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6-25.雲取様の竜神託《オラクル》

前話のあらすじ:妖精の彫刻家さんが、妖精が金属加工をどう行うのか、簡単なデモンストレーションを行い、ドワーフ達はそれに衝撃を受けました。

結局、ドワーフの皆さんは、鬼族の敷地の隣に居を構える事になった。すぐ近くにロングヒルの城塞都市と、街エルフの大使館領があるから、防衛面では心配ないようだ。

それより、ドワーフ達が拘ったのは、上下水の取り扱いだった。何せ、彼らはここで、妖精達相手に自分達の金属精錬や加工の技を見せるつもりだ。一般的な金属塊は本国から運ぶとしても、実際に精錬や加工作業をするとなれば綺麗な水は欠かせず、また、排水も飲めるレベルまで浄化できなければ、ここでの製造作業など許可が降りない。そのため、滞在するドワーフ達は十人に満たないのに、関連施設を作るために百人を超えるドワーフの職人達が続々と集まって、恐ろしい程の手際の良さで、地盤改良工事から手を付け始めた。

建設完了までは半年くらいはかかるそうだけど、建設予定図を見たら、様々な用途の工場や魔力供給施設、浄水施設などを組み合わせた複合工業施設といった感じだった。一つずつの建物はさほど大きくないけど、一つや二つの分野だけじゃない。ドワーフ達の技術者達のどの分野のメンバーがきても技を披露できるように、といった気合の入れようだ。


ドワーフ達は、妖精族の技に触れて、国を挙げて、学ぶ気になったのだろう。


魔導具だらけのようで、僕は敷地に近づくことも遠慮するよう話がきているとのこと。

その技を直接見れないのは残念だけど、妖精の場合と同様、魔導具に記録してくれているだろうから、いずれ、ダイジェスト版でも見せてもらうことにしよう。





エリーが作る火球を消したりと、魔術の方はやる事は変わらないけど、消そうと明確にイメージした時と、何も考えずにただ杖を火球に突き入れた場合では、消え方に違いがある事がわかって、ほんの少し前進した感じだ。

意識した時は、吹き消すような感じで、意識しない時は透明なカバーを被せて酸欠にした時のような感じに消えるのが、なかなか面白くて、イメージの内容でも変化があるか、意識せずに突き入れて、それから意識するとどうなるかなど、様々なバリエーションを試してみた。


僕としては新鮮な経験だったので楽しかったんだけど、無造作に突き入れた杖すら焦げない状況に、エリーが不貞腐れてしまって、そちらのフォローの方が大変だった。


それでも、魔術の訓練は穏やかな方だった。それより波乱尽くしだったのは、天空竜対策の打ち合わせの方だった。





打ち合わせには妖精女王のシャーリスさん、お爺ちゃん、それに近衛さんも参加して、いつものスタッフメンバーにエリーと母さん、あと、師匠にセイケンまで加えた大人数となった。

セイケンもいるので、別邸の庭に椅子を並べての打ち合わせだ。


「それで、もし、雲取様がロングヒルにきて話をする事になるなら、こちらからは召喚の関係者として僕、それに光の花を作った当事者として妖精さん達、あと、これは本人の希望という事で、トラ吉さんで対応しようと思うんだ」


「ロングヒルに天空竜がくるのに、うちの関係者を入れないって事かしら」


「そうだね。ロングヒルに用事がある訳じゃないから、関係の薄い人は極力排除した方がいいと思うんだ。天空竜を前にしては、人が何人集まっても戦力としては変わらないというし、この前、ここの上空を雲取様が旋回してた時も、上空をゆっくり飛んでいただけだったのに、結構、混乱したんでしょう?」


僕の指摘に、エリーは勿論、サポートメンバーの面々やセイケンまで気まずそうな顔をした。


やはり、天空竜の恐ろしさは、空元気ではどうにもならないレベルなんだろう。


「でも、もし、何かあったら――」


エリーが心配そうな声をあげてくれた。確かに、天空竜のあらゆる行動は全て即死級で、防ぐという思考は現実的じゃない。


「一つ、良いかのぉ。話題に出ている天空竜じゃが、アキとトラ吉だけであれば、妾達で初撃は何とかできるぞ? 流石に本気で天空竜が怒るようなことにはなるまい。ならば、偶発的な事故さえ防げれば、それで十分。そうではないかえ?」


