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初っ端から魔物を倒しまくりました。

戦闘描写、まだ難しいです。

 ……重い。

 ……痛い。

 ……眠い。


 地上に降りた時に沸いて出た感想はこの辺りだろうか。

  

 重力の働かない天界での行動に順応してしまった体は、急に重力を受けて悲鳴をあげていた。


 さっきから背中はまともに伸びないし、腰の骨がまるで削られているかのように痛い。それと頭もジンジンと締め付けるような痛みが走っている。


 瞼も重力に逆らうことが出来ずに、今にも閉じんばかりだった。    


 地上に降りる前に人類の姿になったはいいものの、そのせいで余計についてしまった人間としての骨や血や肉も地上での動きを制限している要因と言える。


 呪われた老婆かのように折り曲げられた背骨を、思いっきり力を入れて持ち上げると、同時に両肩を回して音を鳴らしてため息を付いた。


「完全に着地場所、しくじってるなぁ」


 いつも動いてないから身体能力が鈍いって訳じゃないんだ。ただ飛び降りた瞬間に羽がとられたもんだから空中での体の制御が効かなくて、街中に降りるつもりがこんな密林の中に……。


 さっきから獣の唸るような声が聞こえて来るし、何より寒気がする。


 と思ったら服を着てなかったみたい。


 取り敢えず適当なマントを出現させて身に纏う。いや、下に普通の服も着てるけどね。


 それでも問題点が一つ。


「体が痒いいいい!」


 さっき腕に付いた1メートル程の複眼生物はこういう事だったのか。

 てっきり森の住民として歓迎されてるものだと思って、ニッコリ微笑みを投げかけてしまったじゃねえかよ、恥ずかし。


 理由はどうあれ、10センチ膨らんだ皮膚はあの虫のせいに違いない。

 

 右手でその腫れを抉る勢いで掻きつつも、辺りを見渡してさっきの虫を探した。


「絶対に許さねえからな!」


 虫とは関係なしに、先程の唸り声が木々の間から近づいて来る。


 うわ、すっごいこっち睨んできてるんだけど? なんか顔が二つもあるし、犬歯っぽいアレに噛まれたらこの腫れとは非にならない傷を負いそうだな。


 地球の人間ならこれを虎と比喩するだろうが、それにしては大きすぎる。


 最初は歓迎してるのかと思ったけど、どうやらこの森は全体的に俺を敵視してるらしい。


 そうとなれば、俺もソイツを敵視する他ないだろう。


 顔が上の方にあって見上げないといけないからちょっと不格好だけど、取り敢えず睨んでおく。

 まあしたのは威嚇だけじゃないけどね。


『グルァァァァァァァ!』

「よっしゃ、かかってこい!」


 その声に誘われて飛び込んできた獣は、俺の目の前で大きな爆発音と共に爆散した。


 この世界の魔物が持つ体力基準が分かんねえけど、こりゃ大ダメージ食らってるだろ。

 事前にわざわざ地雷魔法を敷いたんだから、一発で死んでくれないと面倒だ。


 そうだそうだ、格好がつくように杖でも持っておこうかな。


 煙が開けて獣が見えたが、案の定大傷を負ってそこに倒れこんでいた。

 因みに爆発跡には大きなクレーターみたいなものが出来てしまってる。


「って、そんな事より虫だよ虫! 何処行きやがった? あいつ」


 俺にあの虫を殺させる気はさらさらないらしい。

 

 今度はありとあらゆる木々の間から、先程の爆発音を耳にしてかひょっこりと顔を出す。


「しゃーねー、全員相手してやろうじゃんか?」


 その声の意図が伝わったかは不明だが、木々の隙間から一斉に魔物達は飛び込んできた。


 各々が、例えば大きな兎型の魔物は飛び蹴りをしてきたり、それよりもっと大きな猪形の魔物はそのまま突進してきていたり、もっと巨大な熊は首を大きな爪で斬ろうとしてきていたり……。


