5-15.束の間の休息
前話のあらすじ:エリーの計画参加はちょっと時間がかかりそう。妖精界のほうは召喚依存症コースは避けられそう。そして、仮想敵部隊の駐屯地も眺めてくることができました。悪役というのもなかなか大変そうでしたね。
あと、5-14.ですが、小鬼人形のタローの応援に絡む部分の描写を少し加筆しました。
その後のアキの「応援するのは当たり前」と考えている部分も。
仮想敵部隊の野営地観察も、慌ただしく終わって、別邸に戻ってきた。
「ああして、野営地を作っておるのか。なかなか良いものを見学できたのぉ」
お爺ちゃんは短い時間だったけど、満足しているみたい。
「確かに、寝床を木の上に作るのは珍しかったね」
「儂らが作る寝床は木の上が普通だから、そこはそういうものかと思っただけじゃが。儂らは森の中で自分達で暮らして居るからのぉ。たまに入り込んでくる人と接触する程度で、儂らが人の住処に行くこともない。じゃから、ああして大勢が力を合わせて生活に必要な設備を作っていく光景を、直接見たことはなかったんじゃよ」
「あれ? 妖精族は他の種族と交易したり、一緒に何か共同作業をしたりしないの?」
「見ての通り、儂らは小さいからのぉ。人が作る道具も作物も大半が大き過ぎるんじゃよ」
例えば苺ならまだ抱えて飛べなくもないが、林檎ならお手上げじゃ、と補足してくれた。
確かにそうだろうね。取引をするとしてもお米を掌一杯、なんて単位じゃ、手間ばかりかかるし、妖精が作る道具はどれも小さ過ぎて、人が使えるものじゃない。
「それじゃ、周囲の国々とは交流はないの?」
交流する意味がないとなると、後は生活圏が重なって争いが起きる時くらいしか接点がない。
「儂らの国はさほど大きくないが、国の周囲を妖精が飛べる数日分程度、地形的にキリのいいところまでを緩衝地帯としておるんじゃ。その地に少人数が入り込むのは黙認しとるが、定住や領有は認めておらん」
「それだと、森は原生林って感じで、人が入り込むのも難儀しそうだね」
「薬草を求める薬師が入る程度じゃな」
「じゃ、領有権争いみたいなのはないの?」
深い森の奥深く、とかだったら人の生活圏とはあまり被らないかもしれない。
「そういった争いは数える程度じゃ。ないとはいわん。人が管理しやすいよう森に手を入れ、我が物顔で歩こうとした際には、夜のうちに食料や荷を焼き、全身水まみれにするようなことを何度かやったら逃げ出した。儂らも本格的に戦うような真似はしたくないからのぉ」
「それは平和的な対応だね。本気で争ったのが数回?」
「うむ。何千という兵士達が隊列を組んで襲ってきたことがある」
妖精界も平和で長閑って訳じゃないんだね。
「……どうしたの?」
「彼らの動きは空から監視する我々からすれば手に取るようにわかり、その歩みは蟻のように遅かった。じゃから、まずは声を大きくする魔術で、軍全体に領有は認めない、去るのであれば見逃す旨を伝えたんじゃ」
「……それで帰ってくれるならいいけど、そうはならなかったんだよね?」
「そう、彼らは自分達の領有権を主張し、儂らに対して、彼らの国に属するよう、威圧してきたんじゃ」
「交渉決裂、というか全然、話が噛み合ってないね」
「仕方ないので、相手の司令官がそう声高に主張した瞬間、軍の内に侵入していた我らは、彼らの糧食を焼き、全身を水まみれにして、強い風を吹かせて凍えさせてやった」
「うわー……そもそも自軍の内側に入り込まれたのに気付かなかったんじゃ、人の軍は大混乱して逃げだすしかなかったろうね」
「彼らはまた来ると捨て台詞を残して、這う這うの体で逃げ出していった」
それはもう、泣きだしそうな顔をしてのぉ、とお爺ちゃんが変顔をして、人族の慌てぶりを表現してくれた。……その言い方だと、その戦いにお爺ちゃんも参加したんだろうね。
「それだと、次に来た時には警戒厳重で、簡単には入り込めない感じだよね?」
僕の疑問は予想していたようで、お爺ちゃんはちょっとだけ誇らしげに胸を逸らした。
「彼らは予め、周囲で聞き込みをして、ここに儂ら、妖精が住むことは理解しておった。じゃが、森の中を飛ぶ儂らしか見ていなかった彼らは、儂らの戦い方を誤解しておった」
「誤解?」
「姿を消してそっと近づき、食料を焼いて撤退させるような方法でないと戦えない、正面から戦うだけの力はないと」
「妖精が人と剣を交える姿は、大きさが違い過ぎて想像できないけど、簡単に内に入り込める時点で、手強い相手じゃないかなぁ」
「うむ。奴らは、周辺警戒を密にして、侵入を防ぐことができれば、儂らと戦えると考えたようじゃ」
「まぁ、それができて初めてスタートラインに立ったってとこだよね」
「その通りじゃ。確かに彼らは姿を消した我らを見つける魔導具を用意し、警戒しながら進んできおった。儂らも姿を消して侵入することは無理じゃった」
