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5-7.初めてのお友達

前話のあらすじ:師匠のソフィアが火球を出して、それを杖で突いて燃やされるかどうかという魔術対抗の確認を行いました。アキの目からは、魔術の炎は偽物っぽい感じに見えるようです。


師匠の元で、修行というより実験に近い作業を何だかんだとするようになって、そろそろ一週間が経過しようとしていた。


お爺ちゃんの伝手を頼り、お爺ちゃんが使える魔力上限まで使って、妖精を更に召喚しようという話も、だいぶ詳細が煮詰まってきた。

僕とお爺ちゃんの間の経路(パス)への監視術式を組み合わせて、悪影響が出ない範囲で、召喚してみるという話だ。

お爺ちゃんを構成する召喚体よりもスリム化する事で、負担を減らすらしい。そのあたりのチューニングは召喚するというお爺ちゃんの友達がやってくれるそうだ。

お爺ちゃんも魔術の専門家ではないから、そういうのは得意な奴に任せた方がいいと言ってた。


師匠だけど、光通信を使ってリア姉と色々情報交換しているらしい。リア姉からの伝文にも、その辺りの愚痴がよく書かれている。


僕とは別の意味で、師匠は遠慮がなく、周りを振り回す人だって。……詳しくは書かれていないけど、魔導師としての経験、視点を持つリア姉だからこそ、あれこれ注文して、試して、調べて、確認して、と色々やらされているらしい。


では僕は何をしているかというと。


「アキ! ほら、そっちの火球早く消して!」


「えー、もう、エリーも、ちゃんと制御してよ」


道場の中に所狭しと浮かび上がった数えるのも馬鹿らしくなるほどの数の拳大の火球を、杖で突いて消して回っているところ。


あー、もう、制御が追いついてなくてふらふら流され始めて、壁の方に飛んでってる。


えいっ、えいっ


壁に当たって焦がした時は、師匠から散々絞られたし、あれは避けたい。


エリー、僕の姉弟子であるエリザベスは、二日目にはどこから聞きつけたのか僕の修行に合流してきた。僕と同じ十七歳という話だけど、大人っぽい顔つきのせいか、何歳か年上に見える。

金色のサラサラな髪と、透き通るような緑色の瞳が印象的で、黙ってればお人形さんみたいな美少女なんだけど、今は借り物の魔導杖にしがみついて、少しでも多くの火球の制御を取り戻そうと奮闘中。


「もう、調子に乗ってこんなに出すから!」


「反省してるわ! でも、まさか、借り物の杖がこんなじゃじゃ馬だなんで、想像できないわよ!」


何とか、自分の周囲の十個くらいは制御下に置いたみたいだけど、まだまだ沢山浮いてる。


道場の隅では、ケイティさんが、頑張れーと手を振って応援してくれているけど、それだけ。

トラ吉さんはと言えば、僕の足元にはいるけど、近付いてくる火球を尻尾を振って内側に戻すだけで、手伝う気はないみたい。それでも律儀に走り回る僕に付いてきてくれているだけでも嬉しい。


お爺ちゃんは道場の上を飛んで、空に飛んで行こうとしている火球を杖で戻してくれている。僕が前に話したゲームのモグラ叩きのようで面白いとか言いながら、ステップを踏んで踊ってたりしてご機嫌だ。


結局、それから三十分ほどして、やっと全ての火球を消す事ができた。もう一歩も動きたくない。


「ちょっと失敗しちゃったわね。でもコツは掴んだから、次は大丈夫」


テヘッと舌を出して、首を傾げたりしてるけど、あれがちょっとなら、普通に失敗したらどんな惨事になることやら。


「何が大丈夫なものですか。そういう台詞はせめて魔導師免許を取ってから言って下さい」


エリーの手から、貸していた魔導杖をひょいと取り上げて、ケイティさんが苦言を呈した。


「そうそう、使うなら自分の杖を使えばいいのに。背伸びしてケイティさんの杖を借りたりするから」


「貸してくれるって言うんだから、そんなチャンスを逃すなんてあり得ないわ。やらないで後悔するより、やってから後悔する家訓なのよ」


F1マシンに乗っていいと言われた一般人が、いきなり急加速してコーナーのバリアに突っ込んだ感じかな。


「なんて脳筋な……」


「習うより慣れろ、使ってれば理解できる。いちいち説明書を読むような真似は性に合わないの」


いや、そういうことを踏ん反り返って言うものじゃないと思うんだけど。なんとも僕とは正反対な性格の女の子だ。


メイドさんが用意してくれた椅子に座って、エリーはぐだーっと力なく沈み込んでる。


「エリー、もうちょっと人目を気にしたら?」


「男もいないのに、そんな固いこと言いっこなしよ。そんな四六時中、上品な振る舞いなんてやってらんないわ」


あー疲れた、なんてオッサンくさい台詞を言いながら、渡された冷たいタオルを目に当てたりしてる。

百年の恋も冷めそうな姿だけど、それだけ取り繕ってないとも言えるので、今は好意的に解釈しておこう。


「そんなに疲れた?」


「すっごく疲れた。このまま寝てたい」


「先程の魔術は規模だけなら戦術級でしたからね。それに小一時間も身の丈に合わない魔術の制御を続ければ、疲れるのも当然かと」


ケイティさんの説明からすると、空間を埋め尽くすような火球の群れを生成するのはなかなか手間だったようだ。


「ちなみにそれって魔導師の人だと、簡単にやれるものなんですか?」


「魔導師もピンキリですから、誰でもという訳ではありませんが、この道場の空間内を埋め尽くして留まらせるだけであれば、その術を行使しながら、仲間と雑談をする程度の事は可能でしょう」