 実に多彩な動きを、まるで微動だにしない俺に向けてくれている。


「まあこれは一種の歓迎として受け取っとくとするか」


 勝利と次の光景を想像して、にやりと笑みが零れてしまった。


 全員が一定距離内に入ってきたのを見計らって、痒い方の手で持った杖で地面をトンと突付く。


 すると獣達の目の前に各々のサイズにあった魔法陣が出現して、光り始める。


「次は強く生まれ変われるといいね」


 ニッコリと笑みを投げかけると、その魔法陣から光線が放出されて魔物たちの体を貫いた。


 魔物達の攻撃は俺に届くこと無く、その場に落ちた。

 

 光線を放った所が真っ直ぐ綺麗に抉れちゃったよ。まあここらへんはどうせ人がいないからいいって事にして欲しい。


 仲間の死を目の当たりにしてか、敵対状態だった他の魔物達も俺の周りから逃げるようにして恐怖を顕にしている。


「さすがにやり過ぎちゃったかな?」


 周りを囲う魔物の死体と大きな被害を被った森の現状を見るに、どうも大丈夫じゃないようにも見えるんだけど……。


 いや、大丈夫大丈夫。倒したのは人に害のある魔物だしね。こういうのは気持ちが大事って聞くし、取り敢えず大丈夫っと。


 ――早速訂正しよう。


 ちょっと大丈夫じゃないかも。


『グオオォォォォォォン!!!!』


 さっきとは比じゃない大きさの唸り声というか、完全に威嚇するような声が森全体に響き渡る。

 森から一斉に鳥達が飛び立った。


 さすがの俺でも森全体の雰囲気が変わったのは分かる。

 分かるんだけどさ、やっぱり大きな鳴き声を出すってのは自分の居場所を知らせることに繋がるからやめたほうがいいと思うぞ。


 飛行魔法を展開して空へと浮かび上がると、予想通りの生物が少し反り立った崖に立って叫んでいた。


「あれは多分、ドラゴンだよな? この森の主って事?」


 そこにいるのは紛れも無い、天界からでも天空を飛び交ってるのが見える程に巨大な部類のドラゴンだ。


 あそこまで大きな声を出す声帯を持っているのはドラゴンくらいしか知らないから、予想は出来てたんだけど、やっぱり目の当たりにすると天空の覇者って呼ばれてるのも納得な気がする。


 大きな鉤爪を持つ鱗に覆われた足と、鋭い牙を持つ口と爬虫類特有の鼻と鋭い目を兼ね備えた顔と、剣も突き刺さらなそうな分厚い羽と、体と同じだけの長さがある尾とで構成されている。


 声と共に炎を吐き出しているところから見るに、あれは炎龍だ。


「中々面白そうな展開になってきたなぁ」


 今から対峙する"冒険者のスリル"を体現したような存在を目の前に、俺はただ胸を躍らせている。


 分かってる。森には被害を出さないように気をつけるからさ。


 炎龍が立つ崖まで加速魔法を使って飛んで行く。

 

 やはり目の前で見ると壮観だ。炎龍は遠くから飛んできた俺の方に首を傾けて睨んできていた。


 創造 (クリエイト)エクスカリバー」


 高位魔法である創造魔法を使って、右手に黒い刀身を持つエクスカリバーを出現させる。

 

 創造魔法ってのは、一時的な口寄せみたいなもので使い終わった後に元ある場所へと戻されてしまうのだが、その為に対象の物体を一度見ることが条件とされてるため人間達の間では戦闘において使い物にならない魔法として認知されているようだ。


