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6-23.ドワーフと妖精が贈った彫像(前編)

前話までのあらすじ:ミア姉からの手紙の三通目、天空竜との接触について、一般視点から見た考え方を色々と語ったお話でした。

セイケンとの会談から一週間は、天空竜、特に雲取様からの使者がきても対応できるように、何を話していいのか、何を約束していいのか、触れてはいけない話題は何か、などを検討して、調整して、頭に叩き込む日々だった。


師匠の尽力もあって、総武演の時に魔力減少と、師匠の魔力に圧される感覚を経験する事ができたのは幸いだったけど、減少した魔力が回復した後は、魔力も以前通り、感じ取れないようになってしまい、僕の修行も頓挫中。まぁ、これは気長に行くしかない。焦らない、焦らない。


ロングヒル、というか人族連合の方では、色々と動きが出てきたとの事。まず、連合本部の方で、総武演が異例尽くしだった事への説明を行う事になったそうだ。査問会という訳ではなく、ロングヒルまで人を派遣するだけの余力がない所属各国から、話を聞く場を設けて欲しいとの嘆願が殺到したためらしい。街エルフも要請されたので、特別顧問(アドバイザー)として参加するという。


食事を終えて、焙じ茶を飲んでのんびりしながら、その辺りをケイティさんに聞いてみることにした。


「ケイティさん、街エルフの国、共和国って、他の所属国とは少し立ち位置が違う気がするんですけど」


「そうですね。我が国は人類連合と密接な関わり合いはありますが、厳密にいうと所属していないのです」


「え? だって、確か全国の物流網とか、出版とか、海外交易とかをほぼ独占しているのでしょう?」


そんな重要なポジションにいる国が、所属してないって?


「正にそれが問題となり、我が国の立ち位置は特別に配慮されたものになりました。結論から言えば、我が国が入ると発言力が強くなり過ぎるのです。我が国と他の全ての国と分かれても、かなりの差があり、連合制が機能しなくなります。それでは手を結ぶのではなく、我が国が他国を庇護下に加える事になりますが、そんな面倒臭い話を我々が受ける訳もありません」


「面倒臭いとか明言しちゃうんですね」


「事実ですから。それに時間感覚が違い過ぎて、我々の感覚で話すと、人族の国家は永遠の新参者になってしまいます。そんな関係は歪です。それと、やればできなくはないでしょうが、参加各国の利害調整、経済、軍事面の支援をやるのは、手間ばかりで利がありません」


「つまり、所属国と、街エルフの利害関係が一致しているから、街エルフは少し離れた位置にいるってところですか」


「その通りです。幸い、我が国は独立した島を占有しており、鬼族連邦や小鬼帝国とも国境を接していません。ですから、我々は政治の舞台から一歩引いて、間接的な支援をする関係に留まっているのです」


「なるほど。で、今回は街エルフが主体的に動いているから、説明を求められたと」


「目に見える形で大きく動いたのはロングヒルですから、説明をするのはあくまでも彼らです。我々は大使館領に子供が一人、居住地を移しただけで、理論魔法学に精通する人材を集めるのは、何千とある研究活動の一つに過ぎません。実際、動いている国家予算は微々たるものです」


ケイティさんは淡々と説明しているけど、明らかにミスリードを狙っている。というか、表情が、「〜という建前です」と語ってる。


「えっと、ケイティさん達、サポートメンバーの皆さんが一緒に来ていたり、続々と魔導人形の皆さんが支援にきてますよね?」


母さんが公開演技(エキシビション)で見せたように、魔導人形はかなりのバランスブレイカーだ。それが続々と投入されているのだから、人、金、物の動きはかなりのものがあるはず。


「それらの活動の資金の出所は、国費ではなく、ミア様の財閥が先行投資しているだけです。国費分の活動は館の方で閉じています。そして、我が国は、民間企業の活動にいちいち口を出しませんし、他国にその活動を伝える義務もありません」


