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7-5.家族集合(後編)

前話のあらすじ:雲取様と会ってお話しましょう、というだけのはずが、蓋を開けてみたら、ロングヒルにいる全種族から選抜された精鋭チームによる特別護衛体制が敷かれることになってました。これにはアキもびっくり。そして天空竜と末妹が対峙するとあっては、会いに行かない訳があろうか、と父ハヤト、姉リアが本国から駆け付けました。

リビングに移動し、アイリーンさんの用意してくれた柿のパウンドケーキと紅茶をいただいて、まずは一息。

秋の味覚という事で、たっぷり練り込まれた柿と、薄切りされて焼き目のついた柿が特徴のしっとりとして食べ甲斐のあるケーキは、健啖家な父とリア姉は結構なペースで食べてお代わりまで貰ったりしてる。僕と母さんは、昼食を考えて抑え気味に。この辺りも性格が現れて面白い。


家族の集まりではあるけど、子守妖精としてお爺ちゃんは参加している。柿のケーキは初めてなようで、ふらふらと飛んでいってアイリーンさんから作り方を聞いたりして、何とも楽しそうだ。


トラ吉さんも僕の隣で寛いでいる。発言してる人に耳を向けているので、話は聞くつもりっぽい。


「報告は受けているが、認識を合わせる為、アキ、今回の件について説明しなさい」


家族の代表として、父さんが話を切り出した。当事者の僕がどこまでちゃんと認識しているのか、認識にズレ、誤りがないか、確認したいんだろう。


僕は、ケイティさんに用意して貰ったホワイトボードに書き込みながら、時系列順に今回の雲取様と会合することに至る経緯を話していった。


「――アキ、説明ありがとう。それで、当事者でないアキは最初は控えて、安全性が確認できた後、二回目から会合に参加するという考えもありだと思うがどうだ?」


確かに、召還体である妖精さん達だけなら、例え、最悪の事態になって、竜の吐息(ドラゴンブレス)で妖精さん達が消滅させられたとしても、再召喚すればいいから、リスクは最小だ。


僕の身を案じてくれているのはとても嬉しい。だけど、その案には色々と問題がある。


「いくつかの理由から、僕はその策は取れないと思います。一つは天空竜と妖精さん達だけにする事の危険性です」


「なんじゃ? 儂らはやられても何ともならんぞ?」


「僕はね、お爺ちゃん達、妖精さん達の視点、考えた方からいって、重り役、ストッパーとなる存在がいないのは不味いと思うんだ」


「どういう事じゃ?」


「話が拗れて、一触即発の事態になったとして、被害を抑える為なら、雲取様を殺害して止める事に躊躇しないでしょ」


「見知った者達が大勢おるからのぉ。できるだけ穏便に済ませるつもりじゃが、その選択肢は排除せぬよ」


「うん、ありがとう。でもね、エリーが鬼族と街エルフの人形遣い達が集結した際に、その戦力の強さ故に、衝突した時の被害を心配していたよね」


「そんな事もあったのぉ」


「僕はね、今回の会合はそのパワーアップ版だと思うんだ。お爺ちゃん達、実は六人いれば成竜の一頭や二頭、なんとでもできるんじゃない?」


僕の問いに、お爺ちゃんは目を細めて、おどけたポーズをとってみせた。


「儂らのような小さな者がそれ程となぜ思うんじゃ?」


さて。これは今まで話した事はなかった考えだけど、良い機会だから話しておこう。


「天空竜は確かに強い。けれど、魔力が希薄なこちらの世界で生きていける限界に位置しているようにみえるんだよね。そして、神様は降臨してもほんの僅かな間しかこちらに顕現できない。それじゃ、妖精さん達はどちらに近いかと考えた時、僕は妖精さんは神々の側に近いと考えたんだ」


「過分な評価じゃのぉ」


「神様は信仰が絡むから判断基準にしにくいけど、存在する事に膨大な魔力を必要とする存在、そういう尺度で測ると、妖精さん達は、天空竜より遥かに大量の魔力を必要とする、そう思える」


