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5-8.総合武力演習へのお誘い

前話のあらすじ:姉弟子エリー(エリザベス)が登場しました。師匠のソフィアからもアキの面倒を見るよう言われているので、ロングヒルの生活にエリーが絡むことが増えてくることでしょう。

今日は何故か、エリーが、僕とケイティさんやアイリーンさん達、女中三姉妹との質疑応答に同席したい、自分への説明は特に気にしなくていい、邪魔はしないと言い出したので、道場からの帰りに一緒に馬車に乗って、別邸に移動することになった。


道場と違って、エリーも少し厚めの生地の外出着に着替えている。膝丈のスカートが活動的な印象を与えてくれるけど、強い日差しの中、そのまま歩いたら、暑さでダウンしそうでもある。


「あ、これ? 本当はもっと薄手の服にしたいところだけど、安全性を考えると、これくらいの防御性能はないと不味いのよね」


杖としても使える宝玉が付いたショートソードを帯剣していて、守りもちゃんと意識している。


「射撃対策は何かしてるの?」


「護符を持ってるわ。ほら」


エリーが胸元から護符を取り出したので、慌てて距離を離した。不意打ちで見えた肌のせいで、ちょっと焦る。


「もう、エリー、僕が触れると壊れちゃうんだから、扱いに注意しないと。あと、レディなんだから、そんな風に肌を見せるのは駄目だよ」


「はぁ? こんな暑い季節に、肌が見えたからって騒ぐ乙女なんていないわよ。あと、この護符、一応、アキに触れても平気なように耐性を高める奴だから平気なはずよ」


そう言いながらも、直接触れると駄目かもしれないわね、などと言いながら、服の中に戻した。


「それで、なんで、同席して話を聞いてみる気になったの?」


「道場でのアキしか知らないと、教える内容にも偏りが出そうでしょう? それにケイティの話ぶりからすると、アキが教え、助言する立場だと言うじゃない? 俄かに信じ難いから、実際、聞いてみる事にしたのよ」


確かに経験豊かな探索者にして家政婦長(ハウスキーパー)なケイティさんに僕が教わるならまだしも、教えるというのだから、疑問に思うのも当然だろう。


「話を聞くだけだと退屈しそうだけど」


「退屈でも表に出さないくらい、どうってことないわ。王族の責務なんて大半が儀礼的で退屈なものなんだから」


「あぁ、お姫様のイメージがぁ」


エリーだって黙ってれば可愛いのに、ダダ漏れの本音のせいで、偶像は砕けて粉々だよ。


「アキは夢を見過ぎ。綺麗な服を着てたって、貴族の連中なんて腹の中、真っ黒なんだから」


「政治に携わる者は清濁併せ呑む度量が必要とは言うけど、当事者から話を聞くと、なんか複雑な気分」


「腹黒であろうと、行いが白か灰色なら心の内なんてどうでもいいの。黒くても尻尾を掴ませない程度の賢しさは見せてくれないと」


指を振って、わかってないわねー、なんて言ってる。


「ケイティさん、王族って皆、こんな感じなんですか?」


こんなとは何よ、私、結構、国民から人気者なんだけど、などと言ってるエリーは横に置いて、ケイティさんに聞いてみる。やはり、こういう時、ケイティさんの視点は心強い。


「一般論としてお話しすると、鬼族と国境を接している防衛の要の国の王族が、能力不足であったり、見た目だけで中身が伴わないなどという事はあり得ませんね。もしそんな残念な方がいたとしても、王位継承権はずっと下げられることになるか、他家に養子に出されることでしょう」


「過酷なんですね」


「国民が無能な王に振り回されるよりはマシよ。王家には王家の、貴族には貴族の、国民には国民の義務がある。それを果たした上での権利よ。だいたい、小鬼族との戦争が毎年のように起きてる最中、人同士が争う暇なんてないわ」


「人族の場合、権力闘争とかで暗殺とか、クーデターとかないってこと?」


「そんな無駄な事で戦力を減らす馬鹿がいるのは、物語の中だけ。現実は、小鬼族の家畜になりたいという狂人を粛清する程度。わざわざ手駒を減らす為政者なんていないのよ」


「人族連合と鬼族が全面衝突しないのは、竜族という絶対者がいるから。人族が内輪揉めしないのは、小鬼族達がいるから……か。重石がなくなった時の惨事を考えると、彼らの脅威は無くせないかな」


