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第44話 花火大会の夜5

「花火始まったわね~」


 オネヤンが乙女のように目を輝かせた横で、俺は急激に現実を思い出して「げっもう!?」と焦りを浮かべた。


「どうしたの……ってああもしかして友達と来てたの?」

「ええまあ、幼馴染みと。すいません急ぎますけど、いいですか?」

「勿論よ」


 俺は早足でチョコバナナの店に行き、自分とゆめりの分を注文した。

 こっちは混んでなくてよかった。

 オネヤンも食いたかったのか一本買っていた。

 緑色のは抹茶味かメロン味か。俺もそっちでも良かったな。


「先輩の方はあの二人のヤンキー先輩たちと?」


 カミングアウトしたみたいだが、まだつるんでんのか?


「ううん。彼らとはあれ以来実は連絡取ってないわ。気まずくなっちゃって」

「え」


 何となく、予想がついての罪悪感。関係にヒビ入れたの俺が原因っつっても過言じゃないだろうし。


「花垣君ってやっぱりお人好しよね。今ちょっと責任感じたでしょ」


 上手い言葉が見つからず目を逸らす俺を見てオネヤンはふふふと笑った。

 いやホント別人だなおい。


「前は岡田君とよく一緒にいるからちょっとジェラシー感じてたんだけど、今は逆に彼にジェラシー感じちゃうわ。人間見た目じゃわからないわよね、本当のカッコ良さって」

「……はい? ああ男は中身で勝負って意味ですか? それは俺も同感です」

「あらん、空振りしたみたい」

「バッティングの話だったんですか?」

「えー? うふふ、内緒」

「はあ。あ、そういえば休み中何度か美術部に差し入れしてくれたのってオネヤン先輩ですよね? アイスとかゼリーとか色々ありがとうございました。日頃から飢えてる美術部メンバーにはまさに天からの恵み。贅沢(ぜいたく)品の宝庫でしたよ」


 うちの美術部員は作品制作に熱中する余り、空腹を感じず昼を摂るのも忘れる。

 で、夕方我に返るんだが、窓際なんかに鞄を置いた日にゃ、中で忘れられていた昼飯が夏の暑さで傷んでいる、という悲しく痛ましい出来事がたまに起きる。要はわざわざ飯食うか~って時間取るのは案外面倒なんだよな。

 なのでふと気が付いた時に手軽に食えるおやつは重宝していた。


「ええッどうしてわかったの!?」


 俺の指摘にオネヤンはチョコバナナを取り落としそうになった。

 落とさなくて良かったよ。緑だからまだいいが、チョコ本来の茶色だと暗がりで地面に落ちてたら犬のアレと間違えそうになるからな。うから始まってこで終わるアレだ。……俺は一度丸々落とした経験があるから言えるんだ。

 あの時は泣いた。買って早々だったんだ。闇の中ぽつりと落ちているチョコバナナ。皆に避けられてさ、可哀想だった。赦せ、済まない。誰に食されないままぼっちのウンコもどきなんぞにしちまって……!


「いや、差し入れ託されたやつがピンクメッシュの金髪ヤンキーから頼まれたって言ってたんで……」

「くそッ、どいつもこいつも……! 私からだって絶対に言うなって何度も念を押したのに……!」


 名前は出してないからセーフだと思うが、特徴的な特徴言った時点でアウトだろうか。

 そういやオネヤンの名前知らねえや。まあいいか。

 紹介は割愛させて頂くが、俺を含めどこかぶっ飛んだキャラが多いうちの美術部だ。差し入れを持ったヤンキーの言葉は脅しとは思われなかったに違いない。託されたやつが誰々だったのか俺も覚えてないが「シュールな芸術だ!」とでも思われたんだろう。ハイテンション時の俺たちは起こった事象を「全て芸術!」という言葉で片付けがちだからな。ハハハ!

 って、あーどうしよ、花火はどんどん上がってる。

 わあきれ~ってゆっくり見てる場合じゃない。

 ああそうだよ、早い所戻らんと奴に殺される。


「すいません空から降って来なかった恐怖の大王待たせてるんで俺そろそろ…」

「大王……? ああそうだったわよね。人待たせてるんだっけ」


 オネヤンは、ふと真顔になって俺のこめかみ辺りに手を伸ばした。

 まだ薄ら残る傷口から僅かにズレた部分に躊躇(ためら)うようにそっと触れてくる。


「ええとオネヤン先輩……?」


 彼は触れた時以上にそっと手を離し、小さく息をついた。


「怪我ももうすっかり大丈夫そうでよかったわ。実は結構気になってて、差し入れもそうだけど、密かにあなたが部活来てる時は遠くから双眼鏡で見てたり、心配だから帰る時は尾行して家まで調べたりしたのよ」

「…………え?」


 ストーカー!? うっそーん俺にもいたよ。いくら見た目美少女だろうとな、過保護な男にストーキングされても嬉しかないわい。


「それじゃ新学期にね。あと絵も見せてね。一つSNSで見たけどステキだったから」

「え? あ、ありがとうございます。――それじゃ」


 オネヤンは手を振って見送ってくれた。

 でも、SNSで……?

 ああ、久保田さんがインスタにでも挙げたのかもしかして。以前許可した覚えがあるしな。

 人混みの中、来た道を急ぐ。人いきれと元々の気温と仄かな焦燥でだらだらと汗まで掻いてくる。怒ってるのは確実だろうな。

 さてどう謝るか。

 やっぱ土下座ですかね、はは。美術館行った時みたいにさ、ははは。進化して土下寝だったらどうしよう……。笑えねえ……。

 だが、怯みつつも待たせている場所に戻った俺は、戸惑った。


「――え? ゆめり……?」


 その場に奴はいなかった。


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