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7-18.小鬼人形達を通して見た小鬼帝国

前話のあらすじ:調整組の面々から、アキらしさを語られました。アキにとっては、どの種族に対しても(街エルフも含めて)、思い入れがないので、当たり前の反応ですが、まぁ、普通なら、自分の種族も含めて全てをフラットに見る視点を持った子供、というのはそうそう生まれることはないでしょう。全てに絶望して、全てに価値を見出さない、なんて逆向きのフラットさなら、まぁあるかもしれませんけど。

総武演で傷付いていた小鬼人形達だったけど、取り敢えず、僕と話をしてもいいという小鬼人形達について、交換パーツを使った修理が終わったそうだ。


まだ、修理待ちの小鬼人形はまだ多いそうで、これほど時間がかかるのは意外だった。


因みに僕と話をしてもいいと言ってくれた小鬼人形達の中に、街エルフの館で訓練に付き合ってくれたメンバーは半分まで減っていたけど、それはあまり参加メンバーが増えると、話の纏まりがなくなるだろうと考えて、僕が聞きたい内容に詳しいメンバーを厳選してくれたからだそうだ。何せ、館にいた時は近接戦闘に習熟している事を条件にメンバーが選定されていたけど、僕が聞きたいのは、小鬼達の文化、歴史、政治、人生観といった視点だから、確かに求める物が違う。


だいぶ、気を遣って貰って、とても有り難い。この機会は最大限、活かすようにしないとね。





話す場所はやはり、大使館領の庭先となった。これは小鬼達の体格だと、人族ベースの家屋は作りが大きく使いにくいこと、そして何より、彼らの体格に合わせると、子供向けの椅子を用意することになり、彼らの矜持が許すモノではない、との事。


確かに、鬼族の屋敷に行くと、自分が小さな子供になったみたいで、少し不思議な感覚を持ったけど、そこで、まぁ、僕は子供だからいいか、とか考えちゃうあたり、大人のプライドみたいなのは、理解できてないって事だと思う。


そんな訳で、いつもの魔導具で風と陽光を調整して貰って、会場をセッティングして貰った。


ケイティさん、ベリルさんは同席するけど、あくまでも聞き役に徹するとのこと。お爺ちゃんも子守妖精として横で控えているけど、やはり意見は控えるとの事。


小鬼人形さん達は合計十人。なかなかの大所帯だね。僕が到着すると、皆は既にアイリーンさんの出した茶菓子やワインを飲んで、楽しそうな雰囲気だ。服装も訓練や演習の時と違い、草色のシンプルなシャツとズボンだったりして、オフ感が出てていいね。


「皆さん、お待たせしました。今日は宜しくお願いします」


僕が挨拶すると、小鬼人形さん達はなんともやりにくそうな表情を浮かべて、タローさんに、なんとか話せよ、と無言の圧力を加えた。タローさんも、俺かよ、って感じで、なんとも困り顔だ。


「アキ様、えー、そういう畏まった挨拶は堅苦しいんで、できるだけ砕けた言い方でお願いしやす。それと、これはちょっとした興味からですが、俺達、敵部隊役(アグレッサー)の事をどう考えているか、教えていただけやすか?」


ふむ。確かに、どう見ている相手か、正直に申告し合ったほうが話は早そうだね。


「街エルフの魔導人形としての能力を備えつつ、小鬼として振る舞うための特殊な訓練を積んだ魔導人形界における精鋭、全員が教導隊として、教える立場を忘れず、訓練相手を導ける、そんな方々かな、と。志願制で過酷な訓練を乗り越えた皆さんは、敵部隊役(アグレッサー)としての結束も強くて、きっと、退役後も、互いの繋がりを大切にしたり――」


僕が、皆さん凄いんだよね、という気持ちを前面に打ち出して、熱意が伝わるように話していたら、タローさんが慌てて話を止めた。


「アキ様、そこまでで。そこまでで一旦止めましょう。俺達のようなちっこい魔導人形達を随分、高く評価してる、というか話がヤケに具体的ですが、何か元となる話とか、組織とかあるんですかい?」


「うん。地球あちらの世界の話なんだけどね、敵部隊役(アグレッサー)はまず、手強い敵でないと訓練相手にならないから、選抜された腕利きが選ばれるんだよね。しかも嫌われ役な訳だから、志願制にしないと長続きしない。あとね――」


