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2-6.新生活一日目⑥

新生活一日目ラストです。

 濃密な実技の時間を終えて、やっと解放された僕は、軽く身支度を整えて、応接室に戻った。

 既にリア姉は座っていて、僕を待っていてくれた。ケイティさんがホットケーキと紅茶を用意してくれる。


「お疲れ様。それで訓練をやってみた感想は?」


「沢山の武器を渡されてて、それらを使った基礎的な動きは試すことができました」


 紅茶を飲んで、ほっと一息。ホットケーキを一口食べてやっと少し気分が落ち着いてきた。


「リア姉も成人してましたよね?」


「もちろん」


「それじゃ、やっぱり使えない武器はないぞって?」


「ん? 何か疑問があったのかな?」


「どうしてそこまで訓練するのかと思って」


「それはまぁ、後悔したくないから、じゃないかな」


「後悔?」


「そう。いざ戦いとなった時に力が及ばなかったら、きっと後悔する。もっと訓練しておけば良かったと。だから、我々は後悔しないように、これである程度は合格かな、と思えるくらいには訓練を行うんだ」


「武器を選ばず戦えるというのは、かなり高い目標のように思えるんですけど、一般的な兵士と比べると強さはどんな感じなんですか?」


「そうだなぁ、成人したばかりなら、十人の新兵程度なら相手にできる。熟練兵が相手だと勝てるけど楽ではない、その程度だろう」


 うん、やっぱり求めるレベルがおかしい。


「その程度って、十分過ぎると思うけど」


「我々は体格で劣るから、せめて技量だけは上回らないと勝機がなくなってしまう。それにこんな外見だろ。身を守る術は持っていないといろいろ苦労するんだ」


 ケイティさんやジョージさんを見た後だと、リア姉もミア姉も華奢で、背も低く、体格で劣るというのも納得だ。

 寿命の長さを修練に充てれば、それは確かにある程度の技量は身に付きそうではある。


「街エルフって昔は傭兵で有名だったりするんでしょうか?」


「いや、全然。我々の近接戦闘技術なんてのは余技に過ぎないからね。森エルフ共の化け物っぷりに比べれば可愛いものさ」


「どれだけ森エルフは化け物なんですか」


「十倍の敵相手に包囲殲滅戦をやるくらいに化け物。矢の本数分、相手を殺すっていうのも大げさじゃない」


 うわー、百発百中のウィリアムテルだらけとか。それは怖い。


「リア様、それではアキ様が誤解されてしまうかと。街エルフの皆様は、そもそも『人形遣い』として名を馳せているのではありませんか」


 ケイティさんが殊更、強調した『人形遣い』って何だろう?


「人形遣い? 女中人形とかのことですか? チームプレイが得意とか?」


 確かにケイティさんが女中人形さん達に指示を出している感じからして、指揮能力は高そうだけど。ただ、それをもって『名を馳せる』とは言わない気がする。


「街エルフの皆さんが使われる魔導人形には、女中、園丁以外にも、戦闘用もあるんですよ」


「ジョージに護衛人形を四体貸し出しているから、いずれ見せて貰うといい。結構、格好いいんだ」


 ほう、護衛人形と。女中人形があの完成度なら、護衛人形もまた期待できそうだ。


「明日頼んでみます。もしかして、街エルフは人形を使いこなすことも必須スキルだったりするんでしょうか?」


「その通り。成人と認められるためには、一人で人形を組み上げなければならない。まぁ、アキが人形を用意するのは当分先の話だよ」


 確かに。まだ基礎の魔術を習おうと言ってる段階なのだから、当面先だと思う。


「リア姉はどんな人形を作ったんですか?」


「私? 私は助手人形を作ったよ。作業をする時に何も言わなくても的確にサポートしてくれる人形が欲しくてね」


「それじゃ、ミア姉は?」


「ミア姉は、秘書人形だ。いずれ紹介しよう。ただ、アレを普通とは思わないほうがいい」


「まさかその秘書人形も?」


「そう、一切の妥協なしに作り上げた動く芸術品、未だに機能強化を日々続ける例外中の例外だ」


 おー、なんかそれは凄そう。何より機能強化できる余裕を残しておくあたりがミア姉らしい。


「私はアレはやり過ぎだと思うけどね。やはり高性能人形を一体用意するよりは、性能はそこそこの人形を二十体用意したほうが便利だよ」


「その、リア姉、秘書人形さんは普通に二十倍の人形と比べるようなレベルなの?」


「そういうこと。お金に困ってないのをいいことに、惜しげもなく人も資金も投入したんだ」


 本が売れていると言ってもそれほど儲かる訳ではないと思うので、何をしているのか知らないけど本業で稼いでいるんだろう。さすがミア姉さん。でも、人も投入ってそれはいいんだろうか。


「それ、一人で組み上げたことになるんですか?」


「別にゼロから作れという訳じゃない。既製品を集めて作ってもいいんだ。ただ、ミア姉は材質レベルから見直しをかけた特注パーツばかりを用意したんだよ」


「それはまた徹底してますね」


「まぁ、ミア姉だから」


「納得です」


 できるのに、手を抜くのって微妙でしょ、ってミア姉なら言うと思った。


「ところでアキ。体内魔力のほうは何か感じたかな?」


「動きに気を付けるのに精一杯で、すっかり忘れてました」


 というか、そんなのは意識せずに動けるようになってからじゃないと無理な気がしてきた。


「まぁ、やっぱりそうなったか」


「仕方ありませんね、アキ様ですし」


 リア姉もケイティさんも容赦なかった。





 今日は早めにお風呂に入って、ケイティさんに手伝ってもらって髪も洗い、なんとか寝る前に時間を作ることができた。まだ、夕日は落ちる前だけど、昨日の感じからすると、今の内に気になったことを書いておこう。


 用意して貰ったノートは、立派な革の装丁で、鍵までかけられるようになっている。筆記用具は万年筆だ。カートリッジ式のインクを装填するタイプなのはありがたい。


 とりあえず、共用のほうのノートを開いて書くことにする。


 魔術は一筋縄ではいかない感じでちょっと困った。でもそうそう気になることも見つからないだろうから、何日かすれば感覚を集中することはできると思う。

 座学は興味深いことはいろいろ多かったけど、学ばないといけないことがこの分だとかなり多そう。

 戦闘技術は幅がやけに広くて、ざっと『思い出す』だけでも一週間ってところかな。実技は多そうだし、一体何日かかるか気になる。


 とりあえず、学習カリキュラムがどんな感じになるのか、明日聞いてみよう。街エルフの考え方って『あったほうがいいことはやっておこう』って雰囲気だから、あれもこれもと用意されている気がする。


 学ぶのは別に嫌いじゃないけど、もうこちらにきて二日も過ぎてしまった。半日以上寝ているせいかやっぱり全然時間が足りない感じがする。


 あっちでは、夏休みはあと三十八日。ミア姉さんはちゃんと生活できてるだろうか。困っていないといいんだけど。


 あ、もう眠くなってきた。やっぱり短過ぎる。慌てて、意識が落ちる前にベットに潜り込む。

 なんとか間に合ったけど、こうしてこちらでの生活二日目は終わってしまった。

ちょっと短いですけど、キリがいいので今回はここまで。

次話の投稿は五月二日(水)になります。GW最終日までは毎日投稿します。


誤字、脱字、アドバイスなどありましたら、気軽にご指摘ください。

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