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6-15.セイケンとの歓談(前編)

前話までのあらすじ:総合武力演習も無事終わりましたが、ラストに大空に描いた光の花が、空の覇者たる天空竜の雲取様を呼び寄せてしまい、大混乱に。

光の花が消えると、雲取様は去っていきましたが、彼との縁ができたと喜んでいるのはアキだけでした。

鬼族のメンバーだけど、元々は演習が終わったら帰国するつもりだったらしい。だけど、妖精族から、もっと交流を深めたいと言われた事もあって、半数は国許に戻るけど、残りの半数はロングヒルに残る事になったそうだ。幸いにしてセイケンさんは居残り組。


「つ、ま、り、セイケンさんは今、暇ってことですよね! エリーを誘って、ぜひ、お話をしにいきましょう」


ちょっと、踊りたくなるような衝動を抑えて、手を大きく広げて、ケイティさんにアピールしてみた。


……なんか、反応が鈍い。というか、あぁ、やっぱりといった諦観が見て取れる。


「そう言うとは思ってましたが、随分、楽しそうですね」


「元々、帰国する前、少しでも時間を割いて貰って顔を売ろうと言うつもりでしたからね。それが、こちらに残るとなれば、鬼族用の住まいも仮設ではなく、ちゃんとした物を用意する必要があるし、鬼族が好き勝手出歩くのは厳しいでしょう? つ、ま、り、外出もできず、暇な時間を持て余している筈。なら、僕やエリーとお話ししてみようと言う気にもなるだろうし、時間もそれなりに割いて貰えますよね!」


僕がそこまで、一気に話すと、ケイティさんは、理解し難いといった感情を隠そうともせず、メモを開いた。


「そう言われると思い、話し合う時間を設けるよう、改めて打診しておきました。私とジョージ、それに翁とトラ吉が同席します。エリザベス様も参加ですね?」


「ありがとうございます、ケイティさん。もちろん、エリーも一緒でお願いします。計画に参加するのだから、これを機会に互いをよく知るべきですし」


僕の発言に、ケイティさんは疑問を持ったようだ。


「何故、そこまで入れ込むのですか? セイケン殿を鬼族の窓口として扱う前提としているように思えます」


どちらかと言うと、想像はできるけど、考えを言葉にして欲しいってとこかな。


「彼は、妖精族にも気に入られて、メンバーを分割して、居残る判断をするだけの権限も与えられている。演習の際の発言を聞いても、理性的で誠実そうと思いました。それに権限とは裏腹に、立場は盤石ではなさそうなので、この際、関係を深めて、互いを必要とする間柄にまで進めたいな、と。なにより、相手と話をしようという姿勢を互いに持っているのがいいですよね。片思いだとなかなか上手くいきませんが、鬼族の中の一勢力ではあっても、仲良くしておくのが吉でしょう?」


「……念の為、後でアヤ様と考えを話し合って下さい。アキ様とセイケン殿が仲良くなってお終い、などとなる筈がありません」


ケイティさんが、アヤ様がいてくれて良かった、とか言ってる。


「儂らも、どうせ、こちらに来たのだから、多くの種族と触れ合いたいところじゃ。それが友好的な相手なら尚更のぉ」


お爺ちゃんも、総武演で少し話をした程度では全然足りないみたい。旺盛な知識欲はいいね。是非、見習わないと。


「よし、アイリーンさんと手土産について相談しよう。きっと柔らかいものより、噛み応えのあるお菓子がいいんじゃないかな」


「ほぉ。それは面白そうじゃ」


「食感も、味覚の重要な要素だからね」


「そちらは、後でアイリーンに時間を取らせます。ところで、今回は、妖精族の時の地図に相当するような手土産を用意したいとは言わないのですか?」


ケイティさんの指摘も尤もだ。


「お話しする前に、意識してもらえる程度にはアピールしたので、これ以上は過剰かなと思いまして。それにファウスト船長の時も、妖精さんの時も、話題が争い関係で偏って印象が悪かったので、今回はこちらからあまりアピールするのは止めようと思うんです」


「そうして頂けると助かります。先程も言いましたが、アヤ様を交えて、想定問答をしておきましょう。話していい範囲を把握していただく必要があります」


「念入りですね。エリーも一緒に?」


「エリザベス様はその辺りは理解されているので問題ありません。アキ様の場合、制約術式でも縛れず、当然、セイケン殿を含めて鬼族側の面々に制約術式を施せる訳もありません。口を滑らせないよう、予め確認しておきましょう」


結構、面倒そうな話になってきた。とは言え、鬼族の人が、制約術式を許容して次元門構築の計画参加をするまで待っていたりしたら、どれだけ年月がかかるかわからない。そんな悠長な手では全然駄目だ。