今後の提案時にもちょっと配慮しておこう。


「それってどういう事よ。竜族も小鬼族も居なくなれば、争わなくて済むわ」


確かにその時だけは、竜の空襲に怯えず、小鬼達の夜襲に身構える必要も無くなって、束の間の平和を享受できることだろう。でも、そこで落ち着いてみれば、彼らに占有されていた大地が空いている。なら後は産めよ、殖せよ、地に満ちよ、だ。


「大地の恵みは限りがあり、天候不順も天変地異も無くならない。だから、重石が無くなれば、次に始まるのは、空きスペース埋めだよね。空けておく意味もないから」


「まぁ、言いたいことはわかるわ。天空竜が守護する森が解放されたら、争奪戦間違いなしだもの」


 竜の食欲を満たす豊かな森となれば、それは確かに魅力的だろうね。


「全ての土地が誰かの領土になれば、何かを切っ掛けに争いが始まり、敵味方に別れる過程で、人族連合が割れて、最終的にはこれ以上無理というレベルまで互いを殺し合う総力戦になると思うよ」


「総力戦?」


あ、そっか。まだ、今のこちらは銃を持たせて簡単に兵士の出来上がりとはならないから、市民全てが兵士に化ける状況がイメージしにくいかもしれない。


「輸送能力が高まると、後詰めを簡単に送れるようになるから、一回の戦いで決着が付かなくなる。他で取り返せる可能性があるのに、不利な条件で戦争を止めるのは合理的じゃないから。そうして互いに合理的に継戦を選択し、その結果、もう国が維持できないという段階まで、互いに負けを認めず、延々と消耗戦を続けること。それが総力戦」


「……そんな疲弊するまで戦ったら、小鬼達の襲撃に……って小鬼達がいない場合の話か。そこまで続く戦争? それが起こり得ると言うの? でも確かに――」


こちらではすぐは起こりえない状況設定なのに、それを想像して、先を見据えることができるのは凄いね。王族というのも伊達じゃない、と。


地球あちらでは、そうして世界中で戦争が起こって、僅か三十年の間に二回も世界大戦を起こして、約一億人もの死傷者を出してるからね。何故、そうなったのか。そして、その後に平和を齎したのが、相互確証破壊という狂気の産物だったことは、考えたほうがいいんじゃないかな」


「一億……!? それに、相互確証破壊……??」


ちょっと話が飛び過ぎたようで、エリーも話に付いていけてない感じになってきた。


「アキ様、その辺りで。前提知識がないままに聞いても混乱するだけですから。それと、そろそろ移動しませんと」


「うん。それじゃエリー、話は途中だけど、移動していいかな?」


「行きましょ。邪魔をする気は無いわ」


そう返事をするエリーが僕に向けた視線は、訳の分からないもの、それに僅かに恐怖が混ざった困惑に満ちたものだった。それでも拒絶する感じじゃないから、大丈夫そうだ。





蜂蜜たっぷりのパンケーキと、濃い目の紅茶をいただきながら、ホワイトボードを前に、ケイティさん達が、参謀さん達に話していて生じた疑問や、どう話すべきか方針を一緒に相談したりと一時間ほどだけど、慌ただしい時間が過ぎた。


「ごめんね、ほんとに気にせず話しちゃってたけど、退屈じゃなかった?」


「……マコト文書だっけ。随分変わった設定の読み物と思っていたけど、まるで本当に存在する世界みたいに話すのね。少し……いえ、かなり驚いたわ」


エリーの口ぶりからして、そう悪い印象は持たなかったようで安心した。理解が追いつかないと、変なレッテルを貼って考える事を拒絶しちゃう人も結構いるから。


「一般に流通している文書の範囲はかなり狭いからね。よく出来た話とはいえ、どうしてそこまで熱心に、高い役職の人達が興味を持っているか気になる?」


例えば、現在の内閣の大臣達がこぞって、トールキン神話で描かれている剣と魔法の物語について仕事の時間として読んで議論を始めたりしてたら、何事かと皆が騒ぎ出すことだろう。


「それはもちろんあるわ。いくらよく出来た物語――とも言い難いわね。マコト文書は別に長大なストーリーがある訳でも、血湧き肉躍る展開がある訳でもなく、ただ、ただ淡々と異世界の生活や文化を綴った膨大な量の短編集、そう認識してるわ。どうかしら?」


