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5-11.ハマった賢者と召喚依存症[前編]

前話のあらすじ:二人目の妖精を召喚しました。白髪の老人妖精で役職名は賢者。自分でそう名乗る通り、自他共に認める偉大な魔法使いさんですが、だいぶせっかちな性格です。あとエリーが今回、状況の激変に揉まれたようで、アキに状況説明を求めつつ、愚痴を言ってました。

昨日は、あれからずっとエリーの愚痴を聞いていて、総武演の大規模化による予算超過は、総武演自体を複合イベントと見做して、参加型イベントや、参加各国の特色を生かした食事や弁当の販売、関連グッズの開発、販売、関連企業との商談ブースの稼働って感じに商人達を巻き込んで、イベント自体で黒字になるよう、全体計画を立てて進めていけばいい、という話をした辺りで、エリーがギブアップ。それに僕もジョージさんが時間切れだと教えてくれたので、エリーとの内緒話はそこまでとなった。


総武演の単独黒字化について、近いうちにケイティさんを加えて、改めて話を聞かせるよう、念押しされた。赤字を避けつつ、せめて今回並みに来年も開催したい、とのこと。


勿論OKだと伝えたけど、日程調整をするべきケイティさんとは結局、合流できず、お爺ちゃんに伝言を頼む事になった。


アイリーンさん達も不在という事で、お風呂の支度などを含めてダニエルさんと農民人形の皆さんが対応してくれた。

幸い、料理は保管庫にある程度入れてあるとのことで、夕食も困る事はなし。

シャンタールさんもこんな事もあろうかと、換えの下着や服は予め用意してくれていたので、やはり問題なし。


ちなみに師匠の家から帰る間際に覗き見た感じでは、広げている資料も増えて、師匠のところのメイドさんが用意した軽食を口にしつつ、ホワイトボードに色々と書き込んだりしながら、魔術に関する難しそうな話に没頭していた。賢者さんは、我が世の春と言った感じで、活き活きとした表情を浮かべて、五対一の数的劣勢を物ともせず、逆に前進制圧しそうな勢いだった。


「この分だと、賢者さん対応要員の緊急投入ありっぽいね」


「それは、燃料投下という奴じゃな」


あぁ、お爺ちゃんがスラングを使い始めてる。


「不満解消、ストレス緩和とは思うけど、燃料なの?」


「彼奴とまともに会話できる人材は稀だからのぉ。そんな奴は当然だが忙しい。つまり、まともに全力で知的な会話をしたくとも、彼奴は常に不完全燃焼状態じゃったと言っていい」


「ふむふむ。頭がいいのも大変だね」


「そこにきて、頭数を揃える必要はあるにせよ、彼奴と互角に会話を続けられておる。これは妖精界では見られなかった快挙なのじゃ」


「なるほど、あ、わかった。今のままでも十分満足してるだろうけど、そこに新たに人材を投入すれば、賢者さんは今まで経験したことのない新たなステージに突入ってことだね」


