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5-6.魔術修行開始?

前話のあらすじ:師匠のソフィアに、自分の事を話して、何とか弟子入りを認めて貰えました。

道場入りが許可されたのは、客人待遇でケイティさんとお爺ちゃん、それと邪魔にならないから良しという事でトラ吉さん。

ジョージさんと護衛人形の四人は道場の入り口までと決められた。食い下がって、訓練が始まる前の確認作業での一時的な立ち入りは良しとされたけど、そこまで。


ジョージさんも身体強化魔術を使えるのだから、魔術を見せて認めて貰えばどうかと聞いてみたんだけど、訓練の邪魔にならない様に魔力を抑えながら、護衛を行うのは無理があるとの事。


そんな訳で、翌日から始まった魔術修行開始となったんだけど、修行というよりは、検証作業といった感じで、予想とは随分違っていた。


今もこうして、訓練用の杖を構えて、師匠の生み出した中空に浮かぶ拳大の火球に対して、杖の先端を突き入れて確認作業中。


火球はメラメラと燃えている割には、中に芯になるものがある訳でもなく球の形状を維持していて、炎が揺らいでいるけど、風の影響を受けるでもなく、かなり胡散臭い。

立体映像のリアルな炎とか、そんな感じ。

確かに手をかざすと熱を感じるんだけど、なんかその熱も上手く言葉にできないけど、何処か嘘っぽい。


なので、師匠に言われて杖を突き入れる時も、火球に対して受けた印象を師匠に伝えたら、拒絶する様なイメージを強く心に思い浮かべながらやれと言われた。

なので、この炎は紛い物と意識した上で突き入れてみたら、やっぱり火球が歪んだ程度で、杖は特に影響を受けなかった。

何回か試すよう言われて、その後、三回同じ事を繰り返したけど、結果は変わらなかった。


「何とも非常識な弟子じゃないか。こっちも自信が揺らぎそうだよ。アキ、よく見ておき。その火球だが、こうして枯れ枝を放り込めば――」


師匠が投げ入れた枝は、火球に触れた瞬間、全体が炎に包まれて、あっという間に芯まで燃えて消し炭になって地面に落ちた。


「この通り、かなりの火力で対象を燃やし尽くすんだよ。ケイティ、自分の杖を入れてみな」


「抵抗しますからね」


ケイティさんが露骨に嫌そうな表情を浮かべた。


「当たり前だよ。この程度の炎で杖を焦がしたら、あんたも弟子にして一から叩き直してやるさ」


ケイティさんは短く何か唱えると、やはり僕と同じように、持っていた杖を火球に突き入れた。勿論、燃えることはなかった。


「まったく可愛げのない娘達だね。ここは敢えて杖を焦がして、師匠の魔術流石ですとか言うもんだよ」


「そういう事を、愛用の杖でやる訳がないでしょう?」


「はん、どうせ、練習用の杖だったとしても、そんな気はないだろうに」


「当然です」


ケイティさんが笑みを返しているけど、明らかに一歩も譲る気はないようだ。


「アキ、これが魔導師の普通の反応だから覚えておくんだよ。己が実力に自信を持ち、例え遊びであっても手は抜かない。まして、こういった力比べのようなシーンでは、受ける以上は絶対に無様は晒さないものさ」


「この火球なら、燃やせば師匠の優勢、耐えれば杖を入れた者の力量も十分高いと判断できると?」


「随分と気を遣った言い回しをしてるが、まぁ、そういう事さ。相手が単音節で発動したなら、こちらも同じく単音節で対抗するのが魔導師の矜持ってもんだ。相手より少ない音節で敢えて対抗してもいいが、余程の自信がない限り、辞めた方が無難だね」


「失敗したら、余裕を見せようとして失敗した、相手との力量差もわからない未熟者と思われたり?」


「その通り。この業界、舐められたら終わりだ。背伸びするのは駄目だが、高い力量を持つ者は、それに相応しい振る舞いをする事。魔力を見れば、実力もある程度の推測はつく。わざと魔力を抑えて、弱さを装うなんて真似は、後ろ暗い事がありますと吹聴しているようなもんだ。アキ、あんたも私の弟子ならそんな真似はするんじゃないよ」


「そもそも、僕の魔力は感知されないから、気にしても仕方ないと思うんですけど」


「そういう気持ちでいけってことさ。……それにしても、不思議なもんだ。アキは召喚した翁に、経路(パス)を通じて、召喚体を維持する膨大な魔力を供給し続けているはずだ。なのに、魔術に抵抗しても魔力が減ってる気配がない」


「えっと、魔力の共鳴現象で強化されているから減りにくいとかじゃないんですか?」


「魔力共鳴は魔力の質は高めるが、総量が増える訳じゃない。アキが穴の空いたバケツに、水を注ぎ込むように魔力を提供してれば、アキの魔力は減る筈だよ。だが、減少しているようには見えない。それなら減る筈の魔力は何処からくるんだろうね」


「自然回復しているんじゃないんですか?」


というか、そう聞いているんだけど。


「召喚体の維持には竜族のような膨大な魔力が必要なんだよ。そして竜族は飛び回って魔力が減ると、自分の巣穴に戻って回復するまで大人しくしているんだ。巣穴は魔力が豊富な山頂付近が選ばれる。もし、竜族が力尽きて、魔力の乏しい絶海の孤島に降りたとしよう。どうなると思う?」


