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6-19.ミア姉と今後の方針

前話までのあらすじ:アキは自分自身がなぜ熱意を持って動くのか、その源となる思いについて伝えました。大切な家族を国に残してきているセイケンも、その思いに共感してくれました。

別邸に戻った僕達は、部屋着に着替えて、リビングで、エリーへの説明を行うことになった。ケイティさんとお爺ちゃんも同席しているけど、基本的に口は挟まないつもりのようだ。


「さあ、話して貰うわよ」


バリバリと八つ橋を噛み砕いて、緑茶を飲むエリーは部屋着に着替えてすっかり根を生やしていた。しっかり納得行くまで話を聞く、それまでは帰らないぞ、という意思表示なんだろう。


「ミア姉が地球あちらにいて、日本あちらでのんびり生活しているよ、で大体合ってるんだけど、それじゃ納得しないよね」


「世界間の行き来ができないからこそ次元門を創りたい。なのにミア様は世界を渡ってあちら側にいる。おかしいわよね」


ほら、さっさと話せ、と目で威嚇してきた。何とも肉食系だ。


「まず、前提として、地球あちらの世界と交流していたのはミア姉だけだった。交流相手は常に「マコトくん」。そこまではいい?」


「その話は有名だから、なぜ、他の人では「マコトくん」に接触できないのか、或いは、あちら側にいる他の人と交流できないのか、なんて疑問はあるけど、今はそれでいいわ」


「うん。それでミア姉は、地球あちら側に行っちゃったけど、それは双方向の行き来が可能な次元門とは異なる方法だった。一方通行で、こちらに戻る術もない、そんなやり方で、日本あちらに行ったんだ。地球あちらには魔力がないから、魔術で戻る策は取れないし、地球あちらの世界の技術では時空間制御は夢物語だから、地球あちらから、こちらにミア姉が自力で戻る事は無理ということ」


ずばり、言うわけにはいかないから、なんとも間接的な言い回しになっちゃう。


「色々、気になるところがあるけれど、まず、ミア様があちら側に行ったと判断できたのは何故かしら。あちら側と交流できていたのはミア様だけ。それなら、ミア様があちら側に行ったことを、あちらにいる「マコトくん」に聞くこともできないのよね?」


「何故、判断できたのかというと、こちら側に残った結果を見れば、地球あちら側の結果もわかる、そんな方法だったから。詳しい話は誓約締結後に改めて話すよ」


「そんなところでしょうね。まぁ、いいわ。理論魔導師達が集えば、開示されるのだから、それまで待ちましょう」


ここで食い下がられても、話せない、教えられないとしか言えないから助かった。秘密にする理由は、僕をこちらに喚んだ魂交換の手法が禁忌とされている秘術だから、との事。

確かに娯楽作品の中ならいざ知らず、実際に魂が入れ替わったら、社会に混乱を招く事は間違いないし、そうでなくても魂に関与する魔術自体が扱いが難しく、半端な技量で手を出していいものではないそうだ。

もっとも、こちらだと僕が入った事で、この身体はミア姉のものだけど、魔力属性がガラリと変わってしまい、目と髪の色もその影響で変わったくらいだから、誰かと入れ替わって悪さしよう、というようなことは成立しそうにないけどね。

地球あちらで、もし、魂交換がおきたら、頭の病や怪我と分類するしかないと思う。

ミア姉の事だから、病院送りになる様な下手は打たないとは思うけど心配だ。


「それで、今は、「マコトくん」の屋敷で生活している、と」


「そうだね。よく知った相手だし、いくらミア姉でも、何も基盤がない状態で、独り住まいとか無理だから。あと、日本だと若い人の多くが高校に行ってるから。成績とか本人の希望とか家の資産とかにもよるけど、大学に行く人も多いよ。確か六割くらいだったかな」


「……随分多いのね。確か、ニホンというか、あちらは、人族しかいないのよね?」


「そうだね」


「それで、あちらでアキが言ってた、五年程度でどうにかなる、というのは、ミア様の置かれている状況も加味してかしら」


「そういう事。高校の残りが一年半、大学が四年で合計約五年。ミア姉が、日本あちらで働き始めちゃうと、色々としがらみが増えて、次元門が開いても、帰りにくくなりそうだから、そう言う意味で、現実的な目標としておいたのが五年。そう言う事」