シャーリスさんが、何とも驚きの提案を切り出した。皆が驚きの表情を浮かべた。特にセイケンは身を乗り出してくるほどで、その驚き具合もわかるというものだ。


「シャーリス殿、事故を防ぐというが、天空竜の鉤爪や牙はあらゆる障壁や防具を貫き、竜の吐息(ドラゴンブレス)は砦すら溶かし、行使する魔術は瞬間発動で、その位階も我等、鬼族のそれより遥かに高いと聞く。それを初撃だけとは言え、防げるというのか!?」


セイケンが手振りまで加えて、天空竜の暴虐ぶりを話し、防げるという言葉が俄かには信じ難いことを素直に伝えた。


シャーリスさんは腕を組んでふむふむ、と考えているぞ、のポーズをとってから、ニヤッと笑みを浮かべた。なんか、派手な事を思い付いた感じだ。


「妾達、小さな妖精が防ぐと言っても俄かには信じられないのも無理はない。そこでじゃ。お主に少し手伝って貰い、不安を払拭しておこう。セイケン、そこに立て。アキはそのままでは手が届かない位置に行くのじゃ」


シャーリスさんの指示で、ならば見せてもらおうとセイケンが指定された位置に立ち、僕は彼が一歩踏み込まないと届かない場所へと移動した。


「本物を撃ち出しては怪我をするじゃろうから、今から訓練用の槍を撃つ。少し痛い程度の筈じゃ。セイケン、耐えよ」


シャーリスさんがそう話すと、セイケンさんの返事を待たずに、妖精サイズの槍が出現し、同時に凄まじい速度で撃ち出されると、セイケンの足の小指の先に直撃した。


「痛ッ!」


顔を顰めたセイケンの表情を、見ているだけで痛そう。


「この通り、妾達の魔術もまた瞬間発動じゃ。では、セイケン、本番じゃ。どのような動きでも良い。アキに触れようとしてみよ。遠慮は要らぬ。妾が間に合わなくとも翁の障壁が自動発動するから――」


シャーリスさんの話が終わるのを待たず、セイケンさんが貫手を僕に向かって放った。


いや。


放とうとしたんだと思う。


実際には、体が僅かに沈み込み、腕を突き放とうと力を込めた瞬間に、彼の足のあちこちに妖精の槍が突き刺さって、彼の動きを大きく乱して、動きを無理やり止めていたからだ。


彼の頰を冷や汗が流れ落ちた。ちなみにかなり痛そうな顔をしてる。


「このように、体の大きな者達は、行動する際に予備動作をしなくては、体を動かせぬ。その動きを、魔力の流れを見通せる妖精の目を避けて行う事など無理というもの。そして、狙った位置に槍を撃ち込む事など、妾達からすれば、初歩の技じゃ」


「――身に染みて理解できた。これが瞬間発動の魔術か。体の大きな者ほど不利とみたがどうだろうか?」


痛みに顔を顰めながらも、セイケンが気付いたことを聞いてみる。


「流石じゃ。小さき者、軽い者ほど予備動作は少なく済む。大きければその逆じゃ。天空竜ほど大きければ、奴らが竜の吐息(ドラゴンブレス)を吹こうとする間に、妾達ならば、槍を四、五回は放てる。そして、普段、頑丈な鱗に覆われているからこそ、貫通してくる槍の鋭い痛みに奴らは弱い。狙う所を調整すれば、違う方向へと首を向けることも可能じゃ」


「うわー。シャーリスさん、それって凄いけど、加減が難しそうだね」


「アキの言う通り、あくまでも妾達の槍は事故を防げる程度に過ぎぬ。天空竜に痛みが来ると覚悟を決めた上で行動されれば、如何に槍を沢山突き刺そうとも、その動きを阻害する事などできないじゃろう。天空竜が本気にならない程度に、加減するのがコツじゃ」


成る程、確かに偶発的な事故防止ならできる、と。その通りだ。


「シャーリス様、天空竜の爪、牙、それと竜の吐息(ドラゴンブレス)は防げると理解しました。では、天空竜が瞬間発動する魔術はどうされるのでしょうか?」


ケイティさんが疑問を口にした。確かに瞬間発動となれば、割り込みは難しいようにも思える。


「ふむ、それは妾が実演してみせよう。翁よ、妾に対して、火球を放ってみよ。数とタイミングは任せる」


シャーリスさんが、腰に手を当てて、さぁ、とお爺ちゃんに指示した。近衛さんが万一の事態に備えて、シャーリスさんの後ろに控えているけど、基本的に手を出すつもりはないようだ。