「そもそも天空竜の巨体を魔力抜きで維持できるとも思えませんし、そんな場所で休んでも、魔力があまり回復せず死んでしまうんじゃないでしょうか?」


「その通り。魔力の回復には、周囲に満ちる魔力が欠かせない。探索者達から聞いた話だが、魔力の乏しい海域で、新月の夜に魔術を使った後、瞑想して回復に努めたが、まるで魔力が回復しなかったそうだからね」


「新月の夜をわざわざ選んだのは、陽光や月光で魔力を得るのを防ぐためですね」


ビクトリア号の帆が陽光を受けて魔力を貯めるくらいだからね。


「検証のために回復要素をできるだけ排除した結果さ。もっとも先ほどの小島に降りた竜族の例では、陽光を浴びたとしても、大した足しにはならないがね」


「それで僕の場合ですけど、この辺りの魔力で回復している、という説明には無理があると」


「そうさ。確かにここでも回復はする。ただ、アキが翁に供給してる分の魔力を周囲から掻き集めたりしたら、この地の魔力は枯渇することだろうさ。しかし、実際はまるで影響がない。地に満ちた魔力の変化は感じられないからね。つまり、不思議なのさ」


「師匠、以前、トラ吉さんが庭を覆い尽くす濃霧を魔術で出してくれたんですけど、それってトラ吉さんが沢山魔力を使って、その後、休憩すると、周囲の魔力を集めて回復する感じですか?」


「気になるのは、地に満ちた魔力の変化かい?」


「はい、そうです」


「魔術はその地に満ちた魔力を使って発動させるもんだ。術者が使う高密度の魔力は種火に過ぎない。だから、さっきの話にあったような戦術級魔術なんざ使ったら、その地の魔力は大きく減ることになるね。種火は術に応じた強さがあればいい。だから、角猫の魔力は多少は減っただろうが、発動した魔術の規模に応じて減る程じゃないのさ」


トラ吉さんが魔術をどーんと使った時にケイティさんが咎めたのは、魔術の結果とは別に、館や敷地に満ちた魔力が大きく目減りしたせいだったりするのかもしれない。


「魔術ってなんでもできて便利かと思ってましたが、色々、制約があるんですね」


「科学が世の理を使うのに対して、魔術は魔の理を使う。そうそう都合のいい話は転がっちゃいないのさ」





「次は翁、自身の魔力をガンガン使い続ける様な魔術があれば、使っておくれ」


師匠がまたなんとも物騒なことを言い始めた。


「ふむ。目的は儂が魔力を沢山使うことで、魔力供給の上限を見極めるといったところかの」


「そうさ。いくら使っても減らない魔力? そんな筈がない。何処かに上限がある筈だ。アキが魔力感知できないのは、常に上限まで魔力が満ちていて、魔力減少を経験してないせいかもしれない。……普通なら、育つ間に病気になるなり、他人の魔力に影響を受けて体内魔力が乱れるなり、必ず経験するもんだが、アキは生まれたての幼子みたいなもんだからね。魔力減少、魔力の乱れを経験してないなんて、おかしな事にもなるのさ」


確かに。魔力が減ると言われてもよくわからないし、師匠の仮説もなるほど、と思う。


最も、リア姉はもともと感知できていたのに、今はできないことを考えると、魔力満タン状態だと感知できないという可能性もあるかも。


「術者の魔力を持続的に必要とする術式となると、潜入作戦用の隠密術式なら、要望に沿うじゃろう」


「そいつはどんな術式なんだい?」


「周囲の魔力が変化すれば、それを相手に察知されてしまう。それを回避する為、敢えて術者の魔力だけを使って自身の姿や音を隠蔽する術式じゃ。ただのぉ……」


「なんだい」


「そもそもそんな状況を想定している術式じゃからして、消費魔力量をできるだけ抑える様に最適化されておるのじゃ」


「つまり、あまり供給魔力の上限を測るような話には向かないんだね」


「その通りじゃ。膨大な魔力を継続供給するなら、儂が更に召喚術式を使って、妖精界から誰か呼べば良いとは思うが、やり過ぎると、アキと儂との間の経路(パス)が壊れてしまうかもしれん。ソフィア殿、少し仲間と相談してみようと思う。そうかからないと思うが、何日か待って貰えるかのぉ」


「いいとも。それでは、この件は翁の返事待ちとしよう」


確かに、手探り状態、何を目的に行動すればいいかもわからない訳だから大変だ。

でも、ひたすら感覚を研ぎ澄まして、魔力を感じましょう、という街エルフの普通のやり方よりは確かにいいと思う。


それにしても妖精界への伝手があって本当に良かった。それにお爺ちゃんに色々と専門分野に長けた知り合いがいたことも幸運だった。もし、妖精界への伝手がなかったら、詰んでいたかもしれない。

そう考えると、人との繋がりは大切にしないと。チャンスは二度目があるとは限らない。必ず一発で掴み取るくらいの意識を持とう。

これからも幸運が続くとは限らないのだから……

さて、魔術の修行もやっと始まりましたが、前途多難、そうそう、無事習得しました、とはなりそうにない気配です。そもそも簡単に習得できるなら、隣国まで学びに行く必要はない訳ですから仕方ないですね。

次回の投稿は、二月十日(日)二十一時五分です。

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