのつもりでいてくれ」


「ハヤトさんと、アヤさんでしたね。わかりました」


 こちらで、僕の両親となる人か。どんな人なんだろう? いずれにせよ会うのだから、会えること自体はいいんだけど、僕はある意味、ミア姉さんを乗っ取ったようなものだからなぁ……

次話の投稿は五月三日(木)になります。GW最終日までは毎日投稿します。


「他の人にも紹介したい」という読者の投票がラインキングに反映されるという便利な仕組み「小説家になろう 勝手にランキング」があることを知り、さっそく導入してみました。


既存のランキングとか新着とかって、あっという間に流れ去るし、何万人と読んでるようなPickupで出てくるような作品ばかりが上位を占めてしまい、なかなか「熱心な読者がいてこれから伸びる作品」を探すのに不便と思っていたので、いいシステムですよね。ブックマークと違ってユーザー登録も不要なのも利点だと思います。


目に映らなければ読者の人も増えませんし……。悩ましいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
評価・ブックマーク・レビュー・感想・いいねなどいただけたら、執筆意欲Upにもなり幸いです。

他の人も読んで欲しいと思えたらクリック投票(MAX 1日1回)お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