「間違って当てても恨み言はなしですぞ」


「無論だ。来るが良い」


ならば、と、お爺ちゃんが杖を前に出すと、突然、離れた位置から火球が出現して、シャーリスさんへと放たれた。


実際には、火球が出現位置から、ほんの僅か動いたかどうかというところで、妖精の槍が放たれて中心を射抜いて消滅させた。


しかも、槍は火球を貫いたところで虚空に消えていき、流れ弾の被害も出ない。


「ほぉ。では、行きますぞ」


お爺ちゃんの宣言と同時に、お爺ちゃんの周囲から、出現位置も、撃ち出す速度もバラバラに、秒間三、四発というペースで一分ほど撃ちまくり、シャーリスさんもまた、それらを全て、現れた瞬間に撃ち消すという離れ技を見せてくれた。


「と、まぁ、このように発動した瞬間に、他の魔術をぶつけて消すのは、そう難しいことではないのじゃ。因みに今のは、妖精達の子供の頃に行う遊びでのぉ。強過ぎれば誰も相手をしてくれぬ、手を抜けば相手が怒ると、なかなか難儀したものじゃ」


などとシャーリスさんがパチリとウィンクしてみせた。今の感じだと、小さい頃はさぞかし無双状態だったのだろう。


「お見事でした。ちなみに射程ってどれくらいです?」


僕の問いに、シャーリスさんは少しだけ感心した顔をしてみせる。


「槍の飛ぶ速さにも限りがあるから、この庭の広さ程度が撃ち消せる限界じゃろう。それに遠くなれば精度も落ちる。遠くからなんとかしたいなら、このように数を撃つのが良い」


などと話しながら、シャーリスさんは、妖精の槍を何十本と生み出して、一斉に空に撃ち出した。ある程度飛ぶと消えたけど、ショットガンのような使い方だね。


庭の広さからすると、瞬間発動の魔術を妖精の槍で撃ち抜く場合、射程は十メートルくらいのようだ。天空竜と話をするにしても、あまり近いと相手がよく見えないし、遠いと話をするのも大変だから、丁度いい距離だろう。


ケイティさんの表情の凍りつき具合からすると、今の沢山撃ち出す技も超絶技巧レベルなんだろうね、きっと。


「すみません、師匠。霧を生み出したり、風の覆いを作るような魔術の場合は、どう撃ち消すんですか?」


火球は中心があるけど、魔術の種類によっては明確な中心がない場合も多そうで気になった。


「アキ、魔術は人、鬼、妖精と発動までの過程は異なるが、発動時に一定以上の密度に高めた魔力を種火として、魔術を起動する点は同じなんだよ」


「ソフィア殿の話された通り、妾達の魔術も瞬間発動してはいるが、発動後の流れは変わらぬ。そして、だからこそ、種火と呼んだ起点部分に他の魔術をぶつける事で、邪魔をする事は可能ということよ」


シャーリスさんは簡単そうに言ってるけど、ケイティさんやセイケンは、無理って顔をしている。師匠はと言えば、難度は高いけどできなくもないって感じかな。


人族系は、魔力を集束して圧縮して発動と三行程だから、師匠みたいな熟練の域に到達しない限り基本的には無理としても、鬼族の魔力の活性化をして発動の二行程でも無理か。

一行程でできる天空竜や妖精が別格と。


「偶発的な事故さえ何とかなるなら、人員を絞る方向で良さそうだね。天空竜からすれば、人の世界の(しがらみ)なんて、どうでもいい話だろうから」


「――そうね。そうならないかもしれないけど、そう想定しておきましょう。何を話せるか、約束できるか、何処は譲れないか。後は私達で詰めておくわ。アキはそろそろ時間でしょう?」


母さんが総括してくれた。時計を見ると、確かにそろそろ寝る時間だ。


「それじゃ、あとはお願いします」


挨拶もそこそこに、僕は打ち合わせの場を後にした。シャンタールさんも一緒に来てくれたから問題なし。


後で聞いた話だと、過去に天空竜が起こしたちょっとしたお茶目な事件の話とかも色々と紹介されたりして、話し合いの時間はかなり伸びたとの事だった。





そんな風に、いずれ来るであろう雲取様からのアプローチを指折り数える日々も、さほど続く事はなく、ある朝、起きると、少しだけ緊張感を纏ったケイティさんが、正式な行事の際には着るよう言われていたお出かけセットのワンピを用意して、待ち構えていた。傍らにはお爺ちゃんとトラ吉さんもスタンバイしている。