「うん、その認識でだいたい合ってると思うよ。幼稚園から高校までの子供の生活する様や見聞きした話を綴った手記だからね」


「でも、さっき話していた内容は明らかにそんな範囲を逸脱していたわ。政治、経済、軍事、気象、星の運行だったかしら。どれも単なる子供の読み物なんてレベルじゃない」


「未公開範囲の話題が多かったからね。それと地球あちらの話は、魔力の有無と関係ない分野の内容も多いから。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。膨大な試行錯誤の結果を参考にできるなら、聞いておこうという気にもなるでしょ?」


「それが事実ならね」


そう話すエリーの表情はとても挑戦的だ。


「話の筋が通っていて、論理的な展開にも無理がなく、感情抜きで考えて妥当と判断できるなら、それを事実と仮定するのもいいんじゃないかな」


「あら、ムキになって信じろとか言わないのね」


僕は話すだけ、事実と考えるかどうかはあなた次第、という態度はエリーには好感を与えたみたいだ。


「別に布教活動してる訳じゃないから。それに、エリー。僕達は今、三つの世界を比較できる幸運に恵まれているんだよね」


「三つ?」


「この世界と、マコト文書で語られる魔力のない地球あちらの世界、そしてお爺ちゃんの故郷、ここより濃い魔力に満ちた妖精界の三つ」


一つずつ数えながら指を立てて強調する。


地球だって、異なる並行世界の情報を比較検討できる状態になれば、時空間に関する研究も一気に進むと思うんだけど。ほんと残念だ。


「妖精界は昔から語られてきた場所であり、魔力に満ちているという伝承もある。それなら、魔力の薄い、あるいはない世界もあるだろうと。そう言いたいのかしら」


「うん。ここだけ見ているとわからないことも、三つを比較したら、見えてくるものがありそうでしょう? ケイティさん達の話を聞きにきてる人達は、そこに価値があると、仕事の一環として取り組む意味があると判断したってこと」


「こうして、妖精のお爺ちゃんがいるだけに説得力があるわね」


「儂がよく出来た魔導人形とは考えないのかのぉ?」


お爺ちゃんが芝居掛かった態度で、テーブルの上を滑って踊り、杖を振って、エリーの方を覗き込んだ。


「私も街エルフの子守妖精は見た事があるけど、貴方は、そうね、自由過ぎるのよ。子守妖精としてみたら、魔導人形の子守妖精の方が余程真面目に仕事をしていると思う。でも、それだけに貴方を眺めていれば、魔導人形でないことはすぐわかるわよ」


「なんとも、褒められているのか、貶されているのかわからんのぉ」


「生き物としては、貴方の方が自然ってこと。優劣はなし」


「なるほどのぉ。儂から少し補足すると、こちらの世界は、儂らからすれば、なぜこれで問題が起きないのか疑問に思うほど、魔力が薄いんじゃよ。たまに繋がるが、こちらから出向く気にはなれぬ、広大ではあるが過酷で魅力に乏しい世界、そんな扱いじゃった」


その感じだと、地球の感覚で言えば、草木も生えない乾燥した荒野とか、魚もほとんど住まない風もない海とか、そんな所かな。

いや、魔力に依存する世界の住人からしたら、空気すらない月面の世界くらい過酷なのかもしれない。物質界研究家の他の妖精の話を全然聞かないくらいだし。


「でも貴方はここにいる。馴染んでいる、というか、こちらの生活を満喫しているようだわ」


「妖精界にはない理で成り立っているというだけでも、面白いじゃろう? それに、儂もこうして仕事をして稼ぎを得ておるからのぉ。単なる観光客として、ふらりと表面的に見たのでは得られない貴重な体験を日々、積み重ねておる。それにこちらで何かあっても、本体には何の影響もないからのぉ。リスク無しで異世界での生活ができるとなれば、楽しくない訳がない!」


やっぱり、召喚される妖精からすれば、この世界はもう一つの現実、究極の仮想世界と言った扱いなんだね。ダイブしている間、様々な経験はできるけど、ログアウトすれば、現実の自分は変わらないと。


