5-20.妖精さんの目線
前回のあらすじ:妖精女王のシャーリスさんから、妖精界の家の作りや、街に飛び込んでくる鳥を追いかけ回す子供たちのお祭り騒ぎについて話を聞くことができました。そして、体験して貰おうと用意したライフル銃による狙撃、耐弾障壁の護り、ショットガンの範囲射撃について経験して貰い、妖精さんに危機意識を持って貰うことはできた……んですが、こちらの世界を警戒させることにもなり失敗したとアキは落ち込むことに。その後、アイリーンが用意した宴会料理のおかげで、印象はプラマイゼロくらいまで戻った感じでしょうか。
少し豪華な昼食パーティも盛況のうちに終わり、ほっと一安心。
そして、大部屋でこちらの地図を見せたところで、想定外の事が起きた。想定外と言うと言い過ぎかな。ある意味、予定通りだったんだけど……。
妖精さん達は、妖精の地図と同じ縮尺で描かれた、こちらの地図にとても興味を持ってくれた。
ここまでは予定通り。自分達の住む場所の広さをイメージしながら、こちらに当て嵌めることで、こちらの世界のリアルさを意識して貰う。そのつもりだった。
街エルフの国は大きいけど島なので、中心に据えると海の割合ばかりが増えてしまう。そこで街エルフの国が地図の中に収まる程度に、地図の中心を本島側に移して描かれている。
妖精さん達は、情報量を示した色付けの方ではなく、交流がほとんどない鬼族の国や、敵対している小鬼達の国、それに侵入不可侵な天空竜達の支配する領域に至るまで、都市や竜の住処、それに道や橋が描かれている事、それ自体に驚愕していた。
「これが橋、そして川の両側に築かれた治水の為の堤防か。道によって描いている線の太さが違うが、何か意味があるのか?」
「空間鞄がある為、日常的な物流はさほど人の移動はありまセン。しかし、軍事行動の際には大勢が一度に移動するので、ある程度、道が整備されていマス。移動しやすく、大勢が歩ける道幅、水捌けの良さ、そして鬼が走っても壊れない頑丈さ。それらは道路としてしっかりとした整備が欠かせまセン。線の太さは道幅の違い、一度に通れる人員量の差を表しマス」
「鍵となるのはやはり重さか。街を示す記号に種類があるが、これは?」
宰相さんは地図から得られる情報の多さに驚きながらも、貪欲に質問し、それにベリルさんが応えていく。
僕は情報量を色分けしたことで、違いを大雑把に把握して貰うつもりだったけど、妖精さん達は、周辺地理を把握するのに最低限必要だろうと描いた補足情報の方に興味津々だ。
僕が微妙な表情をしているのに気付いたシャーリスさんがそっと近づいて来て小声で話しかけてきた。
「浮かぬ顔をしておるな」
「興味を持って貰えたのは良かったんだけど、料理を出したら、器ばかり注目を浴びてるような感じで」
僕がチラリと用意した残りの地図の方に視線を向ける。この分だと当分、陽の目を見ることはないなぁ、と。
「それは大きさからして、今、見ている地図より広い地域の地図なのじゃろ? アキよ、先程も言うたが急ぎ過ぎじゃ。相手がまだ食べ始めたばかりなのに、次から次へと料理を出しては、落ち着いて味わう事もできぬ」
「あぁ……それもそうだね」
相手が食べ終わって、次の料理を食べたいと思う頃を見計らってタイミングよく配膳しないと。早くても遅くても良くない。
「こうして見比べるだけでも、我らの地図には多くの情報が足りぬことは理解できた。それらを教えてくれた其方らの心遣いには感謝しておる。しかしな、『見知らぬ空は友と飛べ』とも言う。我らだけが突出しても意味がない。国許にいる者達とペースを合わせなくてはな」
そしてシャーリスさんは地図の一点を指差した。
「街エルフの国から、これほど離れた地まで詳細な地図を描くとは見事じゃ。我らの掌握している地域の倍は遠い。相手の全ての国境線を把握し、隣接国の裏の裏にある国まで描き込んでおる。それに比べて、我らは手前にある斥候にしか気を配らず、後ろに控えた本陣や別働隊まで目を向けていなかった。それが理解できた。今はそれで十分じゃ」
それに畑の広さと民の数は比例するというのも、あまり気にしたことのない視点で興味深い、とのこと。
妖精さんが食べる量はほんの僅かだから、緩衝地帯も含めれば、森の恵みだけで、食料を完全自給してる事もあって、気にした事がなかったんだろうね。
「その感じだと、暫くは緩衝地帯の外縁部から空撮して、地図の情報を増やす感じ?」
「そうじゃな。そこから人の国について分析してみるつもりじゃ。どの程度の高度から撮影するのが最適か、色々試すことになる。暫くは手探り状態が続くかの」