「まだ、理論もできてないのに、楽観視し過ぎじゃないかしら。まだ、人集めも始めたばかりでしょう?」


エリーはわざと軽い口調で探りを入れてきた。大丈夫、それくらいの話ならさほど狼狽えたりはしない。


「楽観視できる材料も少しはあるし、悲観するほど、現状が見えている訳でもないからね」


「各種族の理論魔法学の精鋭を集めて、問題解決に取り組む、なんて試みがなされるのは今回が史上初なのだから、そこは、人族や鬼族の世界における立ち位置と同じという事ね。海外から、外洋船がやってきた事もないから、我々が技術的優位に立っている可能性は残されているし、悲観的要素ばかりじゃないのも確か。でもアキが言う楽観視できる材料というのは、もっと具体的な話よね?」


シュレディンガーの猫みたいに、観測するまでは状態はわからない、だから良い可能性もあるよね、では説得力はないし、安心にも繋がらないだろう。


「まず、世界を結ぶ現象がこちらでは観測されていて、こちらから妖精界に人族が迷い込んだり、妖精がこちらにきた記録もある。だから、世界間を繋ぐ事ができるのは間違いない。これは良い材料でしょう?」


「なるほどね。門というから、研究施設の中に門を創る設備でも用意するのかと思ったけれど、もし、繋がりやすい場所や季節、時間があるなら、そこに考慮して施設を作る事もあると」


「そういう事。なるべく近場だと良いんだけど、そればかりは話が具体的になってから悩む話だから、今から心配しても仕方ない。それに、天空竜は空間転移ができるという話だから、地球あちらの位置さえわかれば、転移して、ミア姉を連れてくるのもありと思うんだよね」


僕が天空竜に触れると、エリーは露骨に嫌な顔をした。


「アキは先日の雲取様飛来を好機だと思う訳ね」


「うん。こちらからご挨拶と言っても、話をしに行くにせよ、手紙を届けるにせよ、時間がかかるし、人選も手間かなとは思ってたんだよね。上手くいけば、あちらから接触してくるだろうし、確か、雲取様には庇護下の森エルフやドワーフ達がいた筈だから、そちらから接触があるかも」


というか、早く何かアプローチをしてきてくれないかなー、と話しているだけでワクワクしてきた。


「そんな前向きな発言が出てくるのは、アキくらいなものよ。だいたい天空竜に接触を図るなんて役は決死の任務よ。人材選びは相当、難航するわ。それとあまり機会はないと思うけど、公の場では、アキ自身が天空竜を呼び寄せようとしている、とは認識されないように振る舞いなさい。それを阻止しようと、暗殺者が送り込まれかねないわ」


「ロングヒルの方から?」


「そう。ロングヒルじゃなくても人類連合のどこかからかも。それに、変化を嫌う層というのはいるものだわ。既存の秩序が乱されるのを嫌う層もいる。間違いなく、いつかはわからないけど、暴発するわ」


ぼんっと手でジェスチャーまで加えて、暴発確実、と念押ししてきた。やっぱりするかな……?


「暴発しちゃう?」


「アキはこのままではいけない、変わらなくてはいけない、と、各種族に働きかけて、それぞれ、思惑は違えども、不満もあるだろうけど、変化の波は止められない。止めて邪魔するような輩がいたら、何とかして、とお願いするわよね?」


「それはね。でも、僕はあくまでも理詰めで、変化が必要ですよ、ブレーキをかけても、他種族から出遅れるだけで良い事無いですよ、と説明するだけで、動くのはそれぞれの種族の統治者の皆さんだよ」


「アキに何の権限もない、だけど、皆がアキの指し示す方向へと進んでいく。なら、アキは皆を惑わす毒婦に違いないとか言い出すんじゃないかしら」


毒婦とは何とも歴史的な言い回しだね。こっちにもそういう事例はあるのかな。せめて傾国の〇〇とかならまだ、どこか謎めいた感じになりそう。どっちにせよ良いイメージじゃないか。


