7-6.雲取様、ロングヒルに降り立つ
前話のあらすじ:家族に、天空竜と妖精達だけで話し合わせることの危険性について提示し、当初の予定通り、アキやトラ吉も含めて会合を行うことになりました。
別の日に現れたシャーリスさんは、父さん達の願いを快諾し、話の主導権は僕に任せるといってくれた。
というか、天空竜に敬えとか言われたら、妖精の槍を何百本か突き刺して、力関係を理解させていたかもしれん、などと不穏な事を言って、皆の表情を凍りつかせたりしていた。
それはやり過ぎじゃないかと聞いてみたけど、こういう事は初めが肝心、それにその程度なら天空竜にとっては擦り傷程度だから、などと言って、感覚のズレの不味さを再認識したのだった。
「無論、今話したのは軽い冗談じゃ。アキが翁に語った懸念は聞いておる。妾達も配慮はするが、そのような行動に至らぬよう、話題の誘導を頑張るのじゃ。アキ、期待しておるぞ」
そう言って、シャーリスさんはポンポンと僕の頭を撫でた。
「我らは無駄な争いは望まない。されど、小さき妾達とてプライドはあり、譲れないものもある。多くの種族が手を取り合う上での試金石ともなろう。自由闊達な議論に絶対的な覇者は居ては邪魔というもの。アキ、其方が望む道は容易くはないぞ」
シャーリスさんは、踊る様に飛びながら、僕達、家族を見て回った。
「僕は、選抜された精鋭チームのメンバー間だけ、フラットで親密な関係が築ければ、問題ないと思うけど、それじゃ駄目かな?」
「駄目じゃな。研究している間はそれでも良いが、計画を実行する段階になれば、実利が絡んでくる。参加している勢力が、それぞれ容認できる程度の落とし所を見つけておかねば、計画が実を結ぶ事はない。空中分解してお終いじゃ」
うわー、なんか果てしなく面倒臭そう。
「アキにその様な調整をする時間もなければ、それを為す力もあるまい。こればかりは老獪さや、相手に、この者が言うのならば仕方ない、と思わせるだけのカリスマ性がなくてはな。老獪なだけでは火が燻り続ける事にもなろう。そうではなく、皆が拘る程度の話は些細な事、皆が全力で取りに行ってもパイが余って、その方が大変だと理解させねばのぉ」
そう語るシャーリスさんは、やはり女王様、国を統べる者としての視点と強い意志がある。集まる種族の中で、抜きん出ている双璧である天空竜と妖精族の一方とはいえ、これだけ理解してくれていると言うのは心強いね。
「それと、アキ。確かに妾は、妾達、妖精族はアキの語る未来が、どの種族の手にも余る巨大なモノである事を、街エルフの次くらいには理解してると言えるじゃろう。されど、妾達を頭数に入れて考えると、利害調整は破綻する。そこは覚えておく事じゃ」
「えっと、どうして?」
「妾達はこちらの世界に領土を持たぬ。そんな妾達が何かをしても、身銭を切ったと思う者はおらんじゃろう。利害調整と言っても、妾達が支払う物が多いのか、少ないのかさえ、判断は難しい。妾達とは情報しかやり取りがないのだから。目に見える領土、物、金、そういったモノがない妾達は、利だけを貪るようにすら見えるやもしれん」
なるほど。シャーリスさんの言う事はもっともだ。というか、そこは召喚している僕達、街エルフがちゃんと「見える化」をして、比較できるようにしていかなくちゃいけないね。
「利害調整は我々、政に携わる者が何とかしていこう。それをするのが我らの仕事だ。それと、妖精族が支払うモノとして、人、情報は定量的に計測できる。それらを元に、貴国の支払いの「見える化」は我々が行い、不当な扱いとならぬよう尽力する事を約束しよう」
父さんが家族を代表して答えた。
「少ない情報から、隠された全体像を暴くのは人類連合、特に街エルフは得意じゃったな。期待させてもらおう。さて、アキ。小難しい話は終いじゃ。それより、妾達とアキ、それとトラ吉だけで対峙した際に、起こるであろう事を話し合っておこうではないか」
「起こる事というと、実際に思念波を受けた時にどうなりそうか、とかそう言う事?」
