桜編〜告白〜
その日は透き通った紺色の空に、どんよりとした雨雲が架かっていて、
なんとも言えない空気が、その時の僕らを包んでいた。
僕は桜さんから誘いを受けてカラオケを楽しんでいた。
なぜカラオケかは、今考えても解らないが、とにかく俺は盛り上げる事に専念していた。
「イェーイ。二人だけど楽しんで行こう!」
桜さんとは会社であまり話した事も無く、挨拶程度の仲だった。
だからバレンタインデーのチョコに関しても、義理だとしても貰える想像をしてなかった。
「おー!結城くん、ジャンジャン歌って行こう!」
「了解。ジャンジャン行きます。」
歌っているうちに楽しくて、チョコの事など忘れていた。
桜さんとは音楽の趣味が合うらしく、しばらく二人で盛り上がった。
カラオケも終わり、特にやる事も無くなった僕は帰ろうとする。
初めて遊んだのに遊び過ぎるってのも、いかがなものかと考えたからだ。
「僕、そろそろ帰るね。明日も早いし。」
場所は駅近くで11時半と言う事で人も疎らだった。
歩道を歩きながら彼女は言った。
「ねえ。チョコのお返しってどうするの?」
帰ると言う僕の言葉は保留され、彼女の質問に答える。
「チョコって、桜さんがくれた?」
こう言う時、決まって僕は確認の質問を返す。
それは、その人がなんで今、この様な質問をしたのかと言う事を考える為と、状況理解の為だ。
質問してから返事までは、秒数にすれば2秒くらいなのだが、その時に自分のモードチェンジをする。
モードチェンジとは状況に合わせた自分を作り、何が来ても対処しやすい様に、その場の雰囲気と感覚で、今一番適しているであろう自分に代わる事だ。
ちなみに、状況に合わせると言っても、自分の中に無い自分は出さない。
自分の中に潜んでいる、自分の中で厳選されて出てくるのだ。
「そうだよ。」
桜さんは両手を後ろに組んで、少し僕を見上げる様にして答えた。
「そうだなー。じゃー桜さんがくれたチョコと同じ位の物を返すよ。」
今考えると僕はバカなのかもしれない。
桜さんがくれたチョコと同じ位の物ってなんだ!
女の子から一気にバッシングされてもおかしくはない。
でも、僕はチョコの3倍返しとか、そおいう類の物が大嫌いなのだ。
まーチョコがあまり好きでない事もあって、義理チョコになぜ貰った方が3倍も返さなきゃーならんのか意味不明だからだ。
「じゃー。キットすっごい素敵なお返しが来るね!」
僕は一瞬思考が止まった。
その言葉を理解出来なかった。
「え?」
そして、出たのがこの言葉。
「だって結城くんに食べて欲しくて作ったんだし。」
桜さんは顔を少し俯かせていった。
暗かったけど、少し彼女の頬が赤くなってた気がした。
その時の彼女は本当に、けなげな女の子でしか無かった。
「あ・・・。うん。ありがとう。」
こんな時、僕はこんな反応しか出来なかった。
急の恋愛系モードに不覚にもついて行けない僕。
「一応本命チョコなんだ・・・。私、結城くんが好きだから。気づくと目で追ってるし。
だから付き合う事も考えて、返事頂戴。じゃあまた明日。」
そう言うと彼女は駅まで走って行ってしまった。
・・・・・・。
えええええええええ?
「ちょっ!ちょっと・・・。」
突然であっと言う間の出来事だった。
僕は頭の中で沢山の え? と格闘していた。
まず、いつ返事をすればいいのか?
あとなぜ僕を好きになったのか?とか、駅同じで帰る方向が多分カブるけどいいのか?
とかチョコの事に悪い考えを持った僕に対する自分へのハテナとか。
まーこれは自分の問題だけど、とにかくなぜこのタイミングで?とか。
数えればキリがない。
とにかく、その時は突然で、好きってなんですかー?って誰かに聞きたくなるくらい頭が混乱していた。
でもやっぱ告白されるのは嬉しかった。
誰かに好かれるのは本当に嬉しいと実感した。
特にこんな僕に告白してくれる事が幸せだった。
とにかく、桜さんの告白に真面目に向き合う事した。
でも、僕には1つの問題あった・・・。