「では、事前の意識合わせも含めて、スケジュールの調整をお願いします。セイケンさんの記憶が薄れないよう、できるだけ早めに」


僕の要望に、苦笑しながらも、善処することを約束してくれた。これで良し。

さて、何を話すか考えておこう。林檎の会社の人も僅かな五分のプレゼンの為に、数百時間も準備したというし、ここは念入りに。





それから三日間、母さん、ケイティさん、それに女中三姉妹にお爺ちゃん、おまけにジョージさんまで交えて、想定問答を行った。

ある程度の情報へのアクセスを許可されている街エルフとして、何を知っているのか、何を知らないのか、そこを徹底して確認する羽目に陥ったけど仕方ない。

最重要極秘事項の人工衛星については、僕は知らないことを前提とする必要があるけど、宇宙空間自体の利用という概念レベルも避けるべきというのは頭が痛い。


それに、マコト文書の情報についても、どこまで話していいかで、かなり揉めた。理詰めで考えれば導ける結論だと主張しても、前提として、惑星規模の世界観、視点を相手が持っているとは限らない、理解するのにも時間がかかると思うべき、と釘を刺された。


鬼族が把握しているであろう世界地図、弧状列島の地図、ロングヒルの周辺地図について頭に放り込んだり、以前の講義で聞いた鬼族の風習、文化から一歩踏み込んで、教育制度や魔法理論学に関する鬼族の取り組みなんかも教えて貰った。


昼間は大まかな方針に従って問答を行い、問題点の洗い出しや注意事項、街エルフとしての方針決めとかは、僕が寝ている間に進めてもらった。


結局、手土産のお菓子はアイリーンさんと軽く打ち合わせた程度だったけど、話す内容については、これまでで一番、準備を積み重ねたと思う。


もちろん、セイケンさんと話す時には、そんな苦労は表に出さない。あくまでも自然に。

会話の目的を忘れないように。


セイケンさんに、僕やエリーと話をする時間を設けるのは得だと、交流するのが望ましいと思って貰える事が最低ライン。


可能なら、妖精族と話をする場合も、僕が呼んで貰えるくらいまで行きたい。


密度の濃い準備期間も過ぎてしまえば、あっと言う間で、ケイティさんが調整してくれたセイケンさんと話せる日を迎える事になった。





鬼族の仮設住居は、街エルフの大使館領と隣接して、遠出をする必要がないのは良かった。

不慮の事故を防ぐ為とかで、敷地の周囲は堀が巡らせてあって、間違って、人が入り込むようなことが起きないよう配慮されていた。


鬼族の護衛という名目で、ロングヒルの部隊も配備されているけど、まぁ、いざという時はエリーの救出任務も行うつもりといったところかな。それと会談の時だけ、街エルフの人形遣いが六人、仲裁要員として配置されるとのこと。


「……なんで名目が仲裁なんですか? あと、そんなに揉める可能性があると考えてます?」


馬車の中で聞いてみるけど、ケイティさんの答えは明確だった。


「万一、諍いが起きた時に、双方をあまり傷付けずに引き離して、争いを沈静化させる必要があります。何もなければ、それに越した事はありません。アキ様が未成年である事、それと立場上、必要な措置です。流石に会ってもらう立場の我々が、鬼族を大使館領に呼びつける訳にはいきませんから」


これだけ、例外が適用される街エルフの子供は、アキ様が初めてです、とも教えてくれた。万一の事態に備えるというのだから、街エルフの心配性もここに極まれりって感じだけど、転ばぬ先の杖とも言うし、必要な措置というのは確かなのだろう。


「毎回これだと、手間ですね。そう言えば、妖精さん達が会いにいく時はどんな感じになるんですか?」


「儂らの時は護衛はおらんよ。というか居るだけ邪魔じゃ。地形に縛られぬ我らが逃走に徹すれば、地を歩く者が追い付く術はない」


「翁の言う通りで、妖精女王陛下からも、様子を見たければ、遠眼鏡で覗く程度でよかろう、と言われています。鬼族が使う鉄棍に魔術を重ねられても受け流せるし、彼ら程度の術者が放つ範囲魔術は軽く防げるから心配はいらないとまで言われまして」


「お爺ちゃん、そうなの?」


「我らは小さく軽いからのぉ。障壁を展開して弾くようにすれば、直撃を受け流すのは、確かに容易い事じゃな。範囲攻撃も、全てが同じ強さではなく、密度にも違いがあるからのぉ。強いところからズレてしまえば、防げるのも道理じゃよ」