「そう、それじゃ。妾達は、妖精界の天空竜ならば、それなりに知っておる。同じとは限らぬが、想定しておいて損はなかろう」
「うん。それじゃ、お話ししよう」
「ところで、アイリーンよ、この前、翁が食したと言う柿のケーキを妾も食べてみたい。用意できるか?」
「ハイ、それでは、軽食の用意をしまショウ。お茶の種類に要望はありまスカ?」
「任せる」
アイリーンさんが用意してくれた柿のパウンドケーキと紅茶だけど、お爺ちゃんの分は、今度は林檎たっぷりのアップルパイに変えてあげていた。案の定、そっちも食べたいというシャーリスさんが舌鼓をうっている間に、追加で近衛さんを召喚して、雲取様というか、天空竜と対峙して、コミュニケーションを取る上での注意点とか、直近で観察する事で把握できるものについて、話し合った。
そうして話を聞いた事で、姿を消して相手を伺う妖精族が如何に偵察に優れた種族であるか、再認識する機会になった。僅かな振る舞いからだけでも、多くの情報を得るという意味では、彼らも街エルフに勝るとも劣らないことがよーくわかった。
街エルフが得意とするのは、僅かな情報から国家レベルの体制や規模、技術などを推測すること。
そして、妖精族が得意とするのは、飛行する相手が示す僅かな挙動から、その身体能力限界、様々な技量、魔力の量や質の高さ、性格などを推測すること。
雲取様が訓練場に降りる、その一連の動きだけで、彼について多くの事がわかりそうだ。一応、近衛さんが推論の方法と、どこに注意すべきかポイントを教えてくれた。
僕は魔力が感じ取れないから、そこは妖精さん達が観察して、シャーリスさんがそっと耳元で囁いてくれることになった。
天空竜の耳では、街エルフの耳元でこっそり囁く声は聞き取れないとの事で安心した。ただ、視力は異様に優れているので、要注意だとも。
◇
そして、会合の日。幸いにして秋晴れの空となり、風も穏やかにそよぐだけという理想的な天候に恵まれた。
リア姉は最後まで一緒に行きたがってたけど、シャーリスさんから、近くに居られる方が守るのに困ると言われて渋々引き下がった。それでも、出掛ける前にギュッと抱き締めてくれて、嬉しかった。
ウォルコットさんの馬車で、練習場に送ってもらったけど、途中の森も道も早朝のように静まり返っていて、ピリピリとした緊張感が伝わってきた。
演習場の外で鬼族のセイケン達とも会ったけど、宜しく、と笑顔で手を振ったら、何故か呆れた顔をされてしまった。謎だ。
演習場を取り囲む丘の上には、草色の外套を着て、弓を手に持った森エルフの人達が等間隔で四方に睨みを利かせていた。
彼らほどじゃないにせよ、街エルフも目はいいので、距離が離れていても、彼らの表情までよく見える。……と言ってもフェイスペイントを施してるせいで表情はよく分からなかったんだけど。
演習場に降りると、僕達が座るためのテーブルセットと、それを取り囲むように魔導杖が配置されているのがわかった。街エルフ定番の日差しと風を適切に調整してくれる魔導具だね。
傍にいる街エルフの人形遣いの人達が、直径四十センチくらいある宝珠を操作して浮遊させた。合計三機。それがテーブルを中心に五メートル程離れた位置に陣取った。
「結構、目立ちますね。お爺ちゃん、これらの魔導具が稼働してても、声を送るのに支障はない?」
「混み合ってて、ちと、面倒じゃのぉ。賢者よ、頼めるか」
「任せるがいい。「どれ。声が聞こえたら、手を振ってくれるか? 妖精の賢者じゃ。聞こえるな? うむ、協力感謝する」……問題ないな」
賢者さんが杖を一振り、小さな声で話しかけると、丘の上で警戒していた森エルフさんの一人が慌ててこちらを振り向き、賢者さんが名乗ると、ゆっくり手を振ってくれた。直線距離で百メートル近く離れているのに、いきなり耳元で話しかけられたら驚くよねぇ、やっぱり。
賢者さんも、できて当然って顔をしてるけど、悪戯成功って感じの笑みを隠せてない。