 俺が便利魔法として作った魔法なんだが、なんとも残念だ。


 気持ちを入れ替えると、空中で加速魔法を使ったまま勢いをつけて炎龍の目玉目掛けて飛ぶ。


 その前に空気を切るように横から振られた炎龍の足を、自分にかけた防御魔法で完全に無力化すると、それを蹴って更に勢いをつける。


 右の目玉に一閃。確実に目を潰すために斜めに入れられた傷から赤黒い血が吹き出して、龍が吠える。


『ギャオアァァァァァ!』


 同時に吐き出された火の玉を炎魔法で相殺すると、炎龍の口の中にもう一発火の玉を打ち込む。


 すると、口の奥に吸い込まれた火の玉はやがて炎龍の腹の中で大きな音を立てて破裂する。


 炎龍はその衝撃で前足を地面に着いて、四つん這いになった。


 よし、ここまでは想定通り。四つん這いになったら次は――


 炎龍の上に着地した俺は、背ビレのような真ん中の凸部に沿ってエクスカリバーを突き刺すと、首の根元から尻尾の先まで走って斬った。


『グルギャアアオ!!!』


 再び大きな雄叫びを上げると、俺を振り払おうとしてか体を大きく震わせた。、


「おいおい暴れすぎだろ、幾らなんでも」


 周りの森に向かって火噴いてるし、足をジタバタさせて木々を倒しまくってるし、この森の主としてそれはどうなのよ。


 ともあれ、これ以上コイツが暴れると周りの人間もさすがに気付くだろうし、さっさと鎮めねえと。


 俺は、炎龍から遠ざかるように森の真ん中に着地すると、杖を炎龍の足元に向けた。


『ギャアアアオォオオォォ』


 炎龍に依然として動きを止める気配はない。


 杖の先に、俺の身長の十倍を超える直径を持つ魔法陣が展開されて、クルクルと回る。


 杖というのは、魔力を人間の体から外界へと伝える為のチューブのようなものであり、例えばそれは木の枝等で代用することも可能だ。

 だが、杖と呼ばれるものはそれだけ魔力の通り道が太いもののことであり、杖に魔力を流し込む要領で枝に魔力を流してしまえば、その枝に入りきらなかった魔力が自分の体外に無理やり放出されて大爆発を起こす。


 確かそんなことをギリストが偉そうに教えてたような気がする。


 本当にそれが正しいのであれば……。


 俺は拘束魔法を使って、圧縮された魔力を杖に思いっきり流しこむ。


 そして暴れ狂う炎龍の足元目掛けて、思いっきり投げ飛ばした。


 目的地まで何個も連ねられた魔法陣を通る度に、魔力にかけられた拘束魔法は解かれていく。


「あーあ、あの杖も天界のものだったのにな。帰ったら怒られんじゃねえかよ」


 炎龍の足元――崖の根本に辿り着いた杖は、輝きながら赤い光を周りに放出している。

 次の瞬間。


 ドゴォォォォォォォォン!!!!!!!


 炎龍の鳴き声よりも大きな音が森中に響いた。


「やば……ちょっとやり過ぎちゃったかも」


 杖の中に収まっていた許容量を遥かに超えた量の魔力は、拘束魔法を解かれて外界へと音速を超える速度で発散されて大きな爆発を起こした。

 炎龍と同じサイズに膨れ上がった魔力の塊が発散された音が今の音だ。


 効率だけを求めればこんな面倒なことはしなくていいんだけど、炎龍を一発でしとめられる魔法を使えば街まで巻き込む可能性があった。


 しかし依然として炎竜を巻き込み、森を巻き込み、周辺にあるものを更地へと変えていく。


 これは明らかにやり過ぎたパターンだ。


「やばいやばいやばいって!」


 ドドドドドドドッ!


 周囲に広がっていく衝撃波が、大きな音を立てて近づいてくる。

 倒れた木などに足を縺れさせながらも逃げるのだが。


 環境破壊ってレベルじゃなくない? 地形破壊ってレベルでもないよね。何だろ、クレーター作成の罪とかで天界追い出されたりすんのかな。


 作用に対して反作用が伴う、地上における物理の法則を考えてなかった。


 もう少しコンパクトに爆発すると思ったんだけどな。


 いや、そもそも俺生きて帰れる?


 もう逃げ切れないだろ、これ。


 あと十メートル……。

 あと五メートル……。

 あと一メートル……。

 あと十センチメートル……。

 あと……


 俺は衝撃波にぶっ飛ばされた。

 


 

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