第六章の施設、道具、魔術
六章でいろいろと施設や道具、魔術が登場したので整理してみました。
◆施設、機材、道具
【街エルフの大使館】
大使達の居住スペースを兼ねた建物で、非常時には砦としても機能するよう設計されているが、外見はいかにも戦闘用といった雰囲気は極力排除された作りとなっている。空き部屋も多く、普段は建物の一部だけが使われているような状態だった。しかし、妖精達が頻繁にこちらで活動するようになると、妖精達との交流を行うための人員が常駐するようになり、彼らのために二十四時間、いつでも食事を提供できるよう厨房はフル稼働するような事態に陥っている。人形遣い達の工房も開かれて、大使館はほとんどの部屋が何らかの作業で使われるような状況にまでなってきており、女中人形達も普段の人数ではまるで足りず、新たに大幅増員されることになった。そこにきて新たにドワーフ達が大勢押し寄せてきて、しかも少なくとも半年程度は百人を超える大人数が居続けることが確定した。ドワーフとの交流要員も確保せねばならず、雲取様からの勅使として森エルフまでやってきて、大使のジョウは急遽、本国に人員の大幅増を要請したそうだ。
【人形遣い達の工房】
アヤの護衛として、数多くの魔導人形達、特に損傷することが想定される小鬼人形達の修理、整備を行うため、十人の人形遣いが急遽、街エルフの国から派遣された。そんな彼らは大使館の空き部屋を使って、臨時の人形遣いの工房を開くことになった。各部屋には成人サイズの魔導人形を仰向けにできる作業台と、作業机、それに大量のパーツを収納する棚といった最低限の用意をされており、そこに人形遣い達は、空間鞄を利用して持ち込んだ愛用の品々、予備パーツなどを並べて、工房として稼働させる準備を整えていったのだ。結果として、総武演の後には、予想通り、あちこちのパーツを損傷した小鬼人形達が修理を待つことになり、それ以外にも続々と追加投入される魔導人形達、大使館で働く女中人形達のメンテも担うことになった。
ちなみに、派遣された人形遣い達は、どちらかといえば人形達を指揮して戦闘行動をするのが得意なタイプだったこともあり、終わりの見えないメンテ作業に悲鳴を上げて、本国から人形作りのプロ達を呼んで交代させてくれ、と懇願したらしい。
【鬼族の邸宅】
セイケン達は半分は国元に帰ったが、半分はロングヒルに残ることになった。それも一時的なものではなく、長期的なものであり、そのため、仮設住宅ではなく、本格的な邸宅を建てることになった。人類連合に初めて設置される大使館としての役割も担うということで、それなりの規模になる見込みである。
アキ達が訪問した時に見たように、中の作りは全てが鬼族の体格に合わせて作られているため、人族が入ると大人であっても、まるで自分が小さな子供に戻ったかのように感じられてしまうほど、全てが大きい。
テーブルの椅子に座るためにも、よじ登る感じになってしまうくらいだ。
人族との交流を想定しているため、邸宅内には人族が使うことを想定した設備や家具が置かれることになる。それに、鬼族が自由に歩き回れるほど、まだ信頼関係を築けていないので、常駐する鬼族の者達が体を動かすのに不自由しないよう、広い庭も確保されることになる。そのため、敷地面積は街エルフの大使館領よりはだいぶ小さいが、それでも人族換算でいけば、貴族の屋敷といった規模となるだろう。
【ドワーフ族の複合工業施設】
彫刻家が見せた妖精族の金属加工の妙技は、ドワーフ族に衝撃を与えた。何せ彼らのこれまでの歴史の中にはなかったまったく別系統の技術、それも隔絶した遥か高みにある技なのだから。ヨーゲルを含めた技術者達の熱意溢れる正確な報告は、本国にも衝撃を齎し、結果として、異例と言える百人からなる施設建設の職人集団大規模派遣に踏み切らせることになった。ロングヒル側から敷地を借り受けるにしても、いくらでも好きな広さで、とはいかない。そんな限られた制約の中で、ドワーフの技を妖精に披露できるだけの施設群を用意しなくてはならないと考えた。ドワーフ達も、妖精達がアキに召喚されているという縛りがあるため、自国に招くのは難しいと認識しているようだ。そのため、まるで狭小住宅を作るように、各分野の設計のプロがかき集められて、知恵を絞ることになった。先行組が地盤改良から始めたのは、上物がどうなるにせよ、地盤がそれを支えられる強度がないことには話が始まらないため。そんな訳で設計と建設を同時並行で行うという無茶な話が始まったのである。
◆魔術、技術
【ボウガン/コンパウンドボウガン】
自動巻き上げ機構と、自動装填機構、それに加速術式のおかげで、毎分十発程度の速度で貫通術式付与の太矢が叩き込めるという逸品、高価な魔導具である。現代のライフルと違い、術式付与の太矢はとても高額なので、ばら撒くような射撃や、上から降らせるような撃ち方はしない。あくまでも狙うは一撃必殺。それだけの命中精度、矢速、そして火力を備えている恐ろしい武器である。
