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6-8.お昼休憩(前編)

前話までのあらすじ:魔導甲冑兵達vs鬼人形の後編ということで、実際に武器を振り回して攻撃し合う戦いを、実際に武器を交える時間は数秒といったところでしたが行いました。鬼族のセイケンが落ちついた声で色々と思いを語ってくれたおかげで、良い感じに終わることができましたね。

お昼休みということで、鬼族の陣幕に入り浸っていた母さんや妖精さん達も皆、戻ってきた。保管庫から取り出されたお弁当箱を人数分取り出し、透き通ったガラスの器に氷を浮かべて緑茶を注げば、涼し気な雰囲気もグっと増していい感じ。


シャーリスさんは僕と一緒に、それ以外の妖精さん達は一つのお弁当箱を皆で食べるとのこと。皆、口は小さいからそれで十分らしい。


お弁当箱を開けてみると、真四角の器を縦、横三つずつ合計九つに区切って、それぞれに色とりどりの混ぜご飯や料理を詰め込んだ幕の内弁当だ。


正に色の競演といった華やかさで、行楽行事に相応しい。

汁気は抑えられているので、お弁当としても丁度いい感じだ。


「これはまた見事な料理じゃな」


シャーリスさんが、お弁当を覗き込んで満足そうに頷いた。

お弁当の周りをあっちからみて、こっちからみて、とふわふわおあちこちから眺めたり、マイカップにお茶を汲んで飲み干したりと、なかなか食べ始めない。


「眺めていても綺麗だけど、やっぱり食べないとね」


といって、シャーリスさんに食べるよう促すと、考えた末に、枝豆と小海老の入った混ぜご飯から手を付けた。


「うむ、大変美味じゃ。確か味の薄い料理から手を付けるのが良いのじゃったな」


「そうだね。繊細な味付けを楽しむならそのほうがいいと思う。あとおかずを食べたら、ご飯を挟んで舌を休ませるのもいいね」


「ならば、次は焼き魚の切り身じゃ」


カトラリーを器用に使って、一口で食べられるサイズにした焼き魚を食べてはもぐもぐ、コップを両手で抱えてごっくん、と見えるだけで、優しい気持ちになってくる。


次は根菜メインの煮物、練り梅の入った混ぜご飯、鶏肉のスモーク、といった具合に、話をしながら賑やかに食べている僕達を横目に、エリーはもう、最後の小松菜と胡麻の混ぜご飯を食べてお弁当箱を空にしていた。箸運びも綺麗で観ていても、食べ方は上品なんだけど、食べるペースがやけに早く見える。……別によく噛んで食べてない訳でもないんだけどね。


「エリーはもう食べ終わったの?」


「美味しかったわよ? ただ、噛み応えがもうちょっと欲しかったわね。あと量も。あぁ、それにどうせ保管庫を持ってくるなら、しっかり火を通した厚焼きのステーキとかあっても良かったと思うわ」


などと言って、ケイティさんが追加で出してくれた砂肝の塩焼きを口に放り込んで、やっぱりこれくらい噛み応えがないと、などと言ってもぐもぐしてる。


やっぱりワイルドだ。


「アキ様はどうしても運動量が少な目ですので、その分、量は控えているのですよ」


ケイティさんはそんなことを話すけど、それならケイティさんやジョージさんの量が抑え気味なのはなぜか聞いてみたら、満腹では動きが鈍るから、とのこと。お仕事時間だから注意ってことか。




緑茶を飲みつつ、皆で感じたことを話したり、意見交換をして、残りの時間をのんびり過ごすことにする。


「そういえば、アキは、鬼人形とうちの魔導甲冑兵が戦う時は、小鬼人形の時と違って、全然心配している感じじゃなかったわね。悲鳴も上げなかったし、涙目でもなかったし」


エリーに言われて、ちょっと思い出してみると、確かに鬼人形が戦う時は、ふかふかタオルは握っていたけど、声を出さないように口元を抑えたりはしなかったね。んーと、なんでかな。


「僕は館にいた頃に、鬼人形さんの鉄棍を使った薙ぎ払いは、一度見せて貰っていたからね。彼の強さのインフレっぷりは知っていたから、心配する必要がなかったからだと思う」


