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6-4.剣撃演習

前話までのあらすじ:槍撃演習では、アキも槍捌きを観るくらいの精神的な余裕ができてきたようです。それでも、もしもの時のためにタオルは手放せないあたり、周囲もまた別の意味ではハラハラドキドキだったことでしょう。

剣を持つ兵士の皆さんを見てたんだけど、ふと、違和感に気付いた。標準的な剣より刀身が長いし、柄も両手で持てる長さがある。何より誰も盾を持ってない。


「ねぇ、エリー、あれってバスタードソードだよね? 片手では重く、両手で使うには長さが足りないとかいう」


「良く知ってるわね。確かに他国ではどちら付かずと言われたりして、採用されてないのも確か。でも、ロングヒルではあれでいい、いえ、あれでないと駄目なのよ」


特に剣で戦う様な状況下では、両手で振り回せる頑丈さがモノを言うの、と補足してくれる。


うーん、見た限り、それ程、皆さん、体格に恵まれてる様にも見えないし、扱いの難しい剣を選ぶ意味が……って、なんで、皆さん、丸木も持ってんの? 棍じゃないよね? 剣と同じくらいの長さの丸木。

それに、的の代わりなのか、長さ二メートルちょいと長めの原木まで運び込まれていた。

予め、用意されていた穴に差し込まれて、丁度、人の背丈くらいの高さになった。


「な、何が始まるの!? 槍みたいに剣を振るんじゃないの?」


「剣を振るう前に、まずは体を温める為の立木打ちをするのよ。ロングヒルではよく見かける馴染みの訓練で、これをやると気合が入るの」


「そ、そうなんだ……」


場内アナウンスが流れ、今から立木打ちをするので、皆さん、声援を宜しく、などと言い始めた。


野太い声援があちこちから飛び始めて、これまでの演目とは雰囲気が変わってくる。


そして、兵士の皆さんが丸木を持ち、原木の前に立つと、右手に持った丸木を耳のあたりまで上げて、左手を添えた。


同時に、響き渡る言葉に非ざる猿叫!


激しく左右から叩きつける丸木からは、あまりの激しい当たりに煙が立つほど。

槍の演目と違い、各自が持てる限りの速度で、叩きつける為、不揃いな衝突音が波の様に響き続けて、音が顔に当たるだけで、痛く感じる程!


直ぐに耳を塞いで、ふと、横を見るとケイティさんも耳を塞いで、少し後ろに下がってるのが見えた。


「こんなに! 煩いなら! 先に教えて下さい!」


音の嵐に負けない様に、僕も大きな声でケイティさんに愚痴る。


「何事も! 経験です!」


ケイティさんも大声で答えてくれるけど、延々の続く打撃音の波に揺られて、頭がクラクラしてきた。


「今年の兵達もいい音を出してるわね!」


エリーはと言えば、身を乗り出して、大きく手を振って兵士達の熱演に応えてる。


逞しすぎだよ、エリーってば。


永遠とも思える時間、続いた立木打ちは、部隊長らしき人の掛け声でピタっと止まった。

激しい運動で体から噴き出した熱気が揺らめいて、かなりの大迫力!

静寂の後には、市民の皆さん達からの惜しみない大歓声が響き渡り、兵士の皆さんも手を挙げてそれに応えていた。


熱い、熱過ぎるよ!


射撃や槍の演習は技量の高さ、スマートさを全面に押し出していたのに対して、剣の演習は、猛々しさ、激しさを見せつける感じだ。


「ロングヒルの男は、その身に狂気を宿している、と揶揄される所以です」


ケイティさんが、何度聞いても慣れませんなどと言ってる。


「刃が触れ合う近接戦闘で重要なのは、相手が動かなくなるまで攻撃を止めないという激しい意志と、それを支える強靭な肉体よ。小鬼に対して、こっちは、腕力とリーチで優っているのだから、それを活かさない手はないわ」


