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第3話 幼児検診

のんびり投稿です。

3歳の誕生日を迎えるコウの保護者宛に、幼児検診の通知が来た。身体測定などの基本的検診や、保健師との面談などなど。


それで終わりかと思いきや、後日再検診通知を受け取り、今に至る。


「ママが隣の部屋で御用を済ませる間、煌樹君はここで、オバちゃんと待っていようね?」


コウが母親と引き離されて連れてこられたそこには、たくさんのオモチャが散らばっていた。


「煌樹君は、どんなオモチャが好きかなぁ?」


オバちゃんと名乗った女性は、コウの気を引こうとアレコレ話しかけ、根気よく接してくる。しかしコウは3歳児に求められる反応を示さなかった。


「積木わかる?」「車ぶーぷー」「コレ何かなぁ? 」


彼女は途方にくれていた。3歳児とは思えないキチンとした所作、それでいて感情が欠落した表情。それは、こういった子供に慣れているはずの彼女ですら、どう表して良いか分からない曖昧な枠に入る反応だった。


コウが再検診通知を受け取ったのは『何らかの障害の可能性』を診る為だった。いくつかの検診の結果は『要観察』彼女もその診断についての報告を受けている。


しかし、一般的に言われる『障害のある可能性を示す特徴』とは何かが違う。報告に上がっている項目を読めば『疑わしい』とハッキリ言えたものが、本人を前にすると何かが違う様に感じるのだ。


全てを見透かしている様な、それでいて全てに無関心な視線。外見は3歳児にしか見えない幼児は、間違いなく普通の幼児では無い。しかし、その『普通では無い方向性』が計りかねる。


打つ手の無いまま逡巡した後、外部からの合図に彼女はホッと息を吐き出す。


「オバちゃん、ちょっといなくなるから、少しの間1人で遊んでてね?」


何の反応も示さないコウをおいて、彼女は室外へ続くドアへ向かう。そしてドアノブに手を置いたまま、祈る様な気持ちで振り返った。


「煌樹君?」


この呼び掛けもテストのひとつ。コウは無表情のまま彼女を見上げ、次の言葉を待っている。突然の呼びかけに対する反応あり。


「お母さんが来るのをもう少し、あと10分くらい待っててね?」


その言葉にコウの瞳の中で、僅かに感情が揺らぐ。コウが室内の時計に視線をさ迷わせるのを認めると、彼女に心からの安堵が浮かんだ。母子関係良好。


部屋を出て隣室に移った彼女は、同僚の保健師に声を掛けられるまで思いに囚われて、ボウっとしていた。


「どうしたの?」

「え? あぁ、ごめんなさい。煌樹君の症状について考えてたものだから」


例えるならそう、あの視線はまるで達観した老人の視線。3歳児と言うよりは…。


「あなたに聞いた、最近流行ってるってノベルの話し…アレ何だったかしら? 生まれ変わりがどうのって」

「え? あぁ! あれ? 勇者転生ね」

「ふふっ小さな勇者君か…」


きっとその話を聞いた後だったから、こんな妄想に取り憑かれたに違いない。あの仕草は3歳児と言うより『転生した老人』と言った方がしっくり来ると思うなんて。


「周囲に対する関心無し、人と目線合わない、言葉理解有り、ナドナドなどなど…。コレは難しいところね、お母さんの方は?」

「それこそ難題だったわ! アレが天然って生物なのかしら? お母さんの方に問題が有るのか、お母さんの両親が問題なのか!」


その返事に、問診票の両親の項目に目を通す。


「お母さんの年齢…」

「そうなのよ、私としては『お母さんの両親にも来てもらう』に1票よ。お母さんも保護されるべき年齢でしょう! どうして再通知にその項目入れないかなぁ」


2人が見つめる問診票、母親の年齢は17歳、父親は空欄だった。





おしゃべりな女性が居なくなった後、コウはオモチャの中に動くモノを見つけた。三毛の子猫だ。何故オモチャの中に子猫? 疑問に思う事なくコウは掌で仔猫のお腹を撫でていたのだが…。