「うわー。エリー、先は長いね」


「気が滅入る説明どうも。アキも、何でもケイティみたいな術者を基準で考えるのはやめなさいよね。もう少し休んだら、常識がどの辺りにあるか話してあげるから」


常識、ね。エリーが師匠から命じられたのは、僕に対して姉弟子として、一般常識を教える事だった。

何でも、魔術だけ学ぶような歪な育て方はしないんだそうで、学問を学び、常識を学び、体を鍛え、そして魔術も修行する、と。

エリーも初めはそんなことしなくても、って愚痴ってたけど、僕としばらく話をしていたら、唐突に深い溜息をついて、私が常識を教える、と言い出した。


「何でかって? そりゃアキが物事を知らな過ぎるのと、判断基準がイカれているからよ。いい? 海外に行く事を許される探索者はエリート中のエリート、軍人のうち、特殊部隊に選ばれる精鋭ですら、何割かしかパスしないという超人達の集まりなの!」


そう聞くと確かにかなりの実力者揃いに聞こえる。というか国費で海外に行かせて貰えるという時点で、確かに優秀な人揃いだということは想像できるね。


「ケイティさん、探索者ってそんなに大変何ですか? 街エルフでも合格しない感じ?」


「街エルフの方々はそもそも出不精なので、探索者になりたいという方が見つからない気はしますが、もし申請すれば成人ならほぼ全員がパスすると思いますよ」


ほら、とエリーの方を見てみると、頭を抱えている。


「そこ! 長命種を基準にするから話がおかしくなるの。 アキもこっちで生活するなら、せめて人の判断基準も知っておきなさい。ケイティ、あんた、知っててワザとやってるでしょ」


うがーっとエリーが威嚇してるけど、ケイティさんは、それを子犬のように軽くあしらっていて、とっても大人な感じだ。


「アキ様はまだ街エルフの基準もあまり知らない状況ですから、まず街エルフとしての認識を持ってからで良いではありませんか」


何事も順番に、ですよという言葉に頷きそうになったけど、エリーの表情を見て踏み止まった。


「ハーフはこれだから。アキ、ケイティの基準もかなりズレてるから、鵜呑みにするんじゃないわよ。なまじ人の常識を知ってるだけにタチが悪いわ」


「もしかして、時間感覚のあたり?」


「そうそれ。長命種のノリに付き合ってたら、老衰で死ぬ頃になったって話は大して進まない。考えられる限りの理由を盾に、どんどん急かして、少しでも早く行動に移させるのが、長命種を相手にする時の基本。覚えておくといいわ」


「……そんなだから、人は短気でいけないとか言われるんだね」


「短気で結構。まず実行してみて、そして計画と違うと思ったらそこで見直せばいいのよ。立派な計画ができても、自分が老いて動けなくなってちゃ話にならないわ」


 あぁ、そんな風にぽんぽん話が出てくるってことは、長命種のノリに付き合って話が進まない事例に事欠かないんだろうなぁ。


アキには私が教えなくちゃ駄目ね、とお姉ちゃん風びゅーびゅーだ。でもそれだけ親身になってくれているという事で、有難いことだね。


それにしても、エリーもこれで王女様だと言うんだから、こちらの女性はケイティさんの言う通り逞しそうだ。これで公の場だと、リア姉みたいに化けるのかな。なんか、男の子の持つ幻想をあんまり壊して欲しくないなぁ。

ブックマークありがとうございます。執筆意欲がチャージされました。

それと投稿を開始して約11カ月で遂にブックマーク100人を突破することができました。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


2019年02月05日集計時点で、完結していない長編が全26万6248作品、そのうち、連載停止中を除くと2万8121作品、そのうちブックマーク100以上の作品は4829作品。ということでブックマーク100以上は連載中作品の上位17%ってところのようです。結構多い比率かなと思いません?

ちなみに、連載停止中も含めると、ブックマーク100以上は1万6286作品。こちらだと、今度は上位6%ってことになります。皆さんの感覚だと、どちらのほうが近い感じでしょうか。


投稿から約49万文字にしてやっと、アキと同年代の子が登場しました。まぁ、作品内時間ではまだアキとして生活を始めてからまだ二カ月程度しか経過してはいないんですけど。


やっと、一般視点から語ってくれる近しい人が出てきてくれたので、アキもこちらの「普通」がどんなとこにあるのか知ることになるでしょう。……まぁ、一般に近いと言っても、エリーは王族なので、どれくらい一般に近いかというと微妙なところはありますけどね。


次回の投稿は、二月十三日(水)二十一時五分です。

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『彼女を助けようと異世界に来たのに、彼女がいないってどーいうこと!?』を読んでいただきありがとうございます。
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