桜編〜序章〜
東京の大手制作会社に就職して早2ヶ月。
あの頃の僕は、女の子と言うのがどんな生き物なのか興味せずにはいられなかった。
それに拍車をかけて、その当時第1次モテ期が到来していた。
あらかじめ断っておくが、決して顔がいい訳ではないのだ。
むしろ平凡、それは回りを見ていれば良くわかる。
顔のいい男なんてホント沢山いて、羨ましく思った事も何回もある。
でも僕は自分の顔を変えたいと思った事は無い。
それは、たまらなく自分が好きと言う理由と、自分の生まれたまんまの姿で何かと勝負したかったと言うのが理由だ。
当時はそう思っていた。
今もそんなに変ってないのかもしれない。
でもほんの少し変わった事は確実にある。
ほんの少しが全ての色を変える。
そんな事もある。
でもそれは、ひかりと別れて5年も経った後のこと・・・。
「結城。」
「結城。」
「結城。」
僕は何回呼びかけられたんだろう?
「結城。おはよう。」
その呼びかけは友達からのものだった。
「おはよう。」
おはよう、って言葉。
誰にも使える言葉。
言うべき言葉であり、そこに親近感はない。
だからこそ言わないやつには腹が立つ。
その日の会社の同僚で友達の「おはよう」はその中間で受け取る。
友達と言ったって仲の良さで受け取る感覚は違う。
しかし、やはり「おはよう」は言うべき言葉であり、特別な言葉ではない。
「なんだ?今日はいつもに増して目にクマ作ってるなー。」
彼の名前は健二。
苗字は知らない。
そこまで興味がなかったからなのか、僕は最後まで彼の苗字は知らず終いだ。
でも友達だ。
「結城。桜さんがお前にチョコ渡したんだって?」
健二は情報入手が早い。
ちなみに健二は身長170センチくらいで黒髪短髪、彼はモテるとも言えず、モテないとも言えない、いわゆるちょいモテ君な訳だ。
「お前情報早いなー。」
「で、お前どうするんだ?」
ニヤケ顔で僕の顔をジロジロ見て来た。
「どうするもこうするも無いよ。別に告られた訳じゃーないんだし。ホワイトデーにお返しする感じだよ?」
僕は大体こう言う話には、ただ淡々と自分の感情を出すことなく、その場を凌げればいいと言う気持ちで話をする。
「お前なー。わかってる?一応彼女狙ってる奴もいるんだよ。」
桜さん・・・。はやり彼女の苗字は忘れている。
彼女はミディアムヘヤーに、ふわゆるパーマ。
顔も可愛く、制作会社にいるにはもったいないくらい、誰にでも優しく仕事真面目な女の子。
その大きい目に、いつもグロスを塗っている唇は僕にはたまらなく魅力的に見えていた。
「ああ、知ってるよ。でもチョコ渡されただけだぞ。義理だろ。義理。」
「まー。そうかもな。」
そんな風にして話は終わる。
実際本当にチョコを渡されただけなのだ。
その時は・・・。
数日後の事だった。
桜さんに呼ばれて会社の帰りに遊ぶことになった。
その夜に彼女からの告白を受ける事となる。