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嵐の後の騒がしさ。

「今すぐ国王陛下にご報告を…!」

「目撃した国民に対する情報統制はどう致しますか?」

「やはり魔術師が国王様言っていたように、予兆が現れて……」

「うろたえるな! 不足の事態こそ冷静に対処しろ! 私が試験生を速やかに帰らせるから、最低限事項を国王様に伝えて指示をあおぐんだ!」

「はっ!」


 静寂に沈みこんでいた俺の意識は、周りの騒がしさに呼び戻された。


 重たい瞼に力を入れて目を開くと、見慣れない天井を目の当たりにする。


 ギリスト曰く、地上で生きていると何かと見慣れない天井を見ることが多いらしいんだけど、どうやら本当のことみたいだな。


 金箔の塗られたシャンデリアが天井から吊り下げられ、体を包み込むような上質なベッドに横たわる俺を、煌々と照らしていた。


 外からはマズベール達の声が聞こえてくるし、部屋もやけに豪華絢爛な作りになってるから、多分王城の一室なんだと思う。


 俺の記憶が正しければ、試験の途中で現れたバハムートっぽい魔物と戦って、最終的には星天魔法で消し飛ばした気がするんだけど、そこからの記憶がないから、慣れない体で強力な魔法を使ったから意識をなくしちまったってところだろうか。


 外では絨毯を踏む足音が鳴り止まないので、時間はそう経っていないはずだけど。


 寝転がったまま両手を上に掲げて開いたり閉じたりしてみると、やっぱり負担が大きかったみたいで、頭と腕がズキズキと痛む。


 魔力量は変わらなくても、使う体が違うんだから、少し負担があって然るべきだ。


「にしたってあの獣、一体誰があんな大事起こせるってんだ?」


 もっともな疑問が口をついて出る。


 あれは明らかに俺が昔神々の争いで見た、バハムートそのものだった。


 俗に言う魔獣なんだけど、あれだけの魔力を纏ったものを召喚するにはその魔力の二倍は魔力が必要になるし、第一人間には魔獣を召喚する程の性能なんて与えられてないはずだ。


 とすれば人間以外の神に近い種族による犯行か、それとも一万人以上の人間が協力したのか、もしかするとこの世界の自然現象なのかもしれないし。


 どれも戦闘中に浮かんだ事だから現実味を帯びてないな。


 まあ最悪の事態にさえならなきゃ対処はできると思うし、今は考えなくていいや。


 治癒魔法で体にかかった負担を回復させつつ一通り心の整理をすると、ドアが叩かれる。


「僕ぅ? もう入っても大丈夫、かなぁ?」

「大丈夫ですよ」


 少し気の抜けた声に緊張を解くと、扉の向こうからメイドさんが中に入ってきた。


「あ、あれ? こんなに大きい子だったのぉ? 恥ずかしっ!」

「大丈夫、何も聞こえませんでしたよ」

「ほらほら、こんなに気の使える立派な大人だよぉ!」


 艶のある青い髪を左右に降りながら、何やら顔をかくして悶えてる。


「クロード君、だよね。お姉さんの名前はホロムだよぉ! よろしくね」

「あ、なかった事になったんですね」

「と、とにかく! まだ魔力症が直ってないんでしょ? お姉さんが膝枕したげる!」

「いやいや、別に立派な大人は膝枕なんていりませんよ」

「そうだけど! 安静にしないと、魔力症は悪化すると大変なんだからね?」


 そう言いながら俺に近づいてくると、熱を確かめるために額を触ってくる。

 

 めちゃくちゃ胸近いんだけど。こういうサキュバスがしそうなことを平気な顔でやっちゃう辺り、多分天然ってやつなんだろうけど、怖いもんだ。


「……って、あれぇ? いつの間に熱が引いちゃってるぅ!」

「ほら、別に具合が悪いってわけでもありませんし」

「魔力症の症状が出てるから看病してくれって……あれぇ?」


 因みに魔力症ってのは、体の限界を越えて魔力を使った時に全身の穴という穴から魔力が漏れでて、高熱と共に全身の機能を衰えさせる病気なんだけど、さっき治しちゃった。ごめん。


「じゃあじゃあ! さっき城から見えた化物が爆発した時に、足元に倒れてたってのはぁ?」

「それは多分、本当ですけど。あの後ってどうなったんです?」

「うーんと、詳しい事は分かんないけど、マズベールさんが獣が一人でに爆発したって言ってたよぉ」


 ということは肝心な所は見られてないってことだよね。


 見られてたら同一人物が永久英雄の称号を二度授かる、なんてことに成りかねないから一先ず心配事はなくなった。


「でも被害者とかは一人も出なかったらしいから、良かったわぁ! 国王様も安心してたよぉ!」

「俺が被害(こうむ)ってますけど。にしたって国民思いのいい国王様ですね」

「全然違うよぉ! もしかして放浪者とかだったりするのかなぁ?」

「なんか、そうみたいですね」

「やっぱりぃ!」


 ホロムは独り合点して手を叩くと、少し周りを気にしながら俺の右耳に顔を近づけると、忍ぶようにして呟いた。

 

「国王様は、歴代で最も嫌われてるっていうくらい悪い国王様なのよぉ? あの人が即位してから立て続けに悪いことばかり起こって、黒い噂が立ち込めまくってるんだからぁ!」

「全然、そんな風には見えませんけどね」

「実際悪いことってのはほとんど国王様は関係ないの。でも政策がとにかくぶっ飛んでるから、やっぱり尾ひれがついちゃうのよねぇ。今回だって死人が出れば一段と国王様の立場が危うくなるから、ほっとしてるだけよぉ! それにぃ……」