賢者さんもやっぱり妖精さんなんだね。気難しい顔をしてるけど、結構、お茶目なところがあるし、孫の前で見せる顔はまた違った感じだろうから、今度、その辺りも聞いてみよう。激甘な可能性もあるから、先ずはお爺ちゃんに探りを入れてからが無難かな。
「さて、それでは空に誘導路を描くとしよう」
シャーリスさんの合図で、妖精の彫刻家さんと近衛さんが飛び上がって、総合武力演習の時と同様、たくさんの光の粒を撒きながら、空に二本の巨大な線を描いて、ふわりと戻ってきた。
日中でもはっきりと見える光の帯が、間口は広く、着地点のほうに絞り込むように描かれている。なかなかの存在感だ。
光の粒は空間に固定されているから、風で流されたりもしない。
前回は六人で描いたけど、今回は二人だけということもあって、僕が召喚の経路経由で渡している魔力量もさほど多くなかったらしい。少し魔力が減ったかなとは思ったけど、二人が線を引き終えて、あとは戻るだけとなった後は、すぐ満タンに戻っていつも通りだ。
後は雲取様が来るのを待つだけ――
「アキ、来たぞ。見事な飛び方じゃな。妖精界でも、見た事がないほど無駄の無い飛び方じゃ。それに前回と同じで、魔力はかなり抑えてくれておる。ケイティ換算で十人分といったところか。幸先が良いの」
シャーリスさんの指差した空を見ると、小さな黒い点が、見る間にどんどん大きくなって、こちらに迫ってきた。抑えていて人類最高レベルの魔導師でもあるケイティさん十人分かぁ。まさに単騎で軍隊を蹴散らす絶対的な魔獣、その頂点に立つ存在。
陽光を浴びて、輝きを帯びた黒い鱗が美しい、生物なのに、ジェット戦闘機のような機能美さえ感じさせる威風堂々とした天空竜、雲取様だ!
前方に伸びた長い首、引き締まった胴体、そして、スラリと長い尻尾と、実際に見ると、飛ぶ事に適応した体型であることがよく分かった。大きく広げた翼は、本当に広げているだけで、羽を支える骨格や筋肉の細さからして、妖精さんの羽と同様、飛行補助の魔導具的な役割を担っている感じだ。
一気に着陸するような真似はせず、演習場の周りを大きく弧を描いて飛んでいる。
大きく広げた翼は羽ばたきはしないけど、少しずつ角度を変えながら滑るように飛ぶ姿はとても不思議な感じだ。
シャーリスさんの話だと、天空竜は反動推進ではなく、重力の方向を操作して、飛びたい方向に向かって落ちていくそうだけど。もちろん、巨大な羽で大気を捉えて揚力を得て、飛行に使う魔力の軽減に生かしているそうだ。そのあたりは疑似的な半透明翼を展開する妖精族より、飛ぶことに特化した体つきと言えるだろう。
大気が揺れるような事もなく、あんな大きな生き物が空を飛んでるなんて。
まだ、結構、距離が離れているけど、街エルフの視力なら、鱗の一枚一枚までよく見える。
雲取様の目がこちらをじっと見ているのがわかった。鷹のように鋭い目と、視線が合う。
背筋をゾクっと寒気が走った。悪意は感じられなかったけど、淡々とこちらを観察する視線に強い圧力のようなものを感じた。
威圧感を与えないように気を使ってくれているのか、翼を広げたままゆっくり降りてくる雲取様の姿は、金属やガラスのような光沢を持つ黒い鱗の輝きも相まって、生き物というより、機械のような印象すら混ざっていて、迫力が半端ない。
吹き下ろしの風や、耳を塞ぎたくなるような爆音が一切なく、眼前に武装ヘリが降りてきた、そんな感じだ。
引き締まった巨大な体つきが、絶対的な力を秘めていることを伝えてくるのに、目を離せばそこにいることすら勘違いだったと思えるほど、音が何も聞こえない……それは足音を消して忍び寄る猛獣の群れのようで、雲取様の落ち着いた眼差しも、肉食獣が獲物を見据える視線に思えてきてしまう。きっとそれは僕が一方的に感じる思い込みに過ぎないのに、頭を駆け巡るそんな思いが思考を縛り付けていく。
自分の心臓の鼓動が煩く感じられてくるほどの静寂が耳に痛い。
雲取様に感じる純粋な暴威への畏れ、その生々しさは、人より遥かに大きな鬼族から感じたそれが、立看板かと思うくらい、存在感に差があり過ぎる!