素早さや小回り、身軽さで勝負するのは愚の骨頂、翻弄されて斬られるのがオチよ、とエリーが言い切った。


成る程、種族特性を考えれば理に適った武術の選択と言えそうだね。


「じゃ、鬼族相手なら戦い方は変えるの?」


「それは魔導甲冑兵達の演習まで待ってなさい」


「うん、わかった」


そんなやり取りをしているうちに、立木が撤去されて、今度は兵士の皆さんがバスタードソードを抜いて、やはり蜻蛉の姿勢を取った。


慌てて耳を塞ごうとしたら、エリーに止められた。音を聴きなさい、音がいいのよ、音が、とアピールしてきたので、仕方なく聴くことにして身構えた。


やはり剣を振るうたびに、猿叫としか言いようの無い独特の掛け声が発せられるけど、僕もその独特の音に気が付いた。


剣が空気を切り裂く鋭い音色。


それが剣を振り下ろしても、切り上げても、どの斬り方でも必ず響く。


剣を振るう角度と刃筋が合っているからこそ出る見事な音だ。


だーけーどー!


「やっぱりあの叫び声が煩い!」


結局、途中から耳を塞いでしまった。


「耳が良いのも考えものよね」


エリーが呆れた、とジェスチャーを交えて大声で話すのを、僕とケイティさんは耳を塞いだまま聞き流した。





「いやー、凄い声じゃったのぉ」


次の演目の前にお爺ちゃんがひょいと戻ってきた。


「お帰りなさい、お爺ちゃん。もう打ち合わせは終わったの?」


「うむ、そちらはすぐ終わった。アキの母上も含めて、残りは鬼族達と話が盛り上がって、そのまま彼らと共に観ることになったぞ」


「はぁ? 何のために場所を分けたと思ってるのよ!」


エリーが文句を言うが、お爺ちゃんはどこ吹く風だ。


「アヤ殿の護衛人形達もおるし、何より妖精が五人もおるのじゃ。心配する事などあるまい」


「誰もそんな心配なんてしてないわよ! 周りの被害を心配してるの! 火薬庫で焚き火でもされてる気分だわ。あー、もう嫌」


エリーがやさぐれてしまった。まぁ、そう言いたい気持ちも分からないでも無いけど。


「まぁまぁ。母さんもそうだけど、皆さん、大人なんだから、意味もなく衝突したりしないって」


「意味があれば衝突するんでしょ。分かってるわよ、えぇ、わかってますとも」


何とか慰めてみようとしてみたけど、エリーは座ったままの目をギロリとこちらに向けて毒を吐いた。


これは時間を置いて自然鎮火するのを待つしかないと、気持ちを切り替えて、演習場の方に目を向けると、小鬼人形さん達が短剣を持って登場していた。剣撃演習の最後の演目だね。


「エリー、何処が見所か教えてくれる?」


僕の問いかけに、深呼吸をしたエリーはパチンと頰を叩いて気持ちを切り替えた。


「最後の演目ね。小鬼侵攻部隊に肉薄された我々は彼らの勢いを止めて押し返すため、剣士達の部隊を迎撃に当たらせた、という筋書きよ」


それは何とも切羽詰まった状況設定だ。


「射撃戦ではもう撃退できず、槍を使って倒すだけでは間に合わないって感じ?」


「そう。もはや敵の侵入を完全に防ぐ事は出来ず乱戦必至。そんな中、更に混乱を広げようと突撃してくる小鬼部隊。では、我々はどうするか。答えはシンプルで敵に正面から当たり、これを粉砕すること」


「……何とも剛毅だね」


「数に勝り、地形を物ともせず飛ぶように侵入してくる小鬼相手に、ただ守勢に回っても手数で負ける。だからこそ、相手を止めるだけでなく押し戻し、磨り潰す強さが必要なのよ」


想定されている状況は、戦線の中央部、互いに側面攻撃はなく、正面突破のみを必要とする、という設定ね、とエリーが教えてくれた。


見れば、演習場に線が引かれていて、あれより横には互いに出ない事を前提とした演目なんだろう。


小鬼人形さん達は横に五人、それが三列で四列目に一人の変則的な並び。

ロングヒルの剣を持った兵士達は横に四人、それが三列の編成だ。


「人数はロングヒルの方が少ないんだね」


「いつも数的不利なのは変わらないから。多少少ない程度ならマシな方ね。さあ、始まるわ」


エリーが告げた通り、開始を告げる銅鑼の音と共に、小鬼人形さん達が突撃を始めた。

前方に倒れこむように低い姿勢で走り込んで行く。


互いの距離は一気に十メートルまで迫る!


