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まずは強い武器が欲しい。

 俺はゴツゴツした岩を魔法で積み上げた壁に囲まれて、六畳にも満たない部屋で一人きりで作業に没頭していた。


 どれくらい経ったかは分からないけど、手元が見え辛くなったのは結構前だから夜になって大分時間が経ってると思う。


 当然上の方に申し訳程度に開けられた穴から差し込む光は無く、今部屋を照らしてるのは杖から漏れ出している魔力だった。


 今してる事を端的に言えば鍛冶作業なんだけど、そんな簡単に出来るものではない。

 オリハルコンを超高熱で溶かすと、すかさず細めの刀身の形に作った型に流し込んで固める。そして時間を置いてまた超高熱で溶かしたオリハルコンを重ねて固める。


 この作業をほぼ延々と繰り返していた。


 オリハルコンを溶かすために必要な温度は、実に二百万度。


 普通に杖からその熱を放出してもこのスラム街ごと溶けちゃうから、毎回俺と鍛冶台を囲うドーム状の結界で熱が外に漏れないようにしつつ、俺が溶けないように二重に結界を貼る。


 実は結界魔法ってのは最上位魔法で、かなりの魔力を使うから神でもまあまあ疲れる。


 封印魔法とは違い物理的な事象の通過を全てせき止めるものだから、周りの空間全ての質量を背負うことになるわけで、当然人間に使えるようには作られてない神用の魔法と言ってもいい。


 他にも神用の魔法ってのは結構ある。


 地震を起こす魔法とか、海の動きを全て制御する魔法とか、あとは自分の好きな能力値を持つ生物を生み出す魔法だ。


 見ての通りぶっ飛んでるんだけど、特に最後の奴は禁忌扱いされてるほどの強力な魔法で、使っただけで天界追放は免れないと思う。


 それともう一つ。


 ある金属(・・)を創造することが出来る魔法。


「よっしゃぁぁぁ! 終わったぁぁぁぁ! いやあ、久し振りに働いたなぁ」

 

 とか考えてる間にもう剣の形は出来上がってたみたい。


 時間も時間だし、熱かろうがなんだろうが声はあげまいと思ってたんだけど、さすがにここまで長時間座ってひたすらに鍛冶作業ってのは堪える。


 そのストレスを発散する意味も込めて、取り敢えず叫んどく。


 とは言ってもまだ完成してる訳ではないけど。


「結構かっこよく仕上がってくれたな、これ。初めてだから棍棒みたいになったらどうしようかと……」


 目の前の青い刀身の剣を目の前に、得も言われぬ達成感と共に汗が身体中から湧き出てくる。


 人間は体温の調整のために汗を掻くって聞いたけど、滝のように流れてるって事は相当高沸しちまってんのか、俺の体温。


 緊張で止まってた汗腺が、緊張が緩むと同時に働いたんだろうけど、この汗の量は尋常じゃない。

 おいおい大丈夫かよ。


「人間の体はとことん不便というか。取り敢えず汗を拭き取りた――」


 そう言葉にしようとした矢先、一瞬で全身の力が抜けて視界と共に意識がフェードアウトしていった。


 

   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



 今まで閉じていたはずの瞼がゆっくりと開き、瞳の中に徐々に光が入ってくる。

 

 確認できるのは、さっきと同じく不揃いなサイズの岩でできた隙間だらけの壁と、その隙間から差し込んでくる光。


 そして綺麗に布の中にしまわれた杖の先に反射して、部屋の上の方に開けられた穴から強い光が差し込んできているのが分かる。


 どうやら気絶してから朝を迎えてしまったようだ。


 人間の身体ってのは本当に不便だ。


 自分から水を排出するくせに、排出しすぎると水分が足りなくなって気を失ったり目眩がしたりするらしいからな。


 そう言われてみれば、さっきから視界がゆらゆら揺れまくってるような……。


 身体も重力魔法をかけられたかのような重たさだし、何より頭がグルグルして今にも吐き出してしまいそうな気すらする。


 枕に頭を乗せてるおかげか平気みたいだけど、いつもみたいに地面に頭を付けて寝てたりしたら間違いなく吐いてた。


 ……え、枕?


 この部屋には枕どころか満足な寝床もなかったはずだし、しかもこの枕何となく暖かいというか、まるで生きているかのように生暖かい。


 さっきから視界が横を向いてるので、重い身体を持ち上げて視界を上に持って行く。


「なんでエルドが俺の部屋にいるの?」

「起きていたならそう言ってくれなければ恥ずかしいだろ、早く降りろって」

「なんか気持ち悪いし、何よりこの枕暖かくて気持ちいいんだよ。エルドが用意してくれたのか?」

「実は言いたいことがあって、夜兄ちゃんち来たら凄いうなされて倒れてたからな」

「いや、勝手に入るなよ」


 にしてもこの枕、本当に気持ちいい。


 天界で使ってた枕も、天使の羽で作られた最上級の枕だったはずなんだけど、これは何というか人肌を感じる事が出来る。


 出来ることなら天界に持って帰りたい。


「だから早く降りろって言ってるだろ! それとも私はこのまま初夜を迎えるのか!?」

「いやいや、意味分かんないから。もう少しこの枕使わせてくれない?」

「そんなに私の脚が好きなのか……?」


 エルドの顔もさっきからやけに赤いし、一体どうしたと言うのだろうか。


 ……脚!?