「あれ? 何処か出掛ける話ってありましたっけ?」


「外出はありませんが、アキ様の望まれていた使者が来ました。森エルフの勅使です。公式な対応となるので、朝食を終えたらこちらに着替えてください」


「当事者を全て呼ぶよう要請があり、久しぶりに我が国からもフルメンバーを召喚しておるぞ」


おー、それは何とも豪華な。


「それで、その方はどちらに?」


「今は客間の方で寛いで貰っています。とは言え、急ぐ必要はありません。食事をして身支度を整えるだけの時間は確保してますので、ご安心ください」


「分かりました。いざとなるとちょっと緊張しますね。ちなみに、その森エルフの方ってどんな人です?」


「普通の森エルフよりは、話がしやすい方かと。外回りを任される程度には分別もあります。ただ、雲取様を神と崇め信仰している者ですので、その点はご注意下さい」


客観的っぽく聞こえるけど、なんか少し棘があるというか、遠慮がないというか。んーと。


「……もしかして、知り合いの方?」


「互いに性格を把握する程度の仲ではあります」


「そうなんですか。恋愛感情とかあったりします? 実は許婚だったりとか」


なんとも塩対応のようにそっけないのが逆に怪しいと睨んで、カマをかけてみる。


「まさか。というか、アキ様、エリザベス様に感化されましたか?」


「いえいえ。ただ、ケイティさんもよく知る人で、雲取様からの使いを任されるくらいだから、ケイティさんとも話が合いそうかな、と思っただけですよ」


「話が通じるのと、話が合うのはまるで別物です。さて、アキ様。まずは食事を済ませましょう」


時間がないのは確かだろうけど、なんかちょっとだけ強引に話を終わりにした感じもする。なんか複雑な関係そうだ。





食事をして、身支度を整えて居間に行くと、妖精の皆さんが既に勢揃いしていた。シャーリスさんはいつもと違い、頭にティアラを付けてて、ちょっとだけフォーマルな装いにしているっぽい。でも召喚体のイメージはそうそう変えられないようで、他の面々も、少し装身具を付けた程度の変化だ。一人だけ、お爺ちゃんは身一つで召喚体が構成されていて、シャンタールさんの用意した服を着ているから、普段は着ないような飾り布の付いたローブを着て、かなり偉そうな感じだ。


立ち会う人は最低限にする趣旨のようで、僕の足元にはトラ吉さんが控えていて、妖精さん達は僕の周りに浮く感じ、後方にケイティさん、ジョージさん、それに母さんが続く配置だ。


そして、僕たちの前に立っているのが、体に合った草色の外套を着た濃い金色の髪に細長い耳、涼しげな印象の目元の森エルフの男性だった。胸元を飾る、透き通るような黒い鱗を加工して作られた装身具(ブローチ)がとても綺麗だ。体格は当然ながらかなりのアスリート体形。ひ弱なイメージなど微塵も感じさせない。まさに聞いた通りの森エルフだ。


「私は雲取様の庇護下にある深緑の国よりきた使者で、名をイズレンディアと言う。此度は雲取様の竜神託(オラクル)を伝えにきた。其方達が、大空まで大きく咲き誇っていた巨大な光の花を作りし者達に相違ないか?」


声まで通る綺麗さとは、外回りを任されるだけのことはある、と。落ち着いた物腰も、こちらを深く観察する眼差しも、父さん達、街エルフとは違った経験の深さを感じさせる。


「その認識で相違ない。あの光の花は、妾達、妖精族が描いた物じゃ。そして、妾達をこちらに召喚したのが、この街エルフの子、アキじゃ」


シャーリスさんが手を振って、僕を紹介してくれたので、軽く会釈してみたけど、彼の目からは、不可思議なものを見ている、とでも言いたげな困惑の揺らぎが見て取れた。


「……気を悪くしないで欲しいが、貴女達が存在する事を確認する為、触れさせて欲しい。魔力が感じられず、本当にそこにいるのか確信が持てないのだ。失礼な申し出とは思うが頼む」