そう言い切るケイティさんは、なんとも素敵な笑顔を向けてくれた。外交官としての顔ならこうだよ、と。


「うわー。すっごく大人の会話ですね。人材を盛大に引き抜いて、あちこちに影響が出ているって聞いた覚えがありますけど」


「我が国は副業を認めています。それに若い世代にも実務を任せてみるいい機会だと、長老達も了承してくれたそうですから、なんの問題もありません。そして、我が国の人事異動を他国に伝える必要もありません。対外的な窓口たる大使はジョウ様のまま変わりないのですから」


「よく、その、街エルフの長老の皆さん、了承してくれましたね」


「引き抜きに伴う混乱、業務への影響についての調整は財閥が全て請け負う、という条件付きでしたから。面倒事を一任できるなら、そして、それをするだけの実力があるのなら、反対する理由もないのでしょう」


つまり、問題とならないよう対応できるならやって良し、と。何とも凄い信頼関係だ。


「あくまでも、僕の活動、次元門構築計画は少数精鋭による極秘活動という位置付けなんですね。そう言えば、僕が色々と提案した活動の方の扱いはどんな感じなんです?」


「財閥の研究活動扱いです。今後、他国を巻き込んだ活動になる場合、その辺りは法務省が頑張ってくれる事でしょう」


「外務省じゃないんですね」


「法的に問題がないように、他国からの無用な干渉を防ぐようにするのは、法務省の役目ですから。活動に伴う権益の確保は、マサト様やロゼッタがいるので万全です」


あぁ、やっぱり。エリーの言い方からして、かなり名が売れている二人だとは思ったけど、二人が揃えば万全と断言できるのだからよほどなんだろう。


「とりあえず、僕に影響するような話はなさそうで、安心しました。マコト文書の勉強会の方も順調ですからね」


ケイティさんやアイリーンさん達女中三姉妹の支援活動もあり、定期開催される勉強会も、今のところ、問題なく進めることができていると聞いている。良い事だ。


「実は、ロングヒルに人を寄越して探りを入れてきている関係各国から、一連の活動の中心人物であるアキ様から直接話を聞きたい、との要望が来ています。あくまでも一民間人に対する要望という位置付けですので、拒否する事も可能ですが――」


「どんな趣旨で話を聞きたいのでしょうか?」


「街エルフが重い腰をあげることになった、今後訪れるであろう危機的状況について、話を聞きたいそうです」


「マコト文書を読んで、とか、母さんやジョウさんに説明をお願いするとかでも良さそうな気もしますけど」


一度、母さんも含めて話はしているし、ジョウさんも把握してる内容だから、わざわざ僕が話す意味も薄い気がする。人類連合の所属国という事なら、人材捜索は父さん達が動いてくれているのだから。


「彼らは、余計な物の混ざらない、大元の思考に、それを打ち出した人物に触れて、真意を見極めたいのでしょう。それと、今回の件で話を持ってきている国々は、連合内でも優れた統治をしており、学問も盛んです。アキ様がうまくプレゼンをする事で、計画に有用な人材の派遣を決断させる事ができるかもしれませんね」


ほほぉ。


「それなら、話をするべきですね。その方々には、最低限の話を聞けるようマコト文書を読むなり、勉強会に参加するなりして貰うとして、そういった下準備や会場の確保といった調整を宜しくお願いします。あと、その方々や所属国についての情報も後で教えてください。どうせやるなら、全力で行きましょう」


手をパチンと叩いて、ケイティさんに提案してみた。そんな僕の反応も想定済みだったようで、一冊の冊子を渡してきた。


「二週間後にマコト文書勉強会を開催するよう調整しました。そちらが参加予定者とその所属国の情報になります。議題(アジェンダ)をそれまでに決めましょう」


ふむ。一方的な講義ではなく、双方向の意見交換を行う場と位置付けか。いいね。


パラパラとめくって見ると、参加者の顔写真付きでかなりの部分まで情報が記載されている。……いるんだけど、これをそのまま読むのは不味いかな。


「ケイティさん、この内容ですけど、情報のランク分けをして貰えますか? 一般公開レベルから、機密相当まで。他の人のいる場で話していい内容、よくない内容を分けて覚えないと不味いかな、と」


「そこに書かれている内容は、普通の街エルフの市民が知り得る内容は殆ど含まれていませんが……そうですね。扱いに注意を要する内容だけは後で赤線を引いておきましょう」


「そうしてください。相手にプレッシャーをかけるのが目的の会議じゃ無いですから。あと、妖精さんやセイケン達も希望したら参加する方向でお願いします。同じ内容を何度も話す手間は省きたいので」