「それって、間接的に自分達の上層部を罵倒してると思うんだけど」


「外から見れば、愚かで視野も狭くて救い難い馬鹿よね。でも、海の向こう側の遠く離れた国の出来事が、こちらまで影響を与えると聞かされても、実感が持てない、理解が追いつかない輩は必ず出てくるわ」


「そうだね。地球あちらの歴史を紐解いても、実際に痛い目に遭わないと、力が足りない、机上の空論だった、国内で争ってる場合じゃない、と理解できない人は多いね。大概は手遅れだったり、そもそも手の打ちようがなかったりするものだけど」


「一応、考えてはいた訳ね」


「それはね。変化が速いほど、変化が激しいほど、反発は生まれるだろうな、と。でも、全員が納得するのは無理だから仕方ないとも思ってるよ」


「目的の為に突き進む行動力は人族寄り、与える影響が落ち着くまでの時間感覚は街エルフ寄り。見事にアクセル全開ね。私はアキはそれでいいと思うわ。計画の推進役が先頭を突っ走らなくてどうするのかと、と思うから。だから、それを踏まえて、計画内における私の立ち位置を話しておくわ」


立ち位置、か。さて、さて。





「私は理論魔法学の専門家でもないし、あちらにも詳しくない。だから、私は計画を現実に落とし込むチームや対外勢力との調整役になると考えて。多分、セイケン殿もその位置だと思う」


「それは有難いね。苦労が多そうだけど、エリーなら、その辺りは何とかやってくれると思うから嬉しいよ」


 多少、手際が悪くてもしばらくやっていれば、技量も磨かれていくだろうから、実力面の心配はしていない。それにエリーなら、人族の利益ばかり優先するような真似もしないだろうから、そういう意味でも安心だ。


「アキからすれば、計画に反対してばかりの嫌な奴ってところだと思う。そのつもりでいてね」


「議会では激しく対立していても、一歩外に出れば、私的には仲良く食事をしたりして、意識はキッチリ分ける。地球あちらではイギリスという国の議員はそんな感じだと言うし、そこはまぁ、文句くらいは互いに言うだろうけど、個人的な関係が拗れることはない、そんな風にいけると思う」


尤も、昔はそう語られてきた英国紳士の皆さんも、EU離脱の際にはかなり場外乱闘をしていたし、歴史的に見ても、イギリスの三枚舌外交のせいで、中東の混乱ぶりは酷いものだ。そこは言わぬが花だろう。


「アキがそのつもりならいいわ。今はまだ、ロングヒルだけを相手にしていればいいけれど、今回の件を受けて、人類連合の所属国が事態を把握しようと殺到してくるから、覚悟しておきなさい。何せ、アキがこちらに来てからの僅か一ヶ月程度で事態が変わり過ぎてて、ロングヒル内でも今後への影響を含めて把握できている者は殆どいないのだから。……荒れるわよ」


「静止した大岩が動き始めるまでには大変な力が必要になるけど、転がり始めた大岩を更に動かすのには小さな力しか必要ない。エリー、頼りにしてるからね。それだけ多くが動くなら、利用しない手はないから、ケイティさん達にも協力して貰って、僕の動かせる伝手はできるだけ活用していくよ」


できるだけ、と手を大きく広げてアピールしたら、エリーが頬をひくつかせた。


「……念の為に聞くけど、伝手って誰かしら」


「家族と、サポートメンバーの皆さん、あと、こちらに来る途中で交流のあった人達、あと師匠、エリー、セイケン、あと、妖精さん達だね」


「――怒らないから、もう少し詳しく教えなさい」


 特に、交流があった人達のところは詳しく、と念押ししてきた。怒らないからと言ってるけど、それならもっとフレンドリーな笑顔をして欲しいものだよ。


「エリー、もうちょっと表情を抑えて。それじゃ、まずは――」


こちらに来てから接点があって、お願いできるくらいの仲の人について、ざっくり説明していったんだけど、メモを取っていたエリーの表情がだんだんイラついたものに変わり、最後にはなんか、やさぐれた表情になってしまった。


