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7-16.調整組の巻き返し(前編)

前話のあらすじ:正座させられた上で、支援メンバー全員からのお小言をじっくり貰って、警戒されるヤバい立場になってしまったことを痛感したアキでした。

イズレンディアさん経由で、雲取様に問い合わせた結果、雲取様は快諾し、心話に必要な所縁(ゆかり)の品として、大きな鱗を提供してくれた。扱いはイズレンディアさんにお任せし、使う時だけ、魔法陣にセットして貰う段取りとなった。


対竜用の心話補助魔法陣は、既にある召喚用魔法陣から、不要な機能を削るだけだったので、敷設もすぐに完了した。仕事が早いね。


製造したヨーゲルさんや賢者さんの話だと、所縁(ゆかり)の品を経由する事で、魔力属性が無色透明な僕を認識できるよう補助してくれるそうだけど、機能はそれだけに限定されており、魔力量の差を補正する仕組みは何もないから、一般の方々の使用は厳禁との事。膨大な魔力がないと魔法陣が起動できないように、敢えて起動し辛く術式を組むという念の入れようだ。一般人が心を触れると、出力差から、心が壊れたり、真っさらになる恐れがあると聞いて、青くなった。


ミア姉はよくもまぁ、そんな恐ろしい事に挑戦したものだ。


ちなみにケイティさんのような一流の魔導師も、竜の魔力量との比較で言えば一般枠扱いなんだそうだ。竜族との心の触れ合いはまだ暫くは先の話っぽい。


師匠が使う予定の対竜用の緩和障壁は、交流を妨げず、しかし竜からの圧力は軽減するという都合のいい話を実現する必要があり、賢者さんの腕を持ってしても苦戦していた。それでも父さんや母さんが対峙した際や障壁に比べれば格段に性能は向上しているらしい。後は実際に使うところを観察して、改良していくそうだ。


何にせよ、当初予定していた準備は何とか間に合った。上手くいかなくても、前回同様、声を送って貰えばいいから気は楽だ。


だけど、気楽なのはどうも僕だけだったみたいだ。





美少女の目が笑ってない笑顔というのは、なんとも居心地が悪くなるもので。


僕とお爺ちゃんは、計画参加予定の調整役の面々、エリー、セイケン、イズレンディアさん、それと研究役と一時的な兼任という事で、ヨーゲルさんに呼ばれていた。


書記役としてベリルさんが、ケイティさんは、僕のサポートメンバー代表と、街エルフの視点から話をする要員として同席している。


場所は以前と同じ、鬼族の逗留用に急造した屋敷だ。作りが全て鬼族サイズなので、自分が小さな子供になったように感じられて不思議な感じがする。


念の為、部屋の壁際にはロングヒルの護衛や、街エルフの人形遣い、それと僕の護衛ということでジョージさんも控えているけど、流石に当初の頃よりは人数も減らしてきている。互いの信頼関係がそれだけ進んだものと思えば嬉しい変化だ。


「皆さんお揃いで。それで、どんな用向きですか?」


心なしか皆さん、少しお疲れのご様子だ。寝不足なんだろうか。そろそろ冬支度が必要な季節だから、注意して欲しい。


「アキが来てから二ヶ月が過ぎたのよね」


エリーがそんな事を言い出した。勿論、何かお祝いしようとかそんな雰囲気は微塵もない。


「そうだね。ロングヒルに初めて来た時は、まだ夏の暑さが残っていたのに、今では紅葉が綺麗な秋だから。こんなに大勢の人達と縁が増えて嬉しいよ」


これは本心。二ヶ月で、予定していた種族のうち、小鬼族以外は計画に引き込めたのだから、大成功だろう。


「こうして、本人と会っていても、アキが為した事の数々は、後世の歴史家たちを悩ませる事は間違いないだろう。我々も鬼族連邦への報告書作りに忙殺される日々だ」


セイケンは、軽く総武演に参加して人族の様子見と繋ぎを取る程度のつもりだったそうで、苦笑したくなる気持ちもよく分かる。


「……世界の見え方が違ってしまった今では、どうして、これまでの世界がそのまま続くと、疑問を持たずに過ごせていたのか分からない」


イズレンディアさんが、疲れの滲む声で、そう、心情を吐露した。


「儂らは妖精族の技に衝撃を受けて、国を挙げて複合工業施設を建設しとる。……だが、アキ。お主の開けた扉は、そこから垣間見えたモノは、手に負えん。今なら、ケイティ殿達が言っていたこともよくわかる。妖精の国に比べて、マコト文書が語るあちらの世界は、歴史はあまりに広過ぎる、と」


ヨーゲルさんが、儂の手には大き過ぎる話じゃ、と笑った。


うーん、何がいいたいんだろ? 横目で見たけど、お爺ちゃんもわからない、とジェスチャーで返してくれた。


「えっと、皆さん、なんだかお疲れっぽいですね」


「心配してくれるのは嬉しいけど、自分が元凶だと自覚してくれたら、なお素敵ね」


エリーがビシッと僕を指差した。


思わず、お爺ちゃんの方を見たけど、はて?とお爺ちゃんも首をかしげるばかりだ。


「アキ様。ここにいる皆さんは、薬も過ぎれば毒となる、そう言いたいのです」


ケイティさんがフォローしてくれた。うーん、薬?


