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7-14.静かに広がって行く変化の大波(前編)

前話のあらすじ:師匠(ソフィア)は天空竜、妖精族の伝手が手に入り、あれこれとやりたい事へ突っ走りました。

今後、やる事も決まり、こちら側で対竜用の心話補助魔法陣を作るのにも必要だろうからと、ドワーフのヨーゲルさんを呼んだり、そうしたら、呼んでない森エルフのイズレンディアさんまで慌てて来たりして、師匠の家を出るのが結構遅くなった。


それは仕方ない事だったけど。


別邸に帰って、新たな試みについて報告した僕とリア姉は、座った目をしたケイティさんと、通信回線で接続した本土側にいる家令のマサトさん、秘書人形のロゼッタさん、そして、急遽呼ばれた全権大使のジョウさんの前で、何故か正座させられていた。


お爺ちゃんは浮かないで座っているようにと言われて、なんとも居心地が悪そうだ。妖精にとって動き回れないのは、正座と同じくらい辛い事っぽい。


女中三姉妹が誰もいないのは珍しいね。


「アキ様、翁、それとリア様。なぜ、このような場を設ける事にしたか、お分かりでしょうか?」


ケイティさんは普段なら絶対にやらない腕組みをして見せて、私怒ってるんです、とアピールしてる。美人さんの冷たい視線は迫力があって逃げたい気持ちになってくる。


「お話を聞くのは分かりますけど、正座させられる理由かわからないです」


「寝る時以外に地に足を付けろとは酷い扱いじゃ。どうしてこのような扱いを受けねばならんのか、わからんのぉ」


僕とお爺ちゃんは、取り敢えず、なんか怒ってるっぽいケイティさんを刺激しないように、下手に出てるけど、こんな扱いは初めてだから、ちょっと困惑してる。


「あー、ケイティ? 多少の配慮は必要だったとは思うけど、必要な作業なら、遅かれ早かれやるのだから、情状酌量の余地はあると思うんだ」


なんか、リア姉は思い当たる事があるっぽい。それなら僕らはとばっちりかと言えば、そうではないっぽい。


「リア様、わかってて止めようともしないのでは意味がありません。リア様は止めるべき立場です。一緒になって変化を加速してどうするのですか!?」


「でもさ、鉄は熱いうちに打てとも――」


「物事には限度という物があるんです!」


手を大きく振って、リア姉の声は途中で断ち切られた。


「あ、あの、ケイティさん。割り込んで済みませんが、僕達にもわかるように状況を教えて貰えませんか?」


「うむ。どうも、我らの行いについて、何か改めよ、と言いたいのだろう事は分かるが」


「それについては、私からお話ししましょう。簡潔に言うと、激し過ぎる変化に、街エルフ側の体制が限界に達しました」


魔導具が作り出した幻影のマサトさんが、ズバッと言い切った。


え?


「マサトさん、限界に達しそうという話ですか?」


「いえ、アキ様。現時点で体制が限界に達してしまいました。人材の手配が行き詰まり、処理すべき案件は山積みで、手に負えないペースで今も増加中です」


都市間を結ぶ輸送人達の全国網も、手紙の流通量が激増して配達遅延も発生している程だ、と補足してくれた。


「……そんなに忙しくなる様な話がありましたっけ?」


「あまりにも変化が短期間に起こり過ぎました。総武演への鬼族参加とそれに続くロングヒル常駐と大使館の設置への流れだけでも、騒ぎとなるのに十分な出来事でした」


「少し前まで戦争をしていた間柄でしたからね。インパクトのある出来事なのは分かります」


「我々の中では一ヶ月以上の時間差がありましたが、同時期に伝承の中、御伽噺の世界の住人だった妖精族が、六人もこの地に降り立ちました。これも騒ぎを巻き起こす出来事でした」


「まぁ、驚く人もいるでしょうね」


「そして、天空竜、雲取様の来訪とそれに続く前代未聞の長時間の交流、更に今後も交流が続くという事実は、人々を慌てさせるのに十分な出来事でした」


「良い展開になりましたよね」


「ハイ。想定される結果を大きく超える結果となりまシタ」


うん、ロゼッタさんも想定の方向性からズレている訳ではない事を暗に認めてくれた感じだね。


「えっと、その三点なら、雲取様の件は予定を上回る成果でしたけど、後は想定していた範囲だったのでは?」


「それに、先日行った勉強会、その際に配った世界儀が、混乱に拍車をかけました。一目瞭然、誰にでも分かりやすく、そして、事態を容易に理解でき過ぎてしまったのです。アキ様の説明が分かりやすく誤解の余地がなく、そして、聞く側もそれが何を意味するのか理解し、想像を広げることができたのが問題でした」


「えっと、でもそれはある程度想定してた事でしたよね? 少し効き過ぎたにしても」


「起きた事がどれも、これも想定を大幅に上回る結果となれば、対応に忙殺されるのも当然でしょう。そして、先程の心話の魔法陣です。アレがダメ押しの一撃になりました」


マサトさんが分かりやすく、手を広げて、お手上げの事態になった事を教えてくれた。


なんで?