あの強さなら、何が来たって、そうそう問題にはならない、と安心して観ていられたんだよね。


だけど、僕の返事に、エリーはちょっとご機嫌斜めだ。


「街エルフの人形に傾ける愛情がわからないとは言わないけれど、その何割かでいいから、その優しさをロングヒルの兵士達にも向けて欲しいものだわ」


エリーは訓練中の兵士達にもよく声援を送ったりしていたし、普段から交流があるんだろうね。それだと、確かに気にかけてない感じは不満かもしれない。


「僕の場合、小鬼人形さん達は訓練でお世話になってて、よく知ってるし、ロングヒルの人達と違って、太矢(クォラル)は刺さるし、訓練用の剣と言っても実際に斬られるし、刺されるし、どうしても心配になるよね?」


あれが、矢も当たるだけ、剣も斬れたり、刺されたりすることがないなら、もう少し落ち着いて観ていられたと思う。


「ウチの魔導甲冑兵達だって、鬼人形の一撃は、下手に当たれば大怪我コース一直線だったわよ。今年は問題なく終わったけど、来年以降は演武だけにしたほうがいいかもしれないわね。……事故が起きてからじゃ遅いんだから」


いくら演習とはいえ、本番で想定された相手とはいえ、使われる武器が物騒過ぎるのは確か。訓練を積んだベテランばかりしかいない海兵隊の実弾を使った室内掃討訓練で死者が出たりしたくらいだし、万が一の事態は想定しなくちゃいけないだろう。


いくら兵士は死ぬことも仕事の内とは言っても、訓練で死ぬのは嫌過ぎる。


「鬼人形の演武だけでも、見応え十分だもんね」


「次からの魔導甲冑兵の選定に支障をきたさないか今から心配よ」


エリーがボヤくのも無理はない。いくら最新の立派な装備を貰えて、エリートに相応しい扱い、高待遇を得られたとしても、鬼を相手に足が前に出るだけでも、選りすぐりの勇気ある人と称えられるレベルだと思う。





「そういえば、母さんは、鬼族の人達と話してみてどうだったの?」


本当は僕も話をできるならしてみたかったんだけど仕方ない。とりあえず感想だけでも聞いておかないと。


「そうねぇ、代表のセイケン君は若くて、まっすぐな性格の持ち主って感じね。それなりに鍛えている感じではあるけれど、武官というよりは文官寄りじゃないかしら? 他の子達も同じ派閥に属しているみたいね。話をした感じだと、鬼族の穏健派ってところかもしれない」


なるほど……というか、子達って。


「母さん、あの鬼族を、子達って」


「もちろん、彼らの前でそんな扱いはしなかったわよ。実際、体も大きくて、魔力も豊富、正に鬼族って感じでそれが十人もいれば大迫力だったんだから。ただ、彼らの表情とか、視線の向け方、落ち着きのなさとかを見ていると、どう見ても若者としか見えなかったのよねぇ。人族換算なら二十代というけれど、その年代で更に体の活力が抑えられず、持て余し気味な若者って感じよ。だからどうしても、可愛く見えちゃって」


なのに、精一杯、真面目なお仕事ですって感じで頑張っちゃってて、なんだかほっこりした気分になっちゃったわ、などと母さんが笑顔で話すのを、エリーは、信じられないという表情を隠さず凝視しちゃっていた。


いくらライオンが猫っぽい振る舞いをして、ゴロゴロと喉を鳴らしていたりしたとしても、そんなのが十頭もいる檻の中で、あー可愛い、などと言い出す人がいたら、確かに正気を疑うところだろう。


ジョージさんに視線を向けてみると、自分は無理だ、とわかりやすい表情で教えてくれた。ケイティさんのほうも見るけど、やっぱり、私も無理ですって表情をしてる。……つまり、母さんが特別だと。


……母さんは普通の街エルフだって話だけど、もしかして、普通、というカテゴリー自体が、何かおかしいのかもしれない。妖精さん達が付いていったという話だけど、この分だと妖精さん達がいなくても同じ感想を持って話してくれたんじゃないか、と思う。


人形遣いがどれだけの武を持つのか。僅か十秒程度で他の人形遣い達が駆けつける体制であったとしても、鬼族の若者達十人を相手にして、なんとでもなると思えるだけの武……か。


