表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/769

7-13.師匠(ソフィア)、爆走

前話のあらすじ:マコト文書の勉強会も無事終わり、世界の広さ、限界を一目で理解できる世界儀も配った事で、人々の意識改革は進んでいきそうです。

勉強会も大成功に終わってから数日後、僕は師匠に呼ばれて、師匠の家に来ていた。ちなみに、リア姉も一緒に呼ばれてたりする。


魔力共鳴を起こしている二人を直接観たいといったところだろうか。


足元にはトラ吉さんが、横にはお爺ちゃんが浮いているけど、基本的には子守妖精としての仕事に徹するとの事。


「よく来たね、アキ、それにリア。特にアキは雲取様の協力を取り付けたのは大金星だ」


「えっと、はい。師匠、リア姉と知り合いだったんですか?」


「おや、話してないのかい、リア」


「話すタイミングがなくてね。アキ、私が魔術のどの属性も不得手で苦労したって話を以前したよね」


「うん。無色透明の属性は、それで、魔術を覚えるのが大変だったって」


「ソフィには色々と世話になったんだよ」


「それって、リア姉も僕の姉弟子って事ですか?」


「そうじゃない。私もリアと初めて会った時はまだ若かったし、師匠と呼ばれる程、何かを教えてやる事はできなかった。まぁ、腐れ縁という奴さ」


「え? 若かった? 師匠が?」


思わず、まじまじと見つめてしまった。フンッと睨んだ師匠にデコピンされてしまい、額が痛い。


「なんだい、私だって昔はそりゃー若くて綺麗で魔術の才ありとチヤホヤされたもんさ」


「ソフィはこの通り、体が小さくて可愛いからね。大人しくしてたら舐められる。だから、人見知りする仔猫のように、近づく相手には、嫌がられない程度に牙を剥いてたんだよ」


リア姉が、手を開いて、がおーって感じに、笑顔で、牙を剥く仔猫の真似までしてみせた。なかなか可愛い。


「嫌だねぇ、街エルフと会うと居心地が悪くていけないよ」


師匠はと言えば、そんなリア姉の揶揄う様子に顔を顰めた。


「どうしてですか?」


「アキならわかるんじゃないかい? 自分の小さい頃を良く知る叔父とか叔母が来て、小さな子供扱いされたら、居心地が悪くなるだろう?」


「あぁ、なるほど」


「せっかく、長生きして、こっちじゃ、私の昔のことなんざ、直接は知らない奴らだらけになって、そういう事もなくなったって言うのに、長命種の奴らときたら、出会ったばかりの頃と何も変わらず、こっちだけ年寄りの婆さんだ。嫌だねぇ」


「えっと……ミア姉、そうなの?」


「私だって人生経験を積んで、昔に比べればだいぶ丸くなったと言われてるんだけどね。それでも沢山のお別れを経験して、心が寂しさや悲しさで一杯になるのは、まだ当分先さ」


そう告げたリア姉は僕の背後に強引に回ると、言い聞かせる様に、そう告げて話を打ち切った。





「アキ、それにリア。雲取様の竜眼を用いて、二人の間に起きている魔力共鳴に似た何かの研究を行う、これが当面の課題だ。二人が他人の魔力を感知できない問題は、雲取様の指摘したように、自身の強過ぎる魔力が阻害している可能性が高い。これについても確認の策は考えた。次に来た時に試して貰うからそのつもりでいるように。いいね!」


「その方針で良いと思うんですが、僕は具体的には何をすれば良いのでしょうか?」


「次回、雲取様の竜眼の前でやる事は、妖精達による大量の魔術行使と、それに伴う魔力減少と、魔力回復の実演だ。それと雲取様に魔力撃を試して貰う。魔力の収束及び圧縮による魔力の位階上昇が狙いだ。前者は既にやってる事だから、妖精が何人か来てくれればいい。翁、そちらは頼んだよ」


「当日は儂と賢者で対応しよう」


「それで、後者だが、こちらは期待薄だ。鬼族のセイケン殿にも試して貰ったが、収束、圧縮のどちらも再現できなかった。鬼族の魔力活性化は、それを為した状態で相手に触れれば、魔力撃と同じ効果を見込めるようだが、あまり意味はないだろうとの事だね」


「触れれば効果発動、というのは鬼族の武術でも役立つ気がするけど、意味ないんですか?」


「鬼族は打撃しつつ、魔術も発動できるんだ。つまり、わざわざ発動寸前の魔力状態なんて半端なモノではなく、発動した魔術そのものをゼロ距離から叩き込める。ーー意味ないだろ?」


「あぁ……それは、意味無いですね」


「それでも、雲取様には試して貰う価値はある。案外できるかもしれないからね。話に聞いた感じなら試してもくれるだろうから、まぁ、やってみて貰うだけさ。二人とも、もし、魔力の位階が上がったなら感知できるかもしれないから、感じ取れるよう、その時は集中しておくんだよ。いいね」


