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第27話 意外なごほうび

 今日はほとんどのクラスで打ち上げをするみたいなので、部活も大半の部が休みだった。

 開始時間は夕方五時。

 うちのクラスの打ち上げ場所は焼き肉屋だ。勿論食べ放題付き。

 俺と佐藤は皆と一緒に最初から入っていたが、岡田はまあその知っての通り制服下の緊急事態で遅れて来た。

 汗だくだった。


「そんなに汗かいてどうかしたのか?」


 肉の焼けるいい匂いとクラス連中の賑やかな喧騒の中、岡田は男のプライドなのか左右に首を振り曖昧に微笑むだけで何も語ろうとはしなかった。

 俺と佐藤は顔を見合わせて不思議に思ったものだ。ノーパン事件は知っていたが、てっきりもう買うなりして解決したんだと思ってたからな。

 この時の俺は、ちゃんと穿()いてるんだと疑いもしなかった……。


「でもよかったまだ間に合って~! 学校から直行した甲斐あった~! お肉お肉~!」


 俺が後に知る真実――実はまだ穿いていなかった――岡田が額の汗を拭いながら爽やかに笑った。

 ごはんを前にはしゃぐ犬っころだな。


「お座り……あ、いやまあ座れよ」


 俺は本当は穿いていない友人(たぶん今はもうちゃんと友達認定されてるだろう)を空いている席に促し、打ち上げは美味しく楽しく無事に終了した。

 ああ、知らぬが仏。





 同日夜、たらふく肉も食ったしでひゃっほ~う☆☆☆気分で帰宅した俺は、家に一歩入るなり前述の星が地底まで落下し黒く染まる心地になっていた。


「★★★……」

「は? 何語よそれ?」


 だってなあ、心情的に玄関を抜けるとそこは魔王の玉座前でした~っつーのかな、何か腕組みして仁王立ちでお待ち下さっていた麗しの幼馴染みさんの姿があって、しかも機嫌がすこぶる悪いご様子でしたから。

 まあこれで微笑んで「おかえりなさい、あなた」とか言われても、俺は自ら壁に頭を打ちつけてその夢から覚めようとするだろうがな。


「全く以て遅いわよ。もう九時じゃない。いつまで焼き肉してたのよ」


 良い子の寝る時間は過ぎてるんだから家に帰ればいいのに。

 だが昔から奴はこの家の一員同然だから、こんな時間でも普通によくいる。

 奴の親もうちの親も公認だ。

 いやちょっと待てよ。中学の時も疑問だったが、そもそも公認って何の?

 なあ父さん母さんお義父さ……いや小父(おじ)さん小母(おば)さん!?

 奴は靴をぬぎぬぎする俺をジト目で見ながら文句の続きを口にした。


「うちのクラスの打ち上げなんて二時間くらいで終わったのに。そっちだってそのくらいで終わったんでしょ? その後何してたのよ。二次会にでも行ってたわけ?」

「二次会は断ってカラオケ行ってたんだよ。佐藤と岡田と」


 因みの因みに一緒だった岡田は「ちょっとコンビニ寄るから先行ってて」って一人で走ってったけど、何か急ぐ用事だったのかにゃっ?? ヌハハ明日の俺なら知っているぞ!


「ふーん。なら、まあいいわ」


 え、何でそこでちょっと機嫌直した風にするんだよ。気分屋め。


「二階に行きましょ?」

「へいへい」


 俺はリビングにいた両親にただいまを言って階段を上がる。姉貴は今日も外泊らしい。

 両親はちょうど水族館の特集番組でもやっていたのか、青い水槽に漂うクラゲの映像を観ていた。


「ああ、いいなあクラゲは……」


 父さんが疲れた顔でしみじみと渇望を滲ませて呟き、


「ええ、いいわよね。コリコリして」


 母さんが庖丁を研ぐ料理人の顔で呟いているのを、俺は偶然見てしまった。

 クラゲに求めるのが片方は「癒し」で片方は「食」

 そこからして見解の甚だしい相違が見受けられるのに、よく一緒になったよな。花垣家七不思議の一つだ。

 自分の部屋に入ると、我が物顔で室内を闊歩(かっぽ)するゆめり閣下が、本棚の前で立ち止まってその奥へ手を伸ばした所だった。


「――!? おやめ下さい閣下ッ!! そそそそこはワタクシの禁断の御当地ものが――――」


 ってあれ? 俺はもうそこに何も隠してないはずだ。

 全部食われて残機ゼロ。


「何みっともなく叫んでるのよ」


 奴は呆れて言って、俺を振り返る。


「え。閣下……?」


 その手には、あるはずのない御当地お菓子が握られていた。


「え? もうないはず……って、メロン味?」


 俺は困惑してその菓子箱を見つめる。

 見えない本棚の奥に、実は菓子箱は存在していた?

 見るまではあるとも言えるし、ないとも言える。確率は五分五分?

 シュレーディンガーの猫耳た……猫じゃなく、シュレーディンガーの御当地お菓子?

 しかも種類を変えてだと?


「どういう事でしょう閣下!?」


 奴は俺の無意識の呼称をあっさり受け入れて鷹揚(おうよう)(うなず)いた。随分と様になっている。

 きっとこいつは普段から閣下の気持ちで俺に接しているに違いない。


「あんたが帰って来るの遅いから置いて帰ろうと思ってたんだけど、ちょうど帰ってきたし、ハイあげる」

「ほえ?」


 俺はコロポックル(大きなフキの葉っぱを持った妖精)のような素朴な表情で奴を見つめる。奴は俺の無垢な瞳に浄化されそうになったのか「な、何よ?」と少したじろいだ。


「親戚が送ってきたのよ。あんたこの前残念そうな顔してたからお裾分けよお裾分け。味は違うけど感謝してよね」

「え……何で……?」


 何か裏があるのか?

 猜疑心の鎌足(かまたり)……じゃなかった(かたまり)になり俺は奴を見つめる。


「そっちのクラス総合で五位で、あんた結構卓球で頑張ったっていうじゃない。だから何て言うか、ごほうび」

「ハハァーーーーーーッ!!」


 俺はおそらく最高の平身低頭をした。


「マジでサンキュなっ」

「どう致しまして」


 ほくほく顔で菓子箱を受け取る俺を見て、不機嫌ちゃんだった奴は機嫌を直したようだった。何か照れるが、たまにはこういうのも悪くない。


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