「それに?」


 少し威厳はあったが、優しそうなおじいさんにしか見えなかったような気がするんだけど、どうやら国内ではかなりの嫌われ者みたいだ。


 凄い気になる感じで勿体ぶられたけど、ホロムが話を続ける間近で部屋のドアがかなり勢いよく開け放たれる。


 ホロムがちょっと慌てながらも入ってきた使いの者の話を聞くと、扉は閉められてこちらにホロムが駆け寄って来た。


「クロード君、受験者に向けての合格発表があるみたいだから元気なら来てくれ、ってマズベール様が仰ったみたい! 見た感じピンピンだし、行ってきた方がいいんじゃない?」


 そういえばあれは入学試験だったんだっけ。完全に忘れてた。


「じゃあ行って来ますね」

「分かったわぁ! この扉を出て右に直進したら外の出れるから。結果発表は学園の模擬戦闘訓練所、的なところでやるらしいわよぉ!」


 今の一瞬でそれだけの情報が伝わっていたのか?


 ベッドから立ち上がり、ホロムに向かって「ありがとうございました」と一礼すると、壁に立てかけて合った俺の剣とその他の持ち物を持ってその部屋を後にする。


「あの子、どこかで見た気がするのよねぇ」


 勘の鋭い発言は聞かなかったことにした。



   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆



「今回の試験は特殊な案件が発生したが、結果発表はそこまでの成績で判断する」


 王城が出て模擬戦闘訓練所の外側に瞬間移動すると、中からマズベールさんの声が聞こえてくる。


 扉の前までやって来たけど、試験開始前同様に超満員のそこに入るタイミングが掴めないので、気付かれないように後ろで話を聞くことにした。


「まずは成績下位から発表していく。下から二十名はDクラスだ。80位、118ポイント。ルードナイト――」


 成る程、二十名ずつランクごとにクラスが分けられてるって事か。


 ポイントがどういう計算で求められてるのか分かんないけど、八十位の奴が118ポイントって聞くや否や、そこにいた大半の生徒が流れるようにして扉から出て行く。


 それを避けながら中に入っていくと、残った人は大方500人といったところか。それでも多いわ。

 

 一人発表される事に二十人くらい帰っていく。


 エミリはちゃんと合格出来てるんだろうか? 背伸びして見回すけど、中々見つからないから少し不安になってしまう。


 てか俺でさえも合格してるか分かんないし。


 暫くすると、Dクラスに入る者達の発表は終盤に差し掛かる。

 

「71位、190ポイント。エミリ・フォンリース」

「はい!」


 マズベールの口からエミリの名前が出た。良かった、ちゃんと合格ラインは越していたみたいだ。


 威勢の良い返事をし、マズベールの居る壇上に上がって入学証書的なやつと何やらバッチのようの物を受け取ると、壇上から降りる。


 壇上じゃ緊張しちゃってこっちは見なかったけど、最後に一瞥くれた際に目が合った。


 ステージから降りると、証書とバッチを携えてすごい勢いでこっちに擦り寄ってきた。


「クロード君、大丈夫だったの!? 私が気絶しちゃった後に化物が現れたって聞いて、私……」

「別に、大したことないよ。少し魔力を使いすぎちゃっただけで……エミリの方こそ大丈夫だったの?」

「私こそ本当にちょっと魔力を使いすぎちゃっただけなの。迷惑かけてほんっとうにごめんね!」


 とても申し訳なさそうに、勢い良く腰を曲げて謝る。


 俺はそんなことよりクロード「さん」じゃなくてクロード「くん」になった事が嬉しくて仕方がない訳だけれども。いや、嬉しくはないよ?


「あと、合格おめでとう!」

「どれもこれも全てクロード君のおかげ。本当にありがとう」

「いやいや、俺のおかげじゃないよ」


 そんなに思いっ切り感謝されると気恥ずかしいから、出来れば喜色を満面に浮かべてこっちを見るのはやめてくれないかな。


「最後は上位五名の発表だ。上位五名は特待生として学園内では優遇対象になる。

 では五位、655ポイント。サルバトル・カルデア!」

「はい!」


 呼ばれたのは髪の毛針地獄君だ。そういえば戦闘中にカルデアだ、とか言ってたね。


「そろそろクロード君が呼ばれるかな?」


 上位五名に食い込んで優遇って事は、多分経費とかその他諸々が援助されるって事だよな。入ってること程良いことはないけど、結局サラマンダーバードは倒してないから点数がなぁ。


 さっきまで込み入る様に人で溢れかえっていたこの場所も、終盤になるに連れてどんどん人数が減って今では残ったのは俺含め四十人くらい。


 その中には一位が誰か知りたくて野次馬してるって人も多そうだし、実質は七人。


 エミリと俺と、カルデアと坊っちゃんと執事、それにあの天才君と男女二人組だ。


 その内、カルデアとエミリと坊っちゃんと二人組の男の方は上位五人として呼ばれている。


「次は二位だな。二位は1255ポイント、ギース・シュヴァルト!」

「はい」

「え、えぇぇ!? 三位の僕が768ポイントなのに……」

「フン、気に食わんがこればかりは仕方あるまい。にしたって何故アイツが二位なんだ?」


 シュヴァルトは冷たい表情で証書とバッチを貰うと、壇上を降りてすぐに証書を握りつぶしてゴミ箱に投げ入れる。


「一位は、あの無能に決まってる」


 シュヴァルトがボソリと呟くと、


「今回の入学試験、一位通過者は――12852ポイント、クロード!」


 マズベールの声が響いた。 

 


 


 

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