僕は地球あちらにおける敵戦闘部隊(アグレッサー)や、海兵隊の選抜方法や組織の在り方、組織の一員としての認識を徹底して叩き込む事とかも含めて、説明した。


僕の話を聞くうちに、皆の表情が合点がいったという顔に変わった。やっぱり粗野な態度は半分くらいは演技か。皆さん、いい目をしている。


「なるほど。わかりやした。アキ様が正しく俺らを理解していることも、その理由もよくわかりやした。そもそも敵部隊(アグレッサー)なんて組織は街エルフしか運用していない。そりゃそうだ、参考元の話は、ミア様が書き伝えたマコト文書、そこに記された、あちらの世界の事なんですからね」


タローさんの言う通り、小鬼の敵部隊役(アグレッサー)なんてのは、そもそも体格差があり過ぎて、人も、鬼も、ドワーフも、森エルフも運用しようが無い。魔導人形作りに長けた街エルフだからこそ、運用できるモノだ。


そして、マコト文書の話があれば、というか、マコト文書で、敵部隊役(アグレッサー)の持つ意味、価値を理解したからこそ、参考にして導入した、そう言う事だ。


人同士で訓練していきなり実戦で、生まれながらの暗殺者たる小鬼達と戦うのと、小鬼人形達の敵部隊役(アグレッサー)相手に訓練してから実戦を経験するのでは、生き残れる確率は比較にならないほど、差が出た筈だ。


だからこそ、高い費用が掛かろうとも、彼らの組織を運用し続けているんだろう。


「その感じだと、僕の想像とそうズレてなさそうだね。取り敢えず、話を聞くにあたって、大まかな方向性を決めておきたいんだけど、いいかな? 小鬼について知りたい、だといくら時間があっても足りないと思うんだよね」


「そうしやしょう」


「僕の目的は、小鬼達の中で、飛び抜けて優秀な理論魔法学の研究者がいれば、その方を引っ張ってきて、僕達の仲間として次元門構築計画に参加して貰うこと。あ、勿論、自主的ってのは、穏便な方法である事が前提で。なので、聞きたいのは、皆さんの詳しい分野と、疎い分野がどこか、例えば、市民から皇帝までのどの辺りまで生き方、考え方なんかを理解しているか教えて欲しい」


一般国民から国の頂点まで。上までわかるならそれに越したことはない。


「俺らはあくまでも敵侵攻部隊の役割を再現する事を求められてきやした。小鬼として普通に生まれて育ち、成人の儀を生き残って、軍人として生きていく小鬼、そんな奴等の事なら知ってても、それ以降、専門職に就いて、後方で仕事をしてる奴等の事となると、そう詳しくはありやせん」


そうなると、せいぜい下級貴族くらいまで、かな? あー、でも確か子供は集団で育てるとか言ってたね。


「それでは、まず、子供達が生まれてから、成人の儀に挑むまでの流れを教えて貰えますか? 確か、子供を集団で育てるんでしたよね」


「全ての子供は、同じ頃に生まれた子供を集めて育てる事になりやす。母親達が同じ大きな館に住み、赤子を全員の子として、分担しながら交代で育てやす。子育ての経験豊富な女達が補助要員として入るので、母子共に生き残る確率が上がりやす。育ちの悪過ぎる子は天に返されやす」


たくさん産んで、たくさん育てる、だから動物と同じで、自力で生きていく強さのない個体は、親も育てない。自分達が育てられる範囲で育てる。過酷だけど、仕方ない現実だね。


「成人の儀を迎えるまでは幼名で呼ばれ、正式な共同体の一員扱いはされやせん。体が小さい分、体力に余裕がなく、人族よりも成人前に亡くなる人数は多く、彼らはそんな幼子の事を天に帰った、と言い、また生まれてくる事を祈り、死を迎える者も再会を誓いやす」


「……だいぶ、死が身近なんだね」


「そこが人族との違いでしょう。彼らは成人の儀で、生きていくための力を、運を試されやす。どれだけ優れた者でも、体格の小さな小鬼は、怪我を負えば人よりも死にやすい。だから、神の判断として、成人の儀があり、生き残る力のある者が、共同体の一員として迎えられ、成人の証として名が与えられやす」