この感覚は不味い……手元を見れば微かに震えたりしてる。
手を握り締めて震えを止めても、寒気は消えない。
どうすればいいのか、何かできるのか、何もできないのか、何をどうしたらいいか……そんな風にぐるぐると考えていた、その時、足に触れる毛の感触が、僕の意識を引き戻した。
見れば、トラ吉さんが体を擦り寄せて、自分はここにいるぞ、とアピールしてくれていた。
フワリと隣まで飛んできたお爺ちゃんが、目を細めて笑いかけてきた。
「アキ、自分より大きなモノ、力を秘めた存在を前にして、畏れを感じるのは生きる者としては自然な事じゃ」
「お爺ちゃん達でも?」
「儂らはこの通り、小さいからのぉ。いつでも畏れる気持ちは持っておるとも。小さい頃からの経験と、積み重ねた訓練があるから大丈夫だ、慌てるな、とそう自らに言い聞かせておる。萎縮して良い事はないからのぉ。畏れる心を忘れず、されど、萎縮せず自然体でおるのが理想じゃよ」
お爺ちゃんはパチリと軽くウィンクをして、心配ないとも、と言ってくれた。
――そうだね。
僕は、ちょっとしゃがみ込んで、トラ吉さんにお願いして、抱き上げるのを許して貰った。
トラ吉さんの柔らかな毛の感触と暖かさ、それに腕から感じられる鼓動が、とても心を落ち着かせてくれる。
「あんなにそっと降りてきて気を使ってくれているのに、やっぱりちょっと怖いね」
「ニャー」
当たり前だろ、と若干呆れ気味に言われてしまった。それでも大人しく抱かれていてくれているのだから有難い。
事前に想定していた事を思い出して、雲取様の降りる様子から、できるだけ情報を読み取ろうと視線を走らせた。
雲取様は地上に描かれたマークで示されたエリアに重さを感じさせないほど繊細なタッチで降り立った。その位置は、雲取様が踏み込まなければ、牙も爪も尻尾も僕達に届かない、そんな、少し離れた位置だ。
それでも恐竜博物館で見た機械仕掛けのティラノサウルスよりもずっと存在感があって、内に秘めた力の強大さがハッキリと感じ取れた。
彼は香箱座りをする猫のように四つ足で座ると、体に沿わせて尻尾を曲げて、その上に長い首を乗せて力を抜いた。
確かシャーリスさんの話だと、すぐに戦闘態勢に移れない姿勢であり、リラックスしている事、害する気がないことを示しているという事だった。
<光の花を空に描いた者達よ、我を前にして踏み止まるその態度に敬意を表そう。辛くなったら遠慮なく伝えよ。無理をさせるつもりはない>
フワリと届いた思念波は、穏やかな微風のような気配りに満ちていた。まるで寝ている乳飲児に囁きかけるような繊細さだ。あんなに大きな姿なのに、顔もこちらに向けず、威圧感を極力抑えようとする気の使いっぷりで、なんだかとても申し訳ない気持ちになってきた。
心話と同じで、心の細かい機微まで伝わるのが利点であり欠点だね。
雲取様がとても理性的な方で、しかも、庇護下の種族との交流を通じて、威圧感を与えない配慮をする程、経験も積んでいるとわかった。
だけど、これは良くない。
僕は、そっとトラ吉さんを下ろすと、少し離れて貰った。
横目で賢者さんを見ると、言葉の中継はOKとの事。
よし!
