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6-9.お昼休憩(後編)

前話までのあらすじ:お昼休憩ということで、アイリーンお手製の幕の内弁当を食べたり緑茶を飲んだりしてまったり、まったり。それとアキが鬼人形のことを全然心配してなかったことについてエリーに聞かれたり、演技前のアヤと話をして、街エルフの人形遣いとしての演技に色々と不安を覚えたりしました。

午後の公開演技(エキシビジョン)まで、あまり時間がないので、食事を終えて雑談をしている妖精さん達に話を聞いてみることにした。


「賢者さん、演習を見てどうでした? 何か得るモノとかあったでしょうか?」


僕の問いかけに、賢者さんは、ふむ、と顎髭を撫でて口を開いた。


「儂はどうせなら魔術を主軸に据えた演習が観たかったところだが。こちらは魔力が薄いせいか演習でも魔術は補助的役割を担うのみ。これでは見るべきものがない」


演習の中身より、鬼族達と話をしていた方が有意義だったと。


なるほど。


賢者さんの視点だと、確かに魅力が薄そう。


「それだと、単に魔術を行使するところばかり見せ合っても、得るものが少なそうですね。賢者さんの好みなら、成果発表会か文化祭みたいな形式の方が良さそうかな?」


「それは何かね?」


僕は、会場に説明資料とか実演する用意とかをして発表者達が、自分たちの研究内容とか成果をアピールするといった大まかな流れを説明した。


「予算取りの時期には、宰相や女王陛下とやりあうことになるが、それを広く行うのか」


「それと、他の人の研究内容って知らない事も多いだろうし、互いに異分野の研究内容を聞けば、それが途中であっても何か刺激を受けそうでしょう?」


「研究途中でも発表するだと?」


賢者さんは信じられん、と言いながらも、もっと話せと杖を振って急かしてくる。


「勿論です。うまくいかないなら、どこまで研究して行き詰っているか、情報を整理して説明するだけでも、頭がスッキリするし、別の人の視点なら、見落とした何かを見つけられるかもしれない。停滞した時間を短くするのにも有効です」


「……盗用をどう考えるのかね」


魔術の貸与とかもできるようだし、コピー問題はこちらより手強そうな感じだね。


「発表内容を記録しておけば、誰が何をしていたか検証できるでしょう? それにやりたい人がいれば巻き込んで一緒にやればいいじゃないですか。それで解決できれば、新たな事に手を付けられるでしょう?」


後生大事に今の研究にしがみつく? そんなところは只の通過点に過ぎない、そんな思いを込めたからか、賢者さんは、楽しそうに目を細める。


「その話、場を改めて話を聞かせてもらおうか。研究内容を公開し合う、それは興味深い試みだ。運用は注意すべき点が多そうだが、そんな手間を掛けても、それだけの価値があるだろう。いい。実にいい」


賢者さんはニヤっと笑って話を打ち切ってきた。午後の公開演技(エキシビジョン)までの残り時間と、聞きたい内容を比べて、気を遣ってくれたんだろう。有難い。


「では、別の機会に改めて」


僕の言葉も、もう興味はないとばかりに聞き流して、腕を組んで、あーだ、こーだとブツブツと呟きながら、浮かび始めた。

他の妖精さん達も、賢者さんの思考の邪魔にならないよう位置を変えた。いつもの事なんだろう。


さて、次は……近衛さんかな。


「近衛さんはどうでした?」


「地を歩く者達はやはり遅くて参考にならんというのが正直なところだ」


彼等なりに頑張っているのは分かるのだが、と声を潜めて教えてくれた。ふむふむ、空軍思考の妖精からすると、微妙かぁ。


「人族の動きとか、視野の狭さ、伝令の不自由さと地形を組み合わせれば、追撃戦で敵戦力を削ったり、川や崖に追い込んで自滅させたり、包囲して逃げ道を殆ど塞ぎながら殲滅戦をしたりと、色々と工夫のしどころが見えてくる気がしますけど」


