我、王都に発つ。
「一緒に受けるってどういう意味? っていうか入学試験とかあるのか!?」
「昨日あった兄ちゃんには不躾でしかも凄い図々しいんだけど……試験料を……払って欲しくて」
一番肝心な所が聞こえなかったんだけど、多分試験料って言ったんだろう。
つか入学試験にお金とか取られるものなのか? 申し訳ないけど俺もお金持ってない……とは言えないし、少し余ったこのオリハルコンを売ってお金を作るか。
「そ、それ位だったら全然大丈夫だよ」
「本当かよ!? 兄ちゃん超優しいな!」
「ただ永久英雄ってだけで王都じゃ胴上げされるレベルだから、一緒に歩くとなるとかなり面倒だぞ?」
「それだったら私に任せてくれよな!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
人間種に限らず、エルフにもビーストにも魔法別適正と呼ばれる得意魔法って奴が存在する。
それは親との繋がりとは関係なしにランダムで振り分けられる、謂わば生まれ持ってのステータスみたなもので、多くの国と世界の階級制度はその得意魔法によって優劣が付けられている。
代表的な所で言うと炎・水・地の三属性の魔法適正だろう。
同じ属性の中でも優劣が付けられ、より強力な魔法を打つのに適しているタイプや何発も魔法を打つのに適しているタイプ等様々存在する。
それはおおよそ十歳に決まるけど、才能のある者は自分の得意魔法を生まれた時に自覚し出して、他の者が能力を自覚した頃には既に使いこなしていると言われる。
他にも闇・光などふるいにかけられ最後に残った者のみが使えるような強力かつ特殊な魔法を使うものもいれば、毒や強化など状態異常を得意とする者達も存在する。
毒魔法を使える者は犯罪者傾向が高いため、多くの世界では毒魔法使いは軽蔑されがちだ。
中には特に長けた能力がないって者もいるけど、そういう者程バランスよく魔法を使えるから強い。
因みに神は全部使えるから、得意不得意や優劣は存在しない。
「本当にこれでバレてないんだろうな? 全然隠れたりしてないけど」
「大丈夫! 兄ちゃんは私の魔法を信用してくれって!」
結局折角完成させた剣を試用する事が出来ないまま、半ば強引に王都に連れて来られた俺は、沢山の人が歩く街中をエルドと共に堂々と歩いてる。
スラム街にいる間に永久英雄っていう話題が干からびた訳じゃない。むしろ王都の至る所に貼ってある探し人の張り紙にある絵はほとんど俺だ。
「この魔法があったことを忘れてたよ、俺」
「地味な魔法だからな、あんまり使いみちがないんだよな。盗人には向いてるけど。ほとんど魔力使わないから、掛けようと思えば死ぬまで掛けてられるぞ!」
どうやらエルドの得意魔法は毒魔法の中でも地味な状態異常系の魔法らしい。
自分では他の能力と得意度はあんまり変わらないのが唯一の救いって言ってたけど、この『影を薄くする魔法』が信じられないほど効いてて、俺の影が薄いんじゃないかと錯覚に陥ってる。
かれこれ二十分歩いてるけど、まるで相手にされない。別に寂しくはないぞ。
「ところで、俺も学園から勧誘的なもの一杯来たけど、何処に向かってるんだ?」
「国立シュードラン高等魔法学園! 貴族とか王族も行く名門校だよ! 知らないのか?」
「生憎この間までは放浪者だったもんでね」
放浪者という言葉の意味は定かでは無いが、国王が俺の事をそう呼んでたから使ってみる。
にしても自分の名前を国立学園の名前にするって、あの爺さんの自己顕示欲も侮れない。
「放浪者でその強さって……兄ちゃん狩りでもしてたの?」
「違わなくもないかな」
「珍しくはないけど、大体親から捨てられた見込みのない弱い人間って国の奴が言ってたぞ!」
なるほど、十歳の時にまるで見込みのなかった子供に失望した親が国の郊外に追放して死んだことにでもしてるって訳か。随分この国も汚れてるみたいだな。
そう考えるとエルドもなのか。
スラム街にいる時点で可哀想なのは分かってたけど、もっと可哀想に思えてくる。
「なんだよその目は! 私は親に捨てられたんじゃねえっての」
「俺だって親に捨てられたんじゃなくて、親元を自ら離れたってだけだよ」
「兄ちゃんそれは親元離れすぎだろ!」
「これも企業秘密って事で堪忍してくれよ」
口に人差し指を当ててウインクしてみせる。気持ち悪ッ。
「兄ちゃんみたいに素性の分からない人間が永久英雄なのも、国が不安定なせいなのかな」
「不安定っつーのはどういう事だ?」
「分かんねえけどとにかく不安定なんだよ! ほら、付いちまったぞ」
ほとんどエルドの方を向いて会話してたし、それ以外も他人の視線がこっちに向いてないか確認してただけだから気付かなかった。
「マジ、でっけえ!」
王宮見た時も言っちゃったけど、やっぱり凄い物を見ると語彙能力ってのは役に立たないもんだな。
「これが国立学園かぁ! 下調べは何度もしたんだけど、実物を見るのは初めてなんだ!」
「こんな大きい校舎で何するってんだよ。思えば試験だって何するか良く分かんないし」
「そんなのは後! 兄ちゃん早く試験の手続き済ましてきてくれよ、門の前でやってるからさ!」
エルドに催促されて、目の前の巨大な国立学園に歩いて向かう。
目の前に見えていたようだけど、結構な数の階段を登らなきゃいけなくてしんどい。
こういう時に魔法使えよって思うかもしれないけど、そこは街のマナーてものがあるだろうから控えてるんだよ。ほら、誰も街中で魔法使ってないし。
というかそもそも俺の周りに誰もいない。
もしかして既に入学試験が始まってしまってるって事なのか?