「そう言えば貴方、召喚されているんだったわよね。全然魔力を感じないから、つい忘れちゃうけど」


「うむ。儂はこうしてこちらに召喚して貰う代わりに、アキの子守妖精をする。どちらも得する良好な関係じゃよ」


「まぁ、だいぶ理解したわ。アキも単なる深窓の令嬢じゃなかったのね。いろいろヘッポコではあるけど、マコト文書に関してだけは、専門家ってことでしょ。こうして聞かないとイメージできなかったわね」


変だなぁ。僕もそれなりにちゃんと振る舞っていると思ってたけど、エリーからみると、全然、合格ラインには達していないらしい。


「エリーもマコト文書読んでみる? 確かダニエルさんが貸し出し用の本を結構持ってた筈だよ」


「ダニエル? あぁ、マコトくんの司祭ね。パスパス、司祭の布教活動のオマケ付きなんて勘弁してよね。立場上、特定の色が付くと困るのよ」


「やっぱりそういうの、あるんだ。大変だね」


「だから、アキの持ってる本を貸してよ。あれだけ話せるなら、沢山持ってるんでしょ」


む、そういう視点は考えた事がなかった。えーと、嘘にならないように、誤魔化さないと。


「僕はほら、触ると魔術付与を壊しちゃうから。僕が色々知っているのはミア姉とお話ししてたからね。簡単な図とかは描いて貰ったりもしてたけど、文書を直接読んだことはないんだ」


「残念。それじゃケイティ、初めて読むのに合ったマコト文書を貸し出してくれるかしら?」


「対価を頂ければお譲りしますが」


「私は商取引がしたい訳じゃないの。だから……そうね、アキ、総武演に興味はない?」


エリーが、これは名案とばかりに手をぱちんと叩いて話を切り出してきた。


「総武演?」


「あら知らない? 総武演はね、総合武力演習の略で、ロングヒルの守備隊が日頃の訓練の成果を人々に広く知って貰うために行う公開訓練のことよ。見たい人が殺到して、毎回、競争率数十倍という狭き門をくぐり抜けた人だけが観ることができる大人気イベントなの」


「おー、なんか凄そう。フル装備の歩兵さんが何十人も参加して紅白戦をやったり、遠い的に射撃してその腕を披露したり?」


「ん、やっぱり興味があったようね。アキもそんな見た目の割には、武術もそれなりに嗜んでいるようだから、どうかなと思ったのよ」


「それで、それで?」


やっぱり、敵役で鬼人形とか、小鬼人形とかが沢山出てきたりするのかな。いろんな魔術とかも観れたりするのかな。あー、なんか結構観てみたい。


「私の権限でアキの席を確保できるから、私からは総武演のチケット、アキからはマコト文書の貸し出しで手を打ちましょう。どうかしら?」


「うー、ケイティさん、許可貰えます?」


大使館領の外に出ることになるから原則禁止だとは思うけど、何とかならないか聞いてみる。ケイティさんの表情からすると、門前払いということはなさそうで良かった。


「エリザベス様、そのチケットですが、ボックス席の確保は可能でしょうか?」


「ボックス? あぁ、ケイティやジョージも一緒ね。確保できると思うわ」


「ニャー」


トラ吉さんが、俺も行くぞーと割り込んできた。


「え? 角猫も? ボックス席なら平気かな? でも……」


「エリザベス様、細かい打ち合わせは後程、事務方のほうでしておきましょう」


「そうね。それじゃ、調整は任せたわ」


大筋を決めたら後はスタッフの仕事。そんな割り切りを当たり前のようにするあたり、確かにエリーはお姫様って感じがした。





寝る時刻から逆算したらそろそろお風呂に入る時間だと言ったら、まだこんなに日が高いのにとエリーが驚き、一日のスケジュールをざっと説明したら、よくそれで息が詰まらないわね、と心配された。

限られた時間を最大限、有効活用してると思うけど、と反論してみたら、お風呂から出て寝るまでの時間、話をしましょ、と言い出した。


流石にお風呂に一緒に入るとか言い出したりしなくて良かった。いつもより少しだけ早く上がったけど、髪も洗い、歯磨きもしてすっかりリラックスして出てきたら、本当に風呂上がりだ、となんか呆れられた。


