7-4.家族集合(前編)
前話のあらすじ:天空竜の雲取様相手に、軽食を出してもてなす方針となりました。また、護衛をしているジョージ達の胸の内を聞くことができました。
すみません、17:03に投稿した筈だったんですが、なぜか投稿されてませんでした。何かミスったのか……。
エリー達との会合を終えて戻ってきたイズレンディアさんは、椅子に沈み込むように座っている僕を見て、目を見開いた。
「アキ様は、武術訓練の疲労で回復中デス」
アイリーンさんの説明を聞き、イズレンディアさんは心配していた表情を呆れ顔にガラリと変えた。
「アキ殿、弁舌に力を入れるにせよ、いくらなんでも運動を疎かにし過ぎだろう」
「うー、返す言葉もありません」
外面を取り繕うだけの体力もまだ回復してないせいで、目を開けているだけでもキツい。
「まぁ、街エルフの連中も、こうしてへばることがあるとわかっただけでも土産話になったがな。それと今後の方針が決まった。そのままでいいから話を聞いてくれ」
街エルフは、全ての分野で合格ラインに達しないと成人したと看做されず、国外に出る事も許されないから、イズレンディアさんもこれまで、隙のない街エルフしか見た事がなかったのかもしれないね。
あー、方針か。どう決まったんだろ?
ポンポンと頭を撫でて座ったイズレンディアさんに耳を向けて、聴いてますよ、のアピールをするのが精一杯だ。
「ロングヒル側の配慮もあり、雲取様との会合場所は、総合武力演習の行われた演習場で行う事になった。当日は妖精達が誘導路を空に描いて、雲取様が迷う事を避ける。それと護衛として、ロングヒルの守備隊、街エルフの人形遣い達、鬼族の駐留組、ドワーフの護衛隊、それと我々、森エルフの狙撃部隊が参加する事が決まった」
流石に、聴いてました、で済ます内容でもないので、気合いを入れて立ち上がって、頰を軽く叩いて気合を入れ直した。立っていて寝落ちする程ではないから、これで何とか大丈夫。
「……何でそんな大事に? ロングヒルが雲取様を信用できないとか言い出すとも思えませんけど」
「その通り、ロングヒルの上層部に雲取様をどうにかしようという意見はなかった。しかし、雲取様と君に手を出す輩がいないと言い切る事もできず、万一の事態に備えて、各勢力から精鋭を集めて、護衛をするという結論になったという事だ」
それが何で、寄り合い所帯で護衛なんて、変な話に繋がると?
僕が納得できない表情をすると、ケイティさんが話を引き継いで説明してくれた。
「アキ様、まず、おかしな事を考えるテロリスト供の可能性を完全に排除する事はできません。ここまではいいですか?」
「そこまでは。ない事の証明は難しいですからね」
「その通りです。そして護衛ですが、雲取様に危害を加えようとする人族がいる、そう思わせる何かがあれば、例え、実害が無くとも問題です。その為、当日、ロングヒルの住人は例外なく城塞都市内で待機となります。完全閉鎖にロングヒルの守備隊が必要です」
「成る程」
「次に、雲取様の庇護下にあるドワーフ族、森エルフ族が、雲取様の護衛に名乗り出ました。これは拒めません。また、森エルフの狙撃手達の観察眼、狙撃能力は例え、何かが投射されたとしても、空中で撃墜できる安心感があります」
まるで、生体イージスシステムと言わんばかりだけど、一射一殺、森エルフの矢は外れない、撃たれた者は矢が突き刺さるまで気が付かない、などと称されるくらいだから、適切な評価なんだろう。
「確かにそれはお願いするのが筋ですね」
「そして、アキ様がいる以上、街エルフの人形遣い達が護衛に出るのは当然です。また、チーム間の連携をサポートする役割も担います」
「ありがたいですね」
「最後に鬼族ですが、これはアキ様への好意と、置かれた立場上、護衛に参加した方が良いと判断された為です」
立場。
「他の種族、勢力は雲取様との会合に尽力しているのに、鬼族が何もしないと、悪目立ちしてしまう、それは避けたいとか?」
「そうです。僅か五人ではありますが、彼らは少数精鋭の極致です。天候操作級の大規模魔術でも何とかしてみせる、と豪語してました」