「使い魔みたいな感じで、鳥に魔導具で撮影して貰うとか?」
「我らの魔導具を落として、それが人の手に渡るほうが危うい。通常通り、三人一組での巡回を基本に据えたほうが良かろう」
「現物が相手側に渡ったら、かなりの部分まで推測されちゃうから、そこは慎重に行くしかないね。ところで、薬草を取りにくる薬師さんあたりと接触してみる事は考えてる?」
「いずれ、必要とは思うが、ちと気が早いじゃろ。とは言え、緩衝地帯を歩く者達について、観察して、どのような者か見定めるくらいはしておくのも手か」
などと僕達が話している間にも、宰相さんは地図から読み取れる情報で他国をイメージして、浮かんだ疑問を次々に聞いている。
近衛さんも時折、質問しているけど、鬼族が太く立派な道路網を整備しているのに対して、小鬼族は細い道を網の目の様に作り、人族の道が細く、都市国家間の道路網が貧弱な点に疑問を持って質問している。
彫刻家さんは、測量方法それ自体について、空撮から地図を起こす方法について質問している。
そして、賢者さんは一番魔力の弱い筈の小鬼族が最大の版図を築いている事に興味を示し、天空竜の支配地域と、自分達の緩衝地帯の類似性についても興味を持って魔力という視点から質問をしていた。
初めは大人しく説明を聞いていたんだけど、だんだん、自分の興味のある部分を聞く事を優先して他のメンバーに聞き始めて、結局、食事の時と同様、マンツーマンでの対応へと移っていく。
時折、合流したかと思えば、また離れて別の話題を話して、と、あちこちで同時並行的に会話が行われていて混沌としている。
「ちょっと不思議な感じだね」
「妖精に、行儀よく皆と歩調を合わせて、ずっと行動させるというのは、無茶というもの。それでも、それとなく、周りの話にも気を配っておる。これでいいんじゃよ」
シャーリスさんも、そんな事を言いながら、くるりと振り返って、新たな戦端を開いた。
「それでアキよ、其方は若いが地図を見慣れている様に見える。それは何故か聞かせてはくれぬか?」
どうも、女王陛下は地図の事は部下に任せて、僕自身の話を聞くことに決めたようだ。
僕は学校で習った地図記号について、ミア姉に自慢気に話したら、実際の地図がどんなものか見てみたいと言われて苦労したことを話すことにした。
結局、縮尺も歪で、それでも自分が知っている地図記号をできるだけたくさん描くんだ、と意気込んで、随分、時間はかかったけど、普段の行動範囲についてはあらかた盛り込んだ地図ができた。
道路一本描くのにも、手間が掛かり、大変だったこと。でも、自分が住んでいる街をミア姉に紹介できて嬉しかったことを話した。
そしたら、簡単にでいいので見てみたいというので、日本の自宅のことを思い出しながら、小学校までの道程や、途中にあった駄菓子屋さん、友達の家が営んでいた茶畑とか、河川敷にある堰とか、昔の事を思い出しながら紙に描いて、そこに絡むエピソードを簡単に紹介していった。
シャーリスさんにはとても好評だったけど、地球の世界地図を見せるつもりが、日本のご近所案内に変わってしまった。
相手がいるのだから当たり前だけど、なかなか思い通りにはいかないね。
評価、ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
今回は短いですがキリがいいところなのでここまでです。
妖精さんの手土産となるようにと用意した地図でしたが、見て欲しいメイン情報より、補足情報のほうに興味を持たれてしまったのは、予想外でした。
まぁ相手のいる話ですし、妖精さん達も各人、興味を向ける分野も異なるようですし、一筋縄ではいきません。何よりシャーリスも明言しているように『公務ではない』というスタンスですからね。
街エルフ達との交流は、ミア姉との交流により十分過ぎる下地があるチュートリアルモード、妖精さん達はお爺ちゃんの一カ月に及ぶ自慢プレゼンが下地のイージーモードといったところでしょうか。アキも頑張ってはいるんですけどね。
次回の投稿は、三月三十一日(日)二十一時五分です。
<雑記>
この連載小説も、初投稿から一年が経過しました。毎週2回の投稿、続けてみると結構、続くものですね。もっとも書き溜めてストックがあって余裕とか思っていた時期は短く、投稿が終わると、次のパートを書こうとあたふたしてます。筆の速い投稿者の皆さんが羨ましいです。
今後ものんびりお付き合いください。
<雑記2>
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