「ケイティが言ってるのは、マコト文書の知、それにアキ、貴女の語る言葉のことよ。アキが私たちに語る時、理解しやすいように、想像できるように、私達の状況に合わせて話をしてくれているわよね?」


「うん。飛躍した話を聞いても意味不明だろうし、ケイティさん達とも相談して、説明するように注意してるよ」


僕の言葉に、ケイティさんも頷いてくれた。結構、手間を掛けてるからね。


「その配慮はとても嬉しいわ。ただ、私達もキツイけど、私達の先、それぞれの所属する国の人々が、次々と起こる出来事について行けず、混乱しているの。生き方の尺度が違うのよ、えーと、ケイティ、なんだったかしら」


「人の七倍早く老いる犬の生き方(ドッグイヤー)、人の二十倍早く老いる鼠の生き方(ラットイヤー)、ですね」


「そう、それ。今起きてる出来事の起こる間隔は、まさに鼠の生き方(ラットイヤー)ね。あまりにも忙しなくて、起きた出来事の内容を理解して、どうすべきか考えている間に次が起こる。それも無視できない激震級の話が次々と!」


「まだ触りの部分で、実際の変化はまだ起きてないと思うけど?」


「はぁ? こうして鬼族のセイケン殿は来てるし、天空竜の雲取様も来ているのに、それが触り? 冗談でしょ!?」


エリーがなんか一杯一杯といった危うい表情で、伺ってきた。


「えっと」


「アキ様、その先はまた別の機会にしましょう。エリザベス様、あまり先を見ては足元が覚束無くなります。まずは手前の一歩から。それでよいですね?」


ケイティさんが、僕の言葉を遮って、強引に場を纏めた。


皆さん、勘弁してくれって感じの表情をしているから、確かに控えた方が良さそうだ。


「そう、そうね。アキに聞くと、平易な言葉でとんでもない話が飛び出すから、無闇に聞くのは危険なのを忘れていたわ。――話を戻すわね」


エリーはそこで一旦話を切って、水を飲むと話を話し出した。


「結論から言うと、これ以上、何か起きても混乱を招くだけだから、暫くは行動を控えて欲しいの」


「控える? 例えば勉強会みたいなもの?」


「そう。アキが言い出した話じゃなかったけど、マコト文書の啓蒙活動は、暫くはケイティ達に任せなさい」


「うん、それは全然問題ないよ。僕は初めはそのつもりだったし」


「……ならいいわ。それと、次元門構築計画の正式開始を前倒しする事になったわ。というか、ジョウ大使は天空竜と鬼族のメンバーが決まってからと考えてたようだけど、私達はそれでは遅過ぎると掛け合ったのよ」


「前向きなのはとっても嬉しいけど、なんかやる気に満ち溢れて、頑張ろーって感じじゃないね」


「そうよ。申し訳ないけど、前倒しにした理由はかなり後ろ向き。アキが来て二ヶ月でこれだけの出来事が起きたわ。たった二ヶ月で! それなのに、研究者達を誓約術式で縛るのが計画開始時点、これから四ヶ月後!? 幾ら何でも危機感無さ過ぎよ!」


「えっと、皆さん、同じ認識ですか?」


僕の問いに、皆が静かに頷いた。ケイティさんとベリルさんの方を見たら二人も頷いてる。


「研究者という事は、アキだけではないのじゃな?」


お爺ちゃんは理解はしているけど、ハッキリと口にするよう問い掛けた。


「そう。今までの出来事を見れば、アキ自身とは関係ないところで動いた件も多いわ。でも! 今いるメンバーだけを見ても、制限なしに動かれたら影響力がある者が多過ぎるのよ。一人で動くだけでも影響が大きいのに、二人、三人と増えると何が起こるか見当もつかないわ」


「そのための逸材だからね」


「それでも! 考えるのはいい。でも行動に移す前に第三者視点の確認は絶対必要だわ。影響が小さな実験室の中だけで留まるならまだしも、そうでない事の方が多かったんだから」