「雲取様と今後のお話をスムーズに行おうというだけなのに?」


「……アキ様。雲取様の来訪も、元々は、光の花を描いた者のことを知りたい、話がしたい、簡単に言えばそれだけでした。ですが、結果は弧状列島全体が蜂の巣を突いたような騒ぎになりました」


「えっと……はい」


「では、何が起きたのかは、私から説明しよう」


ジョウさんが、マーカーを片手に、ホワイトボードの前に立った。





「本日、ソフィア殿から話が飛んだ対竜用心話魔法陣だが、実際に魔法陣を短期間に作る必要があることから、妖精族の賢者、ドワーフ族のヨーゲル殿に声を掛けた。ここまではいいかな?」


「はい。何故かその後、声を掛けてなかったイズレンディアさんも慌てて来られたんですよね」


「そこだ。ここ、ロングヒルに居を構えている異種族、我々、街エルフは勿論、複合工業施設を建設中のドワーフ族、雲取様の護衛に伴いやってきていた森エルフ族、それに大使館を建設中の鬼族、そのいずれもロングヒルの関係者が張り付いており、その動向は逐次、ロングヒルの支配層に連絡が届く」


ここはロングヒルなのだから、それは当然と思う。


「それと、エリザベス様の手下の者たちの連絡網は緻密で、我々、特にアキちゃんに関わる事はすぐに伝わるんだ」


「えっと、何でですか? エリーが僕を心配してくれている……とかじゃないですよね?」


「アキちゃんがここに来てから起きた一連の出来事は、殆どアキちゃんが事の発端だったからだよ。初めはそれほどでもなかったが、事が二度、三度と起きた事で、今では最優先事項扱いされるようになったが、それも当然だろう」


「うわー」


「そこで、ヨーゲル殿に、アキちゃんと雲取様が心話を行う魔法陣制作の話が転がり込んだ。どうなったと思う?」


「高位存在との心話はリスクがあるから危ないかも、と考えたとか」


「大外れ。良いかい? アキちゃんは、あのミア様の妹だ。姉ができてた事なら、妹ができてもおかしくない、そう考える事もできる。そして、ミア様はマコト文書の執筆者であり、その情報を独占していた方でもある」


「はぁ」


「心話は親しい間柄でしか行われず、そして、当事者以外には何をしているのか全く分からない。雲取様の庇護下にあるドワーフ族、森エルフ族はここで危機意識、もっと露骨に言えば嫉妬したんだ」


「え? は、はい? 嫉妬?」


なんか、全然予想外の言葉を聞いた気がする。


というか、嫉妬!?


「彼らにとって雲取様は畏怖すべき存在にして、崇める対象、実在する絶対的な力、つまり神なんだよ。それが、ポッと出の街エルフの子供が雲取様の寵愛を掻っ攫うとなれば、嫉妬の炎が燃え上がりそうなものだろう?」


自分達が頑張っても数分、一言、二言交わすのがせいぜいだったのに、僕は何時間もお話ししていた訳で、まぁ、確かに親しい関係には見えたかもしれない。


「それって、大人気のアイドルに、ただの一般人の恋人発覚、コアなファンが怒り狂った、みたいな?」


「信仰絡みだ。そんな可愛いレベルじゃ済まないよ。それに嫉妬は女の専売特許じゃない。男のそれもまた始末が悪いものなんだ」


「……本当にそんな風にドロドロな感じなんですか?」


「勿論、ヨーゲル殿もイズレンディア殿もアキちゃんの事は知っているから、二人に限ればそれ程でもないだろう。だが、ドワーフ族、森エルフ族という単位で見れば、程度の差はあれ、そう考え、そして危機意識を持つのは間違いない」


「……そんなに大切に思うなら、師匠みたいに緩和術式を開発するなり、魔力差を克服する心話用魔法陣の開発をするなり、やればいいのに」


「つい、何ヶ月か前までは誰も、そんな事は気にしないでよかったんだ。だが、状況は激変した。それまでの常識が崩壊した事を誰もが実感した。そのため、彼らはそれらの活動に本腰を入れることにしたようだ。本国で閣議決定はこれからだが、国を挙げての活動推進は確実だ。それと、森エルフも次元門構築計画に参加すると申し出があった。まずはイズレンディア殿がエリザベス様やセイケン殿と同じ枠で参加するとの事だ」


「それはまた唐突ですね。嬉しい事ですけど」


「知らないところで、いつのまにか置いていかれるより、近い位置から見張った方がいい、といったところじゃないかな」


「まるで、歩き回る幼子扱いですね。紐でも付けておこうとでも言いそう」


「そんなところだろう。それで、情報を共有した人族、それに鬼族も強く危機意識を持った。これは、アキちゃんがマコト文書の本当の価値を示した事と、マコト文書のこれまでの扱い、心話の持つ特性が組み合わさったこと、そして、こちらでは天空竜は絶対的支配者にして中立者だったことが相互作用したものだ」


「なんだかごちゃついてますね」


「整理すれば状況はシンプルだ。いいかい? あちらの世界との交流をミア様が独占してマコト文書を記し、街エルフはそれを活用して異常な繁栄を極めた。そして、今度は天空竜達との交流をアキちゃんが独占し、街エルフは更に繁栄を手に入れるのではないか、と」


……はぁ?


なんで、そういう発想になるの? 普通、それなら自分達も心話を試みてみよう、って考えるんじゃないの?


そうでなくても、同席している妖精さん達だって話をしてるのに――って、妖精さん達は、街エルフが召喚しているから、独占という視点からすれば、同じか。


でも、天空竜達と人族や鬼族との接触ルートが細いとはいえ存在しているのに、心話という太いルートが一つ増えるかもしれないってだけで、そんな想定になっちゃうの?


うーん、なんか、天空竜達に対する認識が歪んでない?

アキの軽い提案、ちょっとした試みのつもりだった雲取様との心話が、激震を生んでしまいましたね。

次回の投稿は、八月二十八日(日)二十一時五分です。

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