髪の水気を取って、緩く編んだりしながら、エリーに何か気になることでもあったか聞いてみた。


「シンプルな部屋ね。ドールハウスみたいな女の子っぽい趣味があるとは意外だったけど」


部屋の隅にある、六分の一スケールのドールハウスの凝り性に比べて、室内に私物がほとんどないことを指してのことだろうね。


「その家はお爺ちゃんの私室。あと、この部屋にモノがないのは、僕はまだ引っ越してきたばかりなのと、服とか必要な物はその都度、用意して貰っているから」


実際、部屋に置かれた家具も、カーテンやベッドカバーにしても、全てケイティさん達に用意して貰っているもので、僕の私物と言えるのはノートとペンくらいなものだと思う。


「にゃー」


キャットドアを通ってきたトラ吉さんが、軽くジャンプすると定位置の籠に飛び乗って座り込んだ。


「その籠は角猫の寝床なのね」


「うん。トラ吉さんは体格がいいから、台も重さに耐える特別製だって」


 猫といっても、家猫よりずっと大きいから、大人が乗っても大丈夫なくらい頑丈な台にしたと聞いている。


「部屋は住人の性格を表すとは言うけど、この部屋にアキらしさが加わるのは先のようね」


 エリーとしては、私室を見て、僕をもっと良く知ろうと考えていたようだ。


「それで、もう結構眠いのかしら」


「僕の場合、そろそろ起きているのが辛くなってきたなー、と思ってから寝るまでほとんど間がないから、今は特に眠くないよ」


髪の手入れをすっかりケイティさんに任せて、僕は爪の手入れをちょっと始める。


「普通なら、身支度くらい自分でしなさいと言うところだけど、その手際の良さからして、本当に時間がないみたいね」


リミットまで逆算しながら、寝る準備をしている僕達を見て、エリーもそれがいつも通りな事だと理解してくれたようだ。


「それでもちょっとずつ起きてる時間帯も伸びてきているから、来年くらいには夜空が観れると思うんだよね」


「夜空!? 観たことないの?」


う、考えてみれば、それはかなり変な話かも。憧れを前面に出して、注意を逸らそう。


「写真や絵なら観たこともあるんだけど。特に新月の晩に、月明かりがない時の星空は見たいかな。ケイティさん、天の河って見えます?」


「勿論です。街エルフは視力が良いので、薄雲のような星明かりの河がよく見えますよ」


街から離れた土地で、星空を撮影した写真とかを観ると、数え切れないほどの星が瞬いて、大迫力って感じだったから、こちらだとどんな風に見えるのか興味があるんだよね。


「星空か。そう言えば、落ち着いて眺めたのなんてずっと昔、幼かった頃くらいね」


こちらなら夜も暗いだろうから、星明かりもよく見えるだろうに勿体無い。でもこの感覚は、夜も明るくて星空の繊細な輝きが見えない都会育ちだから抱くものなのかもしれない。


「足元ばかり見てると視野が狭くなるから、たまには星々の世界に目を向けるといいと思うよ。何十億年と続く星の一生を思えば、人の世の出来事なんて、大概はちっぽけに思えてくるから」


忙しさに追われるような生活をしてると、ノルマをこなすことにだけ注意が向いて、全体的な視点を忘れがちになるからね。僕もよくミア姉に注意されたものだ。


「その口ぶりだと比喩的表現という話じゃなさそうね。いずれ教えてもらうとして、アキはもっと足元を見なさい。遠くばかり見てきたら足元が覚束なくなるんだから」


「うん。ちょっと気をつけるね。――っと、そろそろ起きてるのが限界っぽい。ごめん」


慌ててベットに入り込む。せっかくエリーもいるのだし、もっとお話できたら良かったのに。


「無理を言ったのは私だから気にしないでいいわ。……ほんとに寝そうね」


「うん、ケイティさん、後はお願いしま……す」


エリーの声を子守唄に、意識があっという間に沈み込んでいった。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

今回はキリが悪いので、ちょっとテキスト量が多めになりました。エリーも王族というだけあって、周囲の国を含めた自国の立ち位置といったところを意識して、思考を巡らせることは得意なようです。おかげで「マコト文書」の深い部分を垣間見てしまいました。きっと、少しSAN値が減ったことでしょう。

そして、エリーが示した総合武力演習のプラチナチケット。

これが多くの波紋を生むことになります。きっと総武演のスタッフは胃薬が手放せません(笑)

次回の投稿は、二月十七日(日)二十一時五分です。

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