まだ、ロングヒルの兵達は剣を構えたまま、動かない……いや、僅かに姿勢を前に傾けたかな?


互いの距離が更に縮まり六メートルを切ろうとした瞬間、ロングヒルの兵達が猿叫をあげて、爆発的な勢いで踏み込み、低い姿勢で突撃を始めた。


空を切り裂く音と共に振り下ろされた剣を、小鬼達は斜め前方に避けつつ踏み込もうとしたけど、ある者はそのまま斬り伏せられて地面に叩き落とされ、またある者は避けるのを諦めて、ソードストッパーで防ごうとした挙句、叩きつけられた衝撃に耐え切れず、そのまま吹き飛ばされて後方の小鬼人形達まで巻き込んで、彼らの隊列を乱した。


一人だけ、回避したまま、更に肉薄した小鬼人形がいたけど、後列の兵士が繰り出した激しい突きを食らって、攻撃する前に倒された。


最前列の兵士達は突進の勢いを残したまま、更に踏み込みつつ、小鬼達の二列目に切り掛かり、身軽さを生かして飛び越えようとする小鬼人形を大きく振り回した剣で捉えてそのまま、押し飛ばす。


さすがに二列目に切り掛かった時点で、突進の勢いが止まったけど、その瞬間、すかさず二列目の兵士達が間を抜けて突撃し、強引に小鬼達の列をこじ開け、更に押し戻した。


結局、小鬼人形達は兵士達の休みなく振り回される剣の乱舞を越える事ができず、その全てが倒された。


最も兵士達も無傷とは行かず、合計三人が倒されたようだ。


「……凄い」


リーチを活かして、勢いのある斬撃を相手の体にとにかく叩きつける。体の中心線を狙ったそれを完全に回避するのは難しく、しかし受ければその場で耐えきれず潰されるか、押し飛ばされる。しかもそんな斬撃が休む事なく次々と繰り出されるのだから、小鬼人形さん達もたまったものではないだろう。


「無茶苦茶に見えるかもしれないけど、ああして圧力をかけて後続の小鬼も纏めて叩き斬るような真似をした方が、生き残れる確率が高いのよね」


演目の終わりが告げられて、倒れていた兵士達や小鬼人形さん達が起き上がると、割れんばかりの大歓声が彼らの奮闘を讃えてくれた。隣の鬼族の所からも、力強い拍手が聞こえた。彼らの目にも、今の演目は心に響くものがあったようだ。


見た感じ、小鬼人形さん達も、うまく斬られていたようで、あれだけ激しい勢いで叩きつけられていたのに、立ち上がれない者はなし。見事なものだ。着込んだ鎖帷子もかなり切れていて痛々しいけど、出血がないせいか、そこまで悲惨には見えないのが救いだ。


「少し休憩を挟んで、次はクロスボウガン、槍、剣の全てを使った強襲の演目よ。射撃で相手の射手を潰して牽制しつつ、槍兵が突撃して敵を乱し、更に剣を構えた兵士達が雪崩れ込んで敵を討ち取るわ」


「それは何とも勇猛果敢だね」


ある意味、午前の部の一番の見せ場なのよ、とエリーが教えてくれた。次の魔導甲冑兵の人達は一握りのエリートだけで、兵士を経験した市民達からしても、殆ど縁がない兵科だから、と。


ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

午前の部その3「剣撃演習」が実施されました。それまでのスマートさとは打って変わって、荒々しさ、激しさを前面に押し出した内容に、アキは圧倒されたようです。あとエルフ族系の耳の良さが、利点ばかりではないということも身に染みたようですね。

次回の投稿は、四月二十四日(水)二十一時五分です。


<それと>

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前のほうのページに載っているおかげで、訪問者が増えてとても良い状態です。

6ページ目とかだったりすると、そもそも一日に訪問者(OUT)が数名増加といったとこですから。

息の長い応援よろしくお願いします。(二週間程度でポイントが初期化されるので……)


 ※2019年04月16日(火)にポイントが初期化されました。

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