決まりのない国
あるところに決まりのない国がありました。ルールがないところにこそ自由があるという考え方から国に住んでいる人々はあえて決めないでいたのです。しかし、その事を風の噂で聞いた悪党共がこぞって集まってきてみるみるうちに治安は悪くなっていきました。
困りきってしまった国民は広場に集まり、長い長い話し合いの末、泣く泣く決まり事を作ることを決意しました。
「さて、まずはなにを禁止するか、」
誰かが言いました。
「人を殺してしまうのはいけない事だ、人を殺したものは同じように死なないといけないと思う。」
また誰かが言いました。
「人の持ち物を取るのはいけない事だ、人の物を取ったものは同じように自分の物を取られないといけないと思う。」
またまた誰かが言いました。
「喧嘩はいけない事だ、こういうものは正々堂々決闘(どちらかが死ぬまで続くのがこの辺りの主流であった)で決めることにするべきだ。」
最後に誰かが言いました。
「ルールを守れない事はいけない事だ、今まで出た決まりを守れなかったものは死刑にした方がいいと思う。」
人々はこれで安心して暮らせると胸を撫で下ろしながら家路につきました。
その日の夜、人が殺されました。まあ、そもそも悪党共が入り込んで治安が悪くなっていたのでなにもおかしいことはありません。
それを知った国民は犯人探しをして捕まえたあと、もう一度広場に集まりました。
「さて、ルールを決めたその日のうちにルールを破るものが出た。なにか対策として案のあるものはないか?」
誰かが手を上げながら言いました。
「そもそも外で凶器を持ち歩くものは人を殺すために持っているようなものだと思う。狩りに出かけるというもの以外が外で凶器を持ち歩いていた場合は人を殺したときと同じ罰を受けるべきだ。」
それは紛れもない暴論というものでした。しかし人を殺した犯人が張りつけにされていて、しかも犯人を見つけたという達成感に満ち溢れていた国民たちは全面的に賛成、それどころか過剰に盛り上がって過激な意見が泡のように出されていきます。冷静だったものもすぐに熱に飲み込まれてしまいました。この場に集まっているものはこの瞬間全員が狂っていたのです。
「そもそも夜遅くに出歩いていたものが悪いのだ、暗くなってから外に出るのを禁止しよう。」「国民以外のものが沢山入り込んでいるのが悪いのだ、国民以外のものは全員悪党だ、処刑してしまおう。」「どんな形でも人を殺す事に関与したものは悪だ、関与したと分かったものは処刑してしまおう。」
そして、半年も経たない内にこの国は滅びてしまいました。なんでかって? 決まっているじゃないですか。ルールを守れてるものが最初から誰一人としていなかったからですよ。