「えっと、それと、好意でしたっけ」
「そうです。認めた者が意思を貫こうとする、ならば、手を貸すのが義というもの、と」
「素敵ですね。あー、見たかったです。セイケン、いい顔してたのでしょう?」
「……そうですね。信じるに足る方々でしょう」
ケイティさんもそこは素直に認めてくれた。なるほど、それなら、ロングヒルに来ている種族全員集合みたいになったのもわかる。
これに、会合参加者でもある妖精さん達も加わるのだから、この体制は現状考えられる最高のものと言えるだろう。ここまで大事になるとは思わなかったけど、それだけこちらの人達にとって天空竜という存在は大きいんだね。
◇
森エルフ達の狙撃部隊がやってくるのに時間がかかるけど、それでも二週間後を予定している、人類連合参加国のロングヒルにいる人達との勉強会よりも前に、雲取様との会合を行うことが決まった。手順としては、まずイズレンディアさんが深緑の国に戻って雲取様に、調整結果を報告して会合の日取りを確定。
次に会合の日の前までに森エルフの狙撃部隊がやってきて、守備につく。
雲取様の移動は数時間もあれば十分なので、当日、予定時間に間に合うように飛んできて貰う。
護衛を担当する人達と、ジョージさん達、僕の護衛をしているスタッフメンバーのうち合わせも頻繁に行っている。今回も念のため、地下深くまで探査術式を用いた安全確認が行われるとのこと。
天空竜である雲取様はよほどのことがない限り、怪我を負うことはないけれど、下手に反撃とかされると、街が壊滅的な被害を受ける恐れすらある。だから、雲取様が反撃するような可能性を減らさなくてはならない。
会合に立ち会う妖精さん達は、小さい体躯とは裏腹に、その戦闘力は異様に高く、もし死傷するような事態に陥っても、彼らは妖精界から召喚体として来ているだけなので、実害はまったく受けることはない。だから、天空竜よりも安心だ。もし、テロリストが暴れても再召喚すれば、あー、大変だったね、と軽く流して貰えることだろう。
そして、僕。実は会合に出るメンバーで一番脆弱で、問題を孕んでいたりする。矢の一本でも、爆発物でも、魔術でも、僕を害することはとても簡単だ。防衛計画では、第一防衛ラインは演習場の周囲の広い範囲を立ち入り禁止にすることで確立する。第二防衛ラインは演習場を囲んでいる土手部分に森エルフの狙撃部隊を配置して監視、迎撃を行う。第三防衛ラインは、僕が会合時に立つ位置を囲むように、護衛珠と呼ばれる街エルフ謹製の浮遊式魔導具を設置して、飛翔物、魔術を防ぐ。そして最終防衛ラインは、子守妖精のお爺ちゃん。耐弾障壁を含めた各種魔術を駆使して守る。街エルフの人形遣い達は全体の統制を行い、ドワーフ族、鬼族は遊撃部隊として必要な場所に必要な人数だけ派遣して問題に対処するそうだ。
相手が館より大きな天空竜だから、会合は外で行うしかない。しかも、自分で身を守る術を持たない街エルフの子供が参加するとなれば、しかもその子供が魔力が強過ぎて、魔導具に触れると壊しちゃうとなれば、こういう手間をかけざるを得ないのも納得だ。
とはいえ、天空竜が話をしたいといい、はい、わかりました、お話しましょう、というだけの話だけだった筈だ。なのに話が具体的に進むとここまで影響範囲は広くなり、参加する人達もかなりの人数になっていくのは、想像以上だった。
◇
エリーやセイケンからは、有名人になったと揶揄われつつも心配され、会話内容だけに偏重していた活動内容も、運動もある程度取り入れるように見直した。何か危険があった時に僅かでも僕が動ければ、それだけ生存率が高くなるのだから、訓練も気合が入るというものだ。
といっても、トラ吉さんと追いかけっこをするように遊びの要素を取り入れることで、僕が飽きたり、疲弊したりしないよう配慮はしてくれている。ありがたいことだね。
そんな毎日を繰り返していたある日、ウォルコットさんの操る魔導馬車で、ロングヒルの別邸に街エルフが二人やってきた。父さんとリア姉だ。やっと、出国の許可を勝ち取ってきたのだという。
