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5-9.公開演技《エキシビション》枠、続々

前話のあらすじ:エリーにマコト文書の本を貸し出す代わりに、総合武力演習のチケットを譲って貰えることになりました。

あと、前話(5-8)ですが、エリーがアキの私室に入った際に、翁のドールハウスを見たり、トラ吉さんの寝床用の籠をみた描写を追加しました。

僕が寝た後も、エリーはケイティさんやジョージさんはもちろんのこと、別邸にいるメンバー全員と話す勢いで、色々と聞いて回っていたとの事。


サポートメンバー用のお風呂まで入ってすっかり寛いでて、護衛の人達に捕まって引き摺られるように未練タラタラ帰って行ったそうだ。


……何やってんだか。





昨晩は時間がなくて、エリーと話をしていて寝てしまったけど、総武演に向けて、ケイティさんにお願いしているだけではなく、僕からももう少しプッシュしておくことにした。


具体的には、ベリルさんを捕まえて、日本あちらでの総火演、総合火力演習あたりについて話をして、日本あちらでもプラチナチケット化していて、結局、観に行くことができなくて残念だったこと、なので、今回の機会に、こちらで似たような演習を観に行けたらとても嬉しいという話を伝えて貰うことにした。


「珍しいデスネ。アキ様なら、何か今後のための実利になると説得されるかと思っていまシタ」


朝食の後に、ベリルさんに軽く話をしてみたところ、不思議そうな顔をされた。


「今回のことは本当に趣味の話なので」


「わかりまシタ。それで総火演というのはどのような催しなのデスカ?」


興味を持って貰えたので、普段馴染みがなく、見かける事も少ない機甲師団の大口径火器による砲撃や機動について、乗用車の何十倍も重い戦車が素早く動きながら、大砲を撃って、何キロも先の的に着弾させてみたり、自走砲群の砲撃が山なりの弾道を描きながら同時着弾する様とか、武装ヘリが、上空からロケット弾を次々に発射して、地上の的を吹き飛ばしたりする様子を話した。

あと、総火演は自衛隊の陸、海、空の戦力のうち、陸軍に相当する陸上自衛隊が行う演習だとも。


「それ程の大口径砲を沢山撃つのは、いくら国民に理解して貰うためとは言っても大盤振る舞い過ぎまセンカ?」


あぁ、確かに。数万人規模の都市国家レベルだと、総火演で撃ち出す砲弾なんて、年間消費量を軽く超えそうだもんね。


地球あちらには保管庫がないから、砲弾もだんだん劣化してしまうんです。いざ使う時にちゃんと撃てないと困るから、製造してから一定期間経過した弾は廃棄する事になっていて、どうせ廃棄するならと演習で使ってるんです」


「使う理由はわかりマシタ。ですが量は――」


地球あちらの国、日本は弧状列島全体を全部合わせたくらい大きくて、人口も約一億二千万人いて、世界中と貿易をしていて、街エルフの国の大型帆船のような艦船を十倍くらい保有している程度の国力はあるから、廃棄分と言っても結構な量になるんですよ」


海軍には、やはり同じくらい大きな潜水艦も二十隻近くいるし、空軍もいるので、規模や内訳はこちらとはかなり違う、と補足しておく。


「武装ヘリは、空を飛び、地上にロケット弾などで攻撃をする乗り物でしたヨネ? 空を飛ぶなら空軍ではないのでスカ?」


あぁ、なるほど。それは確かに疑問に思うよね。


地球あちらでの空の戦いは、全力で何時間も飛び続ける天空竜同士が、力を使い尽くす勢いで攻撃し合うと考えてみてください。地上戦力に比べて、戦闘空域は何十倍も広く、交戦速度も何倍も違うから、同じ土俵で運用することは難しいんです。空に点のように見えたと思ったら、すぐに上空を通過して、爆弾の雨を降らせて去っていく、それが地上戦力から見た空の戦力なんです」


「武装ヘリは違ウト?」


「武装ヘリは速度もずっと遅く、空の戦力から見たら低空をゆっくり飛んでるカモに過ぎません。ですが、地上戦力から見れば、地上戦力よりずっと速く、地形を無視して移動可能、更に地上戦力の移動に合わせて行動できるくらいゆっくり飛ぶこともできるので、運用は地上戦力とセットで行うのが理に適っているんですね」


「わかりまシタ。ところで武装ヘリは名称と空を飛ぶくらいしか知りまセン。少し教えてくだサイ」


確かに、こちらには似た車両もないし、空は天空竜の独壇場だから、イメージしにくいだろう。

僕は、馬車二、三台程度の大きさで、馬車の十倍程度の速度で空を自由に移動したり、空の一点で止まったり、後ろに下がったりできるという運動性能と、こちらの投槍ジャベリンのような武器を何十発と撃てて、牛乳瓶くらいの大きさの砲弾を毎分数千発というペースで撃てる機関砲を搭載してるという武装面と、そして歩兵が持つ銃程度ではびくともしない頑丈な装甲を持つことを伝えた。