その言葉を聞いて、シャーリスさんが手を振ると、妖精さん達がイズレンディアさんに近づいていって、彼の顔をペタペタと、嫌がられているのを理解した上で、本人がもういいというまで続けてあげた。


なんとも妖精らしい。


「耐性は高めてくださいね」


僕もそう言って、手を差し出した。相手の準備ができていないと酷い事になるかもしれないから、あくまでも触るのは相手から。


なんだけど、第三者から見ると、貴婦人的な振る舞いに見えちゃったりするんだろうか、とか頭に浮かんだら、なんか楽しい気分になってしまい、慌てて表情を引き締めた。


彼は、下からそっと手を包み込むように触れると、一礼して下がった。


「確かに確認できた。協力に感謝する。では、我等が竜神、雲取様の竜神託(オラクル)を伝える。『其方らを見定める故、場所と日時を決めよ』と仰せだ」


ふむふむ、予定通り。というか。こちらに来てくれるのだから、フットワークは軽い方という事だね。なかなか動かないとか、相手を呼びつけるとかよりは好感が持てる。


「勿論、お受けしますが、イズレンディア様は、この件について全権を委任されていると考えて良いでしょうか? 色々とお聞きしたい事、調整したい事があるのです」


「……当然、全ては私に一任されているが。あくまでも今回の件は私的な交流であり、人の国家への介入ではないと言われている。決め事と言っても、せいぜい、雲取様が降りる地点を調整する程度ではないのか?」


「ロングヒルの領内に雲取様が降りるのであれば、場所選びは急いでも数日はかかるでしょう。その調整結果を得られるまではロングヒルに滞在される、その認識で合っていますか?」


まさか即答されると考えてたりはしない筈。なら時間はあると思うんだけど。


「その通りだが、それが何か?」


「滞在される間、イズレンディア様に話を伺いたいという方が沢山いるのです。お忙しいとは思いますが、調整作業にも影響を与える話です。付き合っていただけますか? 勿論、此方での宿泊施設などの手配は此方で全て行います。如何でしょうか?」


「調整が早く進むのに越したことはない。話し合いには応じよう。それで、いつからかね?」


よしっ! 思わず小さくガッツポーズをしてしまい、慌てて取り繕うと、改めて返事を返す。


「勿論、今からです! 先ずはその外套を脱いで寛いで下さい。長丁場になりますから。これが、質問、調整事項を取り纏めた計画書になります」


僕はケイティさんが出してくれた冊子を、イズレンディアさんに差し出した。


用意の良さに、イズレンディアさんが顔を引攣らせているけど、彼が反応するのを待たずに、どんどん会議の場を整えていく。


アイリーンさん達が見事な手際で、テーブルセットを整え、関係者の座る椅子を用意し、飲み物や摘むものを用意したり、ホワイトボードを用意して。


「――これは、何かね?」


「雲取様と仲良くなろう作戦の計画書です。天空竜との交流は歴史書を紐解くくらい、前例が少なく、様々な検討が進みませんでした。ですので、イズレンディア様に協力して頂けて幸いです。是非、今回の交流を成功に導き、弧状列島に住まう者同士、仲良くしていく第一歩としましょう」


僕が、両手を広げて、満面の笑みで大歓迎の意を伝えてみたんだけど、彼は手元の冊子を見て、それから、僕達の用意周到さを再確認すると、何故か額に手を当てて、深い溜息をついてしまった。


どうも、真面目ではあるけど、ノリが悪そうだ。でも義務感は強いから、放り投げるような真似はしない筈。


森エルフ自身の話も聞きたいし、精一杯頑張ろう。おっと、いけないいけない、あんまりがっつき過ぎると退かれるから、やり過ぎないように。


シャーリスさんがふわりと飛んできて、耳元で「今少し欲を抑えて穏やかにするのがよいぞ」と囁かれてしまった。


いけない、いけない。


スマイル、スマイルっと。


そんな僕をみて、イズレンディアさんは胡散臭そうという認識を強めたようだった。残念。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

ちょっと量が多くなりましたが、キリがいいのでまとめて公開としました。今回で長かった六章も終了になります。次回更新では、これまでと同様、人物や登場した物や魔術といったものについて纏めた資料の公開となります。新しい七章は、書籍換算で行けば三冊目。遂にこちらの世界の大物たる天空竜が登場することになります。

次回の投稿は、七月七日(日)二十一時五分です。

七章(新章)の投稿は、七月十日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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