僕はついゲームのようなノリで、敵軍を落とすための策を話し、そして、近衛さんの驚いた表情を見てミスに気付いた。


「……アキ殿はなかなか過激な事を言うな。そのように苛烈な事をしたら、要らぬ怨みを買う事にもならんか?」


あー、不味い。少しでもマイルドな印象になるように……


「えっと、国同士の争いだと、もう戦いたくないと相手の国の支配者層に思わせる必要があるんですよ。手足を軽く叩いても、まだやれると考えたら、相手は新たな軍を派遣してくるだけですから」


「だから、敵軍を手酷く叩き潰す必要があると」


「相手が大国だったりすると、万単位の軍勢ですら、地方のいくつかある軍勢の一つに過ぎないなんて感じになるので、相手国の規模にもよりますけどね。えっと、別の機会にお話ししましょうか」


「よろしく頼むとしよう」


近衛さんも、視点を変えれば得るモノもあると気付いてくれたようで良かった。ただ、地球あちらの印象がまた悪くなりそうなのが痛いところだけど。


「なら、私の感想を話すとしましょうか。私が興味深いと感じたのは、鬼人形殿の持っていた鉄棍ですな。あれ程の長さ、太さでありながら、どれだけ激しく打ち付けても曲がらぬ頑強さは、大変素晴らしい。それを成した冶金技術に興味が湧きました」


彫刻家さんも僕から話を振る前に、短く注目したポイントを話してくれた。話が早くていいね。


「冶金技術系だと、いずれ、例の彫像を作ったドワーフさん達が来るから、その時に話を聞くと良いかも」


「こちらで彫像を再現する話でしたな。では、聞きたい内容を纏めておくとしましょうか」


彫刻家さんは、やっぱり視点が材料、技術なんだね。


「ふむ。ならば儂も話しておくか。儂は演目よりも警備兵達やスタッフの身なりの良さ、手際の良さが気になったぞ。末端まであれだけ質を高めるのは、何か工夫すべき点があるようなら知りたいところだ」


宰相さんも僕に、というよりエリーに対して、自分の考えを話した。


「それなら、うちの官僚達と話をする機会を設けましょう。如何に全体の質を短時間に高めるか、なんて話なら彼等とも話が合うと思うわ」


「宜しく頼む」


上層部に話が持って行きやすいエリーがいるおかげで、話がサクサク進むのは有難い。


「あまり時間もないようじゃから、儂も気になったところを話すが、やはり鬼族達と話ができたのが良かったのぉ。彼等の服装、身振り手振りや話し方に触れただけでも聞きたい事は果てなく湧いて出てきおる。女王陛下とも話したんじゃが、鬼族といつでも話せる環境作りをするよう提案するつもりじゃ」


自分の欲に忠実だね、お爺ちゃん。それはそうとシャーリスさんも?


「これ、アキよ、妾を翁と同じにするでない。妾も鬼族達と話してみて、彼等からの視点も必要と判断しただけじゃ。物事を知るのであれば、双方から聞くのが望ましいからの」


シャーリスさんも、お爺ちゃんを指して、妾はあそこまで自分本位ではない、と線引きをして念押ししてきた。まぁ、そうだよねぇ。


お爺ちゃんとシャーリスさんの話を聞いて、ケイティさんの頰がピクっと動いた。


そして、そんなケイティさんの反応を見て、エリーもまた、なんか観念したというか、諦観とも言える遠い眼差しに変わってしまった。


「どうしたの?」


「わかってるわよ、必要だってことは。ただね、理解できても、なかなか気持ちは割り切れないものなのよ」


エリーが、まるで諸悪の根元とでも言わんばかりに、僕に座った視線を向けてきた。今回()僕のせいじゃないと思うんだけどなぁ。


「話ができる鬼族さんが何十人か近場に来てくれれば僕は嬉しいけど、エリーは過去の経緯とかで、それが嫌だとか?」


「私はそこまでの思いはないわよ。ただ、妖精の皆さんを受け入れるのにも結構ガタついたから、鬼族となれば相当揉めそうと、気が滅入っただけ」


「『泰平の眠りを覚ます上喜撰じょうきせん、たった四はいで夜も寝られず』って感じかな」


「何よそれ」


日本あちらで市民が読んだ狂歌で、僅か四隻の外国船がきただけで、国は右往左往の大騒ぎ、何やってんの、と呆れた気持ちを読んだ歌だね」


こちらでいうと、弧状列島全体くらい大きな国なのに、何百年と平和な時代が過ぎたせいで、街エルフの帆船の半分以下、戦闘力で言えば何十分の一といった程度の蒸気船がたかだか四隻やってきただけで、どう対応するかで大騒ぎになった話だ、とざっくり説明してみた。勿論、こちらの大砲は相手の半分も届かない、帆船はあるけど蒸気船なんて作れない、と技術格差はかなりあったことも話した。