「はい」「やってみるよ」


「後は、そもそも、天空竜が魔術の位階を引き上げる術を持ってるなら、それを試して貰う事にしようかね。もっとも、同じ様に魔術を瞬間発動できる妖精族の話を聞いた限りじゃ、無さそうだがね」


「どういう事ですか?」


「潤沢な魔力と、瞬間発動できる技量があれば、大概のことは労せずできちまうのさ。手が届かないからこそ、背を伸ばそうとする。何か工夫して解決する。そういう壁が天空竜クラスになると、殆どない、そういう話らしい」


「何とも突き抜けたレベルのお話ですけど、妖精族の皆さんは、魔術を工夫したり、魔導具も運用してますよ?」


「それは妖精族の魔力は位階は高くとも量は少ない、それに体も小さいから工夫するところが多いんだろうよ。それに何と言っても、妖精族の性格が、その場に留まることを良しとしない。そうだろう?」


「さすが、ソフィア殿、我らの事をよく理解しておる。そう、我らは非力で、小さいからのぉ。工夫は欠かせぬのじゃよ。それに同じ芸ではつまらんからのぉ。お陰で、魔術の発表会ともなれば、皆が創意工夫し、ニヤッと笑える驚きを携えて、新しい技を披露するのじゃ」


お爺ちゃんが体全体で踊るようにポーズを決めて、師匠の言葉に同意した。うん、確かにその場に留まる妖精なんて想像がつかない。


「それに、天空竜は体が大きい分、使う魔術も大味で大掛かりなもんになるのは仕方ない事だろうよ。雲取様はそんな天空竜の中では、かなりの変わり者で、限界に挑む気質がある。そこは期待してるが、さてさて、どうかねぇ……」


「師匠、そうなると、当日まで暇なので、ちょっと試してみたい事があるんですけど、どうでしょう?」


「言ってみな」


「お爺ちゃんを初めて召喚する時に使った魔法陣、あれって召喚部分を除けば、心話の補助魔法陣になると思うんですよね。実際、妖精界にいるお爺ちゃんと僕で心を触れ合わせることはできましたから。あの時点で、僕の魔力属性は今と同じ無色透明な訳ですから、雲取様との心話に使えると思うんですがどうでしょう?」


「私は見てないから何とも言えないが、リア、実際のところどうなんだい」


「他の妖精たちを召喚するのに参考にしようと、データはこちらに持ち込んであるから、やろうと思えばできなくはない。しかし、何でまた雲取様と心話をしようと考えたのかな?」


心話は親しい間柄で行うもの、という原則からすれば、そこまで気が合ったのか、という事だね。


「雲取様は思念波で細かい感情まで筒抜け、こちらは音声だけなので心をかなり隠蔽というのは歪な関係と思うんです。あと、そもそも、護衛用の宝珠を周囲に展開していると、こちらから雲取様に音声を送るのが賢者さんでないと大変そうでしたから。勿論、雲取様の性格には好感を持ってます。それと、いちいち、言葉を話すより心話の方がイメージの受け渡しとか、感情の把握とかが簡単ですからね。普通に話す時の十倍速くらいはいけて便利なんですよ。あー、あの頭を全力で使ってる感覚、そういえば、随分やってないなぁ」


ミア姉とは毎晩、濃密な心話での交流をしてたからね。脳細胞をフルに使った感があって、あれもまた良かったんだ。


あれ? なんか、師匠もリア姉も呆れた顔をしてる。


「どうしました?」


「いいかい、アキ。そもそも思考速度より会話の方がずっと遅い。だが、人はその速度に慣れているから、心話でもつい、言葉を交わしてしまう。それが普通なんだよ」


「本を読む時に、読むのに慣れてない人が心の中で音読しちゃうようなものですね」


「そうさ。そして、雲取様は本を読む文化とも無縁だ。間違いなく、音声化しない心話なんざ、経験がない。さっきの魔法陣だが、妖精界の翁とも接触できたんだ。確かに雲取様とそれを為すこともできるだろう。だがね、初めのうちは接待プレイに徹するくらいの割り切りは必要だ。アキがなんの手加減もなしでやれば、心話未経験者の天空竜じゃ荷が重過ぎるってもんさ」


「そこは種族特性とかで、人ではあり得ないほどの速さで習得するとか、すぐ馴染むとかあったりしないんですか?」


「あるかもしれないし、ないかもしれない。何せ、あらゆる事が初挑戦なんだよ。そう言えば、ミアは天空竜と心話をやってたんだったね。リア、そっちの記録はどうなんだい?」


「そっち? うーん、微妙かな。ほら、ミア姉は感性の人だから、書いてある事が凄く抽象的というか感覚的でね。習得した後なら、言いたい事も推測できるけど、知らない時にそれをみても、役に立たないと思うね」