「街エルフの評議会議員であるハヤト様、アヤ様、魔力測定協会のリア様、財閥のミア様が家族って時点でもう色々とおかしいのに、家令のマサト、秘書のロゼッタが揃ってるんだから、この時点でもううちの父より影響力は断然上ね」


「はぁ。そうなんだ」


リア姉やミア姉もこっちで仕事をしているんだろうけど、あんまり気にしたことがなかったから、そういわれてもピンとこない。


「そうなのよ。外洋艦隊の筆頭提督であるファウスト卿に、連樹の神様は別格過ぎるから除外としても、ワイン業界の老舗ロック・フィールドの当主ジョン=スミス氏ときて、街エルフ大使のジョウ様、あとはうちの師匠と私、それにセイケン殿。妖精達……あと、サポートメンバーも有名どころの元探索者に若隠居に魔導人形の精鋭女中が沢山。……あぁ、マコトくんの司祭まで居たわね」


なんか凄そうな面子に聞こえるけど、肩書付きで言われると、なんか別の人の話題のように感じられる。というかウォルコットさんって若隠居なのか。商売で成功して子供に後を継がせて、自分はのんびり、って感じなんだろうか。今度、そのあたりを聞いてみよう。


「えっと、ケイティさん、そんな感じなんです?」


「概ね合っていると考えて良いかと」


「つまり! ――アキは演習の時のアヤ様と同じ、人形遣いのようなモノなのよ。……全然、手が足りないわ。こっちも総力戦で立ち向かわないと、アキの放つ手数に全然追いつけない。アキ一人を相手にする気でいたら、調整役なんて、物量で押し潰される」


頭数だけ揃えても小鬼達の軍勢のように蹴散らされるのがオチ、なんて話までしてくる。一糸乱れぬ動きで小鬼人形達を圧倒した母さんの人形遣いに例えるとは、なんとも過分な評価だよね。僕は別に全体の統率、制御をしている訳じゃなくて、たまたま話をしやすい立ち位置にいるだけなんだから。


「えっと、別にお願いしても、相手の人の都合とか、考えで、場合によって動いてくれることもあるだけだから、そこまで思い詰めなくても――」


僕の弁明を、エリーは清々しい笑顔でスルーして、ケイティさんに話を振った。


「ねぇ、ケイティ。貴女が計画の調整役をやるとしたら、どれくらいの人材が必要かしら」


()()、エリザベス様の想定されている程度の人員、人材がいれば対応可能と思います」


「ほらね……って、()()!?」


「まだ、鬼族、森エルフ、ドワーフ、竜族が、本格参加しておらず、理論魔法学に優れた人材も揃っていません。ですから、()()、エリー様の考える規模でも対応可能でしょう」


エリーが何人くらい集める気でいたのかわからないけど、いずれ足りなくなる、と言われても反論する気はないようだ。


「……ケイティ、教えて頂戴。そんな状況でモチベーションをどうやって維持してるのかを」


「先を見過ぎない事と思います。それと自分で抱え過ぎない事。手が足りなくなりそうなら、人員補充を先にお願いしておく事。常に少し余裕を持ててれば、案外、楽しめるものです」


「いいわね、それ。うちにも人手が必要になったら、魔導人形を大勢、派遣して頂戴。頼りにしてるわ」


「大使のジョウ様経由でご依頼ください。きっと良い様に取り計らって頂けることでしょう」


エリーとケイティさんは何故かがっしり握手しそうな勢いで頷きあった。そんな二人を見ていると、申し訳ない気持ちになってくる。


何か二人のためになるプレゼントを送ることにしよう。頼りにしてますよ、無理をしないでくださいね、と気持ちが伝わるように。

あちらにいるミアについての説明と、エリーの立ち位置表明、それと第三者から見た場合のアキはどんな感じか明らかにしたお話でした。普通なら誰か一人でも十分過ぎる伝手なんですが、やりたいことの難度が上がれば、伝手もまた多くないと話になりませんよね。

次回の投稿は、六月十六日(日)二十一時五分です。

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