……もっとも今回の場合、そもそも人生経験が違い過ぎて、鬼族のほうが気圧されていた、というのが妥当だったのかもしれない。一緒に行かなくて正解だった気がしてきた。そんな保護者同伴で行ったら、僕なんて影が霞んでしまって印象が何も残らないなんてことになり兼ねない。あくまでも会うのは、僕を売り込むためなんだから。





昼休みも残り三十分ちょい。


母さんは、私が最初なのよねぇ、などといいながら、空間鞄から公開演技エキシビジョンの開始時を想定した配置図を取り出して眺めると、眉間に皺を寄せて、難しい表情を浮かべた。大変とか、不安って感じではないけど……。


「母さん、最初だと緊張する?」


「午前中の演習だけだと加減がよくわからないのよね。食事をしてすぐだから、絵面的にキツイシーンは避けてください、とか言われちゃって、ちょっと困っているところなの」


などと言って、困ってます、という表情を作ってるけど、それほど深い悩みではないっぽい。


「……えっと、僕は母さんが怪我をしないほうがいいけど」


絵面を気にして、母さんが危険に晒されるくらいなら、小鬼人形達が傷つくほうがマシ……マシと言いたいけど、どれくらいなんだろう?


「アキは小鬼人形達が傷つくとして、手足が千切れ……飛んだら、やっぱりキツそうねぇ……そうなると首を刎ね……たりもしないほうがいいし、体を串刺し…はもってのほかで、両断っ……はしない、しないからそんな顔をしないの!」


母さんが料理のレシピを話すような手軽さで、演習時の話をしていくけど、聞いて想像するだけで気分が悪くなってきて、しまいには母さんが慌てて話を切り上げる有様だった。


「アヤ様、いくら人形で血飛沫が上がらないと言っても、バラバラにするような真似は……」


エリーが遠慮がちに言うのを受けて、母さんは演習図を丸めると、ちょっと早いけど、控室に行くと言い出した。


「どうしたの?」


あと三十分くらいだから、そろそろ準備というのもわからないではないけど。


「少し、人形達と事前打ち合わせをするの」


「急に変えておかしなことになるくらいなら、そのままのほうが……」


「人形遣いの武を見せるほうは問題ないわ。ただ、手際が悪くなるから、そこをどう魅せるか、意識の統一しておかないと」


「人形遣いは指揮をする人だから大変そうだね」


「ある程度、人形に任せる部分と、明確な方針を示す部分をしっかりしておかないとね。じゃ、行ってくるわ」


「行ってらっしゃい」


母さんは色々とボヤキながら陣幕から出て行った。護衛人形さん達と一緒に訓練していたからわかるけど、基本的に彼らの攻撃は一撃必殺、敵をできる限り短時間で無力化して、次に備える余裕を持つ、というスタイルだった。護衛としては大変心強いんだけど、襲撃する側の小鬼人形さん達が、一撃必殺されちゃうことを想像すると、悩ましい。


普段やらないような真似をさせると、手違いが起きそうで、それはそれで不安だ……。


「魔導人形達は、味方として出陣してたのに、人族の軍勢がパニックを起こして瓦解しかけた、なんて話も聞いたことがあるから不安なのよ」


エリーが駄目押しのネタを教えてくれた。鬼族のほうは体も大きいし、襲ってくるから怖いのもわかる。……だけど味方がパニックって何をすればそんなことになるんだか。


「大丈夫だよ、気を付けるって言ってたし」


僕はとりあえず、気休めの言葉を言ってみたけど、いまいち説得力がなかった。僕自身が、魔導人形達のことをある程度知ってるだけに、なぜそんなに恐れられることになるのか、よくわからなかったからだ。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

今回はお昼休みということで、午前の部を終えての意見交換などがメインの話となりました。長くなったので前後編です。後編は妖精族やサポートメンバーの意見を聞く感じになります。妖精族の視点というのは、アキとは別の意味で客観性があるので、アキも重要視しています。

次回の投稿は、五月八日(水)二十一時五分です。



<補足>

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前のほうのページに載っているおかげで、訪問者が増えてとても良い状態です。

6ページ目とかだったりすると、そもそも一日に訪問者(OUT)が数名増加といったとこですから。

息の長い応援よろしくお願いします。(二週間程度でポイントが初期化されるので……)


 ※2019年05月01日(水)にポイントが初期化されました。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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