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2-2.新生活一日目②

「では、アキ様。今後、しばらくは今からお話する一日のスケジュールで過ごしていただきます」


 そういって、ケイティさんはテーブルに、円系の図を広げた。

 朝六時から夕方六時までの十二時間を活動内容毎に色分けしてあってわかりやすい。


「まず、起床してから朝食を終えるまでがこちらになります。今回もそうですが、意見交換や今後の予定などを話す時間も含まれます」


「私とアキがこうして顔を合わせるのは、朝、昼の食事の時間と午後のお茶の時間になる。お互い、何をしたのか、何を感じたのか、他にも何でもいいから話をしよう。アキも私のことは、ミア姉ほどには知らないだろう?」


「ミア姉は別格ですよ。友達よりも、家族よりも、他の誰よりも過ごした時間が長いんですから」


「流石に一緒にそれだけいると飽きたり、少し離れたくなったり、したくならなかったのかい?」


「んー、不思議とそんな気持ちになったことはなかったかな。ほら、ミア姉って距離の取り方が上手というか、いつも見守ってくれてるというか、好きなようにやらせてくれるけど、ちょっとした一言で危ないことを気付かせてくれたり、うーん、なんというか、上手いんですよ」


「あぁ、なるほどね。君もミア姉によく言われた訳か。『そっかー。そうしてみると。うん、頑張ってね』とか」


 リア姉が口調を真似て、にまっと笑う。


「あー、その表情すっごく似てます。そうそう、その微笑みの後に何度失敗したことか。でも、失敗しちゃった話をミア姉にすると、自分も失敗したんだよねー、なんて感じで、なぜか失敗の話で二人して盛り上がったりしちゃって――」


「はいはい、リア様、アキ様、ミア様の話はそれくらいに。スケジュールの話をしますよ」


 ケイティさんが苦笑しながら、懐中時計を取り出して、時間を示した。スケジュール表と見比べると、この後の講義の時間までそれほど時間はなさそう。


「よろしくお願いします。それで、この後、お昼までは講義と、それに魔力感知訓練ですか」


「はい。最初に何をお話するか悩みましたが、こちらの生活のあらゆる分野に影を落とす厄介な存在、竜族、中でも空を支配する天空竜について説明することにしました。明日からはアキ様が興味を持たれた内容を考慮して、柔軟に進めていく予定です」


「天空竜! なんだか凄そう。やっぱり鱗が頑丈だったり、爪や牙は最強の武器になったりするんですか?」


「あちらの物語で出てくる竜が、こちらの竜とあまりにも似ているので、もしかしたらアキ様とは別にこちらとの交流があったのかもしれません。こちらでも男の子に大人気の話題なんですけど、興味を持てたようで良かったです」


地球あちらでは、映画とかアニメの中でしかいなかった存在ですからね。それはもちろん、興味がありますよ。空を飛ぶくらいだから航空力学的にも洗練された外見だったりするんだろうなぁ、とか」


「講義で話をしますので、今はそれくらいで。次の時間は魔力感知訓練です」


「最優先にしたい訓練ですよね。楽しみです」


「講義と比べると地味で時間のかかる内容ですので、あまり期待を膨らませ過ぎないでくださいね」


「あ、そうなんですか」


 まぁ、楽しい修行というのはなかなかないだろうから、仕方ない。


「ここまでで午前中は終わり、昼食後は活動的な服装に着替えて、一転して身体を動かす訓練になります」


 確かに今着ているようなワンピースで、運動はできないよね。まぁ、学校でも体育の時には体操服に着替えるし、似たようなものか。


「午後の訓練もケイティさんが講師ですか?」


「いや、アキの護衛を兼ねた男が講師をやる予定だ」


「街エルフの男性ですか?」


「いえ、彼は私と同じハーフで、海外経験も長いので、そのあたりの話もいずれ聞くと良いかと」


「海外! それって遺書を書くほど危険なのに、長期間行ってたんですか!? 凄い人なんですね」


「アキ、それなら、ケイティもその凄い人になるぞ」


「え、ケイティさんも!?」


 こんなにメイド服がに合っている美人さんなのに、命の危険を顧みない海外活動ってイメージと合わない。


「そのあたりはまた、いずれ機会があれば、ということで。それでは、お話を戻します。午後の訓練が終わったらお茶の時間で、ここで少しボリュームのある食事をして、これがアキ様の夕食ということになります」


 体を動かす訓練はだいたい2時間くらい。かなりバテそうだから、量があるのは嬉しいけど。


「え、夕食はそこなんですか?」


「昨日の感じから逆算すると、このあたりで食事をしておきませんと、またお風呂の中で寝てしまうことになりかねません。それにアキ様、寝る前に復習の時間も必要でしょう?」


 髪を梳かすだけでも結構時間がかかったし、うーん、お風呂の時間を考えると確かに、そうかもしれない。


「なんだか、とっても一日が短いです」


 今朝、起きた時間から考えても、リア姉は半日は寝てる感じと言ってたけど、実際には起きてる時間は十時間を切りそう。日本で暮らしていた時より、活動時間が六時間も少ないのは、かなりのハンデだと思う。


「家事や雑事はケイティや女中人形が行うから、多少は補えるだろう。他人に依頼できる内容は遠慮なく言うように」


 確かに。本当なら自分のことは自分でできたほうがいいと思うけど、今聞いた限りでは講義、魔力感知訓練、体を動かす訓練に一日二時間ずつしか割り振れない。短期集中のつもりでいかないと、これはかなり不味そうだ。