「もっとしっかりしろと言いたい気持ちはわかるけど、それ、慌てるなというのが無茶よね。あーやだやだ、それで、その後はどうなったの?」


「一部の過激派が戦いを挑んだけどけちょんけちょんにぶっ飛ばされて、結局、不平等条約を結ぶ羽目に陥ったね」


細かく言えば、長州藩とか、薩摩藩が様々な国の艦隊と戦って攘夷は不可能と悟ったりするんだけど、そこまで話すのは冗長だろう。


「何とも気が滅入る話をありがと」


どうせうちも、街エルフ、妖精、鬼族が求める話を突っぱねるなんて無理よ、と拗ねてる。自分達が主体的に動いて決まる話でないから不満ってところか。


「んー、でも例の参加の件を考えたら、妖精さん、鬼族双方からの要請、それに街エルフも賛同という外圧は利用できそうじゃない?」


「簡単に言ってくれるわね。他人事だと思って。――でも確かにそうよね」


不貞腐れただけだったエリーが、途中から、あぁそうか、と何とも意地悪そうにニターっと笑った。自分の立ち位置も含めて、何とかなる算段がついたようで何より。


ただねぇ。


「エリー、もう少し、表情には気を付けようよ。一応、ここも外なんだから」


「わざわざこうして、市民席から見えない位置に座っている理由くらい察しなさい。外見を取り繕うような真似ばかりしてたら疲れるの。アキもなってみればいいわよ、そうしたら注目される側の大変さも少しはわかるだろうから」


腕を伸ばして体のコリをほぐしたり、欠伸をしたりと、昼休みの間は目一杯寛ぐつもりみたい。


「こんなのがお姫様だなんて」


がっかりだー、夢が壊れるー、と話してみたけど、それはエリーがそう言われても行動を変えたりしないと信頼しているからこそ。


そんな僕の気持ちも理解してくれたようで、エリーはダラけたまま、ゴミを捨てるジェスチャーをした。


「いもしないお姫様像なんか捨てちゃいなさい、だいたい私なんか見た目はかなり大人しいほうだわ。中にはすっごい姫だっているんだから」


アキなら怖くて逃げ出しちゃうかも、と揶揄われた。……そんなのにも対峙して逃げないのが漢らしい、そう言いたい気持ちもあるけど。物には限度がある訳で。


「参考までに聞きたいんだけど、エリーはどうしたの?」


「私? まだ小さい頃だったから大人の陰に隠れて助けて貰ったわよ」


今は流石に逃げないけれど、なんて言ってる。


そっかー。凛々しいとか、お姉様系だとかならまだしも、おっかない系お姫様かぁ。仕方ない、その辺りは諦めよう。残念だけど。



ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

それと誤字の報告ありがとうございました。自分でも何度も読み返してはいるんですが、話が頭の中に入っている状態で読むせいか、どうしても気付かないところがあったりするので大変助かります。


さて、今回はお昼休み(後半)ということで、妖精族メンバーの感じたこと、考えたことについて、意見交換を行いました。妖精達は自分達の判断で、鬼族とすぐ交流できる状態にしたい、と言い出して、アキとしては嬉しい限りですが、ロングヒルの方々はストレスで胃を悪くしないか心配です。

さて、お昼休憩も今回で終わり、次から、街エルフ、鬼族、妖精族の順に公開演技エキシビジョンを行っていきます。

次回の投稿は、五月十二日(日)十七時五分です。(いつもより早い時間です)



<補足>

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前のほうのページに載っているおかげで、訪問者が増えてとても良い状態です。

6ページ目とかだったりすると、そもそも一日に訪問者(OUT)が数名増加といったとこですから。

息の長い応援よろしくお願いします。(二週間程度でポイントが初期化されるので……)


 ※2019年05月01日(水)にポイントが初期化されました。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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