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第4話 目覚め

瞬きを数回…コウは不意に目を覚ました。


「…?」


何故…目を覚ましたと思ったのだろう? ずっと起きていたのに?


コウは何かが変だと思ったけれど、何が変なのか分かっていなかった。分かるのは、まるでたった今目が覚めたかのように、全てがハッキリとして見える事だけだった。


「ぼく…?」


見つめていた時計を再度確認する、もうすぐ12時。おばちゃんが言っていた通りならもうすぐママに会える。ふと、おばちゃんと同じ服を着ていたお姉さんが、ママの事を心配していたのを思い出した。


お姉さんはママの両親が一緒に来るべき、と言っていたけれど、絶対に来ないとコウは知っている。


コウは周りが思うよりずっといろんな事を知っていた。コウが黙ってママの隣に座っているだけで、いろんな人がたくさんの事を話してくれるのだ。


ママのお父さんは言った。「お母さんがお前の事をすっかり忘れているのは、コレが生まれた事がショック過ぎたからだ。お母さんが悪いわけでは無いんだから、お母さんを責めてはいけない」


その後ママのお父さんが話したのは、生前贈与の事だった。「名義変更した株や不動産の利益で、お前が成人するまでの生活は、何の問題もないだろう。問題が有れば弁護士に相談すれば良い」


ママのお父さんは弁護士事務所の名刺を渡しながら少し気まずそうに言ったが、ママが「コウが大学に行った後も悠々自適に暮らせるわ」そう応えたなら何の心配もない。


ママのお父さんは機嫌良く笑うと「お前が物分かりのいい娘で、私も助かる」そう言って帰って行った。


「タカちゃんが今年小学校に入学したばかりだから、あの人達はとても忙しいの。だから、もうあの人達は私達に会いに来ないわ。タカちゃんはママの弟だから、コウの叔父さんね。歳が近いから、もし一緒に遊ぶ事があったら仲良くなれたかもしれないわね?」ちょっと寂しそうにママは言った。


ママがそう言ったのならママのお母さんも、ママのお父さんも絶対コウ達に会いには来ない。そしてもしタカちゃんと一緒に遊べたら、仲良くなれるかもしれない。


ママのお母さんの事も、ママのお父さんの事も相続の事も、ママのお父さんが話すのをコウは黙って聞いていた。ママも黙っていた。


あの日ママは怒っていた。とても静かに怒っていたから、ママのお父さんはママが怒っているのに気づかないまま帰って行った。


「コウがママのところに産まれて来てくれて、とっても嬉しいわ」コウを抱きしめてママ言った。「あの人達は不幸ね、もうコウとは何の関係も無くなった」にっこりとコウに微笑みかけるママは、もう怒っていなかった。



今日ここに来た時、ママは少しだけ不安そうだった。


「ワレ? おきてるの?」


もしかしたら『ワレ』ならその理由が分かるかもしれない。だから自分の中のワレに声をかけてみた。もしかしたら、コウが『目を覚ました』と感じた理由も知っているかもしれない。


今までは、コウだけではっきりと周りが理解出来た事はない。自分の周りで起きた事をちゃんと覚えているけれど、それを理解出来るのは、ワレがコウの体を支配した後だけだった。


ワレが起きている時コウの意識は隅っこの方にいて、ワレがやる事を眺めているだけ。ワレの目を通して見る世界は、何もかもがハッキリとしてクリアだ。


コウが暴れ出した時、感情を制御する方法を教えてくれたのはワレだった。トイレに行く事を教えてくれたのもワレだ。


コウが起きている時、ワレはいつも眠っている。コウがママを困らせているとき、不意にワレがコウの体を支配して、助けてくれる。


今日は猫と遊んでいたとき、突然ワレが起きたから驚いた。


「…ワレ? またぼくをタスケテくれたの?」


今までこんな風に声をかけた事はなかった。今はワレとの繋がりをハッキリと感じるから、返事をくれるかもしれない。


対策が必要だと言ったワレ、返事は無い。ワレが起きている時コウが端っこにいるように、ワレも今、端っこにいるんだろうか?


「ねぇワレ? ワレは、どこからきたの? あのネコがワレのなかまなら、ワレは、どこにいたの?」


今までは情報が有るだけで、それに対して疑問を抱いた事はなかったけれど、今は全ての事が不思議に思えた。


(ワレは何処から来て、どうしてここに居るんだろう? じゃあ僕は? 僕は何処からきたの?)


【それは我にも分からぬ】

「ワレ!」

【しっ! 言葉にして喋るな、考えるだけで我には通じる】

(えーと、聞こえるワレ?)


今までずっと一緒にいたけれど話したのは始めてだった。


【我が何のために何処から来たのか? 残念だが覚えておらん、説明する時間も無い。力の一部をお前に分けた所為で、我は今までより少しだけ深く眠る事になる。これからは今までの様に、お前とママを直ぐに助ける事は出来なくなる。これからはお前がママを守れ。良いな】

(え? ワレ?)


突然聞こえたワレの声は、同じく突然聞こえなくなった。


けれどワレがここにいるのを感じる、眠っているだけで今まで通り一緒にいる。今まで通り? 違う、今までよりもずっと近い場所に居るのを感じる。ワレがまたコウを助けてくれたのが理解出来た。


「みゃー【主人様?】」

「煌樹君、ママのところに行きましょうか」


三毛猫が鳴いたのと、鏡の向こうにいたおばちゃんがドアを開けたのはほぼ同時だった。

お読み頂き有難うございます。


2017/03/18 言葉の重複があったので、訂正しました。

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