「……まるで天空竜のようデスネ」


頑丈な装甲、強力な火力、それにかなりの飛行性能と確かに似たところは多いだろうね。


「でも、近接戦闘はできませんし、天空竜のように雲の上を飛んだり、音速近くまで素早く飛行するような真似はできないので、劣化版といったとこでしょう。もちろん魔術も使えません」


その代わり、人の作った乗り物なので、資源と手間をかければ量産できるのが強みとも補足した。


「歩兵は武装ヘリが来たら隠れるしかないのでショウカ?」


「昔はそうでしたが、今は歩兵も持ち歩けて簡単に撃てる対空武器のスティンガーとかがあるので、それほど一方的という訳ではないですよ。もちろん、歩兵には装甲はないので、撃ち落せなかったら反撃で酷い目に遭うと思いますけど」


「スティンガー?」


「えっと、空を飛ぶ武装ヘリに向かって方向を変えて飛んでいく誘導性能を持った投槍ジャベリンと思えば、だいたいイメージ通りだと思いますよ」


「それなら、こちらの帆船にも飛行杖の攻撃兵装がありマスガ、それを歩兵が持つのデスカ」


「もちろん、小隊規模で一発持てるかどうか、それもお金持ちの国でないとそんな装備は持ってないです」


 そのあたりまで話して、だいぶイメージできたようで納得してくれた。


ベリルさんからは、大きく重い武装車両が動いて発砲するとなると、観客席からよく見えないのではないかとも疑問が出た。それに大砲となると、大きな発砲音と衝撃波が出るので観客は離れてみる必要があるのではないかと。


だから、館より大きな画面に拡大映像を表示して、よく見えるよう工夫もしていると話すと、双眼鏡で見るより良さそうと、とても感心していた。


日本あちらでも、総火演のチケットは手に入らず、人里から遠く離れた僻地の演習場という悪条件にも関わらず、なかなか観れない人気イベントだったから、こちらで似たようなイベントが観れたら嬉しい、とも書いて貰うことにした。


我儘かなとも思うけど、エリーに誘われた訳だし、チケットはエリーが用意してくれるという事だから、それ程、無理なお願いでもないかなと、考えているとも。


そういう演習会場なら、そんなに魔導具がゴロゴロしてる事も無いだろうから、僕が行く先としては、ハードルは低めだと思う。


それに、こちらに来てから初めて、友達に誘われたから、一緒に行けたらいいな、と思ったり。


そんな風に思うことを思いつくままに話してみた。


「アキ様も強請ねだるようなことがあるのデスネ」


ベリルさんが面白いものを見たといった表情を浮かべて微笑んだ。うーん、確かに子供っぽいかも。といっても自分の稼ぎで好きに動ける大人じゃないのだし、仕方ないところだ。


「我儘かなとは思うんですけど、やっぱり、もし、可能なら観てみたいです」


「子供は我儘を言うものデス。アキ様の熱い思いも含めて伝えておきマス」


「宜しくお願いします」


ケイティさんの話ぶりからして、許可が下りる可能性はありそうだけど、少しでも可能性が上がるならお願いしてみるのもアリだよね。





その後、事務方の人達が何日もかけて調整した結果、色々と配慮する必要はあるものの、僕が総武演を観に行く許可を貰えたそうだ。良かった。


なんと、大きなボックス席で、ケイティさん、ジョージさん、護衛人形の四人だけでなく、お爺ちゃんとトラ吉さんも一緒で良いとの事。でも、それでもまだ席が余るほど大きなスペースで、随分、無理して貰った気がする。


「調整ありがとうございました。これなら落ち着いて観ることができそうで安心しました。ところで、随分、席に余裕がありますね?」


会場の見取り図によると、何人か分、まだ余裕があるっぽい。


「一席はエリザベス様の席です。詳しく知らないだろうから説明役をしてあげる、と仰っていました」


何でも、ただ演習を見ても理解が深まらないので、ある程度の人数ごとに説明役が同行してくれるとのこと。僕達の場合、エリーが説明役をしてくれるんだけど、随分贅沢な人選だと思う。


「まだ、空きがありますが、予備席ですか?」


「いえ。……実は急遽、公開演技エキシビションが行われることが決まり、街エルフから参加者が一名来ることになりました」


公開演技エキシビションで一名? なんか随分少ないですね」


「街エルフは一人軍隊(ワンマンアーミー)とも呼ばれており、人形達を展開した街エルフは、部隊規模の戦力と看做せるので、一人でも十分なのです。そして、派遣されてくる方ですが、アヤ様になります」


「母さん!?」


「はい。ハヤト様とどちらがくるのかで揉めたそうですが、検討を重ねた結果、アヤ様に決まったとの事です」


なんで候補がその二人なのか。公私混同な気もするけどどうなんだろう?