【兵士達の白兵戦武器】
敵の対弾障壁を切り裂くため、実戦では白兵戦武器には中和術式が刻まれることになる。つまり魔剣だ。敵味方双方が障壁を展開し、魔術をぶっ放し、斬り込んでいくのだから、こちらの戦場はなんとも恐ろしい。彼らの使う武器はどれだけ全力で叩きつけても折れず、曲がらず、切れ味も保たれる逸品である。ちなみにそんな垂涎の武器だが、小鬼達は例え人族を倒しても自分で使ったりはしない。大きさが違い過ぎて、上手く持てないからだ。同様に、鬼族もまた使わない。彼らの手には小さ過ぎるからだ。
【魔導甲冑】
全身鎧を着ていても、着ていない人並みに素早く動けて、両手剣を片手で振り回す身体強化も併用できる。現代で言うところのパワードスーツといった位置付けだ。鎧の各所に彫り込まれている呪紋によって、本編で見せたように空中を蹴って更に飛び上がったり、着地の衝撃を和らげたりもできる。子供達にも人気の職業だ。
ただ、それを着るということは、強敵と戦うことと同義であり、あまり美味しい役職とは言えないかもしれない。今回の総武演を受けて、来年の人員募集枠がすぐに溢れるのか、閑散としてしまうのか、人事担当は先が読めず頭を抱えているのだった。
【人形遣い】
アヤが見せたように、人形遣いの真価は、展開している人形達のリアルタイムな情報共有と、疲れを知らない人形のタフさの相乗効果にある。常に局所的に数的有利を作り出すのも腕の見せどころだ。実戦ではあれに耐弾障壁の展開や、幻術、閃光術などの併用によって、更に手に負えなくなるのだ。人形遣いが鬼族と同戦力と見做されるのも当然と言えよう。ちなみに人形遣いは、配下の魔導人形達とのコミュニケーション、訓練も欠かさない。人形遣いからの指示はあくまでも大雑把なものであり、それを戦技レベルで実現するのは個々の魔導人形達なのだから、どう動けばいいか、追加戦力投入への流れはどうするか、上空を飛行する鳥型の魔導人形達はどう飛ぶかなど、決めることは多い。そのため、街エルフは全員が人形遣いであるのは確かだが、誰もがアヤのように多数の人形達を指揮できるか、というとそうでもない。魔導人形を作ること、メンテすることが得意な者もいれば、アヤのように指揮するのが得意な者もいるといった具合だ。
【辻風】
鬼族の愛用武器「鉄棍」に渦巻く風を纏わせて、敵を倒す技であり、ギリギリで回避するような手練れにこそ、この技は真価を発揮する。威力は本編で見せたように、とても人族に耐えられるようなものではない。また、この技は威力や範囲、持続時間の調整をかなり細かく制御できる特徴があり、鬼族の代表技と言えるだろう。
【大楯】
鬼族が持つ扉楯を更に大きくした仮初めの巨大鉄板を創造する魔術である。障壁と違い、空間に固定するような使い方はできないが、その大きさ、重さを活かして、本編のように上から押し潰すような真似には使える。セイケンの使い方は応用技であり、普通は扉楯の前に展開して、投槍の超火力を止めるのに使ったりするようだ。
【軽身術/重身術】
セイケンが見せた武術補助系魔術で、重さを操作するという意味では、同系統の術式となる。熟達した者であれば、身を軽くすれば羽毛の如く、そして重くすれば大岩の如くなると言われている。ジョージが見せた身体強化との違いは、人族のそれは制御用の魔導具を併用したものであり、鬼族の方は身一つというところで、鬼族の場合、拳が当たるその瞬間だけ身を重くするなどと言う細かい制御もできるが、人族の魔導具では、発動、待機、終了の制御くらいしかできない差がある。
【妖精の花弁大量生成】
妖精達が上空へと噴水のように大量に花弁を創造して吹き上げた魔術だが、花弁の再現性、その数の多さ、そして、会場中に舞い降りるまで存在し続ける持続性という要素が揃うと、その難度は戦術級魔術に達する。妖精達でも一人で全ての花弁を創るのはキツいため、六人で分担していたのだ。
人族なら高度な魔術の無駄遣いと言うところだろう。
【妖精の広域風制御】
総武演の会場全域に対して、妖精達が上に蒔いた花弁を満遍なく散らして、ヒラヒラとゆっくり舞い落ちるよう風の流れを繊細に制御し尽くした戦術級魔術である。これ程の制御は、妖精族でも賢者以外には実現し得ないものである。
【妖精の姿消し】
妖精の十八番、姿消しの魔術である。完全に透明になり、影も残らないため、通常の視覚情報だけで妖精を見つけるのは、ほぼ不可能となる。彼らはこの魔術も補助的に使うだけで、そもそも見つかりにくいよう隠れながら移動するのだから、タチが悪い。
【妖精の幻影術式】