「みゃー【主人さまワタクシは、ワタクシメは情のうござります】」

「ある? ござり?【…む?】」


コウと呼ばれる幼児は、唐突に取り戻した『自我』と『我と同じ気配がする子猫』に戸惑った。


自我の眠りはいつもの事だが、今回の自我を取り戻すキッカケに対し戸惑う。とにかく猫に対し、意識疎通を仕掛けた。


「ゴロ、ゴロゴロゴロ【あっあぅっ主人様そこはっ】」

「ん、んん?【お前…何者?】?」


コウは弄んでいたお腹からパッと手を離し、手元にあった伝説の武器に良く似た物を掴むと…バタパタとリズムよく蠢かせた。


「みゃ?【あ、主人さま?】」

「おま【えは何者?】だ?」


コウは人には聞こえない音で話しかけた。再度ひっくり返った仔猫に向かって、伝説の武器擬きを揺らして見せる。仔猫は起き上がるなり魅せられ、視線を離せなくなっている。


「おまえ【どこから来た】の?」

「みゃう【あ、主人様、な、何をなさるおつもり…うっ】」


パタパタっ バタぱたッ! 強弱を付けて動くそれに手を出そうとするも、見えない何かに下半身を抑えられた仔猫は身動きが取れず、ミャウミャウと鳴くばかりだ。


「みゃうぅ!【主人様っお放しくだされ、お願いでござりまする、主人様! ワタクシメはやるべき事が、やらねばならぬコトが! 】」

「んー【んー】?」


幼児に有るまじき黒いオーラを放つ意識が、見えざる手を緩める事はない。


「みゃぅう【話します! 話しますゆえ、後生ですお放しくだれぇ】」

「ん〜じゃぁ【何故お前は、その姿ででココにいる】の?」

「ミャウミャウぅ【ワタクシメがココに遣わされたのは、主人様の御父上の命でござります】」


仔猫姿のソレは拷問?に屈し、伝説の武器に文字通り踊らされ、嬉々として知っている全てを話しだした。


【御父上はお怒りでござります。御父上に献上なさる筈の魂と主人様が契約を結び、今はその様なナサケナイお姿になっておられる事に。】


【いえ! いえいえ、その様なつもりはござりませぬ! あっ! ヤメないで下さりませっ! 後生でござります、話します話しますゆえ】


【ワタクシメが御父上に命じられたのは、主人様の真意をお聞きする事でごさります。ワタクシ直ぐに主人様の元へ参る所存でござりましたが、如何せん、この世界には長く留まる事が出来ませぬ。それ故試行錯誤する内にこの様な姿に】


【ええ、そうでござります。ワタクシの他にも主人様を追ってこの世界に】


【え? ワタクシが主人様の真意をどうやって御父上に伝えるか、でござりますか? ソレは…???? も、申し訳ござりませぬ、ワタクシメ思い出せませぬ。何故でござりましょう?】


【ええ? 主人様も思い出ぬ事がおありとは、その様な事が?】


「みゃー【申し訳ござりませぬ…ワタクシメ…】」


散々弄ばれた仔猫は、突然動きを鈍くさせると、普通の仔猫の様にゴロゴロと喉を鳴らし顔を洗い身だしなみを整えると、クルリと丸くし…そのまま寝てしまった。


「ふっ【あっけないモノよな】…」


コウはポイッと猫じゃらしもどきを放り出すと、幼児とは思えない顔で座り込んだ。


【父上が我を探しておる? 何故? そもそも父上とは…どんなお方だった?】


コウは人語ではない言葉で今後の対策について思考を巡らせた。


【記憶が混乱しておる。此奴同様、思い出せぬ事が多すぎる。人間の脳では処理し切れぬのか? …さすれば此奴など所詮仔猫、さしたる情報は引き出せまい】


分かったのは、この仔猫以外にもコウを追視する者が在るという事だけ。


この体に宿ってから、幾度となく繰り返してきた意識の混濁と自我の覚醒。近頃では意識が混濁あるいは、我の意識が眠っている間の事も、自身の記憶として思い出せるようになってきた。コウは『我』である時の記憶と『ぼく』として過ごす、我の意識が眠っていた期間の記憶を擦り合わせた。


「ふむ」


コウという幼児に眠る『我』の意識が、人間界では『なんらかの障害』と判断される可能性について話し合われた形跡がある。


あの時『ぼく』である我は状況を理解していなかった。母親である彼女の哀しそうな、それでいて揺るがない想いを湛えた顔が浮かぶ。その不安の指すところが、その時の『ぼく』には全く分かっていなかったのだ。


「なにか【対策を練る必要が】ある?」


コウは室内をグルリと見回すと、はめ込み鏡の向こうに目を止め、次に時計に目線をやると、作戦を練り始めた。





「まったく、あの猫何処から紛れ込んだのかしら?」

「煌樹君楽しそうだし、アレルギー反応は無いみたいだから、今は良しとしましょう」

「でも後で清掃業者に…え?」

「何?」


面談結果を確認していた女性が同僚の保健師の声に様子を伺うと、そこには時計に目をやるコウがいた。


「い、いま、あの子と目が合って…でもそんな訳、ないよねぇ?」

「偶然でしょ。そろそろ10分…時間を見るって事も分かってるようだし、でもうーん『要観察』かなぁ?」

「偶然…よ、ね?」


視線がかち合った瞬間、脳内をスキャンされたような気持ち悪さがあった…ような気がしたのだが、そんな気がしただけだ。そう、そんなコトある訳がない。


そうして保健師は、そのまま忘れてしまった。

お読み頂き有難うございます。


次話、コツコツ頑張ります。

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