「……なんでまた?」


「街エルフも実戦から離れて久しく、街エルフの武威を知らぬ者達が増えてきていることが、以前から危惧されていました。そこで、アキ様も人形遣いの戦う様を見た事が無いだろうから丁度いい機会だと、公開演技エキシビションを行う事としたそうです」


「……なんか、ロングヒルのイベント運営の人達が悲鳴を上げていそうですけど」


街エルフの魔導人形は、殺戮人形とも呼ばれ、恐怖の代名詞として名を轟かせてきたくらいだ。人形遣いとしてとなれば、魔導人形を沢山連れてくるんだろうし、演目のバランスもかなり狂ったんじゃないかな。


「運営の人手不足が懸念されたため、街エルフの人形遣い達を十人ほど応援に出す事が決まったそうです。それとどうせなら派手な方がいいと、仮想敵部隊(アグレッサー)も中隊規模で参加するんだとか」


仮想敵というと、小鬼人形の皆さんか。中隊規模(二百人)とは、実は結構人数が多かったんだね。

人形遣いも沢山の魔導人形を連れてくるだろうし、一体、どれだけの魔導人形達がイベントに参加する事になるんだろう?

というか、国家間の戦力バランス的に、ロングヒルに一時的とはいえ、そこまで多くの魔導人形達を配備して問題ないのか気になるところだ。


……なんか、大ごとになってない?


「それ、ロングヒルの人達の演技が見劣りしちゃったりしませんか?」


街エルフばかり目立ったら、総武演のイベントとしてみたら失敗だと思う。


「その辺りは調整するのでご安心ください。ただ――」


ケイティさんが言い淀むなんて珍しい。


「どうしました?」


「翁の友人の魔法使いが、公開演技エキシビションの話を聞きつけて、それなら妖精族もやりたいと言い出したんです」


お爺ちゃんが、こんなイベントがあると吹聴したのかな。友人の魔法使いというと、確か、お爺ちゃんが妖精を召喚することについて、検討してくれてた妖精さんの一人だったはずだけど。


「え? 召喚ってそんなに多人数できるんですか?」


流石に一人しか召喚しないなら、お爺ちゃんがそのまま実演すればいい気がするから、召喚は多人数と想定してみた。


「それがですね、魔力共鳴しているリア様の魔力も使い、スリム化した召喚体を使う事で五人くらいまでなら追加召喚できそうだと言ってきてまして」


「……それは随分、増えますね。経路(パス)に問題が出ないといいんですが」


「多重召喚はあくまでも一時的に行うとのことで、総武演の公開演技エキシビション直前に召喚するそうです」


 長時間の召喚維持は別の問題が起こりえるので、あくまでも一時的なのだとのこと。


「事前に何回か呼ぶリハーサルをやりましょう。流石に一発本番は怖いです」


「はい。まだ総武演まで一カ月ほどあるので、何回か試行する予定です。それで、ですね。妖精族だけではないんです」


 僕がお呼ばれするだけだったはずなのに、街エルフが参加を表明し、更に妖精族まで。

 その上、他の種族まで?


「は? 森エルフとか、ドワーフ族とかも参加するとか?」


それはそれで見てみたい気がするけど。


「……鬼族も参加すると打診してきたんです」


信じられないでしょうが、とケイティさんも複雑な表情をしている。


「鬼族って、館で見た鬼人形のような、あの鬼族!?」


成人男性を子供扱いする巨体の鬼、それが本当に参加してくるって?


「その鬼族です。総武演を観たいと言い出すくらいは想定してましたが、まさか公開演技エキシビションをやると言い出すとは完全に予想外でした」


「なんでまたそんな事に?」


「例の人財発掘ですが、極秘に行なっていた話ではないので、興味を引いていたことと、街エルフだけが武威を示すと、鬼族の武威を軽んじる風潮が生まれかねないと危惧したのかもしれません」


「……でも街エルフの演者は母さん一人なんですよね?」


というか、戦闘の専門家とも聞いてないし、街エルフもそこまで本気で威圧するような演技をする気ではないと思うんだけど。


「ですが、一人でも部隊規模の武威です。ですので、鬼族もまた演者は一人にしてくると思われます」


「……本当に大丈夫なんでしょうか。僕が心配する話でもないですけど」


「きっと大丈夫です、きっと」


ケイティさんも明らかにロングヒル部隊の演技より、規模も内容も派手になりそうな公開演技エキシビションに一抹の不安を感じたようで、その声はなんとも頼りなかった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

総合武力演習ですが、僅か数日のうちに街エルフ、妖精、鬼族が公開演技エキシビションをやることが追加決定してしまいました。おまけに運営スタッフ側にも人手不足解消の名の元に、街エルフの人形遣い達がぞろぞろ参加することに。

演習まで残り一カ月程度。運営さん達はきっと涙目ですね。

次回の投稿は、二月二十日(水)二十一時五分です。


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人の目に触れないことには、中身で勝負という土俵にすら上がれませんからね。

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