「じゃ、天候の悪い日を選んで空爆でもした?」
「少し工夫はしたが、その通りじゃ。人が大軍で侵攻してくる道筋は限られるからのぉ。周囲に展開していた少人数の斥候達は、儂らの得意とする森の中からの不意打ちで排除し、大軍のほうは予め、駐屯しそうな場所にフラの実、刺激を与えると爆発して四方八方に鋭い棘を飛ばす種子をたっぷりばら撒いておいた上で、上空から急降下して軍に魔術で炎の雨を降らせてやったんじゃよ」
「……じゃ、炎の魔術のほうは何とか耐えたとしても、その、フラの実が飛ばす棘を浴びて人の軍は大混乱?」
「うむ。そして混乱に乗じて、周辺警戒している者の魔導具を狙撃して壊して、ある程度潰してしまえば、後はこちらのもの。水瓶に穴を空け、糧食やテントを燃やして、戦えぬようにしてやったんじゃ」
「攻撃タイミングは妖精側が常に取れるし、襲撃は短時間で終えるから、妖精側はほとんど被害が出ない感じだね」
「そう、儂らは仲間が傷つかぬよう、勝ちやすい状況を作って、勝ちに行き、深追いはせぬからのぉ。そうして人の軍はやはり敗走したのじゃ」
「ちなみに、人の軍がそうして何度も攻めてきたのは、お爺ちゃん達の住む森に、貴重な薬草があるから?」
「それもあるが、自分達の領土の中に、不可侵な領域があるのは気に食わんのじゃろ」
「妖精界に竜族はいないの?」
「いるが、儂らの国には近づかんのぉ。彼らの食する大型の動物もおらんし、儂らの魔術は竜の鱗を貫通するから、奴らも嫌がって近寄らんという訳じゃ」
「え? 竜の守りを貫通しちゃう?」
「奴らは低い位階の魔術は無効化してしまう。じゃが、裏を返せば高い位階の魔術は無効化できない、つまり通じるのじゃ」
「なるほど」
例えば、とお爺ちゃんが杖を一振りして、以前、見せてくれた竹串のような槍を出現させた。
「この槍じゃが、見ての通り、小さくて竜を傷つけるのには役に立たんように見えるかもしれん。人の使う両手剣のようなでかさもないからのぉ。じゃが、この槍は威力は弱いが、魔術としての位階は高い。考えてみるといい。傷は小さくとも体に細い針を埋め込まれたら、痛いじゃろ?」
「うん、想像するだけで痛そう」
「竜とて同じじゃ。小さくても体に針を突き刺して埋め込まれたら痛い、しかも全て埋没しているから抜くこともできん。竜の手にとって儂らの槍は細く小さ過ぎるからのぉ。そして、竜の飛ぶ空と、儂らの飛ぶ空は高さがだいぶ違う。元々、竜族が儂らの飛ぶ空まで下りてくることは稀じゃ。しかも食いたい大型動物もおらず、竜の鱗を貫通して針を刺してくる妖精までいる。……じゃから、竜族は儂らの住む地域には近寄らんのじゃよ」
「竜が我が物顔で飛んでられるのも、大半の攻撃を無効化する鱗の守りがあればこそだもんね」
「竜を倒すのは無理じゃ。しかし、そもそも倒す必要もない。竜を近寄らせない、そのためにできるだけ小さな力でそれを成し遂げられれば、それが最上じゃ。竜を手酷く傷つけるような魔術を使えば被害も馬鹿にならんからのぉ」
「竜を撃退しました、でも街も森も焼けてしまってもう住むことができません、じゃ困るもんね」
「そういうことじゃ」
「妖精族の考え方は、俺達、探索者のそれに近いものがあるな」
ジョージさんが、感心した表情を浮かべた。
「僕は特殊部隊の人達の考え方に近いかなーと思ったんですけど、探索者もそうなんですか?」
「特殊部隊というのは、少ない装備と少人数で敵地に潜入して、目的を達成する、だったか?」
「はい。手荷物が限られるので、できるだけ小さな力で最大の効果を発揮できるように考えるんですよ」
「なら、探索者と同じだ。いくら空間鞄があってもやはり物資には限りがある。その中で何かを為そうとしたら、それはできるだけ小さな力で短時間で達成できるのが望ましい」
「妖精も同じじゃ。なにせこの通り、儂らの身体は小さい。じゃから、できるだけ小さな力で何かを成し遂げなくてはならんのじゃ。幸い、姿を消して、こっそり移動すれば、儂らは簡単には見つからんからのぉ。工作をするのはお手の物じゃ」
妖精さんは、生粋の特殊部隊なんだね。小鬼達は生まれながらの暗殺者だし、なんとも物騒な世界だ。
ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。
仮想敵部隊の駐屯地を眺めた後、翁やジョージと妖精界について色々と話をしたお話でした。妖精の国は、妖精を見た人はいても、国を観た人はいないといった感じで、人との交流もほとんど行われていないようです。このあたりも妖精女王と話をする際に色々と役立つことでしょう。穏やかな時間も今回で終わり、次パートからまた慌ただしい時間が始まります。
次回の投稿は、三月十三日(水)二十一時五分です。
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