「す、すまんすまんすまん!!!!」


 エルドが俺の事を膝枕してることに気が付くと、跳びはねるように離れて謝りまくる。


 いや、天界に持ち帰りたいとか言って本当にすみません。


「その、膝枕とか俺サキュバスにしかされたことなくて、感覚とか、分かんない、だから、すまん!」


 正直めちゃくちゃテンパってる。


 口に出しちゃったけど、俺はそもそも嫁がいないし膝枕されたのも精気をごっそり奪われたあの時以来でよくわからなかった。


「ま、まあいい。それで、昨日は何してたんだ?」

「ん? ああ、そういえば終わってなかったっけ。ちょっと待っててくれ」


 そう言って布に包まれた杖を取り出すと、この部屋いっぱいに広がる魔法陣を展開し始める。

 全貌は見えてないけど、神専用の魔法だからスラム街を覆ってしまってる可能性はおおいにある。


「何だよこれ! すっごいでかいぞこの魔方陣!」


 元々天界で使うように作られてる訳で、地上でこうやって使ってみると凄い疲労度だ。

 

 エルドがまるで子供みたいにはしゃいでるが、見た目と相違ないから放置で。


「"生成" 」


そう口にすると、何もなかった空間から黒い液体のようなものが杖の先に集まり、徐々に形を成して固まっていく。


 それを見て魔法陣の展開を止めて、杖を背中に掛ける。


 大体俺の顔と同じくらいのサイズにまで膨れ上がったそれは、球体として魔法陣を消しても尚空中で回りながらある。


「うっし、地上でもうまいこといった……かな?」


 黒い球体を手に持つと、少し満足気にそう呟いた。


 この球体の名はダークマテリアルアークって言って、如何にも厨ニ臭い名前なんだけど特徴としては魔法を無効化する、そして魔力の通り道が全物質の中で最も広い。


 天界での俺の腕と同じくらいの通り道を持っている。


 宇宙に存在する無数のダークマターを集めて凝縮する事で作ることが出来るのだが、宇宙から物を持ってくるのには人間のキャパシティをオーバーする莫大な魔力が必要だから神用って訳だ。


 あと、これを触ると人間は体の魔力が失われて体調不良になるから、そういう意味でも神用かも。


「うおっと」

「大丈夫なのかよ、兄ちゃん」


 ダークマテリアルアークを手に握ったまま倒れそうになったところを、エルドが受け止める。


 万一魔力が足りなくなった時のために使わなかったけど、思いの外魔力が余ったし治すか。


「大丈夫大丈夫。ちょい杖取ってくれない?」

 

 倒れた時に手放してしまった杖をエルドに渡されると、両手で持って自分の胸に突き立てる。

 そして自分の体の上に桃色の魔法陣を展開した。


 目を閉じて体から力を抜くと、魔法陣が凄い勢いで回転しながら桃色の光を放ちながら俺を包み込む。

 

 これは治癒魔法なんだけど、体の回復能力を高めて一点に集中させるっていう原理で治癒するから終わった後はやっぱりどっと疲れるらしい。


 蘇生魔法なんて、使ってもその上で強い治癒魔法をかけないと動けないくらいの瀕死状態で蘇生されるからな。ギリストがもう少し高性能にしないと悪魔族に支配される世界が増えるって言うんだけど、これ以上使いやすくすると神用になっちゃうんだよね。


 因みに光に包まれてるこの瞬間はすごく気持ち良い。


 しばらくすると光は徐々に小さくなり、魔法陣も杖に吸い込まれるようにどんどん小さくなった。


「に、兄ちゃん今……な、何したんだ?」


 ピンピンになって立ち上がった俺を見上げて、エルドは震えながら聞いた。


「何って、治癒魔法以外に何があるんだよ」

「え……治癒魔法って、その、エルフしか使えないって聞いたんだけど。兄ちゃんエルフなのか?」

「俺は人間種だって。何で皆俺を人間以外にしたがるんだ?」


 まあそれは多分俺が神だからだと思うけど。


「でも人間には治癒魔法が使えないって聞いたぞ!」

「その情報が古いんだろうよ。街外れじゃあ仕方ないけど」

「そ、そうなのか……?」


 なんでか治癒魔法を使っただけで頭を抱えてるエルドは置いておいて、この剣を完成させようと思う。


 棒がいっぽん入るように隙間を開けて置いた刀身を手に持ち、もう片方の手で持ってるダークマテリアルアークをその隙間に入るよう棒状に変形させていく。


 これには魔力がいらないから、ひたすら思い描く形をイメージする。


 一分くらい掛けて棒状に変形したそれを、刀身の隙間に差し込む。


 そして魔法で縫合したら完成。


「よっし! 剣も出来た事だし、試用でもしてこようかな」

「ちょ、ちょっと待てよ! 私の話を聞いてくれ!」


 さっき思い悩んでたことは解決したのか、外に出ようと歩き出す俺に後ろから声がかかる。


 視線はこちら……いや、俺の右手だろうか。


「この剣はやらないぞ!?」

「そんな重そうなモン要らねえよ! そうじゃなくて、私を王都に連れてって欲しいんだ!」

「へ? なんだ、そんな事なら俺も明日には行く学園決めて王都に向かう予定だったし、いいよ」

「本当か!? それにもう一つあるんだけど……」

「この剣以外なら別にいいよ、暇だし」

「なら、私にも入園試験を受けさせてくれないか!?」


 

 

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