そう言われることも想定済みだったようで、会場は大使館領の庭を使う予定とのこと。確かに鬼族が同席できる会議室なんてそうそうないだろうし、僕が入っても問題ないという条件も満たすとなると、新設するしかないだろうからね。


さて。どう話すかな。父さん達に話した時は、マコト文書の知識があるメンバーばかりだから端折ったけど、今回の参加者なら、説明用の資料も工夫した方が良さそうだ。





人族の関係者へプレゼンをする為の資料作りなども加わり、それなりに忙しくなってきて、母さんのいる暮らしにも慣れてきた、そんなある日、雨の降る日に、ドワーフの技術者達が前回同様、馬車に鮨詰め状態で別邸へとやって来た。


ゾロゾロと降りてくる彼らの中に新顔が一人。豊かな髭や頭髪は白く、顔に刻まれた深い皺が彼がかなりの高齢であることを教えてくれる。だけど服の上からもわかる筋肉の張りは半端ない。ゴツい手といい、鋭い眼光といい、現役の人なのは確かだろう。


「スワロウが一族、ヨーゲルじゃ。暫く世話になりたい。妖精族の彫刻家に会わせてくれ。彼らの技を学びたいのだ。頼む」


そのドワーフのお爺さん、ヨーゲルさんは一分一秒が惜しいとでも言うように、こちらの面々を確認すると頭を下げた。


「遠路遥々、お疲れ様でした。僕はアキ、こちらが妖精族の子守妖精、役職名は翁になります。お爺ちゃん、彫刻家さん、次に来るのはいつだっけ?」


「暫く手が離せんようなことを言っておったが、こちらから是非会いたいと話が出れば、喜び勇んでやってくるじゃろ。大手を振ってサボれるからのぉ」


お爺ちゃんの話を聞いていたヨーゲルさんは、いないと聞いて落胆したものの、すぐやってくると聞いて、瞬時に復活してきた。なんともわかりやすい方だね。


「翁殿、感謝する。……ところでアキ殿だったか。例の彫像のモデルで間違いないか?」


「はい。そうですけど、がっかりしました?」


「いや。彫像からは、もっと街エルフ然とした感じかと思っておったが、儂はお前さんの方がいいと思うぞ」


「彫刻家さんも、賢者さんも、作った彫像と違うと少し残念そうだったんですよね」


「それはそうだろう。あの像は見事な出来じゃが、実在の人物の似姿を写し取るという意味では、足りないからな。彫刻家殿も許されるなら作り直したいとこじゃろう」


「えぇ? そんなに駄目な印象なんですか!?」


「そうじゃない。あの像から受ける印象は、もの静かな乙女じゃが、お前さんは溢れる活力で周りを賑やかにする印象じゃ。もっと動きのあるポーズの方が似合うじゃろう」


うわー、なんか真っ直ぐに褒められちゃって、どう反応していいか困る!


「その辺り、同じ創作活動に打ち込む同士として話されれば、お互い得るものも多いでしょう。皆様、先ずは中へどうぞ」


ケイティさんや、アイリーンさん達に促されて、ドワーフの皆さんはそれぞれ、手荷物を抱えて別邸へと入っていく。ヨーゲルさんが一際、大事そうに抱えている空間鞄だけは、なんか特注品って感じで、頑丈そうな外装だった。

総武演も終わり、その影響がいろいろと出てきました。言い出しっぺがアキだと突き止めて、その話を直接聞きたいというのですから、なんとも前向きな人達ですね。まぁ、いくら、それが成人もしてない子供という信じがたい話が付いて回っていても、僅かな時間、己が目で確かめようという手間すら惜しむようでは、国元の耳目となって働くような役目を任される訳もなし、ということでしょう。

それと、結構時間がかかりましたが、ドワーフの技術者達も戻ってきました。約束の品を携えて~という割にはなんか雰囲気がおかしな感じですよね。次パートの後編でそのあたりが明らかになります。


次回の投稿は、六月三十日(日)二十一時五分です。

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