あー、まぁ、そればっかりは仕方ない事だろうね。ミア姉もそもそも他人に見せるつもりでメモを残していたんじゃないだろうし。





「それと翁に、というか賢者にやって貰いたい事がある」


「なんじゃ?」


「天空竜の圧力を緩和する魔法陣を考えてみてほしい。竜眼を持つ雲取様との直接の意見交換は絶対必要なんだからね。アキは論外としても、リアを挟んで意見交換なんざまだるっこしくてやってられん。それと、アキとリアの観察をする際には賢者にも立ち会って欲しい。奴の鋭さはあった方がいいからね」


「ふむふむ。賢者の趣味にも合うから、きっと請け負う事だろう。同じ話を聞いても、奴ならばなにか気付くやもしれんからのぉ」


「纏めると、次の雲取様との会合までにやる事は、雲取様に魔力の収束、圧縮を試みてもらう事、アキと心話を行う事の打診と、許諾を得られたなら、心話の触媒となる品の事前運搬も合わせて頼む事か。それと、こちらでは、対竜用の緩和障壁と、対竜用の心話補助魔法陣の開発か。なんとも盛り沢山だね」


リア姉が近々の作業について総括してくれた。確かに多いね。


「私に求められているのは、早く結果を出す事だ。なら、遠慮なんざしてられないね。それに天空竜と話して、何ができるのか把握しておきたいのさ」


ぐっと手を握ってみせた師匠は、やはりこういう時心強いね。賢者さんもいるなら、かなりいいところまで行けそうだ。


「ところで、予算が絡みそうな話なら、ケイティさんも同席して貰っても良かったですね」


「ケイティ? いらん、というか居ても意味がないね」


「え゛?」


「今までに投じてる資金からすれば、新たな障壁や魔法陣くらい端金さ。技術的に、手持ちのカードで戦えるかどうかはリアが判断できる。なら、決めた後で、辻褄合わせをやって貰えば十分さ」


「いや、まぁ、そうだけどさ。ソフィ、もうちょい本音を隠してもいいんじゃないかな」


「はん、この歳になって、そんな面倒な事なんざ気にしてらんないね。いやー、いい世の中になったもんだ。あんた達の現代魔術にゃ、随分、辛酸を舐めさせられたが、鬼族に妖精族、それに天空竜とまで伝手ができて、筋さえ通せば、ロングヒルなら国庫が空になるとかなんとか言って通らないだろう話も、スパッと実現に向けて動いてくれる。いいねぇ、実にいいねぇ」


パンパンと手を叩いて、祝杯でも上げそうな勢いで、大喜びしてる。リア姉がいるからかな? ちょっと素な感じが出てるっぽい。話からすると、現代魔術に押されて、古典魔術界隈はだいぶ肩身が狭かったようだ。


「リア姉、もしかして師匠って、前からこんな感じ?」


「普通の人が匙を投げるような話も何とかするだろう、と思われるくらいだからね。上手くいった逸話も多いんだよ、ソフィは。ただーー」


「ただ?」


「その何倍もやらかした話があったりするから、周りから危険物扱いされているのさ」


「うわー」


「いつか、その武勇伝も聞かせてもらう事にしよう。アキの周りは面白い奴らが多くて飽きないのぉ」


「二人とも他人事みたいに言ってるけど、明らかにそっち側だから」


リア姉が、自身とトラ吉さんを囲うように、指で線を引いた。


僕とお爺ちゃんと師匠、それに賢者さんは同類だと。


それを見て、師匠が顔を顰めた。


「よしとくれよ、私ゃ、ここまでズレちゃいない真っ当な大人だよ。ちゃーんと、限度を超えない殊勝さはあるさ」


そんな事を言いながら、リア姉に、召喚魔法陣の資料を持って来いだの、お爺ちゃんに、召喚魔法陣の解体と、心話術式特化の見直しをするから賢者を呼べとか、後は専門家の話だから、僕はエリーとでも話をしてろ、とか矢継ぎ早に指示を出した。


僕はお爺ちゃんと見合わせて、僕達はここまでじゃないよね、とアイコンタクトをして、頷き合った。


「ニャー」


トラ吉さんの呆れた声が場に響き渡った。

事態が大きく動いた事で、師匠(ソフィア)もアキの魔術習得に向けて、やれる事が増えました。止めるものもいないので、全力前進って感じですが、これが大問題を引き起こす事になります。何が問題だったのか、予想してみても良いでしょう。

次回の投稿は、八月二十五日(日)二十一時五分です。少し早くなるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
評価・ブックマーク・レビュー・感想・いいねなどいただけたら、執筆意欲Upにもなり幸いです。

他の人も読んで欲しいと思えたらクリック投票(MAX 1日1回)お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