「わかりました。ケイティさん、よろしくお願いします」


「はい、お任せください。それでアキ様、何か希望はありますか?」


「では、ノートとペンをください。あ、それと持ち運びに便利な小さいサイズのメモ帳も」


「そのノートを読んでもいいですか? 私達にはない着眼点や気付きがあるかもしれません」


「それでは、持ち歩ける小さいメモ帳を1冊と、机で書く大きなノートを2冊お願いします。1冊はプライベート用なので、読んじゃ駄目です」


「わかりました。ではさっそく用意させておきますね。ポシェットも用意しましょう。メモ帳を持ち運ぶのにないと不便ですから」


 ケイティさんはなんだかとても嬉しそうだ。


「そんなに嬉しいものなんですか? 他人のメモ書きなんて見てもさほど面白いものではないと思うんですけど」


 自分が思い出さればいいから、綺麗な字で書くより、思いついたことを忘れないうちに書くこと優先で、手早く残すのが基本だ。そんな雑な走り書きを、別に僕は読んでみたいとは思わないけどなぁ。


「もちろんです。あの『マコトくん』がこちらの世界について語る、って本の云わば生原稿を読める訳ですし」


「え゛、出版するつもりなんですか」


「内容にもよるが、世に広めたほうがいいと判断したら、出版してもいいな」


 あー、もうリア姉まで。


「僕、本なんて書けませんよ」


「語り部がマコトくんで、共同執筆という形にして幽霊作家(ゴーストライター)は用意するよ」


「なんだか、書くのが怖くなってきました」


「当面、ミア姉の残した原稿があるからネタには困らないんだが、やはり新作はあったほうがいいだろう。人気作家は辛いな」


 もう、他人事だと思って。

 僕は味方のいない劣勢を知って、深い溜息をついた。





 居間に戻ってみると、ケイティさんとは違い、色違いのネクタイを締めたメイドさんが三人で講義の準備をしていた。

 三つ子なのか、整った容姿はネクタイの色以外はまったく変わらず、肩口で切り揃えた綺麗な栗色の髪で、ケイティさんと同様、クラッシックスタイルのメイド服を一分の隙も無く着こなしている。背は僕より少し高いくらいだ。

 用意しているのは、豪華な布の覆いがかけられたキャンバスの足からするとかなり大きな絵画と、結構な枚数の裏側に白黒の説明書きまでついたフリップ、それに定番のホワイトボードだ。


「女中人形に興味がある、とのことでしたので紹介します。館内作業を担当している三名です。左からアイリーン、ベリル、シャンタールと言います。挨拶を」


「「「よろしくお願いしマス、アキ様」」」


 赤ネクタイの子がアイリーン、黄ネクタイの子がベリル、緑ネクタイの子がシャンタール、と。

 でも、間近で見ていても全然、人との違いがわからない。

 あ、瞳に六芒星が描かれている。どの子も同じだ。


「こちらこそよろしくお願いします。人にそっくりですね。瞳の六芒星にはどんな意味があるんでしょう?」


「瞳は視線補助系魔術の魔法陣として機能しています。この三名は高魔力域での運用を考慮しているため、全身をくまなく抗魔力効果を持つ人工皮膚で覆っています。そのため魔力を除けば人との違いは目の魔法陣くらいなものでしょう」


 綺麗な肌だと思ったけど、そんな素材とは。人工と言われても全然わからない。異世界恐るべし。


「魔力は違うんですか?」


「正確に言うと、魔力分布と揺らぎに違いがあります。魔導人形は心臓部である宝珠に魔力が集中しており、魔力自体にも揺らぎがありません。ですので、人と魔導人形が一見似ていても見間違えることはありません」


 うーん、僕は魔力が感知できないから、全然違いがわからない。


「三人とも能力は同じなんですか?」


 とりあえず、メイドさん達に聞いてみる。


「私達は同一時期に製造されまシタ。そのため、身体機能に違いはありまセン」


「今、アイリーンが言ったようにハード面での違いはありません。また、女中としてのスキルも高いレベルで保持していますが、思考、嗜好にはかなり違いがあります」


 なんと、魔導人形にもかなりの自我と個体差があるっぽい。


「アイリーンさん、例えば他の二人と違う部分を一つ挙げるとしたら何ですか?」


「私は料理が好きデス。自由時間にコック長から教えて頂いてマス」


 なんと、味覚もわかるなんて多機能な。

 というか、話す時、呼吸に合わせて胸が少し上下してるし、歯も舌もある。

 凄いな。全然作り物に見えない。


「私もよく試食しますが、もう少し上達すれば、アキ様にもお出しできると思います」


「それは楽しみですね」


「ご期待くだサイ」


 魔導人形も習って覚えるんだ。ロボットとは別物と考えたほうがいいね。


「ベリルさんはどうですか?」


「私は天体観測が好きデス。惑星の動きを記録していると時間が経つのを忘れマス」


 それはなんとも素敵な趣味だ。


「シャンタールさんは何になるでしょうか?」


「私は掃除や洗濯が大好きデス。磨いた銀器や、曇り一つないグラスは見ていると飽きまセン」


 うん、うん、確かにピカピカにできると嬉しいよね。


「3名とも館で作業をしていますが、緊急時を除いて触れないようご注意ください。触れても問題がなくなれば、改めてその旨をお伝えします」


「わかりました。色々お願いすると思うけどよろしくお願いします」


「「「畏まりまシタ」」」


 3人とも見本のような仕草で挨拶をすると、礼をして廊下の外に下がっていった。

 なんだか、すっごく異世界にきた実感が湧いてきた。


次話は、四月二十八日(土)に投稿します。

前回、書いた通り、ゴールデンウィーク中は最終日の五月六日(日)まで毎日投稿します。

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