「アキ、久しぶりだね」
「ロングヒルで魔術の勉強をしてるだけだったのに、あの天空竜と会合だなんて、私も驚いたよ」
父さんもリア姉も馬車から降りてくるなり、僕の元へと寄ってきて、手を握るとそんなことを言ってきた。二人ともちょっとお疲れな感じが見て取れる。少し寝不足だったりするんだろうか。
ちなみに街エルフは、老衰で死んだ者がいないと言われるほど長命で、父さんと言うけど、降りてきた父のハヤトさんはせいぜい二十歳といった青年といった外見で、長い時間を過ごしてきたことが伺える眼差しだけが年を経ていることを教えてくれる。結構体も鍛えているけど、種族の違いもあるから、ハーフのジョージさんに比べるとやっぱり、体のボリュームはいまいちだ。かなり鍛えてはいる感じなんだけどね。
そして、もう一人、僕のこちらでの姉であるリア姉は、街エルフではあるけど、父さんや母さんほどには、眼差しからも年齢の長さは感じさせない若さがある。僕と同じ銀髪、赤眼という特徴は、地球でなら目立つ外見だろうけど、魔力属性に応じて髪や瞳の色が変化するこちらの人々からすれば、カラフルな色合いの一つ、といった感じに思える。
実際は僕が見慣れないからこそ、そんなのんきな感想になるだけで、今の僕とリア姉の持つ魔力属性、無色透明は唯一無二とまで言われるほど希少な属性なので、こちらの人達からすれば、珍しい色合いに感じられることだろう。
秋の日差しに合わせてか、二人とも夏ほど薄着ということはないけど、活動的なことを好む二人ということもあってか、服装は動きやすさを優先して選択した感じのラフさだ。
「二人ともお久しぶりです。ちょっと寝不足だったりします?」
「頭の固い老人達の説得に手間取ってね。まぁ、こちらではのんびりさせてもらうさ」
「アキが出国してから、家の中が広く感じられて寂しかったよ。あ、トラ吉、アキの面倒は見ていてくれたかい?」
「ニャー」
「それは良かった」
リア姉は足元に寄ってきたトラ吉さんをひょいと持ち上げて、話しかけると、面倒臭そうに返事をするトラ吉さんに顔を埋めて、嬉しさを表現していた。
僕の隣にいた母さんも、二人の来訪を歓迎した。
「二人ともよく来たわね。色々あったでしょうけど、こうして家族が揃えて嬉しいわ」
そうだね。……地球にいるミア姉は仕方ないとして、こちらにいる家族が集まったのは一カ月ぶりといったところだ。街エルフの国にいた一カ月半の期間、短い期間だったけど、こうして集まると、なんか心がほっとした感じになる。不思議な感じだ。
「皆様、遠路はるばるお疲れのことでしょう。先ずは中にお入りください」
ケイティさんに促されて、皆が別邸に入った。ふと見ると、魔導馬車からは続々と空間鞄が取り出されて、こちらもまた、別室のほうへと運ばれていくようだ。
「ウォルコットさん、そちらの鞄は?」
「アキ様、こちらは人員不足の穴埋め用に派遣されてきた魔導人形の追加要員達です。受け入れ確認ができ次第、部署への配置となります。別の機会に顔合わせの場を設けますよ」
ウォルコットさんの助手人形であるダニエルさんも手伝って、どんどん空間鞄を運んで行ってる。一体、何人の魔導人形がやってきたんだか。一つの鞄に五十人とすると、ざっとみて三百人ってとこか。まぁ流石に全部が魔導人形ってこともないんだろうけど、なんとも大盤振る舞いな大増員だ。これでケイティさん達の負担も少しは減るといいんだけどね。
「アキ様、そろそろお入りください」
「あ、わかりました」
ケイティさんに呼ばれて、僕も別邸へと戻った。家族の予想外に早い集合となった日の空は、とても蒼く澄んでいた。
雲取様との会合を無事に終えるため、かなり気合の入った護衛体制が取られることになりました。アキの想像を超える規模、内容だったようですね。
それと、遂に街エルフの国から、アキの父と姉がやってきました。出国してくるのに、かなり無理をしてきたようですが、発言の通り、こちらでのんびりすることになるでしょう。
次回の投稿は、七月二十四日(水)二十一時五分です。