お爺ちゃんも含めて、皆、ここまでの話を聞いても驚いた顔はしていない。そう考えたことがあるか、そうズレた話はしていないということだろう。うん、ここまでは予想通り。


「儂らもよく、こちらの魔力の希薄さを驚く話をしてきたのは確かじゃ」


「つまり、僕はね、魔力の量は体の大きな天空竜の方が多いかもしれないけど、その質、位階の高さだと、妖精さん達の方が高いかもしれないと思ったんだ。お爺ちゃん達が簡単に使ってる槍だって、天空竜の鱗を軽く貫通するくらいだからね。もしかして、お爺ちゃん達も、天空竜と同じで、低い位階の魔術だとそもそも無効化できたりしない?」


そう外れていないと確信はしているけど、念の為聞いてみた。お爺ちゃん、好々爺の顔をしてるけど、目が怖いよ?


「儂らはそもそも食らわんし、食らう前に障壁を展開するか、相手の魔術発動を邪魔しておるからのぉ。天空竜のようにわざわざ試した事はないんじゃよ」


ダウト。いくら妖精さんでも全方位に意識を集中できるとは思えないし、こちらにきているお爺ちゃんが視覚外の動きに慌てるのを何回も見てる。

稀なのは確かだろうけど、これまでに実績がない、なんて事はない。


まぁ、今はそこはどうでもいい話だけど。


「まぁ、僕が懸念しているのは、妖精さん達がこれまでの瞬間発動の簡単な魔術ではなく、詠唱とか魔法陣とかを併用する高度な魔術を使うこと。多分、シャーリスさんが偶発的な事故ならなんとでもなると請け負ってくれているのは、悪さをする子供の手を叩いて止めるくらいの難度と判断しているからだと思う。なら、そんな高位の術者が真面目に大規模魔術を使ったら?」


「天空竜でもタダでは済まん事じゃろう」


「そして、今は僕の魔力で召喚されている影響で魔力属性が無色透明状態、つまり、不意打ちの為にたっぷり時間をかけて魔術を練っても、雲取様は気が付けない。至近距離から大規模魔術を不意打ちで使われたら、天空竜の首を一瞬で斬り飛ばすくらいはやれそうだよね。どうかな、お爺ちゃん」


「儂らは平和を愛する森の住人じゃからな。まぁ、できない訳ではないとは言うておこう」


おや、そこは韜晦しないんだ。嬉しいね。


「今の妖精さん達は、余りにも有利な状態にあると思うんです。天空竜が強いのは大空を自在に飛び、強い守りがあり、魔術も使えて、鎧も紙のように切り裂く爪もあるから。でも、今回の会合では、雲取様は地に降りていて機動力がなく、その守りは妖精相手には守り足り得ない。そして、牙も爪も強いけど、妖精の体が小さ過ぎて、当たらない。雲取様は首筋に刃を突きつけられたようなモノ、そう言っても過言ではないでしょう」


「それなら、安心じゃろう」


「天空竜が一頭だけならね。実際には何万頭といて、しかも雲取様はとても好かれていて大人気、天空竜のなかでも有名な個体だよね。ある意味、雲取様も今回、一切傷ついてはいけない、これは名誉的なものも含めてね。その点、天空竜相手でも、せいぜい並び立つモノとしてしか認識しない妖精さん達だけが単独で会うというのは、話が拗れてもおかしくない、そう思うんだ」


「……儂らはそこまで短気ではないんじゃが」


ちょっとだけお爺ちゃんは不満を口にした。こちらに召喚されてきてからの活動で、そう思われるようなことはしてこなかった、と考えているんだろうね。僕もお爺ちゃん達が短気とは思ってない。


