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魔王の幹部を討伐すれば疑いが晴れるらしい。

『ヴォォォォ!』


 二体のジャイアントオーガは同時に威嚇のための唸り声を出した。


 そのけたたましい声を聞いて森中の魔物は、悲鳴ともつかぬ鳴き声をあげて遠くへと退散していってる。


 ジャイアントオーガの手には大きな剣が握られてて、千切れた首輪も付いているから、魔王の幹部であるローリールの眷属として調教されてることは間違いないだろう。


 だがそんな事より一つ、コイツらに言いたい事がある。


「君たち、口が臭すぎるよ」


 口から出る緑色とも紫色ともつかない奇妙な色をした息は、そこら辺に生えてた草木を枯らして紫色に染め上げた。


 ということはコイツらがこの森をこんな毒々しい色に塗り替えたんだろうか。


 今まで嗅いだことない激しい悪臭が鼻に入ってきて倒れそうになったけど、なんとか持ちこたえてブレス耐性も一応かけておいた。


 奴らの口臭が原因で少し手間取ってるのだから、功を奏してるとは言えるのだろうが、隙を見せてしまった俺に向かってジャイアントオーガ二体が剣を振り下ろす。


 その剣は黒いオーラを纏って、百メートル位先まで衝撃波で紫色に染め上げた。


 防御態勢を取れなかった俺は無防備な状態で攻撃を受けて、立ち上る砂埃の中に倒れてるはずなんだけど、見ての通りピンピンで砂埃から姿を現す。


 煙が晴れて見えて来たのは、地面に開いた大きな穴だ。


 軽いパフォーマンスって事で、直前に地面に大きな衝撃を与える事で地盤を崩して避けてみたんだけど、それでも衝撃波が届きそうだったから右手で掻き消した。


「と、こんな感じで君たちに負けるほど弱い神はどこにもいないんだよ」


 攻撃が通らなかった事に腹を立てているのか、二体とも懲りずに剣を横に構えて突っ込んできた。


 その剣先は今にも届きそうな距離まで迫って来ている。


 刹那。


 ズドォォォン!!!!


 大きな音と共に、そこに居たはずのジャイアンとオーガ二体は視界の下の方へとフェードアウトして行った。


 それと同時に上から降ってきた大きな岩はジャイアントオーガ諸共地面に大きな穴を空ける。


「洞窟とかにトラップが貼ってあるのは面倒なんでな、そのまま繋げて見たんだけど?」


 穴を掘った先にいるであろう奴に向かって話しかけてみるも無反応。


 わざわざ隕石魔法使って穴を空けたというのに、肝心のお相手が居ないとはとんだ蛇足だ。


 威力自体は抑えたつもりだったんだけど、ここまで森が消し飛んでしまうとは思ってなかったな。

 俺は防御魔法で一切衝撃を受けなかったけど、周りは既に木々が失われて紫色の大地で出来た平原と化してしまっている。


 地上に降りてきて木々をなぎ倒したのは二度目。


 神が環境破壊を繰り返すとは呆れたものだ。


 まあ今回はローリールのせいにしとけばいいとして、取り敢えずいなかったって報告する事に――


「おっと、いきなり攻撃的な姿勢だな。さすが魔王の幹部ってところか」


 帰ろうと背を向けると、後ろから毒の塗られたナイフが高速で飛んできた。


 杖から解毒魔法を使いながらそれを左手で止めると、そのナイフに凝縮した魔力を流し込んでから投げ返し、そして魔力にかけられた拘束魔法を解く。


 ドゴォォォン!


 最初に杖でやった魔力爆弾の規模を小さくしたものが、後ろの方で炸裂した音がする。


「手荒い来客じゃったからな。お主も最初から随分と攻撃的じゃが……」

「そりゃそうだ。お前を討伐しに来たんだしな」

「フン、来客ではなく侵入者であったか」


 保険としてさっきのナイフに索敵魔法も仕込んだんだけど、紛れも無くローリールみたいだ。

 

 杖を前に向けて魔力を流し込みながら後ろを振り向くが、そこに人の姿はない。


 姿を見せる気はないらしい。


「消し飛ばしたら討伐したって言えねえんだよなぁ……」


 首か何かを持ってってローリールを討伐したって証明しないと恐らく信用してはくれないと思うので、魔法を放って消し炭にするわけにはいかないのだ。


 そう考えると討伐、難しいかも。


 大きな魔力を放ててなおかつ消し炭にしない魔法は一つしかない。

 

 杖を地面に突き刺しながらも尚、杖に魔力を流して地面に大きな魔法陣を展開する。


 水色に輝いたその魔法陣はやがて止まると鋭い光を一度放出すると。


 バキバキバキ!


 先端の尖った氷が遥か高く、百メートル程まで円形を保って出来上がっていた。


 その反動で足元と杖が凍りついてしまったので、一応手から熱魔法を出して溶かしておく。

 さすがにこれ以上杖を壊すのはまずい。


 遠目で氷の中に、ローリールの身体らしきものが見える。


 これで氷ごと持ち帰れば討伐したってことになるんだろうか?

 

 確認をするために冷たい氷を登って、氷の中を覗きこむ。

 

 あるのは服。そう、ただの服が一枚氷の中に組み込まれてしまってるってだけだ。


 つまりは俺は囮に引っかかったって訳だ。


 なら次にされることはただ一つ。


 ガキィン!