お爺ちゃんは簡単な事、と説明してくれた。ケイティさんを見てみると、今の説明である程度、納得できたようだ。


「浮かんでいる風船を、パンチで割ろうとするようなモノということのようですね。いくら叩いても固定されていない風船は弾かれて位置を変えるだけ。身軽であるからこその話でしょう」


なるほど。人への応用は無理そうだ。


「アキ、貴女、全然、緊張してないのね」


隣に座っていたエリーが大人しいなぁ、と思っていたら、緊張していたらしい。


「あんまり前のめりにならないように注意しようとか、落ち着いた大人の雰囲気を演出だ、とか色々考えたけど、そういう演技は無理だから諦めたんだよね」


ここまで来たら、後はなるようにしかならないし、と言ったら呆れられた。


「なんとも気楽ね。いくら非公式な場だから、儀礼的な手間は不要と言われていても、これだけ物々しい警備を敷かれれば、緊張もするわよ」


「 人形遣いの皆さんは、屋敷の周りで待機だから大変とは思うけど、魔導人形の皆さんも静かにしてくれているだろうし、気にし過ぎじゃない?」


そんな僕の言葉に、エリーはデコピンで応じてきた。……痛い。


「魔力が感知できないのがどれだけお気楽かって事よね。魔力を抑えているけど、屋敷の周囲は魔導人形だらけじゃない。蟻の子一匹出入りできない完全包囲陣形ってとこだわ。鬼族側がよく人形遣い達の配備を了承したものね」


「留守居役の鬼族が五人、僕達が合わせて一人分と数えれば、仲裁役の人形遣いが六人なのは丁度いいバランスだよね。鬼族の人からすれば、同数なら脅威とはそれほど感じないんじゃないかな」


僕が、計算は合ってるよね、と告げるとエリーは露骨に顔を顰めてみせた。


「ケイティ、少しは教育しなさいよ。子供が二人話しに行くだけで、ロングヒルの軍関係者が青くなるような兵力が、一触即発の状態で対峙するのは普通じゃないって」


エリーが手振りまで加えて、普通じゃないっと強調してきた。だけど、ケイティさんは遠い目をして、憐れむような優しい声で現実を諭した。


「エリザベス様、それは、これまでの普通でしたが、これからはこれが普通です。そういうものと認めた方が心が穏やかでいられますよ」


交流が進めば、鬼族も街エルフも、きっと妖精族もどんどん人数が増えていくのですから、と駄目押しする。


「……ねぇ、ケイティ」


「なんでしょうか」


「街エルフ達は、少しは手綱を握る気はないのかしら」


これの、とエリーが僕やお爺ちゃんのことを指して、酷い事を言い出した。

まるで、僕達が暴走しているとでも言わんばかりだ。誤解も甚だしい。


「ずっと手綱を握っている御者は二流ですよ。意に沿っているなら、好きに走らせた方が良いのです」


ケイティさんが向ける信頼の眼差しは有難い。お爺ちゃんも、儂は自制できるからのぉ、などと言って笑ってる。


「……私が参加して正解だったわね。いえ、私だけじゃなくセイケン殿にもブレーキ役になって貰わないと、全然足りないわ。ケイティ、彼がブレーキ役に足るようなら取り込むわよ。いいわね」


エリーの提案だけど、ケイティさんの反応は鈍い。


「若い殿方に、自制ばかり求めるのは酷と思います。それに、彼がブレーキ役なのか、アクセル役なのかは、鬼族の中での彼の立ち位置によるでしょう。さぁ、到着です。宜しいですか?」


鬼族の住む仮説住居の前に、馬車が到着した。エリーと互いの服装を最終チェックし、忘れ物がないか確認して、トラ吉さんとお爺ちゃんも準備完了!


「良し。笑顔を忘れずに。エリー、行こう」


「いいわ、行きましょう」


僕達は、馬車の扉を開けた瞬間、意識を切り替えた。


さぁ、歓談(せんとう)開始だ!

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

演習も終わり、日常生活が戻ってくるところですが、鬼族の半数が残ることになって、アキは大喜びでセイケンに対して話を行くことにしましたが、鬼族と仲良くお話、というのはなかなかケイティさんの理解は得にくいようです。

それに、ただ話をしにいくだけだったのに、なにやら仲裁役と称する人形遣い達が周囲に陣取る事態に。さてさてセイケンさんとのお話はうまく行くでしょうか?

次回の投稿は、六月二日(日)二十一時五分です。


<雑記>

腕時計のボタンが1つ押しても機能しなくなったので修理に出したんですが、見積もり回答がくるのが一カ月半後、金額の折り合いが付かずキャンセルしたらキャンセル料が取られると言われ、驚きました。まぁ、昨今、腕時計を使う人もだいぶ減ってきているし、職人さんの人数も減って、修理の待ち行列が凄いことになっているんでしょうね。

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