「天空竜達は自分達こそが全ての生き物の頂点に立つ種族だと自負していて、それはこちらの世界なら絶対的な真理で疑問の余地はない。でも、妖精さん達はそんな階級構造(ヒエラルキー)なんて関係ない。天空竜は活動空域が被らない、共存できる種族の一つ、その程度でしょう?」


「それはそうじゃ」


「話をする中で、天空竜のプライドをポッキリ折りそうで怖いんだよね」


僕の懸念が伝わったようで、父さん達も心持ち、顔色が悪くなってる気がする。家族の皆はこちらの常識である、絶対的な種族としての天空竜達、というイメージが邪魔をして、想像がそこまで伸びてなかったようだ。


「……アキ、懸念事項はわかった。天空竜と妖精達だけの会合は、確かに危うい要素を孕んでいると言えそうだ。それで、アキが加わる事の意味はどう考える?」


「僕は街エルフの子供という事もあって、今回の件では、妖精さん達、雲取様、どちらに対してもストッパー役、重し的な立ち位置になると思うんです」


「どういうことか説明して」


母さんが話を進めるよう促した。真剣な眼差しだ。危険性を見極めようとする強い意志が感じられて嬉しい。


「まず、妖精さん達。僕を失うと召喚が破綻する、そんな話は抜きにして、僕は守らないといけないくらい弱いと認識されているし、危なくないように守ろうと、妖精さん達は考えてくれている。だから、妖精さん達は僕がいれば、危ない橋は渡ろうとしないと思う」


「その通りじゃ。儂らは、そうでなくとも儂はアキを守るのに損得なんぞ考えたりはせんよ。そこは信じてくれて嬉しいのぉ」


「うん。お爺ちゃん達とはずっと仲良くしていきたいし、できると思ってるからね。だから、妖精さんの方は僕がいることが歯止めになる、と」


「雲取様、天空竜の方はどうしてなのかしら?」


「天空竜は、これまでの歴史的経緯もあって、子供に対して特別な感情を抱いていると思うんです。それが他種族であっても子供を害されれば、どれだけの怒りを産むのかと考えるくらいに。まして、僕は街エルフです。過去の凄惨な歴史を、今の天空竜は親から暗記するくらいには教えられている筈です。だから、街エルフで更に子供と言うのは、雲取様からすれば二重の意味で手を出しにくい存在でしょう。だから歯止めになる、そういう事です」


「アキがいれば、穏便に話が進む可能性は高まる、それはわかったわ。でも、アキ。今回、絡むのはそれだけではないのよね?」


やっぱり母さんならそう思うよね。隠し事はできそうにない。


「えっと。まぁ、そうなんです。僕の立場的に、雲取様は話を切り上げて接触を止めてもおかしくない、そう思ってます。妖精さん達だけで会ったら、それで用は済んだという事で、二回目はなくなるかもしれない、というか、なくなる可能性は高いと考えました」


「アキは、次元門構築計画の為にも、天空竜の参加は欠かせない、だから、この機会は絶対逃したくない、そういうことだね」


リア姉は、僕が何を一番にするか理解してくれている。


「うん。今集めている情報で雲取様は最優良物件だからね。次が今回より良くなる保証なんてないし、これだけ縛りがあるなら、会うべきだと思うんだ」


「理由はその二つかい?」


「あとは些細な話だけど、もうイズレンディアさんが、妖精達と僕とトラ吉さんが会う、と伝えているのに、当日にメンバー変更するのは、不誠実と思うからかな。できるだけ誠意を持って迎えたいから」