 杖と刃物が混じりあう何とも言えない音がその場に響き渡り、氷に反響して上に昇っていく。


「なんとも用心深い男じゃ」

「クッ……!」


 咄嗟に反応して受け止めたのはいいものの、不意打ちな上に後ろは氷の壁だ。


 ここから押し返すのは無理があるし、地面がないから魔法陣を展開し辛い。


 身体にかかる圧力は氷にヒビを入れていった。

 

 そして氷の中心に大きな穴を開けると、俺の身体はローリールの紫色の短刀によって地面にたたきつけられる。

 

 こんなに近くにいるけどフードで顔が見えない。声的には女っぽいけど。


 素早く立ち上がると、背を向けて森のなかを逃げる。


「とうとう怖気づいたか……。しかし逃がすわけにはいかぬのじゃ」


 木々の隙間から、飛びながら平行移動して付いて来ているのが目に入った。


 最初の方は雑魚キャラ感出してたのに、急に強気になっちゃったよ。

 さっきから炎魔法やら氷魔法やらで足元を狙って来てるし。

 

 多分追い付ければ殺せる確信があるんだろう。


 それは先の押し合いで俺が押し負けたからだと思う。


 だから木々を凍らせ、燃やし、雷で黒焦げにしたりしながら俺の足元だけを執拗に狙ってくる。


 すべての魔法をかわし、防ぎながら一歩踏み込むと先程までなかった魔法陣が自分の足元に出現すると、爆散した。


 爆撃をもろに食らった俺は、激しく地面に身体を打ち付けながら倒れた。


 刹那。


 目の前に現れたローリールが、心臓目掛けてナイフを突き刺した。

 

「随分強いかと思ったんじゃが、拍子抜けじゃな」

「ぐふッ!」


 紫色のナイフには毒が仕組んであるらしく、身体全体が蝕まれるような感覚に襲われる。


 それと同時に心臓部分から血がとめどなく流れ続けてる。


 信じられないくらい痛い。天界ではまず味わうことのない痛みが全身に走る。


 人間が死ぬ度にこの痛みを感じているんだったら本当に気の毒だ。


「せいぜい天国にいけることを祈っているよ」


 そう言い残すとローリールは倒れた俺を置いて背を向ける。


「ふう、痛かった」


 平然と立ち上がりそう言い放つと、ローリールは大きな警戒反応を見せた。


 俺との距離を取るためにバッグステップで二歩分下がったローリールの足元には、黄色い光を放った魔法陣があった。


 それを踏んだ途端、足元と頭上にそれぞれ二個ずつ小さな魔法陣が出現して、そこから出てきた雷がローリールの身体を強く締め付ける。


「俺はお前を消しにきた(・・・・・)訳じゃなくて、討伐しにきた訳だからな」


 人間の身体って走ると疲れるし、刺されると痛いし、悪いことばっかなのによくここまで発展してきたものだ。


 当然逃げるフリをしてたんだけど、まんまと信じこんでくれたみたいだ。


 少しでも強い魔法を使おうものならローリールが消し飛びかねないから、力を抑えるのに凄い苦労したが、計算通り拘束魔法にかける事が出来た。


「にしても魔王の幹部って言うから物凄い図体のでかくて角を生やしたような奴かと思ってたんだけど、こんなスタイルの良い女性でしかも凄い角小さいし、なんか申し訳ねえな」


 確かに目の前にいる奴は魔王の手下であることは間違いないんだろうけど、拘束魔法にかけて改めて見直すと、紫色の長い髪の隙間から小さい角が見えてる事以外は全然悪魔っぽくないし、妖艶な衣装ではあるけど凄いスタイルもいいし下向いてるけど多分可愛い。


 勿論戦闘の様子は見られないように細工をしたんだけど、この姿が見られたら美少女をなにやら如何わしい器具で拘束してる姿に見えかねない。


 まあどう転んでも魔王の幹部だ、生かすというわけにもいかない。


 少し心が苦しいが首を取って持っていく他ないだろう。


「ところでさっきから全然喋らないけど……何か言ってもいいんだよ?」

 

 静かな場所でこの状況は少しまずいかなって思って話しかけたんだけど無言。


 まあ敵だもんな、仕方ない。


「つーことで楽に逝けるように首切らせてもらうよー? 天国に行けることを祈ってますっと」


 杖を上に突き上げて魔力の刃を纏わせる。


 そして右手に持って上からローリールの首目掛けて思いっ切り振り下ろす。


「待った!!!」


 拘束魔法にかけられていたはずのローリールが消えて、代わりに俺の身長の三分の二程しかないであろう幼女が拘束魔法にかけられる。


 顔は青ざめて、ブルブルと震えてる。


「ま、待つのじゃ」

「おい、ローリールはどこに……ってお前がローリール?」


 目の前の幼女は小刻みに震えながらも、首を上下させた。


 髪型や髪の色、服装は変わらないものの背丈と顔のサイズが、信じられないほどの幼女に様変わりしている。


 俺は地球で言うロリコンではないが、これは可愛い。


「妾は一度も人間に危害を加えた事はないし、魔王の幹部と言っても技術的な部分をカバーしているだけであって、表舞台には立たない裏方のようなものじゃ! 妾を討伐しても何にもならぬじゃろう」

「いんや、俺がローリールの回し者って事になってるから疑いを晴らすためにだな……」


 マズベールさんの話を聞いてる時も思ったけど、危害を加えてない上に変身魔法の使い手なんていう弱そうな幹部を倒す必要はない気がするんだけど。


 目の前で必死に弁明してる愛くるしい姿を見るとその思いが強くなる。

 

 けどコイツの首を持ってかないと認めてもらえないのも事実。


 俺の地上生活の出鼻が挫かれた責任として、致し方無いか……。


「じゃあ首切るから」

「なぜじゃ!?」

「なぜって、お前の首持ってかないとお前討伐したことにならないだろ」

「妾が適当な生首に変身魔法をかければ良いじゃろう!」


 交渉は成立した。

 


 


 


 


 


 

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