鷹の生き生きとした姿を描き出した術式で、一枚一枚の羽の動きまで完全に再現していて、視覚情報だけでは幻覚と見破ることができないという高難度魔術である。妖精達の凄いところは、この幻覚を纏いながら、鷹の飛行を完全に再現していたことにある。妖精自身は重力を無視したような飛び方ができるが、鳥の飛び方を彼らは熟知しているが故に、その飛び方も模倣できるのだ。
彼らは透明な妖精を血眼になって探す警戒網を、鳥の幻影を纏うことで、堂々と正面から突破してのける訳だ。
【妖精の光粒散布】
小さな光の粒をある程度の時間、その場で輝かせるだけの簡単な魔術だが、これを数百、数千とばら撒くとなると話は変わってくる。また、光の花を描いた時のように何時間も輝き続けるとなれば、その負担も格段に跳ね上がる。空まで届く巨大な光の花は美しい姿をしていたが、魔術を知る者にとっては恐怖すら感じさせる代物だったのである。その辺りの懸念、恐れについては雲取様が語ってくれることだろう。
【妖精の投槍】
翁やシャーリスが簡単にポンポンと生成して投射している魔術だが、実は天空竜の鱗を貫通するなど、威力も高く魔術としての位階も高く、人族の魔導師なら何発か投射すればへばる高等魔術だったりする。
射程距離は七十メートルほどだが、精密狙撃なら十メートル程度となる。こんなのを軽々と連射しまくる妖精族がどれくらいヤバいのかは、いずれ、アキが興味を持てば語られることにもなるだろう。
何十本も一度に生み出して一斉発射する技をシャーリスがやってのけたが、詠唱もせず、術式名すら口にせず、瞬時に発動、射出しているのだから、ケイティの表情が凍り付くのも当然だ。
聞けば教えてくれる話だが、一斉発射技は流石に妖精の誰もができるものではなく、こちらにきているメンバーで使えるのは、妖精女王のシャーリスと賢者の二人だけである。
【他者魔術への介入】
妖精女王のシャーリスが簡単に実演して見せた技術だが、魔術発動時の種火、起点に対して、他の魔術を割り込ませることで、正常なプロセスでの起動、稼働を失敗させるもので、人族では世界中探しても数える程度の術者しかできない神技である。
実は起動前、起動中、起動後のどの時点に割り込むかによって、魔術の破壊パターン、結果も変わってくるのだが、そこまで説明しては冗長だろうと、シャーリスが端折ったりしてる。
この辺りは後から師匠辺りが検証して、色々と問題を見つけて揉めることになるのだが、それは先の話。
【妖精の製造作業】
妖精さんの製造作業として、彫刻家は三次元プリンタ的な機能を持つ作業皿を使って見せたが、それは、アキに贈るための最高級の彫像を一切の妥協なく作るのに使った技術がそれだったからで、妖精族の物作りが何でも3Dプリンタモドキという訳ではない。
彼らの家は草木を編んで作るが、それらは材料を調達し、魔術で折り曲げて、編んで、というように人がする作業を魔術で行なっているだけなのだから。
ただ、技術が魔術ベースなので、魔術での加工のし易さ、魔術抵抗の強さなど、こちらでは魔導具作りの際に考慮する話が、一般製品レベルでも絡んできたりする。
また、大きな物を作る技術は得意ではない。彼らが作る一番大きな物は家や物置あたりまでなので、さほど必要としてこなかったからだ。拠点に篭って防衛という概念が無く、全てを空戦で片付ける彼らにとって、素早く再出撃の準備をする補給施設を作ろうという考えはあるが、それは家や倉庫を集めただけで事足りてしまう。
そういった根本的な思想の違いなども今後の交流で明らかになってくることだろう。
◆その他
【八つ橋を焼く器具】
鉄板、押木、寄木、焼いた後、丸みを付けるための道具「テキ」と、京都で使ってる道具をそのまま再現しており、女中人形のアイリーンがひたすら手焼きで作っていたりする。好評だったのはいいが、大量生産なるとアイリーンが片手間でという訳にも行かない。しかし、そこで救いの主が現れた。そう、ドワーフ技術者達である。彼らに頼んで自動焼きの魔導具を作って貰うことにしたのである。流石に生地は人が作る必要があるが、後の焼きと丸み付けはやってくれる優れものになる予定。
ちなみに魔導具作りが生で見られると、妖精の彫刻家もその工程を見学することになったりして、その影響範囲は思いのほか広がっていきそうである。
ブックマークありがとうございました。執筆意欲がチャージされました。
あと、誤字・脱字の指摘ありがとうございました。大変助かります。何度も見直しているんですが、なぜか見落とすんですよね……。
本文での説明と重複して同じ内容を書いても意味がないので、内容は少し別の視点から書いてみました。
というか、人物紹介と施設・魔術紹介だけでテキスト量21k文字とは……(笑)
通りで書いても書いても終わらない気がしました。
次回から七章スタートです。天空竜の雲取様が遂にやってきます。
投稿は、七月十日(水)二十一時五分の予定です。
※風邪で体調を崩しているため、投稿日が7月十四日(日)にずれる恐れがありますがご了承ください。