「……そうか。そこまで覚悟を決めているのなら、私達は送り出してあげるべきだろう。翁、妖精女王が来た際には改めて伝えるが、アキを、我々の家族を頼む」


父さん、母さん、それにリア姉が静かに頭を下げた。


「安心されよ。雲取様のプライドはアキが守るしかないが、雲取様とアキの身の安全は我らが必ず護ろう」


お爺ちゃんが朗々と響く声でそう宣言した。心に響く誓いの言葉。それは心に響く不思議な重さを伴っているように感じられた。


「それと、トラ吉。隣にお前が寄り添う事は、アキの大きな支えになるだろう。頼んだぞ」


「ニャ」


トラ吉さんもまた、力強く答えてくれた。

これなら大丈夫そうだね。父さん達が僕の事を大切だと、言葉と行動で示し、お爺ちゃんとトラ吉さんもそれを知った上で引き受けてくれたのだから。





「ところで、アキ。こちらへの旅の途中で、ケイティと一緒にお風呂に入ったんだったね」


真面目な雰囲気をぶち壊すように、余韻を切り裂いて、リア姉が爆弾発言を放り込んできた。


「え? あ、そ、そういうこともあったね」


確かにそんな事もあって、しばらくは、ケイティさんを見ると、頭に裸が浮かんで大変だったんだよね。服を着ているのに、服を透視するように、記憶が蘇ってきて、平静さを装うのも苦労したんだ。


「だから、姉妹で今よりもっと仲良くなる為に、私とも入ろう! ちょうど、旅をしてきてお風呂にも入りたかったから丁度いい」


リア姉がナイスアイデアといわんばかりに、満面の笑みを浮かべて、にじり寄ってきた。


「えっと、ケイティさん、僕が入れるお風呂、ここだと一人用の湯船しかないですよね?」


別邸で僕が使っているお風呂は一人用だ。


「確かにアキ様が今、使われている湯船は一人用です」


あー、なら狭いからまたの機会にと……


「大丈夫、こんな事もあろうかと、二人用の湯船は持参したから」


リア姉が晴れやかな笑顔で言い切った。たくさん持ち込んだ空間鞄の中身の結構な量は、リア姉のやりたい事に必要な物で占められているという事か。


「では、湯船の交換を行いましょう。さほど時間はかからない筈です」


ケイティさんも、リア姉の意向に沿うよう、早速、杖で空中に文字を描いて、ウォルコットさんを呼び寄せると、工事の依頼を伝えた。


「お姉ちゃんらしく、妹をお風呂に入れるの、やってみたかったんだよね」


などと嬉しそうに言われれば、なかなか断りにくいもので。結局、全身ピカピカになるまでお風呂で付き合う事になり、リア姉の洗い方が荒くて、肌が赤くなったところを見せて、反省して貰ったりと、とても疲れた。


色っぽい話、どこ行ったのーって感じだったけど、騒がしい入浴もたまにはいいと思った。


たまに、だけどね。

という訳で、久しぶりに家族が揃って、目前に迫った天空竜との会合について意識合わせを行いました。アキも薄々考えていたことを、披露して、翁の反応をみて裏を取りました。本編でも想像できる程度には情報は出してましたが、妖精さん達はかなりヤバい存在です。(戦闘能力的な意味で)

天空竜を恐れるのに、妖精達を恐れないなんて意味がわからない、と妖精界に住む長命種達なら語ることでしょう。人族は寿命が短いので、妖精達の欺瞞を見抜く経験が足りなくて侮ってますが。

そんな訳で、本番では当然アキは同席します。世界の平和のためにも重要な選択だったりします。


ifな話として、妖精達と雲取様だけで会合をしたならばどうなるかといえば、やっぱり、天空竜を上と認めない妖精達と軽く腕比べをしよう、などという物騒な話の流れになり、半径数キロの範囲は、灰燼と化して、風通しが良くなる感じでしょうか。で、お互い、相手に対して、なかなかやるではないか、と笑顔で認め合う……とまぁ、そんな感じの傍迷惑な流れになったことでしょう(笑)

地上付近で超音速飛行をしたり、ちょこまか飛び回る妖精がウザイからと、数百メートル範囲を爆炎魔術で吹き飛ばすとか、軽い牽制技として使っちゃいそうですからねぇ……。頂上決戦に巻き込まれる一般人からしたらたまったモノじゃありません。

次回の投稿は、七月二十八日(日)二十一時五分です。

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