体格的には小学生くらいだから、いくら鍛えていても、やはり病気や怪我には弱い。だからこそ、人知を超えた運命を試したくなるんだろう。


「貴重な情報をありがとう。子供達は纏めて育てるって話だけど、村なら一纏め、町とか大きくなれば、貴族だけ集めるとか、ある程度、階層に配慮する感じ?」


「その通りで、貴族階級は体格が大きく、魔力も多い傾向があり、分けるのが理に適っていやす。小鬼族は見ただけで、どちらの階層に所属しているか理解しやす」


地球あちらのイギリスみたいなものだね。話す言語も、少し違いがあったりする?」


「やはり、市民階級の方が崩れた言葉を話す傾向がありやす。因みにその、イギリスについて、少し話していただけやすか?」


「うん。上流、中流、下流とあって、文化も住む場所も教育も違いがあって、話し言葉も違いがあって――」


僕はざっとイギリスの階級社会と、分かれた役割の意味とか、効率性、公平性について説明した。皆、熱心に話を聞き、時折、質問を挟みながら、一通り説明を終えた。


「そのイギリスとの違いと言えば、良くも悪くも実力主義で、小鬼の社会は階層間の移動がありやす。上の階層であれば、しっかりとした教育や医療を受けられやすが、能力がなければ、下に落とされやす。落とすというより、相応しい階層に移動するという認識で、合わない階層に居続けることは、周りにも本人にも不幸を招く、という風潮です」


「成る程。成人まで十年しかないとなると、生存競争は激しそうだね。それで、専門化はいつ頃から行うのかな? 得手、不得手もあるだろうし、共同活動が合わない子もいると思うんだけど」


「六歳の時に、見極めが行われやす。成人の儀は軍人として戦闘に参加することが求められやすが、敵地への浸透、近接戦闘を誰もが求められる訳ではありやせん。場合によっては後方で補給路の維持に努めたり、医療班に配属されて傷付いた仲間に治療をする者もいやす」


「成る程。それは合理的だね。なら、手先の器用な職人向きな人が、前線で死んでいくような事は少なそうで、魔術の才があれば、最前線送りも避けられそうと」


「そうなりやす。ただ、そう言った者ほど、本拠地から出てこないんで、どうしても情報は限られたモノになりやす」


国の基幹を担う人材は、情報が少なく、人族や鬼族との接点もない、か。成る程、それは厄介だ。僕が接触したい相手ほど遠いんだもんね。





「話を聞いた限りだと、成人の儀は彼らの社会に必要不可欠で、たくさん産んで、たくさん育てて、大勢死んでも、生き残れる個体を選別して残そう、って感じだね。その部分は、程度の差はあるとしても、人族や鬼族、それに竜族とも相容れない感じだろうね」


「生き延びた、運命に選ばれたという、経験が社会の根幹を為している以上、難しいでしょう」


「そこだけど、成人の儀を海外への渡航で代用する事は出来そうかな? 今は渡航も命懸けだから、運命に選ばれるという点はクリアしてると思うんだけど」


「……難しいでしょう。絶対的に運べる人数が足りやせん。毎年、何十万と海外に送れる時代は当分先じゃないかと」


「成る程。大型船で一隻に三百人乗れても三十万人なら、千隻の外洋船が必要だもんね。ただ、それは延べ隻数だから。例えば、一番近い大陸までの間なら十日間もあれば往復できるから、一隻に三百人乗るなら、ざっくり年間一万人は運べちゃう。十隻あれば十万人だね。そう遠くない未来に手が届くと思うんだ。そこを踏まえて、皆さんで考えてみて欲しい。どうかな? 戦争で無理やり減らすのをやめて、海外に打って出る。僕はアリだと思うんだけど。今の小鬼皇帝さんの考え方なんかも考慮して、小鬼の専門家として、皆さんの見解を示してください」


僕は少し離れて、十五分くらい相談してね、とお願いしてみた。


初めはポツポツと意見が出ていたけど、すぐに激しい意見の応酬が始まった。熱気が伝わってきて、凄い。


やっぱり専門家はこうじゃなくちゃ。横目でお爺ちゃんを見ると、やっぱり満足そうだ。





時間を結構、オーバーする激論だったけど、何とか見解が纏まったみたい。


さーて、どんなかな?


「アキ様、小鬼族も泳げなくはありやせんが、やはり海は人よりも苦手で、その海を越えて、見知らぬ地へ行くというのは、運命に選ばれる行いと感じやした。それに人族や鬼族との戦いで住処を追われ、過酷な地に移り住み、命を繋いできた祖先への尊敬の念は強い。未来の子供達の為、礎となって欲しいと言われれば、奮い立つ者も多いと思いやす」


いいね。きっと本当の小鬼達もそう考えるだろう、そう思える説得力が感じられた。うん、うん。こういう生きた情報が欲しかったんだよね。


「そういう背景もあるなら、戦闘マニアばかりとは思えないし、皇帝の旗振り如何ではそっちもあり得る、と」


となると、その辺りも踏まえて話を検討しておかないと。


「アキ様、俺ら、疑問に思ったんで、教えて欲しいんですが、今の話と、小鬼族の人探しはどう関係するのか、さっぱり思いつきやせんでした。良ければ教えてくれやせんか?」


「んっとね、理論魔法学の専門家を貸して、という申し出は、小鬼帝国からすれば、簡単には飲めない話だと思う。例えば、研究に二十年付き合うとしたら、それは生涯を捧げる研究になる。簡単に小鬼帝国に帰られても困るし、そうなると、二度と故郷に戻らない覚悟で、という意味合いになるよね?」


小鬼族の寿命は人族の半分、長命でも四十あたりという話だからね。一生ものの話だ。


「……確かに専門家として頭角を現した者となれば少なくとも二十歳前後。となればそこから二十年の意味はかなり重いでしょう」


「となれば、それ程の覚悟を国民に求める以上、相手からそれに見合うリターンがなければ、皇帝陛下もおいそれと合意できないと思うんだ。なら、何を求めるか。貿易量の拡大とか、魔導具とか、そういう即物的な話ならまだ与し易いんだけど、今の皇帝陛下って、かなりの遣り手なんでしょう?」


「皇帝直属の常備軍を作ったり、外洋船の建造をしていると聞きやす。しかもまだ確か二十代前半だった筈です。今の小鬼帝国でも英雄視されてやす」


「……成る程。やっぱり不味そうだね。若いってことは、先代皇帝もまだ在命? それと、現皇帝との関係はどんな感じかな?」


「皇帝と担当を分担して、主に内政面を支えていると聞いてやす。それと、先代の皇后もまた、かなりの遣り手で、今の小鬼帝国は、英雄級の現皇帝と、賢帝とも称された先代皇帝、皇后で互いに補完し合う体制を組んでおりやす。歴代の皇帝の中でも、皇族の権力は突出しているのは間違いありやせん」


「なんで、そんな逸材だらけなのかな。困るね」


そこで、ケイティさんが割り込んできた。


「愚かな王、欲深い王、野心溢れる王、そんな輩よりは、研究者派遣を引き出す部分だけなら良い交渉相手と思いますが、以前話されていた、本気で和平を考える皇帝かもしれないとお考えですか?」


「現皇帝だけなら、野心家の可能性もあると思ったけど、まだ現役もできそうな先代が認める器となると、最悪を考えた方がいいと思う。というか、貴族達に対して皇族が隔絶した力を集めているだけでも、かなり手強いだろうね。僕が、小鬼達と仲良くするのは厳しいと考えてることもバレてるかもしれないし、そうなるとかなりやり辛そうだね」


「アキ様、平和を求める皇帝は最悪なんですかい?」


タローさんは意外そうな顔をした。いや、僕は戦争好きじゃないからね?


「人類連合、鬼族連邦、そのどちらにとっても、最悪と思うよ。誰だって戦争で殺し殺される日々より、のんびり日向ぼっこでもしながら、猫を愛でたりしてたいからね」


「それじゃ、駄目なんで?」


誰もが望む平和な時代、でもそれは最悪。説明を受けないと意味わかんないよね。


「人の倍のペースで数を増やす小鬼族と、頭数を増やす競争をしたら、あっという間に世界は小鬼だらけになっちゃう。そうなれば他の種族はジリ貧だから。……やっぱり竜族は何とか活用したいね。彼らがいる限り、小鬼族も倍々ゲームで増えるような真似はそうそうできないから」


戦争で数が減らないなら、小鬼達の一世代、二十年毎に倍々と増えて、百年後には人口は三十二倍だから、と説明したら、小鬼の増え方がヤバいことをわかってくれた。まぁ、本当はそんな風に増えることはないんだけど、概念の方向性は合ってるから、細かくは説明しない。


「ところで、アキ様、素朴な疑問なんですが、小鬼帝国との話し合いについて、アキ様が何か判断を下す話があるんですかい?」


ただの子供が、冷戦時代のアメリカが率いる自由主義陣営と、ソビエトが率いる社会主義陣営の行く末について考えていても、それに意味を見出す人は殆ど居ないと思う。


「ないよ。ただ、事は街エルフだけの話でもなく、勿論、人類連合だけの話でもなく、鬼族連邦の話でもなく、天空竜の預かる話でもないからね。人類連合と鬼族連邦が手を組み、天空竜にすら声を掛けて、小鬼帝国と対峙しようとしている。少なくともそう取れる状況に対して、言い出しっぺの僕としては、何か意見の一つも出しておくべきかなって。それだけの話だよ。だいたい、実務レベルでどうするか決めて動くのは、それぞれの勢力の支配層だし。でも、まぁ、叩き台すらない状況よりは、一つでも案があった方が議論もしやすいでしょ」


色々あって、僕自身が次元門構築計画を立ち上げて、街エルフ、人族だけでなく、妖精族、鬼族、ドワーフ族、森エルフ族まで計画に引き入れて、この後、竜族も巻き込もうとしているからね。提案する権利と義務があると思う。


そんな話をしたら、小鬼人形の皆さんは、何とも理解し難い事を聞いたといった顔をして、ケイティさんに説明を求めた。


「アキ様はこのように一見普通の街エルフの子供ですが、今話した事を僅か三ヶ月で成し遂げてます。普通、というカテゴリーからは一番遠い子でしょう」


ケイティさんがそう締めくくると、小鬼人形達から、重苦しい溜息が溢れた。


「それで、アキ様はご自分の案が通ると思われているのですね?」


ケイティさんが確信を持って、それでも僕の口から言わせたくて確認してきた。


「そうですね。天空竜は不可侵、天災として意識の外に置いてきたみたいですし、今のままなら、鬼族連邦と話を合わせるどころか、人類連合、鬼族連邦、それぞれが中で意見を纏めるだけでも紛糾するとは思ってます。こういう時、民主主義は動きが遅くてイマイチですよね。それに対して、小鬼帝国の側は皇帝が方針を決めるだけだから、このまま行けば、小鬼帝国側が常に話をリードする流れになって、無難な落としどころでお茶を濁す感じに、押し切られちゃう気がします」


「……アキ様が方針案を提示したなら、どうなりますか?」


「街エルフがどれだけ動くかに寄りますけど、あちらの言い値で合意するよりはマシになるかな、と。ただ、覚悟は必要ですけどね」


「……覚悟、ですか」


ケイティさんの表情が曇った。ケイティさんはマコト文書も抜粋版とはいえ全部読んでいるし、僕の言う事も予想がつくからだろうね。


「小鬼帝国をも取り込んで、天空竜も含めて、弧状列島に住む者全てが合意する形での統一国家樹立に向けて、社会の在り方を根底から作り直す覚悟、そして、その過程で多くの争いが生まれる事への覚悟です」


僕の言葉に、ケイティさんは勿論、小鬼人形さん達も、嫌な事を聞いた、といった感じに顔を顰めた。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

小鬼人形達との話し合いもとても得るモノがあって、アキはニコニコですが、アキがさらりと言った未来図に、ケイティや小鬼達は胃が痛くなる思いでしょう。アキからすれば思い入れがない分、未来はこうなるよね、こうしたほうが良さげだよね、などとシミュレートした結果を口にした程度の気軽さですけど、リアルを生きてる人達からすれば、将来も怖いけど、自分も含めて(と普通は思う)、淡々と語るアキの態度もまた、恐ろしく思えたに違いありません。

次回の投稿は、九月十一日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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