遅れて受けられなかった、じゃ俺としても普通に洒落にならないからやっぱり魔法使って一気に上まで駆け上った。
堅牢な檻の様に固く閉ざされた門の前に、誰一人として通す気がなさそうな厚い鎧に身を包み、片手に大きな槍を持つ兵が二人構えてる。
「貴様、何のつもりだ!」
「一応入学試験を受ける気で来たんだけど、もう始まってるっすか? なら通してくれませんかね」
「何を言っている。通すわけがないだろう!」
「あ、お金か。試験料まだ払ってなかったっすもんね」
そりゃ試験料を払わずに入れてくれって言ったって通してくれるはずないよな。
オリハルコンを売って手に入れた多額の紙幣を入れたはずの右ポケットに手を入れて探るが、何も入ってない。念の為に左ポケットも探るが、やはり何も入ってない。
これは由々しき事態だ。
「すんません。どっかにお金落としちゃったみたいで……後で絶対払うんで!」
「そういう問題ではなく、国内の入学試験は一貫して今日ではなく明日だ!」
ちょっと待ってくれ。
とすれば嫌な予感が背筋を伝って顔まで伝ってくる。
まるで後ろにいる人間を睨み殺すくらいの勢いで、後ろに首を回した。
「……やられた」
「何だ? 何か知らないが、分かったなら早く帰れ! これ以上退かないと言うなら連行す――」
そいつの言葉を聞き切らない内に、階段を一飛びで降りる。
階段の下にいるはずのエルドがいない上に、俺のポケットにはお金が入ってない。
つまり完全に一本とられたって事だよな。
簡潔にまとめると、オリハルコンをカッコつけて取り返した俺が結局二度目の鎌にかけられて、大本命であろう多額のコインを奪い去られてしまったのだ。
恐らく最初オリハルコンを盗んだのは、隙を生むための囮行為だったんだろうと思う。
どうやら『影を薄める魔法』を解いてないのは彼女からの最後の温情らしく、さっきと同じ道を誰に気付かれるでもなくトボトボと歩いている。
今から索敵魔法を使って奪い返す事も出来るんだけど、『影を薄める魔法』は人質として残した意図もあるだろうから、取り返したところで解かれてしまう可能性がある。
言うほど落ち込んではいないけど、カッコつけてオリハルコンを取り返した割には呆気無くてちょっとカッコ悪すぎる。
明日が試験っつーことは家に帰ってもいいんだけど、さすがに家に帰る程エルドだって馬鹿じゃないはずだ。
一晩くらいはこの街の宿屋でも泊まって行くか。
そう思った矢先、もう入学が決まってるのであろう若人が群がっている店に囲まれて、俺と同様の目的で泊まって行くであろう奴らが群がる宿屋を目にした。
「うわ、あそこだけ人口密度高すぎだろ」
まるで獲物に食らいつく獣のような目をした人間ばかりが宿屋に入っていくのを見るに、今にも部屋が埋まりそうなんだろうけど、不幸中の幸いか今日はこの魔法がかかってる。
俺は隣の人を押しはじき出しながら宿屋に入ろうとする人混みの中を、まるで文句を言われることもなく中に入っていった。
この魔法、便利だぞ!
「すみません、今晩一部屋泊まれませんか?」
受付の無精髭を生やしたイカツイおっさんに話しかける。
「今晩は見ての通り大混雑でね、もう部屋が余ってないんだよ」
「やっぱりそうですよね……。すみません、ありがとうございました」
「待て待て、それで一人でも助かるならと相部屋を申し出てくれた人がいるんだ。だから相部屋でもいいなら君一人は泊まれるぞ」
「本当ですか!? ならそれでお願いします」
他人のために相部屋を申し出るとは、随分と優しい人が居たもんだ。
イカツイおっさんの話によると、部屋は二階の突き当たりで、ノックして声かければ入れてくれるそうだ。
まあ部屋代も割り勘になるらしいから、それを目的に相部屋を申し出た可能性もあるけど、この際理由は気にしないでおく。
「今日はもうお客さんは入れないよ! さあ帰った帰った!」
荒っぽい声でそう言ったのが聞こえた。
どうやら前に群がってた受験生諸君はそこまで予期していたようで、言われるや否や他の宿屋に向かって散って行った。
今思ったけど、金盗まれちゃってるから試験料どころか宿代も出せない気がするんだけど。
念のためポケットに入れておいたこの小さなオリハルコンも、どうやら売り捌かなきゃならないらしい。
突き当たりの部屋は他の部屋よりも少しでかい、いわゆるロイヤルルームみたいな感じらしくて、ドアも大理石のようなもので作られてる。
コンコンコン。
やはりドアの素材もいいからか、心地の良い音だ。
「すいません、受付の方に言われて来たのですが」
「へ!? あ、ちょ、ちょっと待ってて下さい!」
気の抜けた女性の声が聞こえると、部屋を整理しているのであろう、部屋の中からバタバタと走り回る足音が聞こえる。
「ど、どうぞ」
一通り収まると、震えるような女性の声が聞こえて来た。
相部屋の相手が女性って、それは人間界では当たり前のことなんだろうか。結構危険な気がするけど。
ここで止まっててもどうしようもないから、失礼がないよう、恐る恐る、慎重にドアを開けて中を覗くと、青い髪の毛の少女が立っていた。