「燃料投下じゃろう?」


「同感。正に再燃焼装置(アフターバーナー)稼働だね」


「それは何じゃ?」


僕は簡単にジェットエンジンの仕組みと、高温の排気ガスに燃料を吹き付けることで、追加燃焼を行い、推力を大幅に増す装置について簡単に説明した。


「それは上手い例えじゃ。正に魔術専門家という新たな燃料を得て、彼奴は更なる未知の領域に足を踏み入れるじゃろう。彼奴を誘って本当に良かった」


感慨深い眼差しで、議論白熱中の室内を見ていたお爺ちゃんは、用事は済んだと言ったように踵を返して、馬車へと飛んでいく。


「もういいの?」


「アキは別邸に帰って寝る支度じゃろう? 儂は子守妖精として護衛をする任があるからのぉ」


「ふふ、こういう時だけ仕事熱心だね」


「では聞くが、アキはアレに混ざりたいのかのぉ?」


わかっておるぞ、という顔で、お爺ちゃんが覗き込んできた。


「あそこに混ざれるのは魔術の専門家だけだからね。僕みたいにまだ入り口でうろちょろしているようなのは、お呼びじゃないよ」


いずれは参加してみたい気もするけど、それは多分、ずっと先の話。


「仕事と資格、それでは仕方ないのぉ」


「そうだね、残念だけど」


そう言って、僕とお爺ちゃんは、白々しく笑い合った。





翌日、朝の食事をしつつ、同席している二人を見ると、なんか、ケイティさんもお爺ちゃんも朝からお疲れな様子だ。


「二人ともどうしたんです? よく眠れなかったとか?」


「眠れなかったというか、眠らせるのに苦労したというか」


ケイティさんの話によると、賢者さんがずっとハイな状態でそのまま徹夜に突入しそうな勢いだったので、一旦話を終わりにして、明日、続きをやろうとして、揉めたそうだ。


「まるで、遊んでいて、家に帰りたがらない童のようで、納得させるのに苦労したんじゃ」


大人らしく理論武装して、己が主張の妥当性を声高に主張していたが、要はまだこちらで魔術談義を続けたい、というだけじゃ、と。


「あー、なんか多人数参加型ネットゲームにのめりこんじゃった人のようになってるね」


「何じゃそれは?」


僕は地球あちらでの多人数参加型ネットゲームについての概要説明と、そこで築かれる対人関係、いつでも遊べて、いつまでも遊べるエンドレス性、皆が協力しないと突破できない難関が用意され、現実と違い困難を克服すると確実な達成感が得られることなどを説明した。

そして、あまりにゲームの世界にハマりすぎて、現実世界の活動が疎かになり、運動不足、寝不足、対人交渉能力の大幅な低下、常にゲームをしたくなる依存性といった社会問題化して、ゲーム依存症という新たな病に認定された程だとも。重度にハマった人が毎年何人も死んでいる程と話したら、目が飛び出るような勢いで驚いてた。


僕の話を聞くうちに、お爺ちゃんの顔が険しくなってきた。ゲームと召喚、その手法は違えども、異世界で活動できて、何があっても本体に影響なし、だけど、召喚されている間、現実世界での活動は止まる点など、あまりにも共通点が多過ぎる。


「賢者は正にそれじゃ」


「お爺ちゃんはずっと召喚されてるけど、その辺りは大丈夫なの?」


「儂は仕事から引退して今はただの好事家(ディレッタント)じゃから気楽なもんじゃ。それでも健康管理や、妖精界あちらでの活動が疎かにならんよう色々、工夫はしておる」


アキが寝ている間にその辺りはやっておるんじゃ、と説明してくれた。流石だ。見事に生活と召喚を両立してる。


「なら、お爺ちゃんのそのノウハウを賢者さんにも伝えて、これから召喚される予定の人にも守って貰った方がいいね」


「うむ。アキよ、急で悪いが、その大規模参加型ネットゲームとやらと、ハマった者が陥る病について詳しく教えてくれ。儂が召喚せぬ限り、まだ彼奴もこちらに来れんが、その制約もいつまで持つか分からん。事は急を要する。女王陛下にも助力を仰がねばならん」


いつになく真面目な様子で、お爺ちゃんが話してきた。本体に影響がない筈の召喚で、病気になったり、死ぬ恐れすらあると言われれば、確かに危機感を持つだろうね。

それと、友達の為にそれだけ熱くなれるんだから、やっぱりお爺ちゃんはいい人だ。


「真面目な人ほど、ハマると出てこれなくなるからね。それじゃ、ケイティさん、スケジュールの調整をお願いします」


「わかりました。こちらも一旦、体制を見直したかったので、丁度いいところでした。私はこちらの調整があり参加できませんが、話にはベリルとジョージ、それとウォルコットを出席させましょう」


ケイティさんは早速、杖を振るって三人に連絡を取ってる。それだけ何とかしたい案件だったという事だろうね。


「ジョージさんとウォルコットさんも?」


「話を伺った感じだと、賭け事にハマったり、収集癖を拗らせた事例によく似ているようですので、それならば二人も参加した方が良いと判断しました」


「賭け事で身を持ち崩した探索者とか、目利きの力もないのに美術品に手を出して資産をガラクタに変えた名主さんとかを知っていると」


「そういうことです」


私はその辺りは詳しくないので、と言ってる。確かにケイティさんがそういった感じに拗らせるのは想像できない。――そう言えば、オフの時、ケイティさんが何をしてるとか全然知らないや。今度、教えて貰おう。変わった趣味を持ってるかもしれないし。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

召喚された賢者も喜び、こちらの人々も嬉しい悲鳴を上げている……で済めば良かったんですが、ちょっと効き過ぎてしまったようです。これは不味いと本気で翁が考える程に。

これがある意味、いくらでも替えのきく一般人とかなら、危機意識もないんでしょうけど、賢者は妖精の国を代表する大魔法使いで、とっても高い役職に就いてる人ですからね。なんとかするためにはその上の上司たる女王陛下が動くしかないようなレベルです。となれば、お爺ちゃんが焦るのも当然ですよね。

次回の投稿は、二月二十七日(水)二十一時五分です。


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