「雲取様、こうしてお会いできた事、光栄に思います。こちらに浮かんでいる者達が、こちらに来ている妖精族の皆さん、足元にいるのは角猫のトラ吉、そして僕は街エルフの子で妖精族の召喚をしているアキです。宜しくお願いします」
良し、声は震えてない。雲取様の反応を見る限り、声も上手く耳元まで運んでくれているようだ。
<器用な真似をするものだ。妖精族の技か。よく聞こえているとも。楽な姿勢にするがいい>
ふむふむ、僅かな驚きと、僕が怯えたりしてない事への賞賛が伝ってきた。それと、僅かな諦観も。楽にしろと言っても、それができる小さな者達なんていないと諦めている感じかな。
あー、もう、心話なら、僕の想いも伝えられるのに。言葉は不便だ。
でもまぁ、想いは態度で示せばいい。
僕は一礼してから、後ろのテーブルセットに向かい、椅子の向きを変えて、座り込んだ。
妖精さん達も力を抜いて、僕の周りをふわふわ浮いてる。リラックスし過ぎな気もするけど、まぁ、嗜める程ではないかな。トラ吉さんも僕の足元に座り込んだ。
「それでは御厚意に甘えて座らせていただきます。雲取様もそれほど声を潜めては大変でしょう。遠慮なさらず、普通にお話しください。できれば僕に思念波を絞り込んで貰えれば助かります」
<ほぉ>
こいつら、本当に寛いだぞ、という驚きと、やっぱり、心配する気持ちが色濃く残ってる。痩せ我慢した相手が耐え切れずダウンしたような経験とかありそうだね。
「僕はその辺りは鈍いようで、負担にならないんです。心配であれば少しずつ加減を変えてみてはいかがでしょう?」
<どれ。ならば、これならどうだ>
出力は同じだけど九割くらい僕に絞り込んだ感じかな。だいぶ手加減が楽になったようだ。方向を定めず拡散させるように思念波を微弱で送ると言うのはやっぱりかなり面倒な事だったみたい。
でも、まだ、静かな図書館で誰かに話しかけるような遠慮を感じる。それにやっぱり、僕の方は負担は感じられない。
「絞り込みは良い感じです。まったく問題はないので、負担にならない程度まで高めてください」
<驚いたな。周りの妖精達や角猫も平気なのか?>
「妾達に遠慮は無用じゃよ。こちらの世界に棲まう天空竜との初会合をこうして穏やかに迎えられて喜ばしく思う。妾はシャーリス。この者達の住む妖精の国の女王をしておる。他の者もおいおい紹介していこう。角猫のトラ吉だが、お主が思念波をアキに絞り込んでおれば、近くに居ても問題はなかろう」
などと言いつつ、テーブルの上に置かれた小物入れタイプの空間鞄を操作して、妖精サイズのティーポットを取り出して、カップに一杯注ぐと軽く飲んでみせた。
他の妖精さん達も好き好きに飲み物を注いで飲んでる。リラックスしてますよ、というサインだろうけど、なんとも豪胆だ。
<ならば――>
そんなやり取りが何回も行われて、最後には雲取様は完全に遠慮せず、普通に思念波を飛ばしてくるようになった。勿論、殆どを僕に絞り込んでて、妖精さん達やトラ吉さんに届くそれはかなり薄い感じ。
「それでは雲取様、会合を始めましょう。と言っても、こうして周囲に浮かぶ魔導具は気になると思うので説明しますね。まず――」
こうして、栄えある第一回の天空竜との会合は穏やかに始まった。
雲取様も無理に声を押し殺すように静かに話すような真似をしなくて良いとわかったからか、思念波から伝わる心象もだいぶリラックスしたものに変わっていた。それどころか、そんな風に接してくる存在、つまり、僕達に対する興味も増したようだ。
トラ吉さん以外の魔力が感じ取れない事に違和感は覚えているようだけど、それより遠慮なく、相手の体調不良を気にせず話せることへの喜びの方が勝ってる感じだ。
出だしは最上かな。ただ、雲取様、僕達の思いを伝え合うのはこれからだ。
僕は、周辺警戒態勢や魔導具の置かれている意味について、雲取様の反応を見つつ、話していった。
色々と準備を生み重ねてきましたが、遂に天空竜の雲取様との会合が始まりました。飛行する天空竜について描写しましたが、アキは雲取様が天空竜の中でも別格と言えるほど、飛び方に特徴があるということを理解していません。シャーリスはちゃんと「これほど上手い飛び方をする天空竜は見たことがない」と説明してくれてますが、まぁ、他の天空竜を観たことがなければ、それがどれほどなのかピンとこないでしょう。
次回の投稿は、七月三十一日(水)二十一時五分です。