「それで、誓約で縛るメンバーは誰を考えているの?」


「まず、マコト文書専門家にして竜神の巫女のアキ」


「えっと、その呼称は何? 竜族どころか雲取様からだって、そんな風に認められたりしてないよ?」


「巫女とは神と人々を繋ぐ者。選ばれ方は様々だけど、神が意思を伝える相手と認めれば、それは巫女よ。その点、アキは間違いなく、雲取様に意思を伝える相手として認められている。神の意思を伝えられない者が、いくら人々から認められていても、その者に巫女としての価値はないわ。だから、アキは竜神の巫女なのよ。それも雲取様限定じゃなく、どの竜族に対しても意味のある極めて特別な立場よ」


「せいぜい、竜族の茶飲友達くらいの扱いだと思うけどなぁ」


「言っとくけど、それ、巫女より立場が上だからね。役職的な意味じゃなく、重要性という意味で」


「そうなの?」


「巫女は謂わば、神と人を結ぶ伝令に過ぎないわ。神の声を聞きやすい、というのは、その神と経路(パス)を確立しやすいことを意味するから、気が合う、という要素もあるけれど、基本的には代わりのいる役職よ。それに比べて、友達というのは、代わりにどうぞ、とはいかないわ。神にとってどちらが大切かはわかるでしょう?」


「単に個人的にお話する相手だから、重みの方向性が違う気もするけど」


「アキは、伝令と聞いて、私のような王族とかをイメージして、その者からの伝令と、茶飲み友達を考えたようだけど、そもそも前提が違うの。神の茶飲み友達としてのんびり長時間、話ができる時点で、巫女としての能力もあるのよ。つまり、アキの言う茶飲み友達は、巫女であり、尚且つ、神と世間話ができる程親しい間柄という事なのよ」


「――なるほど」


確かにそう考えれば上位互換か。


「竜神の巫女でも、竜神の茶飲み友達でもいいけど、とにかくアキは、誓約で縛る最優先人物よ」


「うーん、どうして? 僕は魔術も疎いし、戦う術もないし、半日しか起きてられないし、大使館領から基本、外出もしないし、立入禁止区域も多いし、魔導具も使えないよ?」


「まぁ、そうね。でもアキの要注意なポイントはそんなところじゃないわ。先に挙げた欠点があるからといって、注意対象から外すなんて事にはならないのよ。だいたい、自分で言いながら、それで動きにくいとか、やり辛いとか微塵も考えてないでしょ」


「ケイティさん達に助けて貰っているからね」


「まぁ、そこは枝葉末節だから今は触れないわ。それで、アキを筆頭に挙げた理由だけど、それはアキが誰とでも組む事ができる鬼札(ジョーカー)だからよ。誰と組んでもアキの持つマコト文書という知の価値は色褪せる事がない。実際のところ、心話はアキ単独の技能ではないから、理由としては二の次ね」


「今のままでも、リア姉と妖精さん達はできるだろうからね」


「そう。……できちゃうのよね。アキが心話補助魔法陣を言い出したから、ついアキに注目しちゃったけど、アキと一緒に交流の場にいた妖精達や、アキと同じ魔力属性と魔力量を持つというリア様もできる。そういう意味では心話ができる者は要注意、それも間違いないわ」


「汎用性の高さ、というか、マコト文書の事を評価してくれたのは嬉しいけど、理由はそれだけ? マコト文書をよく知ってて、天空竜と対峙しても平気で、心話もできて、というだけなら、リア姉も同じだよ?」


「言われてみればそうね。どうしてかしら? 私達は、ケイティも含めて五人全員が、まずはアキと思ったのよ」


列挙してみれば、スキル的にはリア姉は僕の上位互換だと思う。成人してるリア姉は街エルフらしく、あらゆるスキルを全て少なくとも人並みにこなせる。人生経験も僕よりずっと豊富だ。


顔を見合わせていた面々だったけど、ヨーゲルさんが、ふと呟いた。


「――街エルフらしくない、からかもしれんな」


その言葉に、成る程と皆が頷いた。ケイティさんが僅かに警戒する視線を送ってきた。

確かに。ちょい返答は注意しないとマズい話題だ。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

調整組もエリーが率先して動くことで、少しずつですが活動が形になってきました。鬼族のセイケンはやはり立場的にも、体格や魔力でも威圧を与えてしまうため動きにくく、ヨーゲルもドワーフの代表といったことまではできても、複数の種族からなる組織同士の調整などというものについては門外漢なので無理、イズレンディアもまた、森エルフの中では外交的というだけなので、年齢は上でも力不足なんですよね。という訳で、今後も調整組はエリーが牽引していくことになるでしょう。

次回